【規則・法律】今さら聞けない!産業保健の用語解説
産業保健現場では臨床現場と異なる業務が多いため、聞き馴染みのない用語が頻出。ネットでいつも検索していた。でも答えが見つからない。なんて経験ありませんか?
そこで、「産業保健の用語解説」を作成しました。
今回は”規則・法律”に関係する用語のうち、産業保健スタッフが知っておくべきキーワードや使用頻度の高い用語に関して解説しています。
ご自身の学習/復習だけでなく、他の方への説明の際などにもご活用ください。
用語一覧
・労働安全衛生法
・定期健康診断
・特殊健康診断(特殊健診)
・特定健康診査(特定健診)
・雇入れ時健康診断
・健康診断事後措置
・労働災害(労災)
・私傷病
・公傷病
・安全配慮義務
・自己保健義務
・予見可能性
・結果回避可能性
・育児・介護休業法
・就労支援
・障がい者雇用
・合理的配慮
・産業医
・衛生管理者
・職場巡視
・働き方改革
・労務管理
・みなし労働時間制
・36協定
・女性活躍推進法
・パワハラ防止法
・稟議
労働安全衛生法
労働安全衛生法とは、労働者の安全と衛生についての基準を定めた法律のことで、「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、「快適な職場環境を形成する」ことを目的としています。
定期健康診断
定期健康診断は、常時使用するすべての労働者に対して1年以内毎に1回行う健康診断で、労働安全衛生法により事業者に実施が義務付けられています。安全配慮義務の観点から、事業者(企業側)に実施義務があり、労働者には、事業者が実施する健康診断を受診する義務があります。
特殊健康診断(特殊健診)
特殊健康診断とは、健康に有害な業務に従事する労働者が、その仕事が原因で健康に問題が生じていないかをチェックするために行う健康診断です。特殊健康診断は、労働安全衛生法に基づき行われるもので、事業者に実施が義務付けられています。
特殊健康診断は、原則としては、作業開始時(雇入時や配置転換時)、作業を行っている間は定期的に実施されます。また、従事させなくなった後も、退職するまで継続的に特殊健康診断を実施するものもあります。
特定健康診査(特定健診)
特定健康診査(特定健診)とは、生活習慣病の予防を目的とし、メタボリックシンドロームに着目した健康診断のことです。特定健診の結果により、特定保健指導の対象者を抽出します。
雇入れ時健康診断
雇入れ時健康診断とは、常時使用するすべての労働者に対して実施する健康診断で、労働安全衛生法により、事業者に実施が義務付けられており、一般健康診断の一種です。
健康診断事後措置
健康診断の結果に、異常所見があると診断された労働者に対して、事業者は医師/歯科医師等の意見を聴いたうえで、健康確保のために必要に応じて適切な措置を講じることが義務付けられており、これを健康診断の事後措置といいます。根拠法令は労働安全衛生法(安衛法)66条の5です。
労働災害(労災)
労災とは、労働災害の略で、業務災害と通勤災害の2種類に分かれます。業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」を指し、通勤災害は「労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡」を指します。
2014年、労働安全衛生法の一部が改正され、労働者に対する「ストレスチェック及び面接指導の実施」が事業者に義務付けられました。この法改正の背景の一つとして、自殺者数の増加(ピークの2003年には34,427人。警察庁「自殺統計」より)に見られる「メンタルの問題」が挙げられます。厚生労働省が公表した「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」では、15~39歳の死因のトップ、40代では2番目に高い死因を自殺が占めています。
また、近年の自殺者数は減少傾向にあるものの、うつ病などの精神疾患を抱える人の数は400万人に迫っており、「平成28年度 過労死等の労災補償状況」は1,586件と過去最高となっています。
私傷病
私傷病とは、労働者の怪我や病気のうち、個人が誘因となる業務に起因しないものをいいます。(業務中もしくは通勤中といった業務が起因するもの公傷病といいます。)
公傷病
公傷病とは、労働者の怪我や病気のうち、業務中もしくは通勤中といった業務が起因するものをさします。一般的に公務中の傷病をさしますが、産業保健の現場において、私傷病(業務外の個人的事情が起因する病気や怪我)と区別して使用することがあります。
安全配慮義務
安全配慮義務とは、労働者が生命や身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をすることを使用者(事業者)に定めた義務のことで、労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条第1項に規定されています。必要な配慮は、一律で定められているものではなく、労働者の職種や業務内容、業務場所等の具体的な状況に応じて求められます。
安全配慮義務に違反した場合、民事上債務不履行における損害賠償請求を求められる場合があります。
自己保健義務
自己保健義務とは、労働者が自分自身の健康を守るために適切な注意や努力を払うよう定められた労働者の責務のことをいいます。
事業者には安全配慮義務が定められ、労働者が安全で健康に働けるための環境を提供しなければなりません。一方で、労働者は企業がとる措置に対して協力するように努めなければなりません。
自己保健義務は、企業が実施する健康診断の受診、健康診断結果に基づく医療機関の受診などが挙げられます。この自己保健義務は就業時間に限られたことではなく、日常における睡眠や食生活、飲酒習慣などプライベートの時間も含まれます。
予見可能性
産業保健における予見可能性とは、従業員が業務により、疾病や怪我を発症させるまたは症状の悪化を招くということが予想できたかどうか、という判断基準のことをいいます。
業務中の疾病や怪我が起きた場合、すべてが安全配慮義務違反となるわけではありません。
安全配慮義務違反となるか否かを判断する際の観点として「予見可能性」「結果回避可能性」という2つの観点があります。
つまり、企業がその労働者の被害を予測でき、その発生を回避することが可能だったにも関わらず、その措置を講じなかった場合に安全配慮義務違反が認められます。
結果回避可能性
産業保健における結果回避可能性とは、従業員が業務により、疾病や怪我を発症させるまたは症状の悪化を招くということが予想でき(予見可能性)、かつそれを回避するための手段があったかという判断基準のことをいいます。
業務中の疾病や怪我が起きた場合、すべてが安全配慮義務違反となるわけではありません。
安全配慮義務違反となるか否かを判断する際の観点として「予見可能性」「結果回避可能性」という2つの観点があります。
つまり、企業がその労働者の被害を予測でき(予見可能性)、その発生を回避することが可能(結果回避可能性)だったにも関わらず、その措置を講じなかった場合に安全配慮義務違反が認められます。
育児・介護休業法
育児・介護休業法とは、正式には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」という名称で、子育てや家族の介護をしなければならない労働者が仕事と家庭を両立できるよう支援する法律です。
1991年に施行された育児・介護休業法ですが、2021年6月の改正 では、企業はより一層の育児休業取得を奨励することが求められるようになりました。この改正は2022年4月から段階的に施行されます。
仕事と育児・介護の両立は、多くの従業員が潜在的に抱える不安であり、企業としても従業員の育児・介護による離職を防ぎ、安心して働いてもらえる環境をつくることが重要となっています。
就労支援
就労支援は「就労」をその人の状況に合わせて実現できるように国が支援をすることです。就労支援を通じて収入を得ることた社会との繋がりを保つのはもちろんのこと、自己実現にも繋がります。
障がい者雇用
障がい者雇用とは、障がいのある方の特性に合わせた働き方ができるように、企業や自治体が雇用をする制度のことを指します。障がい者雇用は障がい者手帳を持っている方が応募することができ、面接や入社の際に企業側と労働者側の双方で、障がいに関する理解を深め、障がいに配慮された働き方を実現していきます。
合理的配慮
「合理的配慮」とは、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応することが求められるものです。
産業医
労働者の健康管理という役目を担う医師のことです。労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任することが義務付けられています。産業医は職場の巡視や健康診断後の保健指導などを通して、労働者の健康をサポートします。
衛生管理者
衛生管理者は、職場における労働者の健康を守るために労働安全衛生法によって常時50人以上の労働者を有する事業場に選任義務のある役職のことを指します。選任義務が発生してから14日以内に衛生管理者を選任しなくてはなりません。選任を怠ってしまうと50万円以下の罰金を科されることが労働安全衛生法の第120条で定められていますので注意しましょう。
職場巡視
職場巡視は産業医や衛生管理者が、労働者の作業方法や衛生状態に有害な影響を与えるおそれがないかどうかを確認し、安全と健康の確保や快適な作業環境・作業条件を支援するため、課題を改善していくことを目的としています。
職場巡視は「労働安全衛生規則」にて、衛生管理者は第11条で週1回、産業医は第15条で月に1回、定期的に実施することが義務づけられています。
①事業者から毎月1回以上、以下の情報の提供を受けている
・衛生管理者が行う職場巡視結果
・衛生委員会で調査審議された、労働者の健康障害予防や健康保持に必要な情報
②事業者の同意を得ている
職場巡視にあたり、当該職場の情報として休業・疾病や事故の発生状況、作業環境測定結果、従業員の健康診断結果などから産業保健上の課題を把握しておくと良いでしょう。
また、職場巡視は、産業医や衛生管理者以外の者(当該職場の管理監督者、安全衛生担当者、作業主任者など)も一緒に同行することで、異なった視点からの意見が得られ、効果的な職場巡視につながります。
働き方改革
働き方改革とは、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。企業には、重要なリソースである労働者が意欲や能力を発揮できるような環境を整えることが求められます。
例えば、2019年4月からの働き方改革関連法案の施行により、企業は従業員の長時間労働や健康の状態について、産業医と連携してよりきめ細かなサポートを行っていくことが求められています。 具体的には、産業医が適切に労働者の健康管理を行えるように、事業者は以下の情報を産業医に提供する必要があります。
〇健康診断実施後の長時間労働者(1カ月の残業時間が80時間を超える労働者)に対する面接指導や実施後の情報
〇ストレス結果に基づく面接指導実施後の措置の内容に関する情報
〇産業医が労働者の健康管理をするうえで必要とする労働者の業務に関する情報
他にも産業医と衛生委員会の関係強化や、産業医等が労働者からの健康相談に応じるための体制整備などが事業者に義務付けられています。
労務管理
労務管理は雇用契約や、給与計算、労働条件や安全衛生など、労働者に関わる内容を管理する仕事のことを指します。労務管理を適切に行うことで、コンプライアンス遵守をすることはもちろんのこと、従業員の生産性向上に繋がります。
みなし労働時間制
みなし労働時間制とは、あらかじめ規定した時間分、働いたとみなす労働時間制度のことです。労働基準法では法定労働時間を1日8時間、週40時間と定められていますが、事業や業務の性質によっては違う形で労働者を管理した方が良いという考えの下、柔軟な労働制度としてこのような制度が存在しています。
みなし労働時間制には以下の2つの主な種類があります。
■裁量労働制:これは労働者自身が労働時間の配分を決める制度です。専門業務型と企画業務型の2つに分かれます。専門業務型は特定の業務を対象として採用できる制度で、労働者が時間配分や仕事の進め方を決めて働くことができます。企画業務型は企画・立案・調査・分析などの業務に就いている労働者を対象とし、制度の実施には手続きが複雑です。
■事業場外みなし労働時間制:営業職で外回りをしていたり、出張中の労働者の場合、正確な労働時間の把握が難しいことがあります。そのような場合、会社は対象者について事業場外みなし労働時間制を適用し、実労働時間にこだわらず、あらかじめ決められた時間分だけ働いたとみなします。ただし、外回りでも細かい指示の下で働いていたり、時間配分が決められている場合は適用されません。
36協定
36協定とは、時間外労働・休日労働について、労使間(労働者と使用者)で結ぶ協定のことをいい、労働基準法第36条に基づくことから、一般的に36(サブロク)協定と呼ばれています。
正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。
過重労働は、心身の健康に大きく影響しています。過重労働による健康障害防止のためには、労働者の健康管理に係る措置の徹底が重要な課題となります。時間外・休日労働時間の削減もその一つです。
女性活躍推進法
女性活躍推進法とは、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の略称で、企業が雇用する女性の活躍推進を目的とした法律です。
この中で、企業が求められている主な対応は下記の通りです。
①自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析
②課題を解決するための数値目標と取り組みを盛り込んだ、行動計画の策定および届出
③自社の女性活躍に関する情報の公表
パワハラ防止法
パワハラ防止法とは、2020年6月1日に施行された「改正労働施策総合推進法」の通称で、対象は大企業のみでしたが、2022年4月からは中小企業も義務化の対象となっています。
企業がハラスメントを防止するための適切な措置を講じていない場合は是正指導の対象となり、指導に従わない場合は企業名が公表される場合があるとされています。
企業に義務付けられるパワハラ防止措置の義務項目としては、事業主の方針等の明確化と周知・啓発(研修等)、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、相談者のプライバシー保護などが示されています。
また企業が行うのが望ましい取り組みとしては、パワハラ以外のハラスメント相談にも対応する一元的な相談窓口の設置や、感情コントロール手法やコミュニケーションスキルなどを学ぶコミュニケーション研修、職場環境の改善、社内アンケート調査による状況把握などが挙げられています。
稟議
「稟議(りんぎ)」は、組織や企業内で意思決定や承認が必要な際に提出される文書や申請のことを指します。これは、上位の管理者や決定権を持つ者に対して、予算や金額の決定、特定の事柄について情報提供や承認を得るために使用されます。
組織内での公正な決定を促進し、透明性を担保しつつ効率的に意思決定を促進するための手続きとしてこの「稟議申請」が利用されます。
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