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【健康経営】今さら聞けない!産業保健の用語解説

産業保健現場では臨床現場と異なる業務が多いため、聞き馴染みのない用語が頻出。ネットでいつも検索していた。でも答えが見つからない。なんて経験ありませんか?

そこで、「産業保健の用語解説」を作成しました。
今回は”健康経営”に関係する用語のうち、産業保健スタッフが知っておくべきキーワードや使用頻度の高い用語に関して解説しています。
ご自身の学習/復習だけでなく、他の方への説明の際などにもご活用ください。

用語一覧


健康経営
健康経営銘柄
ホワイト500
健康宣言
健康投資管理会計(健康経営戦略と戦略マップ)
生産性向上
データヘルス
ウェルビーイング
人的資本
DEI(Diversity Equity Inclusion)
ヘルスリテラシー
健康管理システム
特定保健指導
睡眠障害
認知行動療法
ナッジ


健康経営

健康経営とは、 経済産業省によれば、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を指します。企業理念に基づいて従業員への健康投資を行うことで、企業イメージや従業員の活力・生産性の向上が期待できます。

1980年代に米国の経営心理学者のロバート・ ローゼン氏によって「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という”ヘルシーカンパニー”思想が提唱されました。日本では この概念に経営的視点を加え、企業が従業員の健康に配慮することで職場環境の改善を実現し、健康な社員が多くなれば 企業の生産性・業績も向上 する、という経営手法が健康経営です。

具体的な取り組みの例としては、経営者の健康宣言の下、従業員の健康状態の把握、健康増進に向けた取り組みを推進する上での体制整備、生活習慣病対策やメンタルヘルス対策の二次予防の健康分野に限らず、ワーク・エンゲージメントの向上、時間外労働対策、有給休暇の取得推進、睡眠・休養の推進、ハラスメント予防など、働き方改革の流れに絡めた労務視点も加わった施策・運営などが挙げられます。




健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、経済産業省が東京証券取引所と共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定し、公表する顕彰制度です。

健康経営銘柄は、日本再興戦略の一環として「国民の健康寿命の延伸」に位置付けられた取り組みの一つです。東京証券取引所の上場企業であり、健康経営度調査に回答した企業のうち、業種ごとに上位20%以内が選定候補に選出されます。そこから財務指標スクリーニングなどの評価が行われ、評価結果が業種内で最高順位の企業および各業種最高順位企業の平均より優れている企業が健康経営銘柄として選定されます。

健康経営が経営理念にしっかり位置づけられ、組織体制を構築していること、またそれが実行されていることが認定の条件です。また、健康経営への取り組みを自社で評価しているか、改善を進めているか、法令は遵守しているか、なども評価の対象となります。




ホワイト500

ホワイト500とは、平成28年度に経済産業省により創設された、健康経営優良法人認定制度に関する用語です。

健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的に評価を受けることができる環境を整備する取り組みであり、実際の認定は行政の支援を受けた民間組織「日本健康会議」が行います。

健康経営優良法人認定制度には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2部門があり、このうち大規模法人部門の上位500社に選出された健康経営優良法人のことを「ホワイト500」と呼びます。なお、中小規模法人部門の上位500社の健康経営優良法人は、「ブライト500」と呼ばれます。

健康経営に取り組むことは、採用力の強化や従業員の定着、社外評価の向上など様々なメリットがありますが、漠然と取り組むだけでは思うような効果は上がらないでしょう。健康経営優良法人認定制度のような認定制度があることで、具体的な評価基準のもと健康経営に取り組むことができます。




健康宣言

健康宣言とは、企業や事業所は従業員の健康づくりに取り組むことを社内外に宣言することを言います。健康宣言は企業が重点的に取り組む部分や、健康経営を取得する目的などが明確になり、従業員の健康に対する意識が向上するという効果も見込めます。

【健康宣言の内容の例】

・働き方の実現(定時退社や有給休暇取得目標など)
・パフォーマンス向上(メンタル、フィジカルを整える)
・重症化予防(高血圧、糖尿病など)

【健康宣言の発信方法の例】

・自社サイトに特設ページを作成して掲載
・コーポレート/ガバナンス報告書に掲載
・協会健保や健康保険組合が行う「健康宣言事業」に参加




健康投資管理会計(健康経営戦略と戦略マップ)

健康投資管理会計とは、従業員の健康増進を図ることを目的として行う活動について、費用対効果を認識して客観的に測定し、見える化するための仕組みを指します。健康投資を効果的かつ効率的に行うことを目的としており、経済産業省が2020年6月に策定した「健康投資管理会計ガイドライン」に沿って実行されます。

また、健康投資管理会計には、「内部機能」と「外部機能」という2つの役割があります。

内部機能

内部機能とは、企業が経営課題の解決や経営目標の達成といった目的の一環として、従業員の健康維持・増進を図るための費用管理や効果分析を行うために適切な形で経営判断やPDCAサイクルを回すための機能です。PDCAサイクルをうまく回すには、KPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせませんが、健康投資管理会計では単に数値を入力するだけでなく、健康経営戦略マップで健康投資や健康投資効果を設定して分析を行うことを推奨しています。

外部機能

外部機能とは、健康投資やその効果、PDCAサイクルを回した結果などを外部に対して開示する機能を指します。従業員等、取引先、顧客、投資家、地域社会等に対して、適切に活動していることを伝えるのが重要です。具体的には、資本市場における企業と投資家の対話手段として活用したり、労働市場において従業員の健康維持・増進に積極的に取り組む姿勢をアピールしたりします。




生産性向上

生産性向上とは、一般には小さな投資でより大きな成果を生み出すことを意味します。ビジネスの文脈での生産性向上とは、企業が投入した経営資源でいかに大きな成果や価値を生み出せるかということになります。




データヘルス

データヘルスとは、レセプト(診療報酬明細書)や特定健康診査(特定健診)などのデジタル化されたビッグデータに基づき、健康増進や病気の予防に活用しようという計画のことをいいます。

厚生労働省では「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」のなかで、「事業主と健康保険組合などが連携して加入者の健康増進に向けた取組を効果的に行う「コラボヘルス」によって、健康経営を実践し、健康づくりのトップランナーとして日本全体を牽引するための契機とする」ことを目的として掲げています。




ウェルビーイング

ウェルビーイング(Well-being)とは、身体・精神・社会といったあらゆる面において健康な状態にあること、すなわち幸福であることを表す概念です。身体が良好な状態にあることだけでなく、精神的にも社会的にも満たされた状態を「健康」としています。

意味としては少し抽象的な表現になっていますが、世界保健機関(WHO)が以下のように定義を示しています。

「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態(Well-being)にあることをいいます。」(日本WHO協会仮訳)

ウェルビーイングは、次に挙げる5つの要素を満たすことで実現できます。
・Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング)
・Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング)
・Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング)
・Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング)
・Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング)

身体的・精神的な幸福はもちろん、キャリア、人間関係、経済、地域社会といったあらゆる面での幸福がウェルビーイングを構成しています。また、ウェルビーイングは一時的な幸福ではなく、持続可能な幸福でなければなりません。




人的資本

経済産業省では、“人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”と定義しています。つまり、人的資本とは、経営において人材を投資すべき対象とみなす考え方です。
従業員が持つ価値を向上させていくこと、またその取り組みのことを人的資本への投資と呼んでいます。

国際標準化機構(ISO)では、2018年に、内部及び外部のステークホルダーに対する人的資本に関する報告のための指針として、ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)を発表しており、企業における人的資本に対する透明性が求められています。




DEI(Diversity Equity Inclusion)

DEIは、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性・受容性(Inclusion)の頭文字を取った略語です。組織や社会全体で採用されることで「持続可能な成果やイノベーションを生み出す」とされております。DEIの取り組みについては個人や組織が異なるバックグラウンドを持つ人々と協力し、相互尊重を促進することで、より公正で包摂的な環境を構築することが期待できます。

多様性(Diversity:ダイバーシティ)

異なる背景、特性、経験、意見などの多様性を尊重し、取り入れることです。これは人種、性別、年齢、宗教、性的指向、障害の有無など、さまざまな要因に関連しています。

公平性(Equity:エクイティ)

すべての人が平等な機会と資源にアクセスでき、公正な取り扱いを受けることを追求します。平等は単に平等な待遇を指すだけで無く、不平等な状況を解消し、差別や偏見に立ち向かうことも含まれます。

包括性・受容性(Inclusion:インクルージョン)

あらゆるバックグラウンドや特性を持つ人々が組織や社会において参加し、貢献できる環境を作り出すことを意味します。また多様性を尊重し、平等な機会を提供することに加えて、異なる立場や視点を包括的に統合することも含まれます。




ヘルスリテラシー

ヘルスリテラシーとは、入手した情報を正しく理解して評価できる知識、あるいはそれらの情報をもとに、自身の健康状態改善のために活用する能力のことです。自身の健康を守るためには、世の中にあふれる健康に関する情報から、本当に必要な情報を見極め、厳選することが重要です。

健康情報を見極めるポイント

・情報源がきちんと記載されているか。その情報源は信頼できるか
・いつの情報か。情報が最新であるか
・極端に偏った情報でないか。1つの情報だけで判断していないか
・情報が発信されている目的は何か。商業目的・宣伝目的の情報出ないか




健康管理システム

健康管理システムとは、健康診断の予約や、受診結果の管理など健康管理に関するさまざまな業務ができるシステムの総称です。

健康管理システムは機能や特徴ごとに細かく分けることができます。例えば「健康診断予約システム」は、インターネット上で健康診断予約や受診承認書の自動発行などが可能です。導入することにより、管理者側は申込受付業務の簡素化、予約状況の確認の効率化が実現します。

そして従業員の予約状況を把握できることから、受診勧奨が容易にでき、受診率向上が期待できます。また従業員にとっては、インターネットで24時間いつでも予約できる便利なシステムです。

他にも「健康診断結果管理システム」は、受診結果をデータベース化し、インターネット上で閲覧や管理ができます。健康診断の結果を電子データ化して一元管理することで、事務作業の効率化につながります。

さらに各種データの抽出や経年管理により、要フォロー者への対応の即時化や、健康施策の検討もスムーズにおこなうことができます。受診者も、マイページ上で健康状態の変化を確認することができます。

健康管理システムを導入することで、従業員の健康診断結果の一元管理、事務作業の効率化など、従業員・企業双方にとってメリットが生まれるのです。




特定保健指導

40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象とし、メタボリックシンドロームに着目した特定健康診査(特定健診)が2008年4月よりスタートしました。特定保健指導とは、特定健診の結果、食生活や運動習慣といった生活習慣の見直しが必要と判断された場合に保健師や管理栄養士などによって実施される保健指導のことを指します。




睡眠障害

睡眠障害とは、不眠や日中の眠気、睡眠中の病的な行動など睡眠に関わる病気の総称です。寝つきが悪い、十分な睡眠時間を取っているのに寝足りないと感じる、夜中に何度も目が覚める、いびきをよくかくなどの症状が1ヶ月以上続くときは睡眠障害の可能性があります。睡眠不足が続くと 身体的な健康を損なったり別の精神疾患を引き起こしたりする可能性があるので、早めに医師に相談することが大切です。

2002年にフランスの大手製薬会社が行った国際的な疫学調査によると、全体で不眠に悩んでいる人は約25%で、日本では成人の5名に1名となる約21%が不眠に悩み、うち約15%が日中に眠気を自覚しているという結果でした。

これを受けて、厚生労働省も睡眠指針を策定しており、2014年に内容が改訂された「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~」が発表されています。その8条には、「勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を」とあり、疲労回復には良質な睡眠が重要であることが訴えられています。




認知行動療法

認知行動療法という語は、その発展の歴史から幅広い内容を含んでいることにまず注意が必要です。広義には「行動科学と認知科学を臨床の諸問題へ応用したもの」と定義され、狭義にはわが国で保険点数化された「認知療法・認知行動療法」と同様の意味で用いられています。認知行動療法について国内の代表的な学術団体が2つあることから専門家の間でイメージする内容が異なる場合があることに留意しましょう。

一般的には、狭義の認知行動療法に基づく考え方が普及していると考えられます。たとえば、厚生労働省が提供する心の健康についてのwebサイトに「認知行動療法」の枠で掲載されている「うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル」では、認知療法・認知行動療法について以下のように説明されています。

“人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法”

認知のあり方に着目する特徴から、認知行動療法の技法の1つである認知再構成法、特にそのツールである非機能的思考記録表(コラム法)などの説明が取り上げられることが多いですが、他にも行動実験、問題解決技法、アサーション・トレーニング、行動活性化など様々な技法を活用します。また、対象となる問題に応じて用いられる技法も異なります。




ナッジ

ナッジとは、自発的によい行動をしたくなるように、選択の余地を奪うことなく背中を後押しする設計です。2019年に厚生労働省が策定した健康寿命延伸プランでもナッジの活用が推奨されており、ナッジは健康経営の課題解決のカギになることが期待されています。

人を動かすアプローチは、次の4段階があります(介入のはしご:大島明 2013を改変)
①正しい情報の提供
②行動したくなるように環境を整備
③褒美や罰を設定
④強制
このうち、②がナッジに該当します。

実際に、「みんながしていたから」「なんとなくいい雰囲気だったから」といった理由で行動することはありませんか?このような心理傾向を踏まえ、背中をそっと押すようなアプローチがナッジです。




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