テレワークとメンタルヘルス:リモートワークによるストレス対策
テレワークやリモートワークの普及により、働き方が大きく変化しました。自宅で仕事をするという新しい働き方は、通勤の負担を減らし、柔軟な時間管理が可能になる一方で、ストレスやメンタル不調を引き起こす要因も多く存在しています。厚生労働省では、「テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン」を公表しており、自宅などでテレワークを行う際のメンタルヘルス対策の留意点を示しています。
本記事では、テレワークによるメンタルヘルス不調の要因に加え、企業向けと本人向けのストレス対策と、産業保健スタッフが実施できるメンタルケアについて詳しく解説します。
<目次>
1.テレワークによるストレスとは?
2.テレワークでメンタル不調が生じる主な要因
3.テレワークによるストレス対策(企業向け)
4.テレワークによるストレス対策(個人向け)
5.産業保健スタッフができるメンタルケア
6.まとめ
1.テレワークによるストレスとは?
テレワークとは、「tele=離れたところで」と「work=働く」を合わせた造語です。厚生労働省によると、「情報通信技術(ICT)を活用して、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義付けられています。リモートワークは、「remote=遠隔、遠く離れた」と「work=働く」を合わせた造語で、テレワークとほぼ同義で使われる用語です。
テレワーク(リモートワーク)は、以下の3つに分類されます。
- 在宅勤務:自宅で仕事を行う
- モバイル勤務:出張時の移動中などに公共交通機関やカフェなどで仕事を行う
- サテライトオフィス勤務:自宅の近くや通勤途中の場所などに設けられたサテライトオフィス(シェアオフィス、コワーキングスペースを含む)で仕事を行う
テレワーク(リモートワーク)は、通勤がなく、時間や場所について柔軟に対応でき、家庭と仕事の両立がしやすく、業務効率化を図れる点がメリットです。
しかし、各従業員の自宅で快適な作業環境を準備できないケースや、一人暮らしの従業員の場合、他者とのコミュニケーションが極端に減少する可能性もあるなど、テレワーク勤務では、さまざまなストレスが生じる可能性があります。
2.テレワークでメンタル不調が生じる主な要因
株式会社月刊総務「メンタルヘルスケアに関する調査」(令和2年9月)によると、テレワークを実施している企業の約73%が「テレワークのほうが従業員のメンタルケアが難しい」と回答しています。さらに、テレワークでメンタル不調が生じる要因としては、テレワークによる孤独感や外出しないことによる閉塞感、運動不足、家族のいる場で仕事をするストレス、生活リズムの乱れなど多岐にわたっています。
ここでは、テレワークでメンタル不調が生じる主な要因について、解説します。
■コミュニケーションの希薄化
テレワークでは対面のやり取りが減少し、ウェブ会議では相手の表情や反応が伝わりにくいため、コミュニケーションの質が低下します。雑談の機会も少なくなり、孤独感や疎外感を感じやすくなることが特徴です。特にテレワークでは、新人や異動直後の社員はその傾向が強くなります。
また、日本人は周囲の空気を読みながら会話する方が多いため、相手の反応が見えにくいリモート環境では発言をためらいがちです。その結果、チーム内での意思疎通が難しくなり、不安や不信感が募ることがあるのも特徴です。
実際に、上司との関係や仕事の進行に不安を感じ、メンタル不調に陥る人も少なくありません。テレワークでは、コミュニケーションの工夫と配慮が一層重要となります。
■仕事とプライベートの切り替えがしにくい
テレワークでは仕事とプライベートの時間を区別しにくいため、長時間労働や休息不足に陥りやすくなります。勤務時間や休憩を自己管理する必要があるテレワークでは、自己管理が難しいと仕事量が増えたり、優先順位を見誤ってストレスを抱える方もいます。
また、自宅という本来リラックスすべき空間で仕事を続けることで気分転換ができず、緊張状態が続くため、慢性的な疲労やストレスが蓄積します。特に一人暮らしで通勤がない場合、運動や日光を浴びる機会が極端に少なくなることで自律神経が乱れ、不眠や体調不良、メンタル不調を引き起こすこともあるので、注意が必要です。
■上司による部下へのケアがしにくい
テレワークは育児や介護と両立しやすいという利点がある一方で、私生活との境界が曖昧になり、以下のような点に気づきにくくなり、従業員同士の連携に支障を来したり、労務管理が難しくなったりする点がデメリットです。
- 勤務時間中に家事や育児を行う
- 申告外で深夜に業務を行う
- 睡眠障害の悪化による居眠り
- アルコール依存症の進行による勤務中の飲酒
出社していれば容易に対応できたこうしたケースも、リモート環境では把握が難しく、労務管理や上司によるサポートが行き届かなくなることがあります。
特に、管理職は部下の進捗確認や評価の難しさからストレスを感じやすく、管理職の上司はオンラインでのマネジメント力がより重要となってきます。
■自宅で仕事をするストレス
テレワークでは自宅で家族と同じ空間で仕事をすることが多く、家族の理解や協力が得られないと、家庭内の役割分担や生活音により集中力が低下することなどがストレスの原因になります。
一方、一人暮らしの場合は他者との接触が少なくなり、孤独感や疎外感を感じやすくなる傾向があります。どちらの環境でも、集中力の低下や不安感の増加といったメンタル面への悪影響が見られることがあり、働く環境への配慮やサポートが重要です。家庭環境や個人の状況に応じた柔軟な対応が、快適なテレワークの実現には欠かせません。
■運動不足や生活習慣の乱れ
テレワークでは通勤がなくなり、外出の機会が減るため、運動不足になりやすいのが特徴です。長時間自宅で座り続けることで身体の凝りや疲労感を引き起こし、生活リズムの乱れや睡眠の質の低下にもつながります。こうした身体の不調は心理的なストレスにもなり、健康への悪影響が懸念されます。気分転換の機会も減るため、意識的に休憩や軽い運動、ストレッチを取り入れることが大切です。
■仕事環境やITなどによるストレス
自宅は生活の場であり、オフィスのように仕事に適した環境ではないため、机や椅子が合わず、集中しにくいことがあります。
また、通信環境が不安定だったり、業務用アプリやパソコン操作に不慣れな場合も、作業効率が下がりストレスの原因になります。
3.テレワークによるストレス対策(企業向け)
ここからは、テレワークによるメンタル不調を予防するために、企業側が取り組むストレス対策について、詳しく解説します。
Ⅰ.コミュニケーションの活性化
テレワークでは雑談の機会が減り、孤独感や不安を抱える社員が増える傾向があります。そのため、定期的な1on1ミーティングやチームでのオンライン会議を実施し、業務の進捗だけでなく、社員の気持ちにも目を向けることが大切です。
また、在宅勤務では「ちょっといいですか」が難しいため、コミュニケーションツールの使用ルールを設定することも効果的です。
- 始業・終業時には必ずチャットを確認する
- 急ぎの用件は電話
- 相談はメール
また、雑談チャットやオンラインランチ会など業務外の交流機会を設けることで、心理的なつながりを保つことができます。
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Ⅱ.労働時間の適正管理
テレワークでは、仕事とプライベートの時間を区別しにくいため、長時間労働になりがちです。そのため、勤務時間を適切に管理するために以下のような対策が必要です。
- 長時間労働を防ぐルールの設定・運用(業務時間外のメール・チャットの送信を制限する)
- 労働時間の把握(勤怠管理システムの活用)
労働時間を把握し、適正に管理することで、過重労働を未然に防ぐことができます。
Ⅲ.メンタルヘルスのサポート体制
テレワーク勤務をしている従業員に対し、以下のようなメンタルヘルスへのサポート体制を整えることも重要です。
気軽に利用できる環境を整備することは、メンタル不調の早期発見・予防につながります。
Ⅳ.作業環境と柔軟な働き方の整備
自宅の環境によっては、快適な作業環境を整備するのが困難な社員も一定数存在します。必要に応じて、社員に対してアンケートを実施し、現状把握する必要があるでしょう。
自宅で作業環境の整備が難しい社員が多い場合には、出社と在宅を組み合わせた「ハイブリッド型勤務」を導入するのが効果的です。
Ⅴ.アルコールへの注意
テレワーク環境では問題飲酒(勤務時間中や日中の飲酒)が見えにくく、対応が遅れやすいことがあります。 勤怠の乱れやWeb会議中の言動に違和感があれば、早めに上司から産業医へ相談するようにしましょう。
なお、テレワークによるストレス対策を充実させたい場合には、厚生労働省が発行している「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」も参考にするとよいでしょう。
4.テレワークによるストレス対策(個人向け)
テレワークによるストレスを軽減するためには、以下の6つの点に留意して、社員自身がセルフケアを行うと効果的です。
①生活リズムを整える
テレワークでは通勤がなくなるため、生活リズムが乱れやすいものです。毎日同じ時間に起床・就寝することが心身の健康を保つために重要です。
また、仕事前に身支度を整えると、仕事とプライベートの切り替えがしやすくなります。これにより集中力が高まり、ストレスの軽減にもつながります。
②運動と休憩を意識的に
自宅にこもりがちなテレワークでは、運動不足や長時間の座り仕事による体調不良を起こしやすくなります。こまめな休憩や軽いストレッチ、昼の散歩などを習慣にすることで、心身のリフレッシュが期待できます。
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③人とのつながりを大切に
テレワークでは、人と直接会う機会が減るため、孤独感や疎外感を抱きやすいのも特徴です。同僚との雑談タイムを設けたり、コワーキングスペースを活用することで、孤立感を防ぐことができます。
④家庭内のストレス対策
家族と同じ空間で働くことで、家事や育児の分担が曖昧になり、ストレスを感じることがあります。話し合いにより、家庭内の役割分担を明確にして、一人になれる時間や空間を確保することも重要です。また、適切な作業環境の整備について家族の理解を得ることも大切です。
⑤アルコールへの注意
テレワーク中は時間の自由度が高くなる一方で、ストレスをアルコールで紛らわそうとする人もいます。早い時間からの飲酒や深酒が習慣化すると、アルコール依存のリスクが高まります。
飲酒量のコントロールはセルフケアの一環として重要であり、不安や疲れを飲酒でごまかすのではなく、健康的なストレス対処法を行うことが大切です。
⑥相談窓口の活用
ストレスや不安が強い場合は、一人で抱え込まず、産業医や産業保健スタッフなどの相談窓口を利用し、サポートを受けることが重要です。
また、厚生労働省の「こころの耳」などの公的機関が運営する相談窓口を利用するのも一つの方法でしょう。
産業保健スタッフとしては、上記のような対策を社員が実施できるよう、サポートすることが重要です。作業環境の整備に関しては、厚生労働省が発行している「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【労働者用】」を参考にするとよいでしょう。
5.産業保健スタッフができるメンタルケア
産業保健スタッフは、テレワーク社員のメンタルヘルスを守るために、以下のようなメンタルケアを行うと効果的です。
産業保健スタッフが、テレワークによるストレス要因に関する理解を深め、適切な対処法について助言することが非常に重要です。
余裕があれば、テレワーク環境で勤務する社員と定期的にオンラインでコミュニケーションをとる機会を設ける方法もメンタル不調の早期発見に効果的です。
6.まとめ
テレワークの普及により、社員のメンタルヘルス対策がこれまで以上に重要視されています。企業は、コミュニケーションの活性化や労働時間の適正管理、ストレスチェックの実施など社員のメンタル不調を予防する体制構築が必要です。
このような状況では、産業保健スタッフが研修の実施やテレワークによるメンタル不調者への相談対応などを通じて、テレワーク社員のメンタルヘルスを守る重要な役割を担っています。テレワークをより健全なものにするために、適切な対策を進めていきましょう。
■参考
1)テレワークの方が従業員のメンタルケアが難しいが7割超。テレワーク推進でストレスが増えたと実感|月刊総務オンライン
2)テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】|厚生労働省
3)テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【労働者用】|厚生労働省
4)テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き|厚生労働省
5)テレワークでのメンタルヘルス対策について|厚生労働省
6)テレワーク社員のメンタルヘルス不調を防ぐには|東京都テレワークポータルサイト
7)テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
■執筆/監修
<執筆>桑鶴えみ(保健師、臨床心理士)
精神科医療機関勤務
看護大学卒業後、病棟勤務を経て、企業内の健康相談室やメンタルヘルス・ハラスメント相談室にて相談業務に従事。その後、大学院で臨床心理学を学び、臨床心理士を取得。現在、医療機関が運営するリワークプログラムの所長を務め、プログラム運営や相談業務に従事している。専門は働く人のメンタルヘルス、復職支援。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』