産業保健とは?職場の健康と産業保健スタッフの役割について解説!
産業保健って何?産業保健スタッフって何してるの?などと聞かれて上手く答えられない、そんな方へ
産業保健の目的や産業保健スタッフの役割についてまとめました。
これから産業保健を学びたいという方も是非参考にして頂けばと思います。
目次
1.産業保健の概要
2.職場における健康
3.産業保健スタッフの役割
4.知っておきたい健康経営
1 産業保健の概要
① 産業保健とは
産業保健とは、すべての働く人が、健康で安全に、快適に働ける職場づくりを目的とした取り組みで、個人の健康づくりや企業の取り組みだけでなく社会全体に寄与する幅広い活動です。
事業者が従業員に健康で安全に働ける環境を提供することは、労働災害や病気の予防だけでなく、従業員のワークエンゲージメントや、働きがいの向上、また、生産性や業績のアップにもつながります。
産業保健は、主に事業者の責任により取り組まれていますが、産業保健におけるPDCAを回していく上で必要不可欠なのが、「産業医」「産業看護職」「衛生管理者」などの産業保健スタッフです。健康保険組合や外部医療機関とも連携し産業衛生活動を推進していきます。
また、産業保健は「労働安全衛生法」をはじめ様々な法令が関わっています。
産業保健においては、従業員の健康の確保のみでなく、こうした法令の遵守やリスク回避も重要です。「法令の尊守を怠る」ことは罰則の適応や民事・刑事訴訟のリスクの原因ともなります。
産業保健スタッフは、自分たちの活動がどの法令に基づいているのか、法令ではどんなルールが定められているのか、関連する法令についての知識も求められます。
② 産業保健の目的
産業保健の目的は、主に「仕事における健康問題の予防」、「労働者の健康増進」、「職場環境の改善」の3つがあります。仕事における健康問題には、怪我や労働災害、化学物質における健康被害などが含まれます。
産業保健は、労働者個人だけでなく、集団、組織全体、最終的には地域社会や地球環境に対しても配慮が必要です。
産業保健を進めていくことで、法令遵守、安全・健康配慮義務を果たす、労働者の健康福祉のさらなる向上、事業活動や経営への貢献などが期待されます。
2 職場における健康
職場における健康とは、「労働者が健康で安全に安心して働けること」を言います。
労働者の健康を保持増進することは労働者が長期的に生産的に働くことができるだけでなく、離職防止や企業の業績向上にも繋がります。
健康な職場づくりを目指すためには、病気や怪我のみに注目するのではなく、労働損失や生産性の向上といった視点からも個人や組織の健康に働きかける必要があります。
①職場の健康管理~THP~
THPとは、トータル・ヘルスプロモーション・プランの略称で、昭和63年に厚生労働省が策定した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく、労働者の心身両面にわたる健康づくりを推進するための取り組みです。
簡単に言うと、事業場ごとに従業員の健康の保持増進の計画を立て、PDCAサイクルを回しながら取り組みを進めるというものです。指針は時代に合わせて徐々に改定が進んでおり、令和5年3月31日に最新版が発行されています。
参考:事業場における労働者の健康保持増進のための指針|厚生労働省
②職場の健康管理~予防医学の3つの段階~
予防医学は、病気や怪我への予防を行うことで、病気・怪我の発生や進行・重症化を未然に防ぐ考え方や活動のことをいいます。
予防医学は、大きく分けて「一次予防」、「二次予防」、「三次予防」があります。
一次予防
一次予防は、病気・怪我の発生予防のことをいいます。一次予防には、全体的な病気の予防を目指す「健康増進」と特定の病気の予防を目指す「特異的予防」があります。
二次予防
二次予防は早期発見・早期治療のことをいいます。
三次予防
三次予防は、「重症化予防」や「機能維持」、「リハビリテーション」のことをいい、病気の再発予防や、後遺症の予防、社会的復帰や職場復帰などがあります。
労働者の健康の保持増進において、段階に合わせてそれぞれの支援を行っていきますが、特に一次予防を強化することが職場の健康づくりを行っていく上で重要視されています。
一次予防が円滑に進むことで、職場のヘルスリテラシー向上に繋がり、職場の風土を作ることができるため、結果として二次予防や三次予防も円滑に進むこととなります。
職場の状況に応じて、効果的に連動させていくとよいでしょう。
3 産業保健スタッフの役割
産業保健スタッフとは、産業保健業務(労働者の健康を確保するための業務)に関わる全ての人のことです。産業保健スタッフには、産業医、保健師・看護師、心理職、衛生管理者、職場の人事労務担当者など、さまざまな役職が含まれます。
労働者の健康確保と安全配慮のために、事業者が産業保健活動の主体となり、労働者も協力して進めることが望ましく、職場の実情に合う産業保健体制を作っていく必要があります。
産業保健スタッフは主に次のような職種が活躍しています。
①産業医
産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識をもち、一定の要件を備えた医師として選任されています。
産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項第1号から第9号までに定められています。
②産業看護職
産業保健分野で活動している看護職は、医療・保健に関する専門的な知識を持ち、かつ事業場の衛生に関わる技術的事項の管理者として衛生管理者に求められる要件を保有し、産業保健活動を実践している専門職です。
職場の健康課題・事業場全体の健康課題にも取り組む等の集団的なアプローチと、所見の有無にかかわらず、労働者個人の健康度に合わせた対応など個々のアプローチの両方で事業場の労働者の健康管理を支援しています。
③衛生管理者
衛生管理者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任する必要があり、事業者の下で、衛生に関わる技術的事項を管理する役割があります。 衛生管理者は産業医・専門職・労働者・所属長等との調整、各種事務手続等の役割を担っています。
④心理職
心理職は、心理学に関する専門的知識をもち、心の問題を抱える人の相談に応じ、支援を行う役割を担います。
心理職には、公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラーなど、様々な種類(資格)があります。
⑤人事労務担当者
職場の人事労務担当者は、産業保健チームの一員として、労働者の人事労務管理(勤怠、社会保険、福利厚生など)に関する事務手続きや連携調整を行います。産業保健専門職と連携して、労働者や事業場関係者・部署との調整等を行うことが多いです。
4 知っておきたい健康経営
①健康経営とは
健康経営とは 、「従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践すること」とされています(経済産業省HPより)。
つまり、経営者が従業員の健康を「経営上のコスト」としてとらえるのではなく、「将来にむけた投資」としてとらえ、企業理念に基づき長期的に戦略をたてて実践していきます。
健康経営の考えや制度を知っておくことは、産業保健活動を進めていく上で有用だといえるでしょう。
②健康経営のメリット
健康経営への投資は、投資額以上のリターンが期待できるといわれています。
従業員が健康でいきいきと働けることは、健康問題による労働損失の予防、組織の活性化や生産性向上、業績向上に繋がります。また、離職率が低い職場となり、リクルート効果等から良い人材の長期的な確保やブランドイメージの向上といった効果も期待されます。
また、従業員においても企業が健康経営に積極的にとりくむことで、ワーク・ライフバランスが整い、生活が豊かになったり、病気や怪我により働くことが出来なくなることへの不安が減少したりといった効果が期待されます。
③健康経営の制度
健康経営の制度として有名なものに「健康経営優良法人認定制度」があります。これは、各業種の中で健康経営に取り組む上場企業を認定する制度です。
健康経営優良法人認定制度には、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があり、それぞれを対象として「健康経営優良法人」を認定しています。
大規模法人部門における上位法人には、「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位法人には「ブライト500」の冠が付与され、さらに、上場企業の健康経営優良法人(大規模法人部門)において、上位500位以内かつ1業種最大5枠として「健康経営銘柄」が認定されます。
産業医や産業看護職は、専門職として、適切な課題抽出、効果的な施策の立案、実施、効果評価など、企業とともに進めていきます。
あくまで主体者は企業であることを認識しつつも、企業が健康経営を円滑に進めていけるよう調整していくことが求められます。
執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
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さんぽラーニング 監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』