職場における健康とは?具体的な健康支援や予防活動についてわかりやすく解説
労働者が、健康で安全に、安心して働くために、産業保健専門職にはどのような役割が求められているでしょうか。
今回の記事では、職場における健康を支援するための具体的な取り組みや予防活動について詳しく説明しています。産業保健の現場で役立つ基本的な内容となっています。
目次
1.職場における健康
2.職場の健康管理の進め方~トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)~
3.3つの予防と具体的な取り組み
4.産業保健専門職の役割
1. 職場における健康
職場における健康とは、「労働者が健康で安全に安心して働けること」を言います。
労働者の健康を保持増進することは労働者が長期的に生産的に働くことができるだけでなく、離職防止や企業の業績向上にも繋がります。労働者の健康の保持増進を支援することが、産業保健の目的です。
健康な職場づくりを目指すためには、個人だけでなく事業所や企業においても、労働者が健康でイキイキと働けるよう支援していくことが必要です。そのため、産業看護職としては、病気や怪我のみに注目するのではなく、労働損失や生産性の向上といった視点からも個人や組織の健康に働きかける必要があります。つまり、「個人」と「組織」、両方の視点を養うことが求められています。
①労働が健康に及ぼす影響
職業性疾病:
職業性疾病は、特定の職業や業務に従事することによる有害因子への暴露が原因で発症します。
代表例)
- 粉じん作業における「じん肺」
- 重量物を取り扱う作業における「腰痛」
- 化学物質等が原因で発症した「皮膚病」「呼吸器疾患」「がん」等
作業関連疾患:
作業関連疾患は、WHOにより提唱された考え方で「一般の人もかかる日常的な病気のうち、特に、職場の環境、労働時間、作業による負荷などの影響によって、発症率が高まったり、悪化したりする疾患」と定義されています。
代表例)
- 長時間労働における脳血管疾患や、生活習慣病
- ストレスが原因となる適応障害やうつ病、胃潰瘍 等
② 健康が労働に及ぼす影響
労働者の健康は、労働の品質や安全性にも直接かかわります。健康を損なうと、注意力や集中力が低下することがあり、事故やミスのリスクが増加します。車の運転時や危険な作業中のミスは、大きな事故の原因となり、法的な問題や経済的な損失に発展するおそれもあります。また、病気や怪我による労働者の休業(アブセンティーズム)や、休業しないまでも作業効率が落ちること(プレゼンティーズム)は、労働損失につながります。
2. 職場の健康管理の進め方~トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)~
トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)は、昭和63年に厚生労働省が策定した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく、労働者の心身両面にわたる健康づくりを推進するための取り組みです。
具体的には、事業場ごとに従業員の健康の保持増進の計画を立て、PDCAサイクルを回しながら取り組みを進めるというものです。指針は働き方や時代に合わせて徐々に改定が進んでおり、令和5年3月31日に最新版が発行されています(事業場における労働者の健康保持増進のための指針|厚生労働省 )。
労働者の健康の保持増進のための具体的な措置としては、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口腔保健指導、保健指導などがあり、各事業所の課題や実態に応じて実施していきます。健康保険組合など医療保険者と事業所が積極的に連携した取り組み(コラボヘルス)も推奨されています。
① 健康増進対策における対象の考え方
健康の保持増進対策は、従業員の個人の生活習慣や健康状態の改善を目指すために、個々の労働者を対象に実施するものと、事業場全体の健康状態の改善など、集団を対象に実施するものがあります。
THP指針では、それぞれの特徴を理解した上で効果的に組み合わせることが望ましいとされています。
② 労働者の積極的な参加を促す取り組み
THP指針では、健康の保持増進に関心をもたない労働者にも、抵抗なく取り組んでもらえることが重要とされています。
労働者の行動が無意識のうちに変化する環境づくりや、楽しみながら参加できる仕組みづくり、健康保持増進に取り組む文化や風土の醸成などが重要視されています。
③ 労働者の高齢化を見据えた取り組み
高年齢労働者が健康に働き続けるために、心身の健康を維持することが大切です。若い頃からの運動の習慣化や、高齢者の体の機能を高める活動を行い、筋力や認知機能の低下を防ぐことが必要です。
労働災害のリスク低下にもつながります。
3. 3つの予防と具体的な取り組み
労働者の健康増進対策は、「労働生産性の向上」、「労働災害件数や休業日数の減少」、「メンタルヘルスの改善」など、事業者にとってメリットがあることが知られています。健康リスクを放置することは、労働者個人だけでなく、事業者にとっても大きな損失に繋がります。そのため、労働者の健康リスクを低下させるような予防的な取り組みが重要です。予防を行うことで、病気・怪我の発生や進行・重症化を未然に防ぐことができます。
予防は、大きく分けて「一次予防」、「二次予防」、「三次予防」があります。
① 一次予防
一次予防は、病気・怪我の発生予防のことをいいます。一次予防には、全体的な病気の予防を目指す「健康増進」と特定の病気の予防を目指す「特異的予防」があります。
<健康増進の例>
- 職場でのラジオ体操の実施
- 定期健診や人間ドックの実施
- 生活習慣やメンタルヘルスにおける情報共有や職場改善など
<特異的予防の例>
- インフルエンザの予防接種
- VDT作業の予防のための情報共有
② 二次予防
<二次予防の例>
- 健康診断やがん検診における病気のスクリーニング
- 有所見者に対し、早期に受診勧奨・再検査や精密検査の実施
- ストレスチェックにおける高ストレス者へ受診勧奨や保健指導
③ 三次予防
三次予防は、「重症化予防」や「機能維持」、「リハビリテーション」のことをいい、病気の再発予防や、後遺症の予防、社会的復帰や職場復帰などがあります。
<重症化予防・機能維持の例>
- 定期的な通院や治療の継続
- 仕事と治療の両立支援
- 就業制限や適正配置
<リハビリテーションの例>
- 職場復帰の支援
- 就業訓練
労働者の健康の保持増進において、段階に合わせてそれぞれの支援を行っていきますが、特に一次予防を強化することが職場の健康づくりを行っていく上で重要視されています。
一次予防が円滑に進むことで、職場のヘルスリテラシー向上に繋がり、職場の風土を作ることができるため、結果として二次予防や三次予防も円滑に進むこととなります。
職場の状況に応じて、効果的に連動させていくとよいでしょう。
4. 産業保健専門職の役割
近年、働き方の多様性も拡がり、リモートワーク勤務が普及し、場所を選ばない働き方が可能となりました。また、障害者雇用やLGBTQの配慮、ワークライフバランスの取り組み、外国人労働者の増加など、企業には多様な背景を持つ労働者への支援が求められています。
職場環境は、事業場によって様々です。そのため、個々の事業場の特性に応じた適切な取り組みが求められます。また、衛生委員会などの軸に、労使が一体となり、対策を構築していくことが重要です。効果が十分に発現されるように、事業場の特性を把握し、適切な健康保持増進対策を実施します。
企業が行う産業保健活動においては、法令遵守はもちろんのこと、労働者が健康でイキイキ働けるような職場環境づくりが大切です。産業看護職は、労働者の健康保持増進のためのPDCAサイクルをしっかりと回しつつ、すべての労働者に対して適切なサポートを提供する役割を担っています。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医
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■「ナッジ」を取り入れた一次予防のアプローチ
■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
・産業保健看護学-基礎から応用・実践まで|公益財団法人産業医学振興財団
・職場の健康がみえる|メディックメディア
・職場における心とからだの 健康づくりのための手引き|厚生労働省