産業保健とは?目的や必要性、産業保健スタッフの役割を分かりやすく解説!
産業保健とは、すべての働く人が、健康で安全に、快適に働ける職場づくりを目的とした取り組みで、個人の健康づくりや企業の取り組みだけでなく社会全体に寄与する幅広い活動です。
事業者が従業員に健康で安全に働ける環境を提供することは、労働災害や病気の予防だけでなく、従業員のワークエンゲージメントや、働きがいの向上、また、生産性や業績のアップにもつながります。
この記事は、産業保健の重要性や目的、産業保健スタッフの役割についてお伝えいたします。
目次
1.産業保健とは
2.産業保健の必要性
3.産業保健の目的
4.産業保健スタッフの役割
5.産業保健のこれから
1 産業保健とは
1-1産業保健とは
産業保健とは、すべての働く人が、健康で安全に、快適に働ける職場づくりを目的とした取り組みです。
産業保健は、主に事業者の責任により取り組まれていますが、従業員においても自らの健康と命を守るための行動に責任を負う必要があります。
また、産業保健におけるPDCAを回していく上で必要不可欠なのが、「産業医」「産業看護職」「衛生管理者」などの産業保健スタッフです。健康保険組合や外部医療機関とも連携し産業衛生活動を推進していきます。
1-2産業保健に関連する法令
産業保健に関連する法令のうち基軸となるのが「労働安全衛生法」です。
その他、「作業環境測定法」「じん肺法」「労働安全衛生法施行令」「有機溶剤中毒予防規則」「労働契約法」「過労死防止対策推進法」「労働基準法」など様々な法令が関わっています。
産業保健においては、従業員の健康の確保のみでなく、こうした法令の遵守やリスク回避も重要です。「法令の遵守を怠る」ことは罰則の適応や民事・刑事訴訟のリスクの原因ともなります。
法令の遵守は「当然に果たさなければならない企業の社会的責任」なのです。
産業保健スタッフは、自分たちの活動がどの法令に基づいているのか、法令ではどんなルールが定められているのか、関連する法令についての知識も求められます。
2 産業保健の必要性
厚生労働省が発表した令和4年度定期健康診断結果報告によると、有所見率の全国平均が58.3%であり¹⁾、半数以上の労働者が何かしらの所見があるという結果がわかります。
また、令和3年度における「現在の職業生活に関することで強いストレスとなっている労働者の割合」において、半数以上の労働者が強いストレスを感じていると回答しています²⁾。
精神障害の労働補償件数も増加傾向³⁾であり、フィジカル面においてもメンタル面においても労働者の健康問題が深刻化・多様化している状況があるのです。
従業員の健康管理を怠り過労死、自殺等の問題が起これば、
損害賠償責任の追及や企業ブランドイメージに傷がつくなど経営上の重要なリスクにもつながりかねません。なにより従業員が健康で生き生きと働くためにも産業保健を軽んじてはなりません。
企業における産業保健活動は「削減すべきコスト」ではなく、
「企業における付加価値の創造」や「生産性向上につながる重要な将来の投資」として積極的に産業保健に取り組むことが必要なのです。
3 産業保健の目的
産業保健の目的は、主に「仕事における健康問題の予防」、「労働者の健康増進」、「職場環境の改善」の3つがあります。仕事における健康問題には、怪我や労働災害、化学物質における健康被害などが含まれます。
産業保健は、労働者個人だけでなく、集団、つまり組織全体のことも考えていく必要があります。また、労働者や企業だけでなく、最終的には地域社会や地球環境に対しても配慮が必要です。
産業保健を進めていくことで、法令遵守、安全・健康配慮義務を果たす、労働者の健康福祉のさらなる向上、事業活動や経営への貢献などが期待されます。
4 産業保健スタッフの役割
産業保健スタッフには、産業医、看護師や保健師などの産業看護職、衛生管理者、心理カウンセラー、労働衛生コンサルタントなど様々な業種や職種がいます。
各々の役割が異なりますが、上手に連携することで産業保健活動を円滑にすすめることができます。
産業医や衛生管理者は、労働安全衛生法で企業への配置が義務付けられており、選任義務に関しては、事業所の人数や業務内容により異なります。
産業看護職は、事業者と連携し、労働者の安全や健康を守るために、健康課題の把握、健康管理、健康教育の実施など多岐にわたる業務を担っています。
主な業務内容は記載した通りですが、業種・事業所によって業務内容は大きく異なりますので、企業のニーズに合わせた自律した支援が求められます。
5 産業保健のこれから
これからの産業保健における6つの論点
現状の産業保健の状況は、法令に基づいた産業保健体制が整備されてはいますが、実際には多くの事業所で産業保健活動が効果的に行われていない問題があります。
今後は、職場での健康問題がますます多様化し、深刻になることが予想されています。そのため、産業保健体制を見直し、より効果的に産業保健活動を進めていく必要があります。
・多様化するニーズに対する産業保健の位置づけについて
業務に起因する疾病のみならず、業務と直接的な関連がない健康問題に対する位置づけをどのようにするのか、企業と労働者のニーズの変化を踏まえて、産業保健が担う役割や目指す姿を考えていく必要があります。
・産業保健体制の見直し
産業医の活動時間などリソースが不足している事業所も多い中で、産業医や衛生管理者の立ち位置や役割についての明確化、産業看護職の今後の位置づけなど産業保健活動を進めていく上でどのような体制が必要になるか、今後改めて検討が必要となります。
・産業保健スタッフにおける教育体制の見直し
産業保健専門職がそれぞれの役割を適切に果たすことができるように、教育体制の整備・見直しをしていくことが重要です。
・生産性向上の評価
産業保健活動がもたらす効果を検証することで、地域活動などより幅広い視点から効果を高めていく可能性があります。
・ITの活用促進
IT技術の活用により産業保健活動の効率化をどのように図るか、
また、テレワークなど就業場所が分散化・多様化する中での職場巡視のあり方について検討していく必要があります。
・中小企業における産業保健体制の強化
中小企業において、産業保健活動を効果的に行っていくためにどのような活動や支援が必要か検討していく必要があります。
このような課題を解決しつつ今後の産業保健活動に取り組んでいくことが求められるのです。
執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 先生
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■アドバンテッジの保健師紹介サービス
保健師は、従業員や企業・産業医を繋ぐコーディネーター的な役割を担っています。
産業医のみに頼るのではなく、保健師が対応可能な業務を分担することでよりきめ細やかな健康管理体制や健康経営推進を目指してみてはいかがでしょうか。
■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
参考文献
引用:
1)2022年定期健康診断結果報告|厚生労働省
2)令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況|厚生労働省
3)令和4年度「過労死等の労災補償状況」|厚生労働省
参考文献:
・メディックメディア|職場の健康がみえる 産業保健の基礎と健康経営 第1版
・公益財団法人産業医学宇振興財団|産業保健看護学~基礎から応用・実践まで~
・産業保健のあり方に関する検討会_今後の産業保健のあり方に関する論点|厚生労働省