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健康経営とは?制度やメリット、具体的な取り組みや進め方を分かりやすく解説

健康経営って何?制度やメリット取り組み方を分かりやすく解説

「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
国では、健康経営の取組みを積極的に行う企業が社会的に評価される仕組みを作り、平成26年度から「健康経営銘柄」の選定を行うようになりました。さらに、平成28年度からは「健康経営優良法人認定制度」の認定事業が始まっています。
健康経営への注目度と共に、申請数は年々増加傾向にあり、企業には、健康経営の本質的な推進が求められています。しかしながら、「健康経営って聞いたことがあるけど、よくわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この記事では、健康経営の制度やメリット、取り組み方について詳しくお伝えいたします。

目次

1.健康経営の定義とは
2.健康経営に取り組むメリット
3.健康経営の制度
4.健康経営の取り組み
5.産業保健専門職の役割

1 健康経営の定義とは

健康経営とは 、「従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践すること」と定義されています(経済産業省HPより)。
つまり、経営者が従業員の健康を「経営上のコスト」としてとらえるのではなく、「将来にむけた投資」としてとらえ、企業理念に基づき長期的に戦略をたてて実践していきます。

健康経営の考えに基づいた具体的な健康への取り組みである「健康投資」を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に、業績向上や株価向上につながると期待されています。

内閣府 令和4年版高齢社会白書
出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書」

日本では、少子高齢社会が急速に進んでいます。
65歳以上の人口である(老年人口)は増え続けている一方で、働く世代といわれる15歳から64歳までの生産年齢人口は減少しています。
さらに、わが国の国民医療費の増大も大きな課題となっており、医療費増大が続くことで健康保険組合の財政悪化や健康保険の負担の上昇にも繋がります。

厚生労働省| 令和3年度 国民医療費・対国内総生産比率の年次推移

出典:厚生労働省| 令和3年度 国民医療費・対国内総生産比率の年次推移

そこで、働く世代の意欲向上に加え、健康で長く働ける労働者の確保を目的とし、第二次安倍政権の重要政策であった「日本再興戦略(2013年)」の中のテーマひとつとして、“国民の健康寿命の延伸“がかかげられ、健康経営の施策が検討されました。

これまでの安全衛生は、安全衛生法に基づき安全で健康に働くための健康管理や働くことによる健康障害防止を中心に行われてきました。健康経営では、単に従業員の疾病予防や健康増進だけでなく、経営者が健康に積極的に取り組むことで事業の成果へ結びつけていくことが特徴です。

2 健康経営に取り組むメリット

健康経営への投資は、投資額以上のリターンが期待できるといわれています。
例えば、アメリカの企業であるジョンソンアンドジョンソン社が自社社員へ健康プログラムを提供したところ、1ドルの投資額に対し、3ドル分の投資収益があったと調査結果を出しています。

このように、健康経営を効果的に進めていくと、従業員・企業や組織、強いては社会全体に様々なメリットが期待されます。
健康経営に取り組むメリット

① 従業員におけるメリット

企業が健康経営に積極的にとりくむことで、従業員は健康でいきいきと働きやすい職場になります。
そのため、ワーク・ライフバランスが整い、生活が豊かになったり、病気や怪我により働くことが出来なくなることへの不安が減少したりといった効果が期待されます。
また、従業員が安心して働きける職場となることで、ワーク・エンゲイジメント(働きがい)の向上や、エンプロイー・エンゲイジメント(企業に対する愛着や思い入れ、貢献意欲)が向上し、離職防止にも繋がります。

② 企業のメリット

従業員が健康でいきいきと働けることは、健康問題による労働損失の予防、組織の活性化や生産性向上、業績向上に繋がります。また、離職率が低い職場となることで、リクルート効果等から良い人材の長期的な確保やブランドイメージの向上といった効果も期待されます。

企業のメリット
出典:経済産業省|令和6年4月 健康経営の推進について

③ 社会全体のメリット

健康で長く働ける社会が実現することで、労働人口の確保や医療費削減が期待されます。

3 健康経営の制度

健康経営の制度として有名なものに「健康経営優良法人認定制度」があります。これは、各業種の中で健康経営に取り組む上場企業を認定する制度です。
この制度は、健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、「従業員の健康管理を経営的視点で考えて取り組んでいる法人」として社会的評価やインセンティブ受けることができます。

健康経営優良法人認定制度には、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があり、それぞれを対象として「健康経営優良法人」を認定しています。
大規模法人部門における上位法人には、「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位法人には「ブライト500」の冠が付与され、さらに、上場企業の健康経営優良法人(大規模法人部門)において、上位500位以内かつ1業種最大5枠として「健康経営銘柄」が認定されます。

この顕彰制度に認定されるためには、毎年8月から10月頃に行われる「健康経営度調査票」への回答が必要です。

健康経営表彰制度

この顕彰制度へ申請する企業は年々増加しており、2022年の調査によると、健康経営優良法人認定制度に申請した法人は1万7千社に拡大し、日経平均株価を構成する225社のうち約85%が健康経営度調査に回答しているという結果となっています。
その他、「健康経営ハンドブック」や「健康投資管理会計ガイドライン」などの算定・情報提供に加え、「健康経営アドバイザー」といった人材の養成に関する制度もあります。

4 健康経営の取り組み

健康経営の進め方は企業ごとに異なりますが、推進体制としては経営者自ら積極的に関与しリーダーシップをもって取り組んでいくことが前提とされます。

健康経営優良法人の応募に用いられる「健康経営度調査票」には必要な項目が並んでいますので、健康経営の取り組みを検討する材料としても役立ちます。認定の必須要件となる項目もあるので、健康経営優良法人の認証に応募する際は、必ず確認しておきましょう。

健康経営優良法人調査票(大規模)
健康経営優良法人調査票(中小規模)
出典:経済産業省|令和6年4月 健康経営の推進について

【具体的な進め方】

健康経営をはじめる際には、次の5つのステップで行うのをお勧めします。

① 健康宣言の実施

健康経営について経営理念の中で明文化します。
これは、会社として健康経営に取り組んでいく姿勢を社内外へ発信するものです。同業他社のホームページに掲載されている健康宣言の文言などを参考にしてもよいでしょう。

② 組織体制等の環境整備

健康経営に必要な取り組みを行うための組織や体制を整えます。
担当者や担当部署などを設置するなど取り組みやすい体制を作ると良いでしょう。既存の安全衛生管理体制を活用するほか、健康保険組合や労働組合との連携方法についても考えておくことが必要です。

③ 課題の抽出

企業における健康課題を定量的に見える化し、課題の解決に向けた目標を設定します。
労働者の健康課題にはさまざまな側面があり、それら全てに着手することは不可能です。経営者、労働者等の意見も確認しながら、取り組みの優先順位を検討しましょう。

また、健康経営の取り組みあたっては、社員の健康課題の解決は手段のひとつであり、最終的な目的ではありません。
健康課題の解決を通じて、企業が最終的に目指したいゴール、もしくは解決したい課題についても検討しておきましょう。
(例:従業員の生産性向上、離職率の低下、業績の向上など)

④ 施策の実施

具体的な施策を検討し、実施します。
施策の計画にあたっては、効果測定をどのように実施するかをあらかじめ考えておくようにします。どのような層を対象とし、どのような対策を実施するのかによって、効果の測定方法も変わってきます。産業医、産業看護職などの専門職の意見も取り入れながら、施策の内容や効果測定の方法を検討しましょう。

⑤ 施策の評価

設定した目標に沿って施策の評価や効果検証を実施します。
この時に経営層を含めて確認すると良いでしょう。単年度の活動だけで課題を解決できることはほとんどありません。評価した内容は、次の施策にいかして行くことでPDCAサイクルを回していきます。

【2024年度_健康経営優良法人改定のポイント】

健康経営優良法人の認証制度の内容や評価の仕組みは、毎年改定されるため、選定条件等を確認し、最新の情報を得ることが重要です。
2023年7月18日に第9回と健康投資ワーキンググループが開催され、健康経営優良法人や健康経営銘柄について、次の4つの改定ポイントと今後の健康経営の在り方が示されました。

■情報開示の推進

・特定保健指導・保健指導の実施率の評価★大規模
・業務パフォーマンス指標の開示★大規模
・労働安全衛生に関する開示★大規模 

■社会課題への対応

・仕事と育児、介護の両立支援★大規模★中小規模
・女性特有の健康課題★大規模★中小規模
・新型コロナウィルス感染症への対応★大規模★中小規模

■健康経営の国際展開

・海外従業員への対応★大規模

■取り組み法人の裾野拡大

・中小企業への普及拡大策

特に、今後の認証制度においては、施策の実施にとどまらず、実施した成果を見える化し、経営に活かして行くことが求められていることがわかります。また、社員の健康問題にとどまらず、育児・介護との両立支援や、女性の活躍支援なども視野に入れて健康経営に取り組んでいくことが必要とされるのです。

5 産業保健専門職の役割

健康経営において、産業医や保健師などの専門職の関与は非常に重要です。
健康経営優良法人制度の調査票のには、健康経営に産業医や保健師が関わっているかどうかを調査する項目があり、専門職が関与していない場合はその時点で「不認定」となります。
産業医や産業看護職は、専門職として、適切な課題抽出、効果的な施策の立案、実施、効果評価など、企業とともに進めていきます。
あくまで主体者は企業であることを認識しつつも、企業が健康経営を円滑に進めていけるよう調整していくことが求められます。安全衛生委員会等で審議し、全従業員へ周知を行い、会社一丸となって取り組みましょう。
健康経営の取り組みの本質は、一人ひとりの従業員の健康度を高めることにあります。単に健康経営銘柄・健康経営優良法人に選定・認定をされることのみを目的とするのではなく、従業員全体の健康意識を高めていきましょう。

健康経営調査票
出典:経済産業省|令和4年度健康経営度調査票



■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医


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■監修医師のご紹介


産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問​
アズビル株式会社 統括産業医​

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆​
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信​

代表書籍​
『職場のメンタルヘルス入門』​
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』​
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』​


■参考文献


・公益財団法人 産業医学振興財団|産業保健看護学-基礎から応用・実践まで-
・メディックメディア|職場の健康がみえる
・経済産業省|健康経営の推進について
・経済産業省|健康・医療新産業協議会 第9回健康投資WG
・経済産業省|健康経営優良法人認定制度

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