【衛生管理者必見】転倒・作業環境・夜勤の健康リスクを防ぐ3つの職場対策
転倒・転落事故の多発、作業環境に潜む“見えないリスク”、そして夜勤・交代勤務による健康への影響──これらは多くの現場で見落とされがちな、重大な労働災害リスクです。本記事では、衛生管理者や人事・総務担当者が今すぐ実施できる3つの重点対策について解説。職場の安全性を高め、従業員の健康と生産性を守るヒントが詰まっています。
<目次>
1.転倒・転落事故を防ぐための環境整備と安全対策
2.作業環境測定による「見えないリスク」への対応
3.夜勤・交代勤務による健康リスクと支援のあり方
4.リソースが限られた職場での安全対策の工夫(特に中小企業向け)
5.まとめ
1.転倒・転落事故を防ぐための環境整備と安全対策
労働災害のなかでも、「転倒」や「転落」事故は毎年高い頻度で発生している重大なリスクの一つです。実際、厚生労働省が公表している令和5年度の統計によれば、死傷者数で最も多いのが「転倒事故(36,058件)」、死亡者数で最も多いのが「墜落・転落事故(204件)」でした。つまり、命を落とすケースも、ケガをして職場を離れるケースも、この2つの事故が大きな割合を占めているのです。
特に注意が必要なのは、建設業・製造業・運輸業といった、屋外作業や高所作業が多い業種です。滑りやすい床、整っていない作業環境、不安定な足場など、ちょっとした油断が重大事故につながることも珍しくありません。また、高齢労働者の増加により、身体能力やバランス感覚の低下が転倒のリスクをさらに高めている点にも注意が必要です。
転倒災害の原因は、大きく分けて「滑り」「つまづき」「踏み外し」の3つに分類されます。いずれも、作業環境の整備不十分や作業手順の徹底不足、労働者本人の注意力の低下などが絡み合って発生しています。たとえば、「滑り」による転倒は床の油や水、「つまづき」は工具の放置や床の段差、「踏み外し」は階段や脚立の不適切な使用が原因です。
また、墜落・転落災害に関しても、足場や脚立、はしご、屋根の作業などでの安全対策不足が背景にあることが多く、脚立の天板に乗る、はしごを固定しない、といった“ありがちな使い方”が、実際には重篤な事故を招いています。
では、どうすればこのような事故を未然に防げるのでしょうか?
まず必要なのは、職場環境の整備とルールの見直しです。床の滑り止め加工や道具の整理整頓、視認性の高い注意喚起表示の設置、滑りにくい履物の着用の徹底など、基本的な対策を「形だけ」で終わらせず、継続的に運用する仕組みを整えることが重要です。
さらに、高年齢労働者の転倒リスクに備えて、身体機能の維持や改善を目的とした運動プログラムの導入も効果的です。厚生労働省が提唱している「毎日3分でできる職場エクササイズ」などを朝礼や休憩後に取り入れている企業も増えています。
事故は「まさか」の瞬間に起こります。身近な場所で、身近な道具で発生する事故だからこそ、全員が当事者意識を持って対策を講じる必要があるのです。
さらに詳しい原因分析や対策、現場での実例を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください👇
2.作業環境測定による「見えないリスク」への対応
職場に潜む見えないリスクから労働者を守るためには、まず現状を正確に把握することが不可欠です。そのための基本となる取り組みが「作業環境測定」です。これは、労働者が日々さらされている職場の空気や音、温度、湿度、照度、化学物質などについて、どのような状態にあるのかを科学的に測定・評価するものです。
製造業や建設業、医療機関、印刷業などでは、目に見えないガスや粉じん、有害化学物質が発散されることがあります。また、騒音や高温環境も長期的には健康障害の原因となる可能性があるため、これらを放置することはできません。職業性疾病や労働災害を予防するためには、有害因子がどのように職場に存在し、どの程度の影響を与えているかを把握することが最も重要です。
労働安全衛生法では、有害業務を行う事業場において、定期的に作業環境測定を実施し、その結果を記録・保管することが義務付けられています。特に粉じんや有機溶剤、騒音などの測定は専門の作業環境測定士が実施しなければなりません。最近では、定点測定(A測定・B測定)だけでなく、労働者に装着したサンプリング機器で行う個人測定(C測定・D測定)も認められるようになり、より実態に即した評価が可能になっています。
たとえば騒音の測定では、「等価騒音レベル」が85dBを超えると、作業時間の見直しや耳栓の使用などの対策が必要になります。また、室温や湿度の測定では熱中症予防の観点から28℃を超えないように管理する努力義務が定められています。照度(明るさ)についても2022年の法改正により、事務作業には300ルクス以上の照度が求められるようになりました。
これらの測定は、単なる「義務」ではなく、労働者の健康と安全を守り、職場全体の生産性や満足度を高めるための“投資”です。特に、複数の作業者が交代制で働く現場や、空調や換気の状態が変化しやすい場所では、定期的かつ的確な環境評価が欠かせません。
では、具体的にどのように測定を行い、どんな法律的な基準があるのでしょうか?また、実際の測定にはどのような専門知識や機器が必要になるのでしょうか?
こうした疑問を持たれた方は、以下の記事でより詳しく解説しています👇
労働環境をより安全・快適にするための第一歩として、まずは「作業環境測定」について理解を深めてみませんか?
3.夜勤・交代勤務による健康リスクと支援のあり方
24時間体制で稼働する職場では、夜勤や交代勤務が避けられません。医療・福祉、製造、運輸、IT、警察・消防、飲食、小売、マスコミ、ホテル・観光、エネルギー業界など、多くの業種がその対象です。こうした勤務形態は、社会のライフラインを支える重要な働き方である一方、従業員の健康には大きな負荷がかかることも忘れてはなりません。
特に問題となるのが、「生活リズムの乱れ」に起因するさまざまな不調です。昼夜逆転の勤務を繰り返すことで、体内時計(サーカディアンリズム)が乱れ、睡眠障害、慢性的な疲労、集中力低下、自律神経の乱れといった健康トラブルが起こりやすくなります。さらに、交代勤務の従事者は、メタボリックシンドロームや心血管疾患、さらにはうつ病やがんのリスクも高まるという報告があります。
衛生管理者や産業保健スタッフにとっては、こうしたリスクを理解したうえで、適切なシフト設計や労働時間の管理、健康診断の実施、メンタルヘルスの支援、睡眠環境の整備など、多面的なサポートを行うことが求められます。とくに勤務間インターバルの確保や、仮眠室・休憩室の整備といった職場環境の改善は、すぐにでも取り組みやすく、効果が実感されやすいポイントです。
さらに、食生活や運動、カフェインの活用など、労働者が自分で実践できるセルフケアの情報提供も有効です。産業医や保健師と連携しながら、ストレスチェックやカウンセリング機会を設けることも、メンタルヘルス対策として重要です。
夜勤や交代勤務に従事する労働者の健康を守ることは、離職率の低下や業務の質向上にもつながります。衛生管理者や人事・総務担当者が、制度設計・職場整備・指導の観点から支援を行うことで、働く人々が安心して持続的に活躍できる環境を築くことが可能です。
夜勤・交代勤務に関する健康リスクや具体的な対策について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください👇
4.リソースが限られた職場での安全対策の工夫(特に中小企業向け)
中小企業の現場では、労働災害の発生リスクが大企業に比べて高い傾向にあります。厚生労働省が発表した令和5年のデータによると、事業所規模が小さくなるほど「度数率」や「強度率」が上昇し、特に1000人未満の事業所では労働災害が発生しやすく、しかも重篤化しやすいという結果が出ています。
では、なぜ中小企業では労働災害が起こりやすいのでしょうか?
主な理由としては、安全に関する専門人材や予算の不足、安全活動の優先順位の低さ、安全管理ノウハウの不足などが挙げられます。経営層が安全意識を持っていたとしても、現場に浸透していなければ実効性ある対策にはつながりません。
こうした中でも、中小企業が効果的に労働災害を防止するためには、限られたリソースを活かしつつ、経営戦略の一環として安全対策を位置づける視点が重要です。たとえば、安全対策への投資が将来的な損失防止につながることを明確にし、「安全の見える化」を進めることで、経営陣の理解を得やすくなります。
また、衛生管理者や現場の安全担当者が果たすべき役割も大きく、まずはリスクアセスメントの実施や、従業員教育、安全設備の整備など、効果的な初期アクションを明確にしておく必要があります。
さらに、活用できる外部の支援制度も少なくありません。たとえば、中央労働災害防止協会の「中小規模事業場安全衛生サポート事業」では、無料で専門家の支援が受けられますし、高度安全機械等導入支援補助金など、費用面をサポートする制度も存在します。
以下の記事では、中小企業が取り組むべき労働災害対策をより具体的かつ実践的に紹介しています👇
これから安全対策を見直したいと考える経営者や衛生管理者の方は、ぜひチェックしてみてください。
5.まとめ
転倒・転落事故の防止、作業環境測定によるリスクの可視化、夜勤・交代勤務者への健康支援──これらは職場の安全衛生を守るうえで欠かせない柱です。衛生管理者や産業保健スタッフが主体的に関与し、継続的に改善を進めていくことで、従業員が安心して働ける環境を築くことができます。まずは、できることから着実に取り組みましょう。