さんぽLAB

記事

作業環境測定とは?衛生管理者が知るべき基準と改善策

作業環境測定は、製造業や建設業、病院・診療所などの職場において、労働者の安全と健康を守るために欠かせない取り組みです。作業環境中には、有害なガスや粉じん、騒音、高熱などのリスク要因が存在し、それらを適切に管理することが職業性疾病の予防につながります。本記事では、作業環境測定の基礎知識や法的基準、具体的な測定方法について詳しく解説します。企業の安全管理担当者や衛生管理者の方は、ぜひ参考にしてください。


<目次>

1.作業環境測定とは?基礎知識を解説
2.具体的な測定方法と法的基準
3.測定結果を基にした環境改善の実践例
4.まとめ:衛生管理者が知っておくべきポイント


1.作業環境測定とは?基礎知識を解説

製造業や建設業、病院や診療所、印刷業などの事業場における作業環境中には、ガス・蒸気・粉じん等の有害物質や、騒音・放射線・高熱等の有害エネルギーが存在することがあり、これらが働く人々の健康に悪影響を及ぼすことがあります。これらの有害因子による職業性疾病を予防するためには、これらの因子を職場から除去するか一定のレベル以下に管理することが必要です。そのための第1歩が作業環境の実態を把握し、必要な対策のための情報を得ることであり、それが作業環境測定です。

労働安全衛生法第65条第1項では、「事業者は、有害業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない」と定められています。

作業環境測定とは「作業環境の実態を把握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリングおよび分析(解析を含む)をいう」と定義されています。

ここでいう「デザイン」とは、測定対象作業場の作業環境の実態を明らかにするために当該作業場の状況に応じた測定計画を立てることをいいます。その内容としては、生産工程、作業方法、発散する有害物質の性状その他作業環境を左右する諸因子を検討して、サンプリングの箇所、サンプリングの時間及び回数、サンプリングした資料を分析するための前処理の方法、これを用いる分析機器等について決定することをいいます。

また、「サンプリング」とは、測定しようとする物の捕集等に適したサンプリング機器をその用法に従って適正に使用し、適切な測定計画をもとに試料を採取し、必要に応じて分析を行うための前処理、例えば、凍結処理、酸処理等を行うことをいいます。また、「分析(解析を含む)」とは、サンプリングした資料を化学溶媒による抽出など分析を行うための処理や調整を施して、サンプル中の有害物質や対象物質を性格に分離・定量化することを指します。

つまり作業環境測定とは、作業環境中に有害な因子がどの程度存在し、その作業環境で働く労働者がこれらの有害な因子にどの程度さらされているかを把握することです。それにより、労働災害や疾病を防止し、労働者の安全と健康を守ることが可能になります。


2.具体的な測定方法と法的基準

事業者が作業環境測定を実施しなければならない作業場として、安全衛生法施行令第21条で次の10種類の作業場があげられています。作業環境測定は基本的には作業環境測定士の資格を有する専門家が行うべきです。特に以下のうち◎のついているもの(粉じん測定など)は、作業環境測定士が実施しなければならないものです。作業環境測定士のいない事業場は、厚生労働大臣または都道府県労働局長に登録した作業環境測定機関を利用して実施します。なお、測定対象物質の管理濃度については、日本作業環境測定協会のホームページに一覧が掲載されていますので、そちらを参考にしてください。

作業環境測定を行う作業の種類と測定項目

なお、従来の作業環境測定では、作業場内の定点に測定機器を設置して測定を行うA測定/B測定と呼ばれる方法で作業環境の有害性を評価してきましたが、2021年4月からは、対象となる化学物質において個人サンプリング法により作業環境測定が認められるようになりました。

個人サンプリング法とは、指定の作業場において、その作業に従事する労働者自身の身体に装着する試料採取機器等を用いて測定を行うC測定/D測定と呼ばれる方法です。大まかにまとめると違いは以下になります。

A~D測定の概要

また、測定後は結果に応じて3つの管理区分に分類され、作業環境の状態が評価されます。

第1~3管理区分の概要

簡易的にも測定が可能である代表的な項目とその測定方法、法的基準を紹介します。

①騒音測定

■測定方法

騒音計(等価騒音レベルを測定可能なもの)を用いて、作業環境の音の大きさ(デシベル、dB)を測定します。測定位置や時間帯(例:作業中や休憩中)を考慮して、測定を行います。等価騒音レベルとは、不規則活大幅に騒音レベルが変動している場合に、測定時間内の騒音レベルのエネルギーを時間平均したものです。

■法的基準

労働安全衛生法に基づき、85dB未満の場合は第1管理区分となり、作業環境の継続的維持に努めることとなっています。等価騒音レベルが85dB以上の場合は、労働者が騒音作業に従事する時間の短縮を検討することも騒音障害防止のためのガイドラインに記載されています。

②温湿度測定

■測定方法

0.5度目盛のアスマン通風乾湿計を使用して、作業場の温度(℃)と湿度(%)を測定します。輻射熱については、0.5度目盛の黒球寒暖計で測定します。作業環境によっては、特に暑さや湿気が問題になるため、時間帯や作業場の異なる場所で測定することが推奨されます。

■法的基準

労働安全衛生法では、室温は18℃以上28℃以下、湿度は40%以上70%以下になるよう管理することが努力義務とされています。特に高温・多湿環境で作業する場合、 温度が28℃以上 で作業を続けると、熱中症のリスクが増加します。加えて、 湿度が85%以上 の場合、作業が過酷になるため、適切な換気や休憩を提供する必要があります。

③照度測定

■測定方法

照度計を使用して、作業場の明るさ(ルクス)を測定します。作業場所ごとに異なる照度が求められるため、照明の位置や強さを考慮して測定します。

■法的基準

令和4年に事務所衛生基準規則が改正され、事務所において労働者が常時就業する部屋における作業面の照度基準が、従来の3区分から2区分に変更されました。「一般的な事務作業」については300ルクス以上、「付随的な事務作業」については150ルクス以上であることが求められます。

<改正前>

事務所衛生基準規則改正前の照度基準

<改正後>

事務所衛生基準規則改正後の照度基準

その他、一般的な建物設計において各部屋や共用部分の明るさを決める場合に目安となるJIS照度基準というものもあります。法定基準よりも明るく設定されており、実際の生活や職場環境の目安に近いと言われています。

④炭酸ガス濃度測定

■測定方法

検知管方式による炭酸ガス検定器を用いて測定します。検知管方式とは、有害物質の濃度を測定するための簡便な方法の1つです。検知管とは特定の化学物質が反応することによって色が変わる管のことを言い、この色の変化を観察することによって有害物質の濃度を定量的に測定します。

■法的基準

二酸化炭素の基準濃度は、厚生労働省の建築物環境衛生管理基準により 1,000 ppm以下と定められています。基準値を超えると、頭痛や眠気、倦怠感などの症状が現れる可能性があり、30000ppm以上になると酸素障害を誘発するようになると言われています。

その他の事務所環境管理について詳しく知りたい方はこちらをチェック👇
「事務所環境管理」チェックリスト/解説記事/手順書


3.測定結果を基にした環境改善の実践例

【塗装部品乾燥室の有機溶剤対策事例】

部品を台車に載せ吹付塗装を行う工程で、吹付室で塗装を終えた後、インターバル室へ台車を運び、乾燥させていたが、このインターバル室には排気ファンを設置しただけであるため、有機溶剤が拡散し、作業環境測定の緒果は管理区分2(作業環境濃度に点検や改善の余地があると判断される状態)であった。

また、従来の作業では有機溶剤の拡散のほか、インターバル室に台車が乱雑に置かれて、台車同士や人と台車との接触で部品が落下したり、作業者の判断の誤りから未乾燥のまま次工程に流されるということもまれに起こっており、これらの改善にも併せて取り組んだ事例。

■改善の内容

① 乾燥室を大きく3つに区画(A室、B室、C室)し、局所排気装置を設置。さらにA室、B室は台車が1台ずつ収納されるようにそれぞれ4室に分けた。

② 各室のドアと局所排気装置が連動しており、ドアを開けると排気能力がアップする仕組みを取っている。これにより有機溶剤が室外に漏れないようになっている。また4室のうち1つのドアを開けると他のドアは開かないようにもなっており、省エネの工夫もされている。なお、ドアは内側から自由に開けられるので、作業者が閉じ込められることはない。

③ 未乾燥のまま次工程へ流されないようにランプで乾燥終了を表示する工夫を行っている。あらかじめタイマーで乾燥時間を設定しておく→台車を乾燥室に入れて閉じるとドア上部の赤ランプが設定した時間分点滅する→設定時間が終了(乾燥終了)すると赤ランプが点灯→点灯を確認し作業者が台車を取り出し次工程へ、という改善である。

■効果

改善の緒果、管理区分2を管理区分1(作業環境管理が適切にできている状態)にすることができ、さらに職場の4Sにもつながったうえ、ムリ・ムダをなくすことで生産性も向上した。


4.まとめ:衛生管理者が知っておくべきポイント

作業環境測定は主に作業環境測定士が行うことになりますが、有害因子はどのようなものがあるのか、またその法的な基準や、基準値を超えると健康にどのような影響を与えるのかについては、衛生管理者が把握しておくべき事項です。また、労働安全衛生法では、「作業環境測定等の結果の保存義務」が規定されており、衛生管理者はその保存責任があります。

作業環境測定等の結果の保存期間

測定結果によって事例のように職場の作業環境の改善に取り組む場合も、労働者への安全教育や健康状況の継続的な経過観察など、衛生管理者が力を発揮すべき場面は多々あります。

化学物質による健康障害とその対策について詳しく知りたい方はこちらをチェック👇
化学物質による健康障害防止対策の基本~はじめて学ぶ化学物質と健康~



■参考

1)作業環境測定の基礎知識|JAWE ー 日本作業環境測定協会
2)個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について|厚生労働省
3)騒音障害防止対策|厚生労働省
4)ご存じですか?職場における労働衛生基準が変わりました|厚生労働省
5)職場の安全サイト:作業環境測定[安全衛生キーワード]|厚生労働省
6)作業環境測定を実施しましょう!|厚生労働省
7)「騒音障害防止のためのガイドライン」解説パンフレット|厚生労働省


■執筆/監修


<執筆> 衛生管理者・看護師

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

コメントする