復職支援で訴訟されない!判例を基に徹底解説
職場復帰支援は労務問題にも関連するため、時に訴訟に発展する場合もあります。本記事では、裁判事例を基に、産業医として気を付けたいポイント、意見書の書き方、面談記録の書き方について説明します。
【目次】
1. 復職支援における裁判事例の紹介
2. 発達障害+適応障害の復職可否のポイント
3. 産業医の意見書の書き方
4. 産業医の面談記録の書き方
1.復職支援における裁判事例の紹介
下記は、産業医の判断が完全否定された印象的な事例です。
この判例のポイントを下記に3つあげます。
- 「休職事由」とは、業務を行えない原因となった病気や症状のこと。今回はうつ状態
- 他の社員とのトラブル発生のリスクは、裁判所は「休職事由」ではないとした
- 産業医は休職事由であるうつ状態の回復の程度に基づいて復職可否を判断すべきだった
次の判例をご紹介します。
さきほどの判例と同様に、休職の事由となっている適応障害が回復していることから復職させるべきだったと裁判所は判断し、復職を認めなかった会社を不当とする判決がくだされました。
復職の可否の判断は病気の回復に基づいて行うべきで、本人の能力や業務態度に関する問題は、復職可否の問題とは別に復職したあとの職場で、注意や指導を行って対応するべき問題だとされています。
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2.発達障害+適応障害の復職可否のポイント
職場復帰の可否の判断については、休職の原因となっている病気の症状が回復して就労可能な状況かどうか、ということを確認します。
主治医が復職可の診断書を書いていても、産業医が復職不可と判断する場合もあります。このようなときにトラブルを避けるためには、産業医が何をもってその判断をしたのかきちんと根拠をもって説明できるようにすることが重要です。
そこで復職可否の判断のツールとして、生活記録表を活用することをおすすめいたします。
メンタルヘルス不調の背景要因を整理しておくことも職場復帰を成功に導き再休職を防ぐためにはとても重要です。
背景要因の情報は、職場復帰の可否の判断に使うのではなく、復職後の環境調整や対応のアドバイスに使うといいと思います。
下記の事例は、産業医は病状の回復を評価し、産業医は復職可能と一旦は判断しましたが、その後の試し勤務で職場での行動面やコミュニケーションの問題が出てきたことで、会社が業務遂行が困難であると判断し、退職となった事例です。この事例では、会社側の判断が妥当という判決が出ています。
職場復帰の場面では産業医による健康状態の判断、それから会社による業務状況の判断という2段構えの対応にすることによってより適切に対応できると考えられます。
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3.産業医の意見書の書き方
まずは、わかりにくい意見書の記載例をご紹介します。
こちらの意見書は、内容が具体的ではありません。
決まった書式はありませんが、わかりやすいと思われる意見書の記載例を下記にご紹介します。
このように産業医の意見書を具体的に記入すると職場への伝達事項が明確になります。意見書が社内で一人歩きをしても内容が伝わるように記載することが重要です。
また、時には復職の可否を明確に判断するのが難しい場面も存在します。そのような際は、具体的な条件を記載したうえで、復職の可否を述べるという方法をお勧めしたいと思います。
下記のような事例の場合を考えてみたいと思います。
このような事例のときに、私は下記のような意見書を書くようにしています。
ポイントを説明します。
産業医の意見や主治医の意見は、復職の可否や就業上の措置を決める材料の一つであって、最終的な判断は会社が行います。
意見書を作成する際にも、産業医は必要な意見を述べて、最終的には会社が決定するという枠組みを明確に示すようにしています。
もう一つ意見書で注意をする必要があることは、異動について言及する場面です。
人事異動は会社の専権事項だといわれています。
異動について言及する際には、明らかにこれが提案であるということがわかるように記載しています。これによって、会社側が最終的に判断する余地がうまれます。
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4.産業医の面談記録の書き方
SOAP形式は、みなさんご存知の通り医療の現場でよく使用される記録方法ですが、産業保健領域でも応用することができます。
面談記録は、裁判となった際にも、非常に大切な記録として取り扱われます。
下記はある裁判の時に証拠して利用された面談記録のサンプルです。
この記録では、職場復帰については主治医に相談と書いているだけです。
この面談の時点で復職について産業医がどう判断しているかという点が、やはり裁判でも争点になりました。
下記のような記載をしておくとよかったと思われます。
余計な争いを防ぐためにも、職場復帰支援の面談の場面では面談の度に毎回アセスメント欄に復職の可否を記載しておくことをお勧めします。
裁判対策だけでなく、SOAP形式を用いてしっかり面談記録を作ることで、日々のケース対応の質も向上していきます。
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情報提供者
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』