さんぽLAB

記事

職場復帰支援とは?円滑な職場復帰のための具体的な取り組みやポイントについて解説

職場復帰支援とは?円滑な職場復帰のための具体的な取り組みやポイントについて解説

円滑な職場復帰支援のために、産業看護専門職はどのような役割を担えるでしょうか。
休職者だけでなく、管理監督者や人事担当者など多職種との連携をスムーズに行い、安心して職場復帰できる環境を整えるために重要な役割を担っています。
今回は、職場復帰支援のプロセスについて、具体的な取り組みや各ステップのポイントについて詳しく解説します。初めて職場復帰支援に携わる方にも読みやすい内容となっております。

目次

1.職場復帰支援とは
2.職場復帰支援のプロセス~各ステップのポイント
3.産業看護専門職に求められる役割
4.まとめ


1 職場復帰支援とは


職場復帰支援とは、傷病等により長期休業していた労働者の復職のための支援を、企業側が行う支援活動です。
厚生労働省は、2004年にメンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)を公表しました。
手引きには、実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています。(なお、本手引きは、2009年に改訂されています。)
休職に至る原因や背景は労働者によって様々ですが、手引きを参考に、職場復帰プログラムの策定や関連規程の整備を行っていくとよいでしょう。


2 職場復帰支援のプロセス~各ステップのポイント


円滑な職場復帰を行うためには、職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが大切です。
そして、職場復帰支援に関する体制を整備・ルール化し、社員・管理職・担当者への教育を実施し、この仕組みを機能させることが重要です。

手引きによる職場復帰支援の流れは下図のようになっています。

職場復帰支援の流れ

■第1ステップ: 病気休業開始及び休業中のケア

労働者から管理監督者に主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まります。主治医からの診断書には、①病気休業の必要性、②必要な療養期間の見込みについて明記してもらいましょう。
管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明します。
体調が悪い時は、説明を聞いても十分に理解できないことがあるので、必要なことは書面にまとめて渡しておくようにします。

具体例)

  • 休業の最長(保障)期間
  • 傷病手当金などの経済的な保障
  • 不安、悩み、制度等の相談先の紹介(社内・社外)
  • 公的または民間の職場復帰支援サービス

また、病気休業中も社員からの相談に対応する、復職や社内制度についての情報提供を行う、そして、産業医やその他の産業保健スタッフと定期的な面談を行うなど、社員が安心して療養できる環境づくりに努めます

■第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断

休業中の労働者が職場復帰の意欲を持ち、主治医が職場復帰可能と判断した場合、労働者は事業者に対して、職場復帰の申請を行い、主治医による職場復帰可能の意見書(診断書)を提出します。
診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうとよいでしょう。
あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうと良いでしょう。

■第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

事業者は、必要な情報収集と評価を行ったうえで、休業中の労働者の職場復帰の可否を適切に判断し、さらに、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成します。
この具体的プランの作成にあたって事業場内産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休職中の労働者の間でよく連携しながら進めます。
復職の可否については、主治医の診断書だけでなく、生活記録表などを活用することで、業務遂行が可能な安定した生活リズムが定着しているか等の判断材料となります。
産業医が選任されている場合は、産業医とも相談の上で、復職可否や復職のタイミングについて検討しましょう。また、体調不良の原因・要因を確認することも、再休業を防止する観点から重要です。特に、職場での業務の割り当てや復職後のサポートの方法などについて検討しておきましょう。

具体的な検討内容の例)

  • 職場復帰の可否やタイミング
  • 復職後の業務内容、就業制限の内容
  • 管理監督者による対応の留意点
  • 人事労務管理上の対応の留意点
  • 復職後のフォローアップ方法、時期 など

復職可否の判断基準の例 :手引きより抜粋)

  • 職場復帰の可否やタイミング
  • 労働者が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している など
※復職可否については、生活記録表を用いて、以下の基準で判断する方法もあります。
(1)平日は、出勤に間に合う時間に起床できる、十分な睡眠が取れている
(2)平日は、午前中〜午後まで、図書館などに外出して過ごしている(例:9時〜15時など)
(3)上記のような生活を月〜金まで2週間以上続けられており、疲れもたまらない



第3ステップにおいて、ポイントとなる点を下記にまとめます。
段階的にステップを踏む

◇復職開始時の業務パフォーマンスと、復職後の業務調整について
労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断しましょう。復職後は労働負荷を軽減し、段階的に元に戻すなどの配慮が必要です。社内の就業規則などを参考に、職場・職種ごとに適用の可否を検討しましょう。

就業上の配慮の例)

  • 短時間勤務、軽作業や定型作業の従事
  • 残業や深夜業務の禁止、
  • 出張制限、交代勤務制限
  • 危険作業や高所作業などの制限
  • 窓口業務約定処理業務などの制限
  • フレックス制度の適用(もしくは制限)
  • 転勤 等

◇復職時の異動・配置転換について
新しい環境への適応は、心理的負担がかかるため、病気の再発に結び付く可能性があります。
復帰先に関しては、まずは元の職場を原則とするとよいでしょう。ただし、休職の原因によっては、管理監督者、人事担当者と調整の上、配置転換を検討しましょう。

◇試し出勤制度について
正式な職場復帰決定の前に、社内制度として試し出勤制度等を設けると、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができます。休業していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら、復帰の準備を行うことができます
なお、これらの制度の導入にあたっては、処遇や災害が発生した場合の対応、勤務時間や勤務日数、賃金の支払いの有無、業務を命じるかどうかの位置付け、標準的な実施期間と実施期間の上限、休業期間としての取り扱い、休暇の取得の可否など、労使間で十分に検討し、ルールを定めておきましょう
運用上の留意点として、試し勤務の期間はあまり長くしすぎないことが重要です。上限とする期間(最長でも1〜2ヶ月程度)を定めておき、この間に体調や勤怠、業務パフォーマンスが安定しない場合には、再度、自宅療養とするというようなルールにしておきましょう。

■第4ステップ:最終的な職場復帰の決定

第3ステップでの検討内容を踏まえて、事業者による最終的な職場復帰の決定を行います。職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。復職にあたっては、職場復帰後の留意事項や、復職後の業務内容、就業上の配慮などを、労働者に対して十分に説明します。なお、労働者を通じて、主治医にも定型書式などを用いて情報共有しておくと良いでしょう(厚労省の「手引き」に様式例が掲載されています)。

■第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ

職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等による定期的な面談等のフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。職場復帰支援プランは計画通りに進まないこともあるため、職場復帰後の経過観察が必要となります。


3 産業看護専門職に求められる役割


ここまで、職場復帰支援の流れとポイントについてお伝えしました。
産業看護職に求められる役割は、どちらの職場復帰支援のステップにおいても、労働者と事業者を繋ぐことにあります。健康問題の解決に向けて労働者を支援することはもちろんですが、円滑な職場復帰のためには、管理監督者や人事担当者をはじめとする関係者と、密に情報を共有することが重要です。
産業看護職は、各担当者間の情報共有がスムーズに流れるよう、情報を伝達し、関係者のコミュニケーションを促進する役割を果たします。
それぞれの担当者の意思決定に必要な情報を収集・整理したり、関係者がコミュニケーションを行う場面を設定します。当事者となる労働者、そして、関係者と支援のベクトルを合わせ、円滑な職場復帰を目指し、伴走することが大切です。


4 まとめ


円滑な職場復帰を行うためには、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが大切です。休職をした労働者が、パフォーマンスを発揮し、また、その労働者を支援する組織がさらに成長できるよう、産業看護職は、関係者をコーディネートする役割を担っています。


■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医


一緒に見たいコンテンツ


復職支援で訴訟されない! 判例を基に徹底解説健康情報取扱規定


お役立ちサービス


アドバンテッジハーモニー


■監修医師のご紹介


産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』


■参考文献


岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.
五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.
厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き.

コメントする