発達障害+適応障害の復職支援~訴訟されないためのポイントを徹底解説~
適応障害で休職した社員の背景に、発達やパーソナリティの偏りがあるようなケースは多くの方が経験していると思います。
このようなケースの場合、どのように復職の可否の判断を行えばよいのか、産業医として気を付けたいポイントについて説明します。
※本記事は2023年11月8日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶職場復帰における産業医意見書の書き方~企業とうまく連携するためのコツ~
【目次】
1.発達障害+適応障害の復職可否判断のポイント
2.裁判事例紹介:日本電気事件
3.発達障害+適応障害の復職支援におけるポイント
1.発達障害+適応障害の復職可否のポイント
発達障害が原因となって、適応障害が起きているようなケースで復職を検討する際、産業医は休職の原因となった病気や症状がどのくらい回復して就労が可能な状態かどうか、という点を重視すべきです。
一方で以前からの行動や業務パフォーマンスの課題は復職後のサポートやマネジメント上の問題として捉えるべきです。
つまり、病気の回復の問題と業務上の問題は少し別々に考えておく方がいいと思います。
もう少し詳しく説明していきましょう。
まず職場復帰の可否の判断については、休職の原因となっている病気の症状が回復して就労可能な状況かどうか、ということを確認します。
主治医が復職可の診断書を書いていても、産業医が復職不可と判断する場合もあります。このようなときにトラブルを避けるためには、産業医が何をもってその判断をしたのかきちんと根拠をもって説明できるようにすることが重要です。
そこで復職可否の判断のツールとして、生活記録表をご紹介したいと思います。
■生活記録表の活用
メンタルヘルス不調の職場復帰の際には、この生活記録表に睡眠の様子や外出の状況を記録してもらいます。
下記の3点を職場復帰の基準として用います。
- 出社に間に合う時間に起床できていること
- 午前9時頃から午後3時頃まで図書館などに外出して過ごせていること
- 月曜から金曜まで、上記2点を満たすような生活が2週間以上続けられていること
このような基準を用いることによって判断が客観的に実施でき、関係者にも説明しやすくなります。
さらに、記録表は厚生労働省の職場復帰支援の手引きの基準にも沿っており、十分に体力の回復状況を確認できるため、復職後の再発も予防できます。
■メンタルヘルス不調の背景要因について
産業医は体調の回復や病状の評価だけをしていればいいというわけではありません。
メンタルヘルス不調の背景要因、例えば本人の行動パターンや思考パターンの課題、パーソナリティや発達の偏り、職場の状況や本人と仕事との適性、パフォーマンスの情報といったものを整理しておくことも職場復帰を成功に導き再休職をふせぐためにとても重要です。
こうした課題について検討する際には、本人からの情報だけではなく上司から情報を得ておくことも役立ちます。
背景要因の情報は、職場復帰の可否の判断に使うのではなく、復職後の環境調整や対応のアドバイスに使うといいと思います。
2.裁判事例紹介:日本電気事件
業務パフォーマンスや職場のコミュニケーションの問題を理由として、退職が有効になった事例を紹介したいと思います。
この事例では、産業医は病状の回復を評価し、産業医は復職可能と一旦は判断しています。
しかし、その後の試し勤務で職場での行動面やコミュニケーションの問題が出てきたことで、今度は会社が業務遂行が困難であると判断したというところがポイントです。
3.発達障害+適応障害の復職支援におけるポイント
これらの事例から、発達の偏りやパーソナリティの偏りによって二次的に適応障害や抑うつ症状を引き起こしているケースの職場復帰のポイントを整理したいと思います。
まずは、病状の回復の程度を基に産業医が職場復帰の可否の判断を行います。
具体的には生活記録表を用いることをお勧めします。
この方法は、職場復帰の可否の判断基準が明確になるため一般の方でも理解しやすく有効な方法です。
もちろん、行動面や就労のパフォーマンスの問題についてもアセスメントはしておきますが、これは職場復帰の判断基準には用いずに復職時の環境調整や適切なマネージメントについての助言をするようにします。
会社側は復職後に本人の行動面の問題や就労パフォーマンスの問題を評価します。もし逸脱した行動や業務遂行が困難な状況が見られた場合には、会社の判断として復職を取りやめます。この際に試し勤務制度があると一定の期間や目標を設定しやすいため、復職の判断を行いやすくなりますが、試し勤務制度がない場合でも通常の労務管理や業務指導の枠組みで対応できると思います。
このように職場復帰の場面では産業医による健康状態の判断、それから会社による業務状況の判断という2段構えの対応にすることによってより適切に対応できると考えます。
次回は、産業医意見書の書き方について説明します。
▶職場復帰における産業医意見書の書き方~企業とうまく連携するためのコツ~
講師
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』