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職場復帰における産業医意見書の書き方~企業とうまく連携するためのコツ~

意見書は多くの社内の関係者の目に触れるため、書き方が不適切だと社内調整が難しくなってしまうこともあり、場合によっては産業医と会社の信頼関係を損ねてしまう可能性もあります。
つまり、意見書の内容や表現には十分な注意が必要です。

※本記事は2023年11月8日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
復職支援で訴訟されない!判例を基に徹底解説


【目次】
1.記載内容のポイント
2.復職の可否を明確にするのが難しい場合のポイント
3.異動について言及する際の注意点


1.記載内容のポイント

まずは、わかりにくい意見書の記載例をご紹介します。

■わかりにくい意見書の記載例

わかりにくい意見書の例

こちらの意見書は、内容が具体的ではありません。
この意見書を受け取った職場の担当者は、具体的にどんな対応をすればいいのか残業時間はどのくらいが適切か、業務のどんな部分を調整すればいいのか色々疑問に思うと思います。
詳細は口頭で説明する場合もありますが、口頭での説明は正しく伝わるとも限りませんし、文章にしておくことが重要です。

決まった書式はありませんが、わかりやすいと思われる意見書の記載例を下記にご紹介します。

■わかりやすい意見書の記載例

わかりやすい意見書の例

状況の説明は、経緯の知らない人が見てもある程度現在の状況がわかるようにすることが必要です。

産業医の意見の欄には、箇条書きにして記載します。
少し長いですが、出社を模した生活リズムが2週間以上継続できているから復職可能というように理由を書いたうえで、職場復帰可否の判断をしています。

そして就業制限の部分には、再発を防ぐために6か月間はこういう調整が必要であるとして1~2か月、3~4か月、それから5~6か月目というように、より具体的な内容を記載しています。

最後に有効期限を記入しておきます。
こうしておくことで、いつまでも就業制限が続いているという状況を防ぐことができます。

このように産業医の意見書を具体的に記入すると職場への伝達事項が明確になります。産業医の意見書はメールに添付されたりコピペされたりして関係者間で伝達されることもありますが、意見書が社内で一人歩きをしても内容が伝わるように記載することが重要です。




2.復職の可否を明確にするのが難しい場合のポイント

時には復職の可否を明確に判断するのが難しい場面も存在します。

例えば職場である調整ができれば復職が可能であるが、その調整が実際にできるかどうかはわからないという場面があります。主治医の診断書に在宅勤務での復職を希望するとか、短時間勤務が望ましいとかマイカー通勤が望ましいといった要望が記載されることもあります。

社内でそのような調整が行えるかどうか確認する前に、産業医が安易に復職可としてしまったり、あるいは復職不可と判断してしまうとその後の対応に問題が生じて会社と本人の間に不信感が生じるケースもあります。
あるいは企業と産業医の信頼関係にもヒビがはいるかもしれません。また企業によってはこうした難しい状況の判断を産業医にお任せしますと言って産業医に責任を押し付けてくる場合もあります。
このようなケースの場合、どのように意見書を記載すればよいかご紹介します。

ここでは具体的な条件を記載したうえで、復職の可否を述べるという方法をお勧めしたいと思います。
下記のような事例の場合を考えてみたいと思います。

事例

このような事例のときに、私は下記のような意見書を書くようにしています。

意見書の記載例

ポイントを説明します。
産業医の意見や主治医の意見は、復職の可否や就業上の措置を決める材料の一つであって、最終的な判断は会社が行います。
意見書を作成する際にも、産業医は必要な意見を述べて、最終的には会社が決定するという枠組みを明確に示すようにしています。

現時点で復職が可能とする案(A案)、代替案としての、もう少し回復して現状のルールの範囲内で復職できるような案(B案)を記載します。
A案の調整可能であれば復職は可能で、もう少し待ってB案で復職してもいいのではないかということで最終的は判断を会社にゆだねます。

このように、復職の可否について白黒はっきりつけられない場面では、検討に必要な情報をいくつか具体的に提案して最終的な判断は会社に任せるという形をとっています。



3.異動について言及する際の注意点

もう一つ意見書で注意をする必要があることは、異動について言及する場面です。
人事異動は会社の専権事項だといわれています。
つまり、企業の重要な経営判断であって、産業医が口出しをすることをとても嫌がる担当者もいます。そのため、人事異動について記載する際には、慎重に表現を選んだほうがいいと思います。

例えば、「異動が必要」とか「異動が望ましい」という表現ではなくて、「異動などを含めた環境調整にして検討してください」というような明らかにこれが提案であるということがわかるように記載しています。これによって、会社側が最終的に判断する余地がうまれます。

さらに、人事担当者に、復職のときに、該当社員は異動は可能か、そのような考えもあるかというような確認をして、会社側の意向や異動の可能性を把握するようにしています。
これによって意見書に異動のことを書く際にも、面談で本人と話をする際にも、会社側の方針をある程度把握したうえで足並みをそろえて対応することができます。

次回は産業医の面談記録について解説いたします。
産業医面談記録の書き方~産業保健でも活用できる!SOAP形式~




講師


難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』




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