メンタルヘルス不調の職場復帰支援のコツ~復職判定から復職後のフォロー~
職場復帰の可否についての判断や、復職後の環境・業務調整についてはとても悩むことが多いかと思います。
本記事では、生活記録表を用いた復職可否の判断、生活記録表をうまく活用するためのコツ、さらに復職後の業務や環境調整のためのポイントについてご説明いたします。
【目次】
1.復職の可否の判断
2.生活記録表をうまく活用するためのポイント
3. 復職時の業務調整のポイントと復職後フォローアップ
1.復職の可否の判断
①復職が可能となる回復の時期
メンタルヘルス不調は、症状が良くなったり悪くなったりという波を繰り返しながら徐々に回復していくのが一般的です。
休職している従業員が日常生活レベルの回復の状態となると、「早く復帰しなければ」という焦りから復職可の診断書を提出してくることがあります。しかし、この状態で復職してしまうと再発の原因になってしまうことがあります。復職の可否の判断をする際には回復の時期をしっかりと見極める必要があります。
②復職の可否の判断材料
厚生労働省の『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』には、「復職の意欲があるか」「日常生活が落ち着いてるか」「安全に通勤できるか」など様々なポイントが書かれています。
症状の回復状況を見極めるには、数回の面談だけでは判断が難しいものです。
業務遂行能力についての見極めも必要ですが、仕事をしてないではその見極めは困難です。主治医の診断書は本人の意向をかなり加味したものとなっていることがほとんどであり、それだけを頼りに復職の可否を判断するのは難しいと言わざるを得ません。
③生活記録表を用いた復職の判断
復職の可否の判断や職場復帰の対応を進めていくにあたっては、どの段階まで回復しているかを見極めて対応することが必要です。
この回復の状態を見極めるために休職中の従業員に日中の過ごし方や生活リズムを記録してもらったもの(生活記録表)を、復職の判断材料にしようとする取り組みが多くの事業場で行われています。
生活記録表の書式は様々ですが、見るポイントは、睡眠と日中の過ごし方(外出)の2つです。
(睡眠)
・出社に間に合う時間に起床しているか
・平日の睡眠と起床のリズムが整っているか
・日中に昼寝をしたり、朝起きてから二度寝をしていないか
(日中の過ごし方)
・家の中で過ごしているか外出しているか
・出社を模した生活の練習のため、日中はなるべく外出して過ごすことを意識してもらい、それが週のうち何日できているか、どのくらいの時間継続しているか
上記のようなポイントで、週5日間の出社を想定した生活リズムでの生活が2~3週間続けられているかという点も評価のポイントとなります。
1週間程度であれば頑張ってリズムを整えてくるケースもありますが、それを持続できるかどうかも重要なポイントです。
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2.生活記録表をうまく活用するためのポイント
②生活記録表を用いた判定基準の統一
担当者によって判断が異なると生活記録表を取り入れてもうまく活用することができないため、あらかじめ判定基準を定めておくことが重要です。さらに、その判定基準を全てのケースで適用することが大切です。事業場として決定した基準は、産業医に共有し復職可否の判断の際にはこの基準で判断してもらうようあらかじめ依頼しておくとよいでしょう。
③生活記録表を活用する場面での注意点
休職中の従業員(本人)が生活記録表を付け始める時期は、主治医が「そろそろ復職にむけて練習をはじめましょう」と指導したタイミングがよいでしょう。
さらに「会社から生活記録表をつけるように言われたけど大丈夫か」といったことについて、本人から主治医に確認してもらい主治医から許可をもらうようにするとさらに安心です。
生活記録表を使用するタイミングで、本人にも復職の基準を説明しておくことが大切です。上司にも復職の基準を共有しておくと、復職後も足並みが揃いやすくなります。
④生活記録表を取り入れる際の注意点
生活記録表を活用した復職判定について、主治医の復職判定を覆すもの、十分に回復していない人を復職させないようにするためのものといった印象を持たせてしまうと復職が円滑に進まない可能性があります。
生活記録表は復職に向かって一緒に取り組んでいくためのツールであるという共通認識は、生活記録表をうまく活用するために重要です。
⑤復職プランの作成
復職を円滑にすすめるためには、復職可否の判断と同時期に復職後のプラン(復職プラン/復職支援プラン)を作成しておくことが必要です。
復職後は下記のように半年ほどかけて徐々に体調が回復していきます。
本人の回復の状況にあわせた業務負荷にすることは再発予防のために重要です。
この回復の期間における業務負荷の調整を検討するためのものが、復職プランや復職支援プランです。復職プランは書面で作成することにより本人や上司と共有することが可能となり、事業場のノウハウとして蓄積することができます。
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3.復職時の業務調整のポイントと復職後フォローアップ
①復職する際の業務調整、環境調整のポイント
復職支援をしていると「復職する際に配置転換をしたほうがよいかどうか、それとも元の職場に復職させたほうがよいのか」ということで悩む場面がよくあります。
「慣れた環境で慣れた仕事をすることが再発の予防となるため、元の職場に復職することが原則である」とも言われていることもあり、復職の際に業務調整や環境調整が必要な場合に何を検討すればいいのかは悩ましいところです。
異動が望ましいという主治医からの意見や本人からの希望がある場合には、まずは休職前の業務のどういった要素が本人にとって辛かったのか、また病状に影響するのはどのような部分なのかを具体的に本人や主治医、産業医に確認することが必要です。
重要なのは本人の希望通りの調整を実現させることではなく、社内での調整を最大限検討するということです。
対人関係や業務のストレスについては、病状が悪かったために強いストレスを感じており回復すると感じ方が変化していることもあります。そのため復職の時点での感じ方はどうか再評価することが必要です。
その際にも本人の要望に対応するか否かではなく、上司や会社側の視点から「どうやったら仕事が円滑に進むのか」「職務適正があるのか」を判断して、会社目線で必要な調整をするとよいでしょう。
②復職後のフォローアップ
復職した後も本人は不安や焦りを抱えています。なかには服薬や通院を中断してしまうケースもあります。定期的な面談は本人が自分の状況を振り返る機会となり、必要な場合は職場と連携した業務調整につなげることもできます。
復職後も就業制限が完全になくなるまでは、定期的に面談を実施するとよいでしょう。
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情報提供者
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』