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復職支援で訴訟されない!2つの判例を基に徹底解説

職場復帰支援は、労務問題にも関連するため、時に訴訟に発展する場合もあります。本記事では、2つの裁判事例とよくある1つの事例を基にし、産業医として気を付けたいポイントをご紹介します。

※本記事は2023年11月8日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
復職支援で訴訟されない!判例を基に徹底解説


【目次】
1.神奈川SR経営労務センター事件
2.シャープNECディスプレイソリューションズ事件


1.神奈川SR経営労務センター事件

こちらは、産業医の判断が完全否定された非常に印象的な判例です。概要は下記です。

神奈川SR経営労務センター事件


対人関係のトラブルからうつ状態と診断されて休職した社員が、体調・症状回復し、「復職可」の診断書を提出しました。

このケースのように、うつ病や適応障害の背景にパーソナリティや発達の課題があるケースは珍しくありません。病気が回復したあとにも、復職後の職場で問題が再燃したり、本人の病気が再発したりするというリスクもあります。

通常、職場復帰の判断には主治医の意見よりも産業医の判断のほうが優先されますが、この裁判では、産業医が指摘したほかの社員とのトラブルのリスクというのは休職事由とは関係がないとされ、職場復帰不可とした産業医の判断は退けられました。


この判例のポイントを下記に3つあげます。
  • 「休職事由」とは、業務を行えない原因となった病気や症状のこと。今回はうつ状態
  • 他の社員とのトラブル発生のリスクは、裁判所は「休職事由」ではないとした
  • 産業医は休職事由であるうつ状態の回復の程度に基づいて復職可否を判断すべきだった


人間関係や業務パフォーマンスの問題は、会社の管理部門が対応すべきであり、産業医の復職可否の判断には含めるべきではないと指摘されています。もちろん病気の背景をアセスメントし、復職後の環境調整について助言することは産業医の重要な役割だと思います。
しかし、この判例をみると復職の可否の判断とそうした判断は切り分けて考える必要がありそうです。

2.シャープNECディスプレイソリューションズ事件

次の判例をご紹介します。

シャープNECディスプレイソリューションズ事件


さきほどの判例と同様に、休職の事由となっている適応障害が回復していることから復職させるべきだったと裁判所は判断し、復職を認めなかった会社を不当だとする判決がくだされました。

この判例でも、適応障害や抑うつ症状といった病気の問題と、本人の能力や業務態度の問題は別々に考慮すべきだとされています。

復職の可否の判断は病気の回復に基づいて行うべきで、本人の能力や業務態度に関する問題は、復職可否の問題とは別に復職したあとの職場で、注意や指導を行って対応するべき問題だとされています。

ここで注意すべき点は、裁判事例や判例は、裁判になった個別の事例における判断に過ぎず他の全部のケースに当てはめるのは不適切といえます。

しかし、この事例のようなケースは皆様ご経験があるかと思います。

  • 発達やパーソナリティの偏りによる職場の問題(パフォーマンスが低い状態が続いている、対人関係のトラブル、仕事の選り好み、異動を繰り返すなど)
  • 適応障害の診断で休職
  • 復職可能の診断書
  • 体調や症状は改善
  • 原因やストレスへの理解が不十分
  • 自分の行動への反省はなく、周囲を非難する発言が目立つ


次の記事では、このようなケースの場合どのように復職の可否を行えばよいのかについてご説明します。
是非ご覧ください。
発達障害+適応障害の復職支援~訴訟されないためのポイントを徹底解説



講師


難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』




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