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ポジティブ心理学を活用した心理的支援~心理的安全性やワークエンゲージメント、強みの活用について解説

ポジティブ心理学は、問題解決にとどまらず、幸福感を高め、心の健康を維持するための有効な手法です。心理的安全性やワークエンゲージメント、強みの活用など、多角的な視点から個人と組織に働きかけ、双方のウェルビーイング向上を目指すことができます。
産業保健の現場で活かすことのできる心理的支援について、ポジティブ心理学を通じて理解を深めていきましょう。


【目次】
1.ウェルビーイングが高いということ
2.心理的安全性とワークエンゲージメント
3.ポジティブ心理学を活用した個人と組織へアプローチ
4.自分の強みを知る
5.マインドセット~ストレスとの新しい向き合い方


1.ウェルビーイングが高いということ


皆さんが働く人を支援する時には、自分のウェルビーイング、心身の健康、意味ある人生を送っていくことが大切です。それが結果的に、支援をされる側の方たちのウェルビーイングを高めることに繋がります。

ウェルビーイングについては、これまでたくさんの研究がされています。
ウェルビーイングの高い人の特徴として、自身を肯定的にみることが出来る人が多いです。



ウェルビーイングの高い人の特徴

ウェルビーイングの評価指標

ウェルビーイングにはさまざまな指標があり、日本版主観的幸福感尺度(SHS)といわれる尺度が、日本ではよく使用されています。ご自分が考えている幸福感を評価していただき、その得点の程度によって、心身の健康状態を測っていきます。

主観的幸福度と心身の不定愁訴の関係性について調べた研究結果があります。幸福度が低い群の特徴として、身体的な症状の不定愁訴が強い、不安と不眠の訴えがある、人と誰にも会いたくないといった社会的活動障害が現れ、抑うつ度も高いということがわかりました。つまり、明らかに心身の不定愁訴が大きいという結果がわかっています。



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2.心理的安全性とワークエンゲージメント


職場の健康づくりにおいて、個人あるいは集団に働きかける上で「心理的安全性」「ワークエンゲージメント」の2つの心理的概念が注目されています。

心理的安全性とは?

心理的安全性は、人が安心して自分の考えを言える状態、素直に話せる恐れのない組織風土のある状態です。
心理的安全性を高めることがチームの生産性を向上するということがさまざまな研究結果からわかってきており、心理的な要因が重要だといえます。

心理的安全性の要素

心理的安全性の要素は、下記があげられます。

  • 信頼性
  • 構造と明瞭さ
  • 仕事の意味 -仕事のインパクト

これらの要素を、互いにチームの中で共有し理解できていることは、「恐れのない組織」と名付けられ、重要な心理的安全性の概念としています。

ワークエンゲージメントとは?

仕事に向けられた持続的全般的な感情と認知を指し、働く人がどういう気持ち、考えで、今の仕事をしているのかということを言います。

ワークエンゲージメントの三要因

  • 熱意
  • 没頭
  • 活力

熱意は、仕事に対しての強い関与、コミットメントです。あるいは仕事することの有意味感や誇りをさします。没頭は、少々マイナスのイメージを持たれることがありますが、仕事への集中をさします。活力は、活き活きとした仕事に対するエネルギー、そし心理的な回復力があることをさします。



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3.ポジティブ心理学を活用した個人と組織へアプローチ

ポジティブ心理学の介入

ポジティブ心理学的な介入は、困ったことをどうするか、ということよりもゼロをプラスにする予防の視点が重要です。基本的には、予防と促進がポイントとなります。
さまざまなストレス対処法がある中で、絶対的にこれがいいというものではなく、問題の性質に合わせてタイミングよく、必要な分だけ、的確にマッチングさせたコーピングを取るということが重要です。
ウェルビーイング向上に役立つ心理社会的資源の有効利用・開発のためにポジティブ心理学を活用していきましょう。

こころを元気にするプログラム

メンタルヘルスの向上のためのアプローチとして、「こころを元気にするプログラム」があります。個人へ向けた認知行動療法として活用できます。

  • クライエントとの関係づくり:基本は傾聴。じっくり話を聞くことで、その困りごとをしっかり受け止めることから関係づくりをすること
  • 目標設定(解決志向):原因追求ではなくて解決志向に導く
  • 強みのアセスメント:強みを活かしてどのようなことができるか、の視点
  • 自己効力感を高める
  • 行動活性化:出来るようになるためには、どのようにしたらいいか一緒になって考えるコーチング的な関わり方
  • 認知的再構成(合理的解釈):ネガティブなものに焦点が当たっているところから、合理的に意味あるように解釈を促す
  • ソーシャルスキル訓練(リハーサル):いろいろな可能性や解釈があることを一緒に考え、自分の強みを築き、実際にリハーサルをする

組織開発への介入

組織へのアプローチとして、組織開発をポジティブ心理学の視点から介入する AI(Appreciative Inquiry):価値を認める探求、があります。組織や個人の核となる資源、強みに目を向けて、その強みを最大限に活用しようとするポジティブ心理学に基づくアプローチです。

AIは、価値を認め合うことで、職場の課題を解決・発展させ、労働生産性向上のための対話型の組織開発をさします。個人のものを組織・チームに活用していくという、経営学者の視点から出てきた考え方です。あるべき姿とのギャップを問題と捉え、阻害要因や問題点に焦点を当てて解決をしていきます。



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4.自分の強みを知る

自分の強みを知り、その強みを活かすことによって自信や幸福感をあげていくことができます。

強みとは?

強みは、下記のように定義されます。

ポジティブな特性(中核の人徳)(Peterson & Seligman, 2004)

  • 徳性・美徳(道徳上の価値ある要素)
  • 最適なパフォーマンスを産むための、個人的な高い行動特性の能力

認知的柔軟性の研究

ポジティブ心理学的介入が幸福感が高め、抑うつ感をどのように下げるかについて、6ヶ月にわたって追跡した研究結果があります。
1番幸福感を高める介入としては、「3 Good Things」という、良いこと探しが心理的な介入で1番効果があったと言われています。1日の終わりに、その日にあったうまくいったことを3つ書きます。そして、なぜうまくいったかの原因について書き留めることを1週間続けます。その結果、介入群の抑うつ感の低下と、幸福感の上昇が半年にわたって認められたという結果が得られています。

私たちには、ネガティビティ・バイアスという、うまくいかないところに焦点を当ててしまう傾向があります。意識的に良かったこと探しをすることで、物の見方や視点をネガティブなものよりもポジティブに転換する習慣がつきます。このような認知的な柔軟性をもって、苦しまないような解釈もあることに気付き、それを習慣とすることで、幸福感が上がるといわれています。



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5.マインドセット~ストレスとの新しい向き合い方

ストレスを上手にコントロールするのは、なかなか大変だと感じている方が多いと思います。
実は、ストレスが役に立つというマインドセットが、結果的にストレスを乗り越え健康になる、という考え方があります。
ストレスの捉え方や行動によって体のストレス反応は健康的にもなり、害にもなります。あなたのマインドセット、つまり心の構えが健康に影響を与えています。

さまざまな研究と通して、日常的なストレスに対して、ポジティブな信念を持つことで、病気のリスクが減少することが明らかになってきています。ストレスに対する捉え方を変えることで、健康になれるという考え方が重要です。

ストレスマネジメントによるセルフケア

ストレスに対するポジティブな考え方を育むことが大切であり、感動する心がストレスマネジメントにおいて重要であることも示されています。ポジティブ心理学の視点から、ストレスに対処する力を育むことが大切です。



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情報提供者


津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)

【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。

2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)




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