事例から考えるポジティブ心理学~個人と組織へアプローチについてご紹介
ポジティブ心理学を産業保健の現場で活かすためには、どのようなところにポイントを置くのが良いでしょうか。今回は、事例をもとにポジティブ心理学を活かした個人そして組織への介入について理解を深めていきます。
※本記事は2023年3月15日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶③事例から考えるポジティブ心理学介入【ポジティブ心理学勉強会 応用編】
【目次】
1.ポジティブ心理学の介入とは~予防と促進
2.組織開発への介入
1.ポジティブ心理学の介入とは~予防と促進
ポジティブ心理学的な介入というのは、困ったことをどうするか、ということよりもゼロをプラスにする予防の視点が重要です。基本的には、予防と促進がポイントとなります。
予防(prevention)
ストレスを乗り越える体験を通じて、人生をよりよく豊かにさせる
促進(promotion)
折れない心や心の回復力(レジリエンスを高める)
自分の気持ちや考え方の特徴、相談相手、対処法、やる気
さまざまなストレス対処法がある中で、絶対的にこれがいいというものではなく、問題の性質に合わせてタイミングよく、必要な分だけ、的確にマッチングさせたコーピングを取るということが重要です。
ウェルビーイング向上に役立つ心理社会的資源の有効利用・開発のためにポジティブ心理学を活用いただければと思います。
今回は、事例をもとに、ポジティブ心理学だったらどのような介入をするのか見ていきましょう。
皆さんの身近でもこのような事例が多くあるかと思いますが、ポジティブ心理学だったらどのような介入をするでしょうか。
ここでは、メンタルヘルスの向上のためのアプローチとして、「こころを元気にするプログラム」をご紹介します。
- クライエントとの関係づくり:基本は傾聴。じっくり話を聞くことで、その困りごとをしっかり受け止めることから関係づくりをすること
- 目標設定(解決志向):原因追求ではなくて解決志向に導く
- 強みのアセスメント:強みを活かしてどのようなことができるか、の視点
- 自己効力感を高める
- 行動活性化:出来るようになるためには、どのようにしたらいいか一緒になって考えるコーチング的な関わり方
- 認知的再構成(合理的解釈):ネガティブなものに焦点が当たっているところから、合理的に意味あるように解釈を促す
- ソーシャルスキル訓練(リハーサル):いろいろな可能性や解釈があることを一緒に考え、自分の強みを築き、実際にリハーサルをする
上記のような手順に沿って、解決法を一緒に考え、実行してもらうことが認知行動療法として活用できるかと思います。
2.組織開発への介入
次に、組織開発をポジティブ心理学の視点から介入する AI(Appreciative Inquiry):価値を認める探求、についてご紹介します。こちらは、組織や個人の核となる資源、強みに目を向けて、その強みを最大限に活用しようとするポジティブ心理学に基づくアプローチです。
AIは、価値を認め合うことで、職場の課題を解決・発展させ、労働生産性向上のための対話型の組織開発をさします。個人のものを組織・チームに活用していくという、経営学者の視点から出てきた考え方です。
あるべき姿とのギャップを問題と捉え、阻害要因や問題点に焦点を当てて解決をしていきます。
ポイントとして、下記が重要であり、価値を探求し、問題を乗り越えていくという方法です。
- 「何が問題となっているのか」を問うのではない
- 「私たち(自分)の持っている力や強みは何か」を考える
下記に「AIの4Dサイクル」をご紹介します。
- 発見:過去や現状における成功体験などについて、インタビューを行い、個人や組織が潜在的に持っている強みを見出す
- 夢:組織や個人の持つ長所や内在する可能性をもとに、組織の理想像、ビジョンを描く
- 設計:実現したい理想像やビジョンを共有し、可能性を最大限活かした組織の姿を設計する
- 実行:その理想像の実現に向けてアクションプランを実行し、持続的に取り組む
上記の流れにそって、組織・集団へ働きかけていくアプローチとなります。
次の記事では、「自分の強みを知ってポジティブになる」について具体的にご紹介します。
是非ご覧ください。
▶記事を読む 自分の強みを知ってポジティブになる~ポジティブ心理学の応用
講師
津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)
【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。
2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)