心理的安全性とワークエンゲージメント~生産性の高い組織とは?ポジティブ心理学の活用
職場の健康づくりにおいて、個人あるいは集団に働きかける上で「心理的安全性」「ワークエンゲージメント」の2つの心理的概念が注目されています。心理的安全性の高い組織はなぜ生産性も高いのでしょうか。ポジティブ心理学の知識を元に、理解を深めていきます。
※本記事は2023年3月15日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶②心理的安全性と生産性を高める【ポジティブ心理学勉強会】
【目次】
1.心理的安全性とは~組織やチームが成果を上げるには
2.心理的安全性の要素とは
3.ワークエンゲージメントとは
1.心理的安全性とは~組織やチームが成果を上げるには
組織やチームが成果を上げるにはどうしたらいいでしょうか。
一般的には、意欲的で優秀な人材を集めてチーム作りをすれば成果が上がるといわれますが、実はそうではないという研究結果が出ています。
エドモントソンの「病院における医療ミス」についての調査結果
重要なポイントは、組織の中で意欲的で優秀な人材を揃えたかどうかではありません。チームの成果は、様々な人材で構成されるチームの中に、心理的安全性というものがあるかどうかで違ってくる、という研究結果が報告されています。
病院における医療ミスを調査した際に、有能なチームほどミスをしているという結果になりました。この結果を考察すると、ミスを報告し合う数が多いと捉えました。
有能なチームほど素直に何でも話すことができる風土があり、結果的に、ミスの報告が多くなったといえます。
心理的安全性は、人が安心して自分の考えを言える状態、素直に話せる恐れのない組織風土のある状態です。
心理的安全性を高めることがチームの生産性を向上するという結果から、心理的な要因が重要だということが研究を通してわかります。
心理的安全性がある状態、とは?
なぜ、ミスの報告をし合うことがチームの生産性を高めることになるのでしょうか。
普段日頃からいろんなことを話し合う、ミスも隠さないで自由に報告し合える関係にあるとチームの中で情報が共有できます。そのことで、重大なミスをインシデントで止めておいて、アクシデントまで行かないで済ませることができます。
日頃から困ったことを相談し合い、あるいはうまくいかなかったことを報告することによって、仕事の改善に適用できるということです。そういう雰囲気が、心理的安全性がある、と言えます。
2.心理的安全性の要素とは
心理的安全性の要素は、下記があげられます。
- 信頼性
- 構造と明瞭さ
- 仕事の意味 -仕事のインパクト
これらの要素を、互いにチームの中で共有し理解できていることを、エドモントソンは、「恐れのない組織」と名付け、重要な心理的安全性の概念としています。
リーダーの役割
このような職場の風土を作っていくために、リーダーの役割はとても重要です。
- 上司や仲間と話をする時間を設ける
- 組織の理念・ビジョンをチーム内で共有する
上記のポイントを大切にし、部下や同僚から質問が来なかったり、意見が出ないときは、
リーダーとしての自分の考えや、立場を示しながら発言することによって部下は自由に発言しやすくなります。
また、しっかりあなたのことを見ています、ということが伝わるような質問の仕方をすることも大切です。何かつまずいていることはないか確認し、一緒に改善していけるよう、本人が具体的にイメージできるように伝えましょう。心理的安全性は、リーダーが生み出していくものという意識を組織の中で図っていくことが大切です。
3.ワークエンゲージメントとは
次に、ワークエンゲージメントについてみていきましょう。「仕事に向けられた持続的全般的な感情と認知」ということで、働く人がどういう気持ち、考えで、今の仕事をしているのかということです。
上記はワークエンゲージメント指標となりますが、個々の要因は、それぞれ関係があるということが分かってきました。
そして、ワークエンゲージメントの三要因として、下記があげられます。
- 熱意
- 没頭
- 活力
熱意は、仕事に対しての強い関与、コミットメントです。あるいは仕事することの有意味感や誇りをさします。没頭は、少々マイナスのイメージを持たれることがありますが、仕事への集中をさします。活力は、活き活きとした仕事に対するエネルギー、そし心理的な回復力があることをさします。
これらは、ユトレヒト大学のシャウフェリ(Schaufeli)教授らによって開発されました。
9項目からなる尺度(ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale:UWES)となっています。
日本のワークエンゲージメントは、他の世界各国と比較すると、圧倒的に低いです。
他の国と比べると、働く人は活き活き仕事ができていないという結果になっており、残念な結果となっておりますが、ぜひ皆さんに覚えておいていただきたいです。
そして、心理的安全性と合わせてワークエンゲージメントを高かめるために、ポジティブ心理学のスキルと知識を活用していただければと思います。
次の記事では、「事例から考えるポジティブ心理学介入」について具体的にご紹介します。
是非ご覧ください。
▶記事を読む 事例から考えるポジティブ心理学~個人と組織へアプローチについてご紹介
講師
津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)
【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。
2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)