「健康診断事後措置」チェックリスト/解説記事/手順書
健康診断後の事後措置は、労働者の健康確保や安全配慮を遂行していくうえで、事業者にとって最も基本的な対応のひとつであるといえます。また、産業保健スタッフにとっても、産業保健活動の基本です。ここでは、健康診断の事後措置について詳しくご説明します。
STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。
■健康診断事後措置とは
■医師・歯科医師からの意見聴取
■事後措置の実施
■知っておきたいポイント
■まとめ
■健康診断事後措置とは
▶健康診断事後措置とは
健康診断(一般健診、特殊健診)の結果に、異常所見があると診断された労働者に対して、事業者は、医師/歯科医師の意見を聴取したうえで、健康確保のために必要に応じて適切な措置を講じることが義務付けられており、これを「健康診断の事後措置」といいます。(労働安全衛生法;安衛法66条の5)
事後措置としては、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの業務に関する調整のほか、作業環境測定の実施、施設・設備の設置や整備など、作業環境や作業方法の改善なども含まれます。また、安全衛生委員会等へ報告して必要な調査審議を行うこともあります。
■医師・歯科医師からの意見聴取
▶医師・歯科医師からの意見聴取
医師等(医師/歯科医師)からの意見を聴取する際には、より現場の状況にあった具体的な意見を聞くために、該当の労働者に関する作業環境、作業内容、労働時間、深夜業の回数および時間数、過去の健康診断の結果などに関する情報等を事業者から提供する必要があります。産業医がいる事業場は産業医に、産業医がいない事業場の場合は、地域産業保健センターの登録医等に依頼します。
医師等からの意見聴取は、健康診断実施日から3か月以内に実施する必要があります。自発的健康診断の結果を労働者が提出した場合は、2か月以内に同様に実施する必要があります。
就業区分判定等のかたちで医師等より意見を聴取するのがよいでしょう。
▶就業区分判定
就業上の判定区分には、通常勤務、就業制限、要休業があります。まず、その労働者がどの区分に該当するか医師/歯科医師に判定してもらいます。就業制限・要休業の場合は、さらに、現場で必要な措置の内容について具体的に助言してもらい、その情報を参考に、現場や当該労働者の実情なども考慮した上で、事業者が就業上の措置を決定します。
就業区分判定などの聴取した内容は、個人票に記入し、保管しなければなりません。
▼おすすめのコンテンツ▼
■事後措置の実施
▶事後措置の実施
事業者は、労働者の健康状態や就業区分に応じて、適切な事後措置を行うことが義務付けられています。医師/歯科医師が行うのは、あくまでも意見、勧告であり、事後措置内容の最終決定を行うのは事業者です。 ▶事後措置の具体例
事後措置の例として下記の3つをご紹介します。
・作業内容の変更や、労働時間の短縮
作業時間の変更、作業の転換、深夜業の中止や回数の減少、労働時間の短縮等
・作業環境の改善や設備の整備
作業環境測定の実施、施設・設備の設置または整備等
・衛生委員会へ報告し審議する
医師/歯科医師・歯科医師等の意見を衛生委員会へ報告し審議する(対象の労働者 が特定されないように配慮する)
▶事後措置の実施時の注意点
事後措置の実施後または実施しようとする事後措置内容が決定したら、事業者はその内容に関する情報を産業医に提供しなければなりません。事後措置を実施しないと決定した場合は、その理由等も産業医に伝える必要があります。
事後措置では、その労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、その労働者に不利益(不合理)な取扱いをしてはなりません。
必要に応じて、健康診断結果や事後措置の内容などを安全衛生委員会等に報告し、調査審議を行うことがあります。その際には、個人が特定されないよう、個人情報の保護に配慮する必要があります。
情報の取扱いについては、健康情報取扱規程をご参照ください。
▼法令チェック『健康情報取扱規程』▼
■知っておきたいポイント
▶【補足1】労働者本人が就業上の措置の必要性を理解することが重要
就業上の措置を円滑に実施するためには、労働者本人の理解と受け入れが重要です。
ただ、中には措置の内容や実施に納得しない労働者もいます。産業保健スタッフや事業者は、健康上の理由による就業上の措置や目的等を労働者本人や関係部署にわかりやすく説明することが求められます。
ただし、労働者の健康確保など、安全衛生上のリスク低減を行うことが事後措置の目的ですので、最終的には事業者が事後措置の実施の要否を判断することになります。
▶【補足2】フォローアップと就業制限の見直しの重要性
事後措置として一定の就業制限を設けた場合は、その後のフォローアップが重要になります。一定期間後に、労働者の健康状態や治療状況を確認し、就業制限の変更や、就業制限の解除などの措置を行います。
就業制限を設ける場合は、暫定的な「有効期間」を定めておき、その後、就業制限を解除するか、もしくは健康状態を確認して就業制限の内容を見直すかを、あらかじめ計画しておくことが必要です。有効期間は1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、6ヶ月間、12ヶ月間など、最長でも1年間を目安にすると良いでしょう。
以下の「就業上の配慮に関する意見書」の書式例を参考にしてください。
▼おすすめのコンテンツ▼
▶【補足3】病状の悪化を防ぐための就業上の措置の例
病状の悪化を防ぐための就業上の措置の例としては、以下のようなものがあります。
① 健康上の問題を抱える労働者に対しては、仕事によって病状が悪化しないよう、作業負荷を軽減したり、作業内容を調整したりします。
例えば、重い心不全のある労働者に、身体的に負荷の高い仕事を禁止したり、高血圧のコントロールが非常に悪い労働者に対して、生活リズムを一定に保ちやすくするために深夜勤務を禁止したりする、といったケースがあります。
② 病気によって発作など突然の症状が現れる可能性がある場合、事故や災害を防ぐために特定の業務の制限を行います。
例えば、てんかん発作を起こしやすい労働者に対して、車両の運転業務を禁止したり、糖尿病のコントロール不良者に対して、高所作業や暑熱作業を禁止したりするケースがあります。
▶【補足4】医師・歯科医師等または保健師による保健指導(努力義務)
事業者は一般健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師/歯科医師または保健師による指導(保健指導)を行うように努めなければなりません。
保健指導では、疾病予防や健康増進などを目的として、要治療者に対する指導や受診勧奨、生活習慣に関する指導、作業環境管理や作業管理などに関する指導、ストレスマネジメントに関わる指導などを行います。労働者側も、健康診断の結果や保健指導の機会を利用して、健康の保持増進に努める必要があります。
▶【補足5】整備しておきたい社内規程
事後措置を円滑に進めるためには、産業医等との面談や保健指導、病院の受診などを労働者に指示できるよう、社内規則や就業規則などに、以下のような条項を整備しておくと良いでしょう。
・ 事業者は、健康上の配慮が必要と思われる労働者に対して、産業医・保健師等の面談や保健指導を受けるよう指示することがある。労働者は面談や保健指導を受けなければならない。
・ 事業者は、健康上の配慮が必要と思われる労働者に対して、受診勧奨や受診指示を行うことがある。労働者は指定された医療機関を受診し、受診結果を報告しなければならない。
■まとめ
職場における健康診断の目的は、労働者の健康の確保と、業務に起因する健康障害の防止です。そのためには、健康診断を「やりっぱなし」にするだけでなく、事後措置を確実に実施することが必要です。産業保健スタッフ・事業者・職場・労働者が連携して、事後措置を適切に行うことは、産業保健活動の土台です。法令を遵守し、その目的を事業者や労働者に正しく理解してもらうことが重要です。
一般健康診断は、疾病の早期発見・予防の目的だけでなく、就業の可否や適正配置等の判断を実施するための判断材料となります。その目的を、事業場側だけでなく労働者にも理解してもらうことが大切です。健康診断は、労働者の健康状態を知り、職場の健康づくりをすすめていくための土台となりますので、その機会を最大限活用できるようにしましょう。
▼おすすめ学習コンテンツ▼
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。