「健康情報取扱規程」チェックリスト/解説記事/手順書
2019年4月、働き方改革関連法の施行に伴い労働安全衛生法が改正されました。
改正104条「心身の状態に関する情報の取扱い」という規程が新設されたことにより、事業場には、労働者の健康を管理するために「健康情報取扱規程」を策定することが義務づけられています。
今回は、健康情報の管理について、詳しく見ていきましょう。
以下のSTEPに沿って、健康情報の取扱いの整備にお役立てください!
STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。
▶個人情報と要配慮個人情報
個人情報保護法において、従業員の健康情報は、個人情報の中でもより一層取り扱いに留意が必要な「要配慮個人情報」に分類されています。例えば、健康診断の結果、ストレスチェックの結果、病気や障害に関する情報、病気の治療に関する情報などが含まれます。
【個人情報】
個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもののことをいいます。
〈個人情報の保護に関する法律;個人情報保護法2条1項〉
【要配慮個人情報】
要配慮個人情報とは、上記個人情報のうち、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮を要するものをいいます。
〈個人情報保護法2条3項、同法施行令2条、同法施行規則5条〉
▶健康情報取扱規定の策定<義務>
労働安全衛生法(;安衛法)の改正により、2019年4月より、事業場には、労働者の健康を管理するために「健康情報等取扱規程」を策定することが義務づけされました。
労働安全衛生法第104条 (心身の状態に関する情報の取扱い)
1項
事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
2項
事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。
取扱い規程に定めるべき事項は、指針に基づき、原則として下記9点があげられています。取り扱い規定の策定についての留意点、モデル規定などは、厚労省が発行する「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」に掲載されています。
(1)健康情報等を取り扱う目的及び取扱方法
(2)健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲
(3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得
(4)健康情報等の適正管理の方法
(5)健康情報等の開示、訂正等の方法
(6)健康情報等の第三者提供の方法
(7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
(8)健康情報等の取扱いに関する苦情処理
(9)取扱規程の労働者への周知の方法
▶(1)健康情報等を取り扱う目的および取扱方法
「事業場における労働者の健康情報等の取扱規定を策定するための手引き(厚生労働省)」によると、事業者が健康情報等を取り扱う主な目的は、労働者本人への健康確保措置の実施や事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行です。例えば、健康診断やストレスチェックの結果に応じて、医師による面接指導を行なって、必要な事後措置を実施することや、疾病・傷病のある労働者に対する就業上の措置の検討や実施、治療と仕事の両立支援の実施などが挙げられます。そのほか、事故や災害の防止など、職場の同僚や顧客の安全確保のためにも取り扱われます。
健康情報等の「取扱い」方法としては、以下のようなものが挙げられます。
・収集:健康情報等を入手すること (健康診断結果の収集だけではなく、面談等により入手、記録することも含む)
・保管:入手した健康情報等を保管すること (紙媒体での保管、電子媒体での保存の両者を指す)
・使用:健康情報等を取り扱う権限を有する者が、健康情報等を(閲覧を含めて)活用すること、また第三者に提供すること (紙媒体で入手した健康情報等をデータ化する場合も「使用」に含まれる)
・加工:収集した健康情報等の他者への提供に当たり、当該健康情報等の取扱いの目的の達 成に必要な範囲内で使用されるように変換すること (例えば、健康診断の結果等をそのまま提供するのではなく、所見の有無や検査結果 を踏まえ、医師の意見として置き換えることなど)
・消去:収集、保管、使用、加工した情報を削除するなどして使えないようにすること
▶(2)健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲
①健康情報等を取り扱う者
健康情報等の取扱いを担当する者は、人事権を持つ監督的地位にある者、産業保健スタッフ、管理監督者及び人事部門の事務担当者になります。
それぞれの担当者が扱うことができる(直接閲覧できる)情報の範囲は、衛生委員会等の場で労使関与の下で検討し、事業場の状況に応じて定めることが求められます。
医師や保健師等については、法令で守秘義務が課されていますが、法令により守秘義務を課されていない者が健康情報等を取り扱う場合には、あらかじめ、取扱規程などにおいて、 健康情報等を取り扱う者の守秘義務について取り決めることが望まれます。
ア)人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者:社長、役員、人事部門の長
イ)産業保健業務従事者:産業医(専属・嘱託)、保健師・看護師、衛生管理者、衛生推進者(安全衛生推進者)
ウ)管理監督者:労働者本人の所属長
エ)人事部門の事務担当者:人事部門の長以外の事務担当者
衛生管理者は、手引き上では産業保健スタッフとして、産業医や産業看護職と同等の権限を持った形で記載されています。ただ、衛生管理者は、他の仕事を兼務していることが多く、衛生管理者の役割・権限は会社によって大きく異なります。衛生管理者が、現状どのような役割をもって健康情報に関わっているかを整理して、社内の運用に合わせたルールを作成しましょう。
なお事業者は、健康診断、ストレスチェックの実施や結果の入力・管理等を、外部に委託することも可能です。どの健康情報等を取り扱う者がどこまでの情報を取り扱うことができるのかを明確にした上で、委託先において、健康管理情報等についての安全管理措置を講じるよう委託契約を締結し、確実に実施されるよう、委託先に対する適切な監督を行う必要があります。
②健康情報等の情報の分類
社内で取り扱う健康情報の種類を洗い出し、それぞれについて、「誰が」取り扱うことができるのかを明確にルール化しておく必要があります。まずは、社内で取り扱う健康情報の種類を整理するところから始めましょう。
健康情報等の例
・健康診断の結果(法定の健診項目)
・法定外の検診項目の検査結果(がん検診の結果など)
・医師等から聴取した意見
・医師の意見に基づいて実施した事後措置の内容
・健康診断後に実施した医師との面接の内容や保健指導の内容
・長時間労働者への医師による面接指導の結果
・長時間労働者について医師から聴取した意見
・長時間労働者について講じた事後措置の内容
・ストレスチェックの結果
・ストレスチェックの結果に基づく医師による面接指導の内容
・ストレスチェックの結果について医師から聴取した意見
・ストレスチェックの結果について講じた事後措置の内容
・職場復帰のための面談の結果
・治療と仕事の両立支援等のための医師の意見書
・通院状況等、疾病管理のための情報
・長期休業や職場復帰、治療と就労の両立支援などのため、本人から提出された診断書等
・産業保健業務従事者が労働者の健康管理等を通じて得た情報
・上記のほか、任意に労働者等から提供された本人の病歴、健康に関する情報等
③健康情報等の取り扱い範囲(収集方法から見た時の分類)
社内の健康情報は、その取り扱い方法(収集方法)、大きく以下の3つに分類され、その分類に応じて取り扱い範囲も変わってきます。
心身の状態の情報の性質による分類
④健康情報等を取り扱う者の権限
健康情報等が適切に扱われるよう、健康情報等を取り扱う者とその取り扱う情報の範囲において、それぞれの権限をあらかじめ定めておく必要があります。各事業場においては、個々の事業場の体制や健康情報等を取り扱う目的に応じて設定することが求められます。事業場の運用に合わせて、さらに細かく分類しても構いません。
健康情報種別と取り扱い者、取り扱い方法関係(例示)
▼おすすめ学習コンテンツ▼
▶(3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得
事業者は、健康情報等を収集するに当たり、あらかじめその目的を公表しておくか、 情報を取得した際に、速やかにその利用目的を労働者本人に通知し、又は公表しなければなりません。
取り扱う目的等の通知又は公表方法としては、事業場のイントラネットでの掲載、パンフレットの配布、事業場の担当窓口の備付け、掲示板への掲示等があります。
さらに、健康情報等を取得する場合には、安衛法等の法令に基づく場合や、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき等を除き、その利用目的や取扱い方法等について労働者に周知した上で本人の同意を得る必要があります。なお、事業者が要配慮個人情報を書面又は口頭により、本人から適正に直接取得する場合は、本人が当該情報を提供したことをもって、事業者が当該情報を取得することについて同意があったものと考えることができます。
また、健康情報等については、事業場内でもその取り扱う者が制限されることがあります。取扱規程において明示した者以外にそれらの情報を提示する場合には、原則として、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。
健康情報の収集や開示について本人の同意を得る方法としては以下のようなものがあげられます。
【本人の同意を得ている事例】
・本人からの同意する旨の口頭による意思表示
・本人からの同意する旨の書面(電磁的記録を含む。)の受領
・本人からの同意する旨のメールの受信
・本人による同意する旨の確認欄へのチェック
・本人による同意する旨のホームページ上のボタンのクリック
・本人による同意する旨の音声入力、タッチパネルへのタッチ、ボタンやスイッチ等による入力
▶(4)健康情報等の適正管理の方法
適正管理とは、
①個人情報データを必要な範囲において正確・最新に保ち、
②漏えい、滅失、改ざん等がされないよう、権限を有しない者による該当データへのアクセスを防止する等の取り扱いに関する組織的な体制等の適切な安全管理措置を講じ、
③保存の必要がなくなった情報を消去すること
等を指します。
▶(5)健康情報等の開示、訂正等の方法
健康情報等のうち、「保有個人データ」(健康情報等に関する個人データのうち、事業者に開示、 内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者提供の停止の権限があるもので、6か月以上保有するもの。個人情報保護法2条7項参照。)に関しては、以下の①、②のように、労働者からの開示、訂正等に対応することが求められます。
個人関連情報とは、生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう。「個人に関する情報」とは、ある個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報である。「個人に関する情報」のうち、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものは、個人情報に該当するため、個人関連情報には該当しない。また、統計情報は、特定の個人との対応関係が排斥されている限りにおいては、「個人に関する情報」に該当するものではないため、個人関連情報にも該当しない。
①情報の開示
事業者は、労働者本人から、当該本人が識別される保有個人データの情報の開示請求を受けた際には、本人に対し、遅滞なく、当該保有個人データの書面の交付による方法又は請求を行った者が同意した方法で開示しなければなりません。また、当該本人が識別される情報がないときにはその旨を知らせなければなりません。
②情報の訂正
事業者は、保有個人データの訂正、追加、削除、使用停止(第三者への提供の停止を含みます。以下「訂正等」といいます。)の請求があった場合で、その請求が適正であると認められるときには、これらの措置を講じなければなりません。その際、データを訂正等した者、内容、日時等が分かるように訂正等をしなければなりません。
▶(6)健康情報等の第三者提供の方法
<健康情報等を第三者に提供する場合>
事業者は、安衛法等の法令に基づく場合や、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき等を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供することはできません。
なお、以下の場合において当該個人データの提供を受ける者は第三者に該当しないため、事業者は本人の同意を得ずに個人データの提供を行うことが可能です。
提供先が第三者に該当しない例
・健診結果等の入力、編集分析等を委託して実施する場合
・事業者と健康保険組合等とが共同で健康診断や保健指導等を実施する場合
※ただし、あらかじめ、共同利用する旨、共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的、 管理責任者の氏名等について本人に通知されている場合
・同一事業場内で情報を共有する場合
・合併そのほかの事由により事業の承継に伴って情報を提供する場合等
事業者は、個人データを第三者に提供したときは、以下の事項について、文書、電磁的記録等を用いて記録を作成し、その記録を保存する必要があります(ただし、法令に基づく場合、人の生命、 身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき等の場合を除く)。
・本人の同意を得ている旨
・第三者の氏名又は名称、その他の当該第三者を特定できる事項
・個人データによって識別される本人の氏名その他の当該本人を特定できる事項
・個人データの項目
作成した記録の保存期間は、その作成方法によって異なることに留意が必要です。
・契約書等の代替手段による方法により記録を作成した場合:最後に当該記録に係る個人データの提供を行った日から起算して1年を経過する日までの間
・一括して記録を作成する方法により記録を作成した場合:最後に当該記録に係る個人データの提供を行った日から起算して3年を経過する日までの間
・上記以外の場合:3年
▶(7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
事業者は、合併、分社化、事業譲渡等により他の事業者から事業を承継することに伴って健康情報を取得する場合、安全管理措置を講じた上で、適正な管理の下、情報を引き継ぐ必要があります。
▶(8)健康情報等の取扱いに関する苦情処理
事業者は、健康情報等の取扱いに関して、労働者からの苦情に適切かつ迅速に対処するよう努める必要があります。
苦情処理窓口や苦情処理の手順をあらかじめ定める等、苦情処理に必要な体制を整えるとともに、苦情を受け付ける窓口の連絡先や手続等について労働者に広く周知する必要があります。
苦情処理窓口には、健康情報等に係る苦情に適切に対応するため、必要に応じて産業保健スタッフと連携を図ることができる体制を整備しておくことが望まれます。
▶(9)取扱規程の労働者への周知の方法
取扱規程は就業規則やその他の社内規程等により定めるとともに、その内容は労働者へ広く周知し、関係者において適正に運用されるようにする必要があります。
事業場の状況に応じて、取扱規程の内容について労働者に認識される合理的かつ適切な方法により周知する 必要があります。
取扱規程の労働者への周知方法の例
・常時作業場の見やすい場所に掲示する又は備え付ける
・社内メールやイントラネットに掲載する
・パンフレット・冊子として労働者に配布する
・社内研修を通じて周知する
▶取扱い禁止の健康情報
「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」には、以下のような記載があります。
HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝性疾病に関する情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は、労働者等から取得すべきでない。ただし、労働者の求めに応じて、これらの疾病等の治療等のため就業上の配慮を行う必要がある場合については、当該就業上の配慮に必要な情報に限って、事業者が労働者から取得することは考えられる。
事業者は、健康情報を取り扱うに当たっては、利用目的をできる限り具体的に特定しなければならない。また、原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、健康情報を取り扱ってはならない。
事業者は、健康情報のうち診断名、検査値、具体的な愁訴の内容等の加工前の情報や詳細な医学的情報の取扱いについては、その利用に当たって医学的知識に基づく加工・判断等を要することがあることから、産業保健業務従事者に行わせることが望ましい。
不必要な健康上の取得は、人事的に不利益な取り扱いや差別に繋がる懸念があります。事業者は、健康情報が労働者の健康確保に必要な範囲内で利用されるよう、必要に応じて、産業保健スタッフに健康情報を適切に加工させる措置を講ずることが必要です。
まとめ
事業者は、労働安全衛生法に関連して、労働者の様々な種類の健康情報等を保有しています。また、就業規則等による診断書、面談、復職のプロセスにおける健康情報、がん検診や社内診療における健康情報など、労働安全衛生関連法の定めのない健康情報も取り扱うことがあります。これらの取扱いについては、目的に沿った適切な取扱いが求められるとともに、健康情報等の保護の観点から適正管理が必要です。労働者が不安を抱くことなく、安心して自身の健康に関する情報を事業者へ提供できる環境を整備することが求められています。
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示まだ作れていない会社なので、なんとか体制整備したいです。
手順書、ありがとうございます。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示