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「特殊健康診断」チェックリスト/解説記事/手順書

特殊健康診断とは、健康に有害な業務に従事する労働者が、その仕事が原因で健康に問題が生じていないかをチェックするために行う健康診断です。特殊健康診断は、労働安全衛生法に基づき行われるもので、事業者に実施が義務付けられています。
特殊健康診断は、原則としては、作業開始時(雇入時や配置転換時)、作業を行っている間は定期的に実施されます。また、従事させなくなった後も、退職するまで継続的に特殊健康診断を実施するものもあります。
今回は、特殊健康診断について詳しく説明していきます。


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化


※チェックリストはExcel形式でダウンロードしてご活用いただけます。



STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック


それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。

■特殊健康診断とは
■特殊健康診断の種類と費用負担等
■特殊健康診断と一般健康診断の違い
■特殊健康診断の実施の流れ
■まとめ


■特殊健康診断とは


特殊健康診断とは、健康に有害な業務に従事する労働者に、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断のことです。

特殊健康診断の目的
特殊健康診断の目的は、下記の3つの目的で実施されます。
① 職業性疾患を早期発見して早期治療に結び付けること
② 有害要因へのばく露の程度を評価し、健康障害リスクを低減させるために作業環境や作業方法の改善に活かすこと
③  個別の労働者について、就業場所の変更、作業の転換、労働時間等の短縮を講ずること



■特殊健康診断の種類と費用負担等


特殊健康診断は、法令に基づくものと、行政指導によるもの、そして事業者が自主的に行うもの があります。なお、特殊健康診断の費用は事業者が負担します。また、受診に要する時間は労働時間として取り扱い、時間外に行われた場合には割増賃金を支払わなければなりません。

①法令に基づく特殊健康診断表1:法令に基づく特殊健康診断
法令に基づく特殊健康診断
[参考:産業保健ハンドブック 改定21版]


②行政指導による特殊健康診断(指導推奨)行政指導による特殊健康診断とは、安衛法により定められた健康診断の他に、特定の物質を扱ったり、特定の業務に就いたりする場合に、行政からの通達により指導勧奨されている健康診断をいいます。主な健康診断に「腰痛健康診断」、「騒音健康診断」、「情報機器作業健康診断」など、現在は28種類の業務が対象となっています。

■腰痛健康診断
■情報機器作業健康診断
■騒音健康診断

参考1:リスクアセスメント健康診断リスクアセスメント健康診断とは、事業者による自律的な化学物質管理の一環として、 リスクアセスメントの結果などに基づき、健康障害発生リスクが高いと判断された労働者に対して、事業者の判断で実施するものです。健康診断の要否・健康診断の対象者・健康診断項目・健康診断の頻度なども、それぞれの事業者が、医師の意見を参考にして、自ら判断・決定する必要があります。





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参考2:健康管理手帳による健康診断(退職後)がんなど重度の健康障害を生じるおそれのある業務に従事した労働者は、その業務の離職時(または離職後)に、本人の申請により、健康管理手帳を受け取ることができます。(安衛法67条の1項、労働安全衛生規則;安衛則53条の2項)。現在は、石綿、粉塵、ベリリウムなどの業務が対象となっています。手帳の発行には、本人が都道府県の労働局へ申請することが必要です。
申請にあたって事業者は、対象業務に申請者が従事していたことを証明する「事業者証明書」への記載を行います。健康管理手帳を持っている人は、特殊健康診断に準じた国による健康診断を無料で受けることができます(安衛法67条の2項)



■特殊健康診断と一般健康診断の違い


特殊健康診断は、健康に有害な影響のある特定の業務に従事している労働者 が対象となります。これに対し、一般健康診断はすべての労働者が実施対象です。また、実施する目的もそれぞれ異なります。
特殊健康診断と一般健康診断の違い挿入図

特殊健康診断の実施時期特殊健康診断は、①雇入れ時または配置換え時、②業務に従事している間は定期的(通常は6か月ごとに1回)に実施すること が基本です(業務によって差があります)。
有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理やばく露暴対策等が適切に実施されている場合には、事業者は、その実施頻度を1年以内ごとに1回に緩和できます。また、業務内容によっては、業務を離れた後でも障害が進展したり、新たな健康影響が表れたりすることがある ため、その業務を行わなくなった後も長期にわたり健康診断をする必要があります。

雇入れ時または配置換え時の特殊健康診断の目的雇入れ時または配置換え時の特殊健康診断は、①もともと持っていた疾病や体質が業務によって悪化することのないよう健康管理上の職務適性の判断を行うこと、将来健康障害が発見された際に、業務による影響の有無を見極めるために、②作業を開始する前の健康状態を記録することを目的としています。

特殊健康診断における健診項目特殊健康診断の実施においては、医学的な診察や検査を行うだけでなく、労働者毎のばく露情報を把握する ことも重要です。
健康診断の実施において、業務歴の調査、作業条件・作業状況の調査、生物学的モニタリングや個人暴露測定、作業環境測定の結果などを把握しておきましょう。
特殊健康診断の検査項目は、その作業の種類ごとに、健康影響の有無を把握できる診察項目・検査項目などが法令によって定められています。また、特殊健康診断の中には、すべての対象者に実施する一次健康診断と、その結果に基づき、より詳細な検査を行う二次健康診断の2段構えになっているものもあります(例:特定化学物質の健康診断、石綿の健康診断など)。法令による二次健康診断については、事業者に実施義務があり、事業者がその費用を負担します。健康診断の受診に必要な時間も就業扱いとしなければいけません。

作業条件の簡易な調査労働安全衛生規則等の一部の改正が施行され、一次健康診断において「作業条件の簡易な調査」を行うことが追加されました。作業条件の簡易な検査とは、作業時間や作業日数、作業工程や取扱量の変化、局所排気装置や保護具の着用の有無などについて、労働者のばく露状況の概要を確認するものです。

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■特殊健康診断の実施の流れ


特殊健康診断も、一般健康診断と同じく、①対象者・対象業務の選定、②健康診断の実施、③健康診断結果の労働者への通知、④結果の判定と事後措置、⑤労基署への実施報告、⑥検査結果の保管の手順で実施します。

①対象者・対象業務の選定特殊健康診断の対象者・対象業務はそれぞれの法令に記載があります。それぞれの職場の作業状況を調査した上で、特殊健康診断の対象とするかどうかを事業場で判断する必要があります。作業の状況については、安全管理者、衛生管理者、化学物質管理者、現場の管理監督者、作業主任者などと連携して調査を行い、その結果に基づいて健康診断の対象者を選定します。
特化則・有機則などでは、特殊健康診断を実施する必要があるかどうかを判断する際、「常時従事する場合」という表現が使われています。しかし、この「常時従事する」という言葉の具体的な基準は明確に定められていません。そのため、どのような状況が「常時従事する」に該当するかは、事業場で判断する必要があります。判断に迷うときには、取り扱う物質、取扱方法、作業の頻度、作業環境、労働者の暴露の程度などの情報をもとに、労働基準監督署に問い合わせて相談をするとよいでしょう。
なお、派遣社員についても、派遣先で実施している作業に関する特殊健康診断は派遣先で実施することとされています
 
②健康診断の実施特殊健康診断は、一般的には、外部の医療機関・健診機関に外部委託して行われます。委託する際には、価格や項目だけでなく、個人情報の取扱い、役割分担についても取り決めすることが重要です。
特殊健康診断の実施は、該当の化学物質を取り使う作業時間を考慮して実施する検査項目も含まれているため、適切なタイミングで健康診断を受診できるよう調整が必要です(例:有機溶剤の尿検査は、作業終了時に採尿しないと正しく測定できないため、月曜日から金曜日までの9時から17時まで該当作業を行っている場合は、木曜日または金曜日の15〜17時ごろに採尿する)。
 
③健康診断結果の労働者への通知事業者は、健康診断の結果を受領後、遅滞なく本人に健康診断の結果を通知することが義務付けられています。(安衛法66の6、安衛則51の4)。事業者は労働者が自ら健康状態を把握し、自主的に健康管理が行えるよう、健康診断を受けた労働者に対し、異常の有無にかかわらず、遅滞なくその結果を通知しなければなりません。
 
④結果の判定と事後措置特殊健康診断の医師による判定も、一般健康診断と同じく、表2に示すように「就労可」「就業制限が必要」「要休業」の三種類に分かれます。

表2:特殊健康診断の判定区分の例表2特殊健康診断の判定区分の例
また、さらに細かく表3のような分類法を用いることもあります。就業制限や休業が必要と判定された場合には、医師や産業医の意見を入手した上で、事業者は、就業制限等の措置を行います。

表3:特殊健康診断のより詳細な判定区分の例表3特殊健康診断のより詳細な判定区分の例
[参考:産業保健ハンドブック 改定21版]

また、粉じん作業の特殊健康診断(じん肺健康診断)の結果については、所見がある労働者の結果と胸部X線写真を都道府県の労働局に送付し、結果の判定(じん肺管理区分の決定)を受ける必要があることに注意してください。

※暴露防止策・健康障害の防止対策の検討・実施
特殊健康診断において、異常所見が見られた場合には、作業環境や作業状況の確認、暴露防止対策の検討や労働衛生教育の実施等が必要となることがあります。特殊健康診断の所見の有無などを、衛生管理者・化学物質管理者・安全管理者などに共有し、該当する職場の作業環境測定の結果などを確認し、作業状況や作業環境の調査を行った上で、労働者の健康障害を防ぐための対策を検討しましょう。事業場の安全衛生委員会への報告・審議も必要です。
 
⑤労働基準監督署への報告法定の特殊健康診断(有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質、高気圧作業、電離放射線、除染等電離放射線、石綿およびじん肺)を実施した事業者は、これらの規則にそれぞれに定められた様式の報告書を労働基準監督署に提出しなければなりません(義務)。
定期健康診断、特定業務従事者の健康診断については、労基署に報告書を提出する必要があるのは「常時50人以上の労働者を使用する事業者」のみですが、特殊健康診断については、事業場の人数に関わらず報告が必要です。
また、指導勧奨による健康診断を実施した場合も、定められた様式の報告書を提出する必要があります(努力義務)。

⑥結果の保管健康診断結果の記録については、安衛法66条3項にて、事業場に義務付けられています。
特殊健康診断の記録の保管については、健康診断の種類ごとに5~40年保存する義務があります。
表4:特殊健康診断の法定の保存期間表4特殊健康診断の法定の保存期間
また、派遣社員の特殊健康診断結果については、事業場内で保管するほか、派遣元にも1部送付する必要があります。


■まとめ


有害業務管理は、法令の内容や事業場内のルールをきちんと理解した上で、それぞれの現場の作業状況を正確に把握し、実施することが求められます。さらに、2023年より、化学物質の自律的管理が段階的に進められ、事業者の責任で実施する項目が大幅に増えていくため、それぞれの事業場内できちんとした管理体制を構築することがさらに重要になってきます。健康と労働のバランスを保ち、安全な労働環境を提供することが求められています。


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STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。

特殊健康診断手順書

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