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仕事と介護の両立で陥りやすい健康リスクと産業保健スタッフの役割

現在の日本では、仕事をしながら家族の介護を担う人、いわゆるビジネスケアラーが約365万人に上り、就業者の約20人に1人に相当します。(2022年時点、総務省「就業構造基本調査」ベースの推計)。また、ビジネスケアラーの約4割が悩みやストレスを抱え、体調が悪化しているといいます。

図2:介護による体調悪化がある割合ー男女別ー/図3:介護による体調悪化がある割合ー深夜介護有無別ー
※出典:仕事と介護の両立支援の新たな課題 ―介護疲労への対応を―(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

表面的には仕事を継続できているように見えても、実際にはさまざまな不調が蓄積されている可能性があるため、仕事と介護の両立のためには、企業側の理解と、実情に応じた支援体制の整備が重要です。本記事では、ビジネスケアラーの健康課題や産業保健スタッフが行える具体的な支援を解説していきます。


<目次>

1.介護と仕事の両立で起こりやすい心身の不調
2.メンタル面のリスク(うつ・不安・孤独感)
3.身体面のリスク(睡眠不足、生活習慣病)
4.健康診断・面談で早期発見する方法
5.産業保健スタッフができるサポートと連携体制
6.まとめ


1.介護と仕事の両立で起こりやすい心身の不調

■見落としやすい心身の不調

仕事と介護による心身の不調は、企業側からは把握しにくい特徴があります。介護は予期せず始まり長期化しやすいため、労働者は慢性的な疲労と精神的負荷の両方を抱えることになります。

また、勤務時間外の介護活動は企業からは把握しにくく、本人が通常どおり勤務しているように見えても、睡眠不足や精神的ストレス、将来への不安などが複合的に作用し、労働者の心身に深刻な負担が生じている可能性があります。

■職場での孤立感と相談への躊躇

介護の問題は、「いつまで続くかわからない」「会社に迷惑をかけたくない」などといった不安感を抱え、相談すること自体を躊躇してしまいます。また、介護休暇制度・介護休業制度といった両立支援制度の存在を知っていても、具体的な利用方法が分からず、適切な制度利用が進まないことがあります。これらの結果、従業員が1人で問題を抱え込んでしまうと、職場での介護ストレスが高まり、孤立を深めます。

■複合的なストレス要因

介護と仕事の両立の場面では、複数のストレス要因が同時に現れます。深夜の介護対応による睡眠不足、介護動作による身体的負担、不規則な生活リズムによる体調管理の困難さが挙げられます。精神的には、介護者が自分で抱え込みすぎる傾向から生じる孤独感、要介護者の認知症症状への対応ストレスなどがあります。さらに、長期介護による経済的な不安が加わることで精神的・肉体的負担はさらに増大し、より深刻な状態に陥る可能性があります。介護者は休息を確保することが難しく、罪悪感から息抜きすることができず、心身の不調が悪循環に陥りやすくなります。


2.メンタル面のリスク(うつ・不安・孤独感)

仕事と介護の両立は、労働者の精神面に深刻な影響を及ぼします。長期間にわたる負担と職場での相談しにくさが重なることで、様々なメンタルヘルス上のリスクが生じます。

■「介護うつ」のリスク

介護者が一人で介護の課題を抱え込み、介護のことばかり考えている時間が増えるほど疲労が蓄積します。その結果、食欲不振や睡眠障害など「介護うつ」状態になる可能性が高くなります。特に要介護者に認知症の症状がみられる場合、予測困難な行動への対応、コミュニケーションの困難さから不安が重なり、気力が失われる状態に陥ることもあります。仕事と介護の両立ができず介護のために離職を選択したとしても、経済的な不安が加わることで精神的・身体的な負担はさらに増してしまい、精神的に追い込まれるリスクがあります。そのため離職自体は、問題の根本的解決にならない場合が多いです。

介護うつの原因や事業所ができる対策について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください👇
記事:仕事と介護の両立が生む「介護うつ」 とは?職場での支援策と事業所ができる3つの対策

■慢性的な不安と疲労感

勤務時間外の介護に伴う疲労は、企業が気づかないところで蓄積され、活力が低下していきます。また、深夜の介護対応が必要な場合、十分な睡眠時間を確保できず、慢性的な疲労状態に陥ります。介護疲労の蓄積による影響は、「仕事の効率低下」という形で現れ、職場での評価への不安も増し、さらなるストレスの原因となる悪循環が生まれます。また、介護がいつまで続くか予測できないことから、キャリア形成、経済面、家族関係など、将来に対する漠然とした不安が持続的に存在し、精神的に不安定になることがあります。

■職場での孤独感

介護はキャリアへの影響を恐れ、社員が職場に言い出しにくい場合が多く、「職場に迷惑をかけたくない」という後ろめたさから、相談すること自体を躊躇してしまいます。そのため、自分で頑張って介護をしようとする人ほど孤独感が強くなり、問題を一人で抱え込む状況に陥りやすくなります。また、介護の実態や負担について、職場の同僚や上司から理解を得ることが困難な場合が多く、さらに孤独感が深まります。

これらのリスクの特徴は相互に関連し合い、一つの問題が他の問題を悪化させる悪循環を生み出しやすいことです。企業には、従業員がこうした状態に陥る前の予防的な支援と、問題が表面化した際の迅速な対応が求められます。


3.身体面のリスク(睡眠不足、生活習慣病)

仕事と介護の両立で生じる身体的な不調は徐々に進行し、気づいたときには仕事のパフォーマンスや日常生活全体に大きな影響を及ぼしていることがあります。働きながら介護する人の健康課題として、職場からは見えにくい一方で、放置すると慢性化しやすい重要な問題です。

■睡眠不足とそれによる仕事への影響

夜間の見守り、不規則な生活リズムの家族への付き添いなどが続くと、夜中や早朝に起きる時間が増え、十分な睡眠時間を確保できなくなります。その結果、日中の強い眠気、注意力散漫などが生じ、会議や作業中での判断ミス・提出遅延・単純なエラーが増加します。この状態が長期化すると体内時計が乱れ、休息を取っても回復せず、疲労感が常に残る状態になります。睡眠に関する問題は、介護と仕事の両立における健康リスクの中心的な要因です。

■介護疲労の蓄積と慢性的な体調悪化

介護はいつ始まるか、いつまで続くかが予測できません。毎日の移動の手助け、着替えの介助、トイレの付き添いなど、さまざまな作業が毎日続きます。その結果、介護者の身体に大きな負担が伴い、腰痛・肩こり・足の痛みなどの症状が現れます。また、栄養バランスの乱れ、胃もたれ・腹部不快などの消化器症状なども現れ、徐々に体調が悪化していきます。これらは勤務時間を調整するだけでは解決できず、仕事以外の時間で進行する疲労として蓄積していきます。

■ストレスによる生活習慣病の悪化

慢性的なストレスと不規則な生活は、自律神経のバランスを崩し、血圧上昇、血糖コントロール悪化、コレステロール値異常などを引き起こします。食事は「早食い・偏食・深夜の食事」に傾きがちで、間食や甘いもの、塩分の多い食べ物、アルコールの摂取量が増える一方、運動量は減少します。その結果、痛風やメタボリックシンドローム、脂肪肝など、既往症の再発や増悪が起きやすくなります。また、長時間の在宅介護とデスクワークが重なると、坐位・前傾姿勢が常態化し、首・肩・腰の筋肉や骨格の痛み、眼精疲労、緊張型頭痛が慢性化します。


4.健康診断・面談で早期発見する方法

産業保健スタッフは、社員の健康相談や定期健康診断、健康診断後の保健指導など、様々な場面で社員と面談する機会があります。そうした機会を活用することで、介護による不調が起きていないかという視点を持つことがとても重要です。

産業医や産業保健専門職との面談は、従業員の心身の状態を直接把握する最も重要な機会です。まず、従業員が「健康的な生活ができているか」という観点から、介護の状況、仕事の状況、健康状態などを確認します。また、気力の低下や睡眠、休息の状況、業務のパフォーマンスなどにも注意して聞き取りを行います。
一方で、健康診断で得られる体重、血圧、血糖値、脂質といった客観的データも多角的に変化をとらえる重要な数値です。介護ストレスや不規則な生活は食生活の乱れや運動不足に直結しやすく、数値の悪化として現れることが少なくありません。さらに、ストレスチェックの結果なども参考になります。

面談や健康診断で確認する項目を以下の表にまとめています。

表1:【面談で確認する項目】

表1:

表2:【健康診断で確認する項目】

表2:健康診断で確認する項目


5.産業保健スタッフができるサポートと連携体制

■早期発見のための仕組みづくり

産業保健スタッフは、健康診断後の保健指導や健康相談、面談の場面では必ず介護の状況を確認するなど、「介護と仕事の両立の視点」を組み込んだ標準的なチェック体制を整備し、問題の早期発見に努めます。面談で得た情報を共有する際には、必ず事前に本人の同意を得た上で、必要最小限の範囲(人事部門、直属の上司など)に限定します。

また、衛生管理者や産業看護職が面談を実施した際には、従業員との面談結果は本人の同意を前提として、必要に応じて産業医に共有し、病院の受診の要否、就業上の措置の要否、フォローアップの方法などについて、必要な助言を得るようにしましょう。特に、勤怠の悪化や重度の不眠、急激な体重減少などは、緊急度が高い問題として報告・相談できる体制があるとよいでしょう。

■働き方の調整と制度活用のサポート

事業者(人事労務担当者)は、産業医の意見を踏まえ、本人の同意のもと、人事部門や上司と連携して、本人の健康状態を考慮した働き方の調整を支援します。就業規則や制度の範囲内で、在宅勤務、時差出勤、短時間勤務等を組み合わせて、介護負担を軽減しながら仕事のパフォーマンスも維持できる方法を検討します。

■セルフケア支援と職場環境の整備

質の良い睡眠の工夫、短時間の休憩の取り方、栄養面のコツなどといった、具体的なセルフケアの方法を、オンライン指導や配布資料で紹介し、フォロー面談で実践状況を確認します。職場環境の整備では、ハラスメントの防止、プライバシーへの配慮、公平な運用を軸とした環境づくりを進めます。業務の分担や業務内容の見える化を通じて、在宅勤務者と職場勤務者の間の不公平感を軽減します。管理職向けの研修では、両立支援の基本的な考え方と、評価における偏見を避ける方法を周知します。

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6.まとめ

仕事と介護の両立の破綻は突然起こるのではなく、見えにくい疲労の蓄積と、相談・制度活用の遅れが絡み合って進行します。企業に求められるのは、制度を並べるだけでなく、「両立の質」に継続的に目を配ることです。産業保健スタッフが定期面談や健康チェックを行い、勤務パターンや業務量の調整、外部資源の活用につなげていくことが重要な鍵になります。

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■参考


1)仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集|厚生労働省
2)仕事と介護 両立のポイントーあなたが介護離職しないためにー|厚生労働省


■執筆/監修


<執筆> あけの55(看護師、保健師)

看護大学卒業後、大学病院循環器内科・心臓血管外科で6年間従事。心不全療養指導士を取得。その後訪問看護ステーションに転職し、現在は看護主任として勤務。急性期から慢性期、在宅医療までの幅広い経験を活かし、Webライターとしても活動中。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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