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仕事と介護の両立が生む「介護うつ」 とは?職場での支援策と事業所ができる3つの対策

近年の日本では、少子高齢化が問題となっています。それにともない、要介護者をサポートする人が必要不可欠になりました。実際に、厚生労働省の調査によると、5割弱の要介護者は同居の身内が介護をしているというデータが示されています。

介護生活に入ると、なかなか心と体の疲れが抜けないものです。そのため、仕事と介護の両立に悩む労働者も数多くいることでしょう。この記事では、仕事と介護の両立から生じる「介護うつ」について解説します。


<目次>

1.介護うつとはどういうもの?
2.介護うつの原因とは
3.介護離職防止のために事業所ができる3つのこと
4.まとめ


1.介護うつとはどういうもの?

介護うつとは、介護が原因で介護者がうつ症状を発症してしまう状態のことを言います。介護うつになると、

  • 食欲不振
  • 倦怠感
  • 疲労感
  • 焦燥感
  • 睡眠障害
  • 思考障害

などの症状が表れ、日常生活に支障をきたすようになります。

このような状態が続くと、介護者の生活自体も円滑に送れなくなるケースが多いため、早めの対処が重要なのです。


2.介護うつの原因とは

介護うつには、さまざまな原因が複雑に絡み合っています。介護うつに陥ってしまう原因としては、主に以下のような問題が考えられます。

■介護ストレスの影響

日常生活と並行して行う介護は、介護者にとって精神的な負担が非常に大きくのしかかります。いつまで介護生活を続ければ良いのか分からない不安感を抱えることは多いでしょうし、感謝や労いの言葉をかけられる機会も少なく、介護者は生活の中で虚しさを感じるようになりがちです。

また、要介護者がどんなに体格が小さくても、入浴介助やトイレ介助などをする場合は、体力も消耗してしまいます。その結果、身体的な疲労も溜まってきます。

さらに、介護が長期化すると、経済的な負担も大きくなります。さまざまな介護サービスを利用するためには、ある程度の経済的な余裕も必要になるでしょう。いずれにしろ、すべての介護を一人で背負うとなると、他人に頼りにくい状態になり、介護者のストレスを増幅させてしまうのです。

■仕事と介護の両立によるもの

介護は、トイレや入浴のサポートだけでもまとまった時間が必要になることが多いものです。そのため、介護者が仕事をしていると時間を確保するのが難しく、介護に手がまわらない状態が生じやすいでしょう。

特に、不規則なシフトや夜勤などの交代制の勤務をしていたり、事業所が自宅から遠かったりするケースでは仕事に手が取られ、介護との両立が難しくなってしまいます。

また、職場に迷惑がかかるのを懸念して、自分が介護をしていることを事業所に伝えない労働者もいます。その結果、残業や出張、重要プロジェクトのリーダーを任されるなど、介護との両立が限界になりやすい環境に陥る可能性も高いです。

このように、仕事と介護の両立に悩み、介護うつになるケースもあります。


3.介護離職防止のために事業所ができる3つのこと

介護は長期化することが予想されるので、本当は働き続けたいと思っていても、介護を理由に離職する労働者も多く存在します。そのような労働者が増えないよう、事業所は介護離職防止の支援をすることが大切です。

特に、育児・介護休業法の改正によって、2025年4月より介護離職防止のための雇用環境整備等の措置が事業主の義務となります。そのため、今後はさらに積極的にこの問題に取り組む必要があります。

法改正のポイントを知りたい方はこちら👇
改正「育児・介護休業法」で変わる企業実務 :迫りくる介護問題への備え

①介護うつを始めとした知識を増やす

「介護うつ」という言葉は、実際に介護をしている人あるいは身近に介護をしている人がいる場合は聞き慣れた言葉ですが、実際には介護うつがどのようなものなのか分からない人も少なくありません。つまり、実際に介護と仕事を両立している労働者が、どのような環境やサポートを必要としているかが理解できないケースがあるのです。

そのため、事業所は社員研修やセミナーなどを定期的に行い、労働者に介護うつの症状や対処法の知識を持ってもらうように努める必要があります。これは、介護をしている労働者自身にも、自分が置かれている状況が介護うつに繋がる可能性があることを自覚する機会として捉えてもらう目的も備えています。また、同じ職場で働く仲間全体に介護うつについての知識を広め、協力できる体制を整えていくことにも役立ちます。

なお、介護うつ以外にも、介護が始まるとさまざまな問題が生じます。要介護者の介護度にもよりますが、介護用品の購入や医療・福祉サービスの利用など経済的な負担も重なるでしょう。そのため、事業所は介護保険サービスの具体的な内容と利用方法を伝える必要もあります。さらに、事業所内で労働者が利用できる介護に関する制度や相談窓口を事前に案内する取り組みを行うのも効果的です。

他にも、家族の介護リスクが高まる40〜50代の労働者に対して、将来の介護に向けた準備のポイントを紹介する点も大切になります。介護は突然やってくることが多いため、労働者へ介護に関する予防知識を提供すると、より安心して介護に向き合えるようになるでしょう。

介護に関する法律やお金、相談先について知りたい方はこちら👇
介護と仕事を両立させるために知っておくべきこと

②介護休業取得や介護保険サービスの利用を個別に伝える

介護で離職する労働者が増えると、事業所の人材の即戦力の低下に繋がります。その結果、未来の事業所の存続の危機に陥る可能性も高いでしょう。そのため、できるだけ労働者の離職を防ぐ必要があります。

事業所は介護を労働者個人の問題と捉えるのではなく、一緒に考え、解決する姿勢を持つことが大切です。たとえば、2週間以上の長期にわたって、家族の介護をするための休暇である「介護休業」の取得を勧めるのも、1つの方法でしょう。介護休業以外でも、短時間勤務や時間外労働の制限などの提案をすることも可能です。

また、家族の介護をしているけれど、介護保険を申請していないため適切なサービスを受けていない労働者がいるケースもあります。そのような場合は、労働者の介護の負担を少しでも減らせるように産業保健師などが介護保険申請の方法を教えたり、地域の介護保険サービスの利用を紹介したりすると良いでしょう。

③労働者が気軽に相談できる窓口を作る

介護に関するセミナーや情報提供、介護休業取得などの案内を行っても、同じ職場で働いている上司や同僚などに迷惑をかけたくないという思いが強く、自分の介護問題についてはなかなか口にしない労働者もいます。また、介護はプライベートな側面も強く、周りの目が気になり相談しづらいと感じてしまう労働者もいるでしょう。

労働者が気兼ねなく悩みを打ち明けられるように、事業所は介護に関する相談窓口を設置することをおすすめします。専門の窓口があれば、介護で困っている問題を打ち明けてくれる労働者も増えるかもしれません。

しかし、社内の窓口への相談はプライバシーの問題が気になり、足を運びにくい労働者もいることを事業所は想定する必要があります。このような労働者にも配慮して、事業所は社内だけではなく地域の医療機関などと連携し、社外の相談窓口を設けるなどの工夫をするとより良いでしょう。

職場とはまったく異なる場所ならば、一緒に働く仲間や事業所などに遠慮しなくても良いという安心感があるため、労働者からの生の声を聞きやすくなります。


4.まとめ

労働者の介護うつは、労働者個人だけの問題ではありません。介護うつを放置すると、介護離職に繋がり、それは結果的に事業所の存続にも関わる大きな問題になります。介護離職を防ぐためには、労働者が何に困っていて、どのような環境ならば無理せず働き続けられるのかを事業所も把握する必要があります。

そのうえで、介護休業取得や時短勤務、介護に関するサービスなどの紹介をして、できるだけ安心した環境で労働者が働けるように支援することが大切です。産業保健師や人事担当者の人は、ぜひ現場でのサポートの参考にしてみてください。

■参考

1)2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
2)介護休業制度|厚生労働省
3)介護休業について|厚生労働省
4)短時間勤務等の措置について|厚生労働省
5)時間外労働の制限について|厚生労働省
6)仕事と介護 両立のポイントーあなたが介護離職しないためにー|厚生労働省


■執筆/監修


<執筆>久木田 みすづ (精神保健福祉士、社会福祉士、心理カウンセラー)

福祉系大学卒業後、カウンセリングセンターの勤務を経て、心療内科クリニック・精神科病院で精神保健福祉士・カウンセラーとして従事。うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんと家族に対する相談や支援に力を入れる。
現在は、主にメンタルヘルスの記事を執筆するライターとして活動中。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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