メンタルヘルス対策にも役立つ『ワーク・エンゲイジメント』向上のための施策とは
ワーク・エンゲイジメントという言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。
2024年の健康経営優良法人の認定調査票(大規模)において、業務パフォーマンス指標の開示について追加されるなど、ワーク・エンゲイジメントについて非常に注目が高まっています。
また、ワーク・エンゲイジメントはメンタルヘルスとも関連することが知られており、ワーク・エンゲイジメントを高めることは、健康経営をはじめ、職場の健康づくりを進めていく上で効果的といえます。
この記事は、産業保健スタッフとして知っておきたいワーク・エンゲイジメントの基本的な知識と向上のための具体的な施策をご紹介します。
目次
1.ワーク・エンゲイジメントとは
2.ワーク・エンゲイジメントを高めるメリット
3.ワーク・エンゲイジメントを高めるために効果的な施策とは
4.まとめ
1 ワーク・エンゲイジメントとは
ワーク・エンゲイジメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli 教授らが提唱した概念で、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことをいいます。
Schaufeli教授によると、『仕事から活力を得ていきいきとしている』(活力)、『仕事に誇りとやりがいをかんじて感じている』(熱意)、『仕事に熱心に取り組んでいる』(没頭)の3つが揃った状態として定義されています。
ワーク・エンゲイジメントは「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態
・ 活力: 仕事から活力を得ていきいきとしている
・ 熱意: 仕事に誇りとやりがいを感じている
・ 没頭: 仕事に熱心に取り組んでいる
つまり、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、仕事にやりがいや誇りを感じ、いきいきと働いている状態です。
さらにこれらは、一時的なものや特定のものに向けられたものではなく、仕事に対し、全体的かつ持続的に感じているものとされています。
■従業員エンゲイジメントとの違い
最近、企業で話題になっている考え方に「従業員エンゲイジメント」というものがあります。従業員エンゲイジメントには色々な定義があり、ひとつには定まっていませんが、従業員が会社の向かっている方向性や企業理念に共感し、業績向上のために自発的に「会社に貢献したい」と思う意欲のことを指しており、「愛社精神」、「信頼関係」、「貢献意欲」などがキーワードになっています。従業員の離職防止や人材確保、業績向上のために、従業員エンゲイジメントを高めるための対策が着目されることも増えています。
従業員エンゲイジメントが高い状態では、従業員は仕事にやりがいを感じ、意欲を持って取り組むことができているため、ワーク・エンゲイジメントが高い状態とも似ており、関連する要素や改善のためのアプローチには共通している部分もあります。ただ、従業員エンゲイジメントとワーク・エンゲイジメントとは、用語の定義や調査方法が違うので、混同しないように注意が必要です。ワーク・エンゲイジメントが「仕事と従業員の関係」を表しているのに対し、従業員エンゲイジメントは「企業と従業員の関係」を表していると言えます。企業の担当者が「エンゲイジメント」について話しているときには、「従業員エンゲイジメント」のことを指していることがあります。
■ワーク・エンゲージメントを生み出す2つの因子
ワーク・エンゲイジメントは、「仕事の資源」と「個人の資源」の2つの因子から生み出されるといわれています。
仕事の資源とは、本人以外の外部(上司・同僚・職場環境・顧客等)から与えられる刺激のことです。仕事のコントロール度や上司によるフォロー、顧客との関係性、人間関係、職場環境等が該当します。
個人の資源とは、「自分を取り巻く環境を上手にコントロールできる能力やレジリエンスと関連した肯定的な自己評価」と定義されており、自己効力感や楽観性、組織での自尊心、レジリエンス等が該当します。これらと、ワーク・エンゲイジメントは正の相関関係があります。
とくに、自己効力感は上方のらせん効果と呼ばれており、自己効力感がワーク・エンゲイジメントを高め、上昇したワーク・エンゲイジメントが自己効感をさらに高めることが明らかにされて
おり、ポジィティブ心理学の領域でも注目されています。
参考)ストレス科学研究25巻 (jst.go.jp)
■近年注目されているワーク・エンゲイジメント
わが国では、労働人口の減少が進んでおり、労働者の継続的な確保や人材の定着を目的として組織力の強化や働き方改革の推進、健康経営の推進などが注目を集めるようになりました。
特に健康経営に取り組む企業は増加しており、経済産業省の調査によると『健康経営度調査』を実施する企業が2015年度の493社に対し、2020年度は2523社と約5倍となっています。
2024年度より、健康経営度調査票に『業務パフォーマンス評価』の項目が追加となり、アブセンティーイズムやプレゼンティーイズム、ワーク・エンゲイジメント等、業務パフォーマンスの測定範囲や回答率、開示状況についても確認されるようになりました。加えて、ホワイト500に関しては「業務パフォーマンスを指標とその測定方法」を開示していることが認定要件となりました。
このような背景もあり、ワーク・エンゲイジメントの評価や向上にむけた施策等、取り組まなければならない企業は今後ますます増えてくることが予想されます。
出典:健康・医療新産業協議会 第9回健康投資WG|経済産業省
2 ワーク・エンゲイジメントを高めるメリット
ワーク・エンゲイジメントという状態は、『働きがい』といいかえることもでき、これが高い状態は、下記のような様々なポジティブ効果が期待されます。
■離職率の低下や新入社員定着率向上
ワーク・エンゲイジメントが高い組織は、組織コミットメントが高いと言われています。
組織コミットメントは「企業理念や戦略、企業理解」「担当業務の意義や重要性の理解」、「組織風土に好感があるか」などで構成され、業務や組織への理解が高いほど、会社や組織に対してポジティブな感情が生まれ、職務への満足度も高まるため、離職率が低下し新入社員の定着率も高くなります。
■生産性向上
厚生労働省の「労働経済の分析(令和元年)」の調査では生産性が高いと感じている労働者ほどワーク・エンゲイジメントが高いことが明らかとなっています。
ワーク・エンゲイジメントが高い状態は、従業員の業務意欲や熱意などが高く業務パフォーマンスも高い状態です。
また、離職率の低下から人材コストの削減にも繋がるため従業員のスキルアップやキャリア形成へ効果的に投資することが可能となります。従業員の能力向上や、能力を十分に発揮できる環境は生産性が高くいきいきと働く職場づくりが可能となるのです。
■顧客満足度向上
ワーク・エンゲイジメントと顧客満足度には、相関関係があると言われています。
ワーク・エンゲイジメントの高い状態は、自社製品の自信や業務への誇りが高い状態であり、組織の中だけでなく顧客の安心感や信頼関係にも繋がります。
■メンタルヘルスの向上
ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は,心理的苦痛や身体愁訴が少ないことが明らかにされており、職務満足感や組織へのコミットメントが高く,離転職の意思が低いことが知られています。また、創造性が高く、自らの役割行動はもちろん、自己啓発学習に積極的に取り組んだり、役割以外の業務を積極的に行ったりと,部下へのリーダーシップ行動を適切にとれることが多い、ということも研究によって明らかにされています。
つまり、ワーク・エンゲイジメントに企業として取り組むことは、求職者から選ばれ、さらに人材の定着、成長に効果的であり、生産性の向上に直結します。
3 ワーク・エンゲイジメントを高めるために効果的な施策とは?
■ワーク・エンゲイジメントの評価
ワーク・エンゲイジメントを高めるためには、まず前提としてワーク・エンゲイジメント状態を『見える化』することが必要です。
ワーク・エンゲイジメントの評価方法はいくつかありますが、「新職業性ストレス簡易調査票(ストレスチェックシート80項目版)」を利用する方法があります。
この調査票は、従来の職業性ストレス簡易調査(ストレスチェックシート57項目)に加え、ワーク・エンゲイジメントに関する23項目を追加した合計80項目のチェックシートです。
メンタルヘルスに加え、エンゲイジメントの評価も行うことで、より企業・組織の状態や課題が明確となり解決策やメンタルヘルス・エンゲイジメント向上のアプローチにつなげることが可能となります。
また、80項目に加え、メンタルタフネス度やエンプロイー・エンゲイジメントが測れる独自の項目を追加している企業もあるので、目的に合わせて選択するのも良いでしょう。
■ARMお役立ちサービス |
■ストレスチェックにおける集団分析の活用
ストレスチェックは、従業員のストレス状態や組織の状態を把握できる貴重な機会です。
しかしながら、ストレスチェックの実施が目的となり、活用ができていない企業も多くあります。
ワーク・エンゲイジメントを高める要素の一つとして、組織力の向上(チームビルディング)が挙げられるため、ストレスチェックの集団分析を活用し職場環境改善に取り組むことでワーク・エンゲイジメントの向上に繋げることが可能となります。
■組織コミュニケーション向上に向けたアプローチ
組織内でのコミュニケーション活性化はワーク・エンゲイジメントの向上に効果的です。
具体的には、社内交流機会の促進(部活動、社内懇親会など)やメンター制度の導入、1on1ミーティングの導入など、日頃からコミュニケーションが促進されるような環境づくりを行っていくとよいでしょう。
■上司・同僚からのポジティブなフィードバック
上司や同僚からのポジティブなフィードバックは、仕事の効率を高めるだけでなく、チームワーク、自己効力感、働きがいなどを向上させます。
■労働時間の短縮/働き方の柔軟化
労働時間の短縮や働き方の柔軟化、テレワークの推進などは、多様な社員が業務に集中できる環境を作ることにつながります。
■業務の裁量権の拡大・適切な権限委譲
裁量権の拡大や適切な権限委譲は、部下のやる気やモチベーションを高め、成長にもつながります。結果として、社員の生産性の向上につながります。
■勉強会やEラーニングの開催やカウンセリング(保健指導)の実施
組織や企業の課題に対してのアプローチとして、勉強会やEラーニングの実施、カウンセリングの活用などがあげられます。
組織全体や個人へむけ効果的なアプローチが可能となります。
■メンタルタフネスを高める施策
アプローチの手段のひとつである『メンタルタフネス』についてご紹介します。
メンタルタフネスとは、 『困難が降りかかったときに悪い感情に振り回されるのではなく、解決に向けた行動を起こせること』をいいます。
メンタルタフネスは、生来持っている『性格』ではなく、開発できる『スキル・能力』であるため、ストレスへの向き合い方を学ぶことで高めることができます。
従業員ひとりひとりのメンタルタフネスが向上すれば、メンタル不調者の発生を予防することができるため、自発的に業務に取り組む従業員が増えることで、組織の生産性も高まります。
つまり、メンタルタフネスの向上は、ワーク・エンゲイジメントの向上に効果的といえるのです。
4 まとめ
近年注目を集めているワーク・エンゲイジメント。
ワーク・エンゲイジメントを高めていくことは、生産性向上のみでなく、企業のメンタルヘルス対策にも効果的です。
さらに、組織の活性化や離職防止にも繋がるため、個人にとっても企業にとってもメリットが大きく、非常に有用であるといえるでしょう。
年に1回義務付けられてるストレスチェックの機会を上手に活用し、ワーク・エンゲイジメントを高めるための施策を実施してはいかがでしょうか。
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■作成
さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修医師
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
・出展:厚生労働省|引用:ワーク・エンゲイジメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について
・ストレス化学研究 25巻
・健康・医療新産業協議会 第9回健康投資WG|経済産業省