職場のメンタルヘルス対策を推進!産業看護職の役割とは?
職場におけるメンタルヘルス対策は、うつ病や適応障害などの体調不良者のみでなく、全労働者を対象としています。メンタルヘルス対策は、労働者の働きやすさ、定着・生産性の向上にもつながります。
厚生労働省からも、事業者に対し、産業医や保健師などの産業看護職などの医療専門職と連携して対策を進めていくことが求められています。
この記事では、「職場におけるメンタルヘルス対策」と産業看護職としての役割についてご説明します。
目次
1.職場におけるメンタルヘルス対策とは
2.心の健康づくり計画
3.4つのケアの推進
4.メンタルヘルス対策の3つの段階
5.メンタルヘルス対策における産業看護職の役割
6.おわりに
1 職場におけるメンタルヘルス対策とは
職場におけるメンタルヘルス対策とは、
『事業場において事業者が講ずる労働者の心の健康の保持増進のための措置』のことをいいます。
対象者はメンタル不調者だけでなく、すべての労働者です。メンタルヘルス対策、メンタルヘルスケア対策などと呼ばれることもありますが、ほとんど同じ意味で用いられています。
厚生労働省「労働者健康状況調査」によると、職業生活等に関して強いストレスや不安を抱える労働者は5割を超えています。さらに、精神障害による労災の申請・認定いずれの件数も増加し続けており、第14次労働災害防止計画には、メンタルヘルス対策に取り組む事業場を増やすこと(80%にすること)が目標として掲げられています。
大企業だけでなく、中小企業においてもメンタルヘルス対策に取り組むことが求められています。
労働者がメンタルヘルス不調により休業することになると、休業期間は長期にわたることが多く、大きな労働力の損失となります。(アブセンティーズム)
休業に至らない場合も、メンタルヘルス不調やストレスによる体調不良などは、労働者の業務パフォーマンスの低下を招きます。
さらに、メンタルヘルス不調が多く発生する職場は、生産性も低く、労働者の離職にもつながります。(プレゼンティーズム)
職場でメンタルヘルスケアに取り組むことは、労働者の心の健康の保持増進はもちろん、労災予防などの事業場としてのリスク管理、さらには健康経営といった事業場の発展につながるのです。
2 心の健康づくり計画
メンタルヘルス対策は、中長期的な視点で継続できるような計画を立てて進めることが重要です。事業者は、労働者の意見をきき、その事業場に適した計画をたてることが重要です。
まずは、衛生委員会等の機会を利用し、『心の健康づくり計画』を定めるとよいでしょう。事業場によっては、「心の健康づくり計画」が独立しておらず、「安全衛生計画」の一部として設けられている場合もあります。その場合も、以下の内容が盛り込まれているか確認しましょう。
心の健康づくり計画で定める事項は、次の7つの項目です。
① 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
② 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
③ 事業場における問題点の把握およびメンタルヘルスケアの実施に関すること
④ メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保および事業場外資源の活用に関すること
⑤ 労働者の健康情報の保護に関すること
⑥ 心の健康づくり計画の実施状況の評価および計画の見直しに関すること
⑦ その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
なお、「心の健康づくり計画」において、ストレスチェック制度の位置づけは明確にしておく必要があります。
産業看護職は、労働者とも管理監督者とも接する機会が多くあり、事業場の実情やニーズを理解し活動することが求められます。計画の策定や見直しに積極的に関与し、事業場の実情に即したPDCAサイクルを実践できるようにしましょう。
3 4つのケアの推進
4つのケアとは、職場におけるメンタルヘルス対策を進めるための、『セルフケア』『ラインによるケア(ラインケア)』『事業場内産業保健スタッフ等によるケア』『事業場外資源によるケア』のことです。
この4つのケアは、厚生労働省から事業場向けに発表されている『労働者の心の健康の保持増進のための指針』に示されています。
■セルフケアとは
労働者が自分自身の心と体の状態を知り、適切に対処し、心身の状態を良好に保つためにする取組みを指します。
事業者は、労働者に対して、セルフケアが行えるように啓発や情報提供等の支援を行うことが重要です。
具体的には、ストレスチェックの実施や、面談の実施、衛生講話などの健康教育を通じてメンタルヘルスについての正しい理解を促したり、相談窓口を設置したりすることなどがあげられます。また、管理監督者(管理職)も労働者のひとりですので、セルフケア対策の対象とする必要があります。
■ラインケアとは
管理監督者が部下に対して行うメンタルヘルス対策のことです。
事業者は、管理監督者がラインケアを実施することができるように、体制づくり、教育や情報提供等を実施する必要があります。
管理監督者は、部下の相談対応や声掛け、負荷の大きい部下への対応、職場環境の把握と改善、就業上の配慮等の役割が求められます。
ラインケアを実施する管理監督者を支援することは、産業看護職の大切な役割です。
■事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは
ここでいう事業場内産業保健スタッフ等とは、産業医や産業看護職、心理職、心の健康づくり専門スタッフ、衛生管理者、人事労務担当者等のことです。
事業場内のメンタルヘルス対策についての計画の立案や実施において中心的な役割を担います。
また、セルフケアやラインケアが適切に実施できるようにするために、管理監督者(管理職)や、労働者に教育、情報提供や相談対応、職場復帰における支援といった役割があります。
■事業場外資源によるケアとは
事業場外資源とは、病院や、専門機関、公的機関のことです。
これらの機関からの助言やサービスを活用したり、労働者に紹介したりするなどして、メンタルヘルス対策に役立てることを言います。
4 メンタルヘルス対策の3つの段階
メンタルヘルス対策というと『メンタル不調者への対応』と思われがちですが、職場においては、『予防』が非常に重要です。
一次予防、二次予防、三次予防といった3つの段階があります。
■一次予防
一次予防とは、メンタルヘルス不調の未然防止のことをいいます。
具体的には、労働者のストレスマネジメント向上を目的とした教育や情報提供の実施、過重労働対策やハラスメント対策などの職場環境改善、ストレスチェック等があります。
■二次予防
二次予防とは、メンタルヘルス不調者の早期発見のことをいいます。
具体的には、上司、産業保健スタッフによる相談体制の整備、不調者へ早期に対応するための体制構築などがあります。
■三次予防
三次予防とは、メンタルヘルス不調により休職した労働者に対する、職場復帰援や再発防止のことをいいます。
具体的には、職場復帰支援プランの策定やフォローアップの実施、主治医との連携等があります。
職場復帰支援については、厚生労働省より、『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』が作成されています。
5 メンタルヘルス対策における産業看護職の役割
産業看護職は、事業場内の健康づくりにおいて重要な役割を担っています。
個人だけでなく、集団や事業場全体にも働きかけることが求められるため、事業場の課題やニーズを把握し、それに沿った支援を実施する必要があります。その働きかけは一次予防から三次予防まですべての段階にあたり、事業場におけるメンタルヘルス対策を包括的に実施する立場といえます。
メンタルヘルス対策において、疾病という概念を超えてより健康で充実した仕事ができるような支援や組織作りを実施することが大切です。
具体的には、下記のような役割が求められます。
・職場における心の健康づくりの計画策定・実施・評価に参画
・メンタルヘルスについての啓発活動
(情報発信や健康教育の企画、実施)
・職場環境改善
・労働者、管理監督者からの相談対応
・保健指導
・ストレスチェック制度の活用など
産業看護職は、健康診断や保健指導などの産業保健活動の機会を通じて、労働者や管理監督者の状況や、職場環境を把握することができます。
メンタルヘルス対策においては、これらの情報と関係性を活かして、労働者や管理監督者を身近で支援することが可能です。
また、人事・総務の担当者や、産業医、外部の医療機関や専門機関とも連携することが重要であり、産業看護職はコーディネーターの役割も担います。
特に、メンタルヘルス不調者のケアは、精神疾患に関する知識のほか、傾聴や保健指導などのスキル、労働者や管理監督者との信頼関係を構築できるようなコミュニケーション能力に加えて、他の職種と連携するチームワーク力、コーディネート能力、ケースのアセスメント能力など、ケースマネジメントを通じて問題を解決する能力が求められます。
また、事業場内のリソースだけでは足りない場合には、事業所外のリソースやサービスを活用することも必要になるため、それらについての知識や連携する能力も求められます。
6 おわりに
メンタルヘルスケア対策において、産業看護職は、専門知識だけでなく信頼関係の構築が必要不可欠です。
コミュニケーションスキルや知識を身に着け、日頃からの関係構築を大切にしましょう。
労働者からはもちろん、事業場からも信頼される産業看護職を目指しましょう。
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■お役立ちサービス
執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医
■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
「職場のメンタルヘルス対策における産業看護職の役割」に関する報告書|厚生労働省
労働者の心の健康の保持増進のための指針について|厚生労働省
職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~|厚生労働省
産業保健看護学‐基礎から応用・実践まで~|光益財団法人 産業医学振興財団