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花粉症シーズンにおける職場での健康管理:産業保健スタッフができること

職場における花粉症対策は、労働生産性に大きく影響するとして、厚生労働省から事業者に対し、産業医保健師などの産業看護職などの医療専門職と連携して対策を進めていくことが求められています。日本ではスギ花粉症の症状に悩まされる方が最も多く、2月上旬ごろから本格的なシーズンが始まります。今回、「職場における花粉症対策」についてご紹介させていただきます。


<目次>

1.花粉症とプレゼンティーズムの関係
2.花粉症の治療
3.職場における花粉症対策
4.花粉症のセルフケア
5.まとめ


1.花粉症とプレゼンティーズムの関係

花粉飛散期には鼻症状、眼症状、全身倦怠感、頭重感など全身症状を引き起こします。いずれの症状も生命を脅かすほどではないものの、病気で生産性が低下した状態である「プレゼンティーズム」を引き起こす代表的な疾患です。特に「鼻づまり」については入眠障害、中途覚醒などの睡眠障害のリスクを高めます。その結果、睡眠障害による労働生産性の低下にもつながります。

近年、政府は国民全体を悩ませている社会問題として捉え、令和5年4月から花粉症に関する関係閣僚会議を開催しています。花粉症について、適切な実態把握を行うとともに、発生源対策や飛散対策、予防・治療法の充実等に取り組んでいます。現在、10年後を見据えた花粉症対策として、①発生源対策、②飛散対策、③発症・曝露対策の3本柱を実行しています。
花粉症対策の3本柱の図

令和5年5月30日花粉症に関する関係閣僚会議決定


2.花粉症の治療

花粉症の治療には、対処療法とアレルゲン免疫療法の2つに分かれます。対処療法では、点眼薬・点鼻薬などによる局所療法、内服薬などによる全身療法が中心です。その一方で対処療法では治療効果が乏しい患者については、アレルゲン免疫療法が推奨されています。政府は、アレルゲン免疫療法の1つである舌下免疫療薬について、2025年には25万人から50万人に倍増させ、5年以内には100万人へと増産させるよう製造販売企業に要請しています。しかし、スギ花粉症の舌下免疫療法を行える医療機関は限られています。そのため、病院のホームページで事前に確認するか、直接問い合わせてから受診することが必要です。また、オンライン診療を行っている医療機関であっても、治療開始後の最初の数回は対面診療が必要となる点に留意してください。



また、治療を必要とする患者が適切な時期に医療機関を受診できるよう、花粉症対策の政府広報(特集ページ・提供ラジオ番組)、SNSを通じた情報提供を実施しています。対処療法については飛散開始前から治療を行うのに対し、アレルゲン免疫療法については、花粉の飛んでいない時期(5月、6月頃)に内服を開始します。原因となっている抗原(アレルゲン)を投与し、身体を花粉抗原に慣らすことによって花粉症の症状を軽減させます。そのため、すぐに効果が現れるわけではなく、2~3年間の治療が必要です。また、アレルゲンを舌下に置くため、口腔内への痒み、咽頭の腫れなどが出現する可能性があります。最悪の場合、アナフィラキシーショックを起こす危険性もあるため、治療開始時期は医師と十分相談する必要があります。

しかしながら、症状が落ち着いている方については、オンライン診療での診察が推奨されています。医療機関や調剤薬局に行かなくても、インターネット環境下が整っている場にて花粉症の診察を手軽に行うことができます。スギ花粉症に対する舌下免疫療法の相談ができる医療機関を検索することができる専用サイトもあります。このサイトで、オンライン診療が可能な医療機関を検索し、遠方にいながらも治療薬を受け取ることができるようになりました。送料等が発生するものの、通院するための時間や診察の待ち時間を大幅に短縮できるのは魅力で、時間的な制約に厳しい勤労者に拡充していくと考えられます。

3.職場における花粉症対策

国全体で様々な対策を立案しているものの、花粉症の有病率は当面の間増加を見込まれています。これまで症状がなくても、誰でも花粉症になる可能性があるという認識は必要です。

令和5年度健康経営度調査回答結果(大規模法人部門)によると、花粉症に対する具体的な支援としては、空気清浄機の設置など職場での花粉症対策の実施を選択した率が56.5%、対処療法(服薬など)に対する補助・支援をしているを選択した率が24.0%でした。その他の回答には、産業保健スタッフによる社内SNSや社内報などで花粉症対策に関する情報を発信、花粉アレルギー検査への補助などがあります。しかし、空気清浄機の設置など、企業による花粉症対策が行われている場合でも、十分な効果が得られないケースがあります。また、対症療法の補助制度や支援策について従業員が認識していなければ、その効果を十分に発揮できません。社内の対策の実効性を高めるためには、社員に対して花粉症の治療法や適切な対処法に関する十分な情報提供が最も重要です。

取り組み内容 回答率
空気清浄機の設置など職場での花粉症対策を実施している 56.5%
対症療法(服薬など)に対する補助・支援をしている (通院や薬の購入への補助等) 24.0%
花粉症に関するセミナー等教育を実施している (薬の飲み方、副作用への理解等) 20.2%
花粉症に合わせた柔軟な働き方を認めている (花粉飛散量が多い日の在宅勤務を推奨する等) 19.6%
根治療法(免疫療法など)に対する補助・支援をしている 5.0%
その他 14.9%
特に行っていない 24.8%
無回答 3.6%




4.花粉症のセルフケア

治療薬を使用する以外にも、季節前から予防的にセルフケアを行うことで、花粉症対策への効果がより期待できます。予防にはメガネやマスクなどの防御器具が有効です。花粉症専用のメガネもありますが、通常のメガネでも効果は十分期待できます。メガネをしていないときの目に入る花粉量の半分以下になるという報告もあります。また、コンタクトレンズ使用の人は花粉がレンズと結膜の間で擦れるので、花粉症の時期はメガネへの切り替えが推奨されています。その他には、飛散時期外出はなるべく控える、加湿器の活用することで花粉を落下させる、帰宅時は衣服や髪をよく払ってから入室する、表面がけばけばした毛織物などのコートの使用は避けて化学繊維が多く含有されているコートを着用するといった対策も有効です。粘膜への刺激を最小限にするためにタバコを避け、規則正しい生活やバランスのとれた食事を心がけましょう。


5.まとめ

花粉症対策は日々進められていますが、現時点では花粉症は一度発症すると長く付き合っていかなければならない疾患です。日常生活と精神生活が最も障害されることなどが分かっています。花粉症治療の現場では、症状を良好にコントロールするということだけでなく、患者の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)や治療満足度に着目し、それらをいかに高めるかが、治療のアウトカムとして求められる傾向にあります。

産業保健スタッフは、適切な治療法や受診方法について社員に広く情報を提供することが重要です。最新の情報を入手し、個々人の従業員に即した支援だけではなく、組織全体への情報発信を行いましょう。さんぽLABで公開している講話資料・リーフレットもご活用ください。
講話資料
リーフレット


■執筆/監修


<執筆> 阿部 春香(保健師、産業カウンセラー、第一種衛生管理者)

日本産業衛生学会、日本産業保健師会に所属する。2024年に日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度登録者として登録する。
広島大学大学院(博士課程前期)を修了後、健診施設に勤務する。現在、中小企業の保健師として勤務し、健康経営の推進を行っている。
働く全ての人に産業保健を届けたいという思いから、産業保健職として産業保健の社会的認知を広げるための活動も行っている。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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