合理的配慮と就業配慮~産業保健の現場で求められる対応~
産業保健の現場では、労働者が働くための『配慮』を検討・実施する場面が多くあります。
また、2024年4月には障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)により、事業者に対して合理的配慮の提供が義務付けられています。
本記事では、合理的配慮と就業配慮について説明いたします。
1.合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意志が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応することが求められるものです。
つまり、障害のある人もない人も同じようにできる状況を整えることが目的です。
根拠法令は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)であり、就業に限らない社会生活全般です。
障害者差別解消法第8条の2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 |
また、2015年には厚生労働省より、事業主に対し合理的配慮指針が発表されています。2024年4月からは、事業者に対し合理的配慮の提供が義務化されました。
①合理的配慮の対象者
合理的配慮の対象者は、障害者手帳を持っている方に限定されません。
身体的、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能に障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な方が対象となります。
②過重な負担とは
合理的配慮の提供が、事業者にとって過重な負担かどうかの判断は、以下のような要素を考慮して、個別の事案ごとに、総合的・客観的に判断することが必要です。
1.事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
2.実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
3.費用・負担の程度
4.事務・事業規模
5.財政・財務状況
また過重な負担が生じて合理的配慮が提供できない場合も、なぜ過重な負担があるのか理由を説明し、別のやり方を提案することも含め、話しあい、理解を得るよう努めることが大切です。
2.就業配慮とは
就業配慮とは、労働者が働くうえで配慮が必要な場合において、事業者が労働者へ行う配慮のことを言います。
就業上の配慮は、就業上の措置に含まれます。
就業上の措置は、医師の意見を参考に、事業者が決定するものです。
就業上の措置には、健康上のリスクに対し、
・事業場側が職場環境や作業方法の改善による該当労働者への配慮を行う「就業配慮」
・当該労働者の労働を制限する「就業制限」
があります。
①就業配慮の対象者
就業配慮の対象となるのは、全労働者です。そのなかで、以下のような理由で配慮が必要な場合、配慮を実施する必要があります。
・健康の保持に努める必要があると認められる労働者
(例)
・病気休暇より復帰する労働者
・健康診断結果やストレスチェック結果、長時間労働者に対する面接指指導の結果等において、業務を行ううえで配慮が必要と判断されるもの
・治療と仕事を両立している労働者
・子の養育や家族の介護を行う労働者
・妊娠中及び出産後の女性労働者
・高年齢労働者
・障害をもつ労働者
②就業配慮の具体例
就業上の配慮には、以下のようなことがあります。
・勤務時間の変更
・配置転換
・短時間勤務や時差勤務
・通院時間を確保するための勤務時間の調整
3.まとめ
合理的配慮は障害のある労働者からの申し出をきっかけに実施するのに対し、就業配慮は労働者が働くうえで必要と考えられる際に実施します。つまり、合理的配慮も就業配慮に含まれます。
就業上の配慮を実施することは、事業場の安全配慮義務を遂行することにつながります。
これらの配慮を実施する際には、個人の状況を丁寧にヒアリングし、個別で対応方法を検討することが必要です。さらに、それらを効果的に実施することができるよう、就業規則や職場環境を整備することが重要です。
産業保健スタッフは、個々の事例について必要な配慮についての意見を述べることはもちろん、必要な制度や体制整備などについて事業場が主体的に整備できるよう専門的な立場から支援することが求められます。