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「障害者雇用と合理的配慮」チェックリスト/解説記事/手順書

障害者雇用において、事業主には、常時雇用する労働者の一定割合以上の障害者を雇用すること(法定雇用率)が義務付けられています。その結果、民間企業で雇用される障害者は増加しています。しかし、雇用率の向上とともに、就労継続のための対策も大きな課題となっています。
障害者差別解消法改正により、雇用分野以外でも、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。事業主には、事業場の実情に応じた対策を講じ、障害者が能力や適性が発揮し、生きがいを持って働ける環境を、より一層整えていくことが求められています。

今回は「障害者雇用と合理的配慮」について詳しく説明をしていきます。


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化


※チェックリストはクリックのみで、Excel形式にてダウンロードいただけます。



STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック


それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。

■国が進める障害者雇用対策とは
■事業主に求められる措置
■合理的配慮の提供義務
■障害者雇用の流れ
■まとめ


■国が進める障害者雇用対策とは


国は、障害のあるなしに関わらず、誰もがその能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障害のある人の雇用対策を総合的に推進しています。

障害者雇用で期待できること障害者雇用で期待できること

障害者の定義日本における障害者に関する考え方は、世界的な動向と共に変化してきました。障害を抱える人に関連する法律は、障害者基本法、障害者雇用促進法、障害者差別解消法など、多岐に渡ります。
それぞれの法令で対象とする障害者の定義には若干の違いはありますが、合理的配慮という観点から重要なのは「職業生活を含む、日常生活や社会生活に、継続的な制限がある」ということです。
障害者雇用における主な関係法律における「障害者」の定義を下記に示します。

障害者基本法
第2条 
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他の一切のものをいう。

障害者の雇用促進等に関する法令の一部を改正する法律(; 障害者雇用促進法)
第2条 
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。
ニ 身体障害者 障害者のうち、身体障害がある者であって別表に掲げる障害があるものをいう。
三 重度身体障害者 身体障害者のうち、身体障害の程度が重い者であって厚生労働省令で定めるものをいう。
四 知的障害 障害者のうち、知的障害がある者であって厚生労働省令で定めるものをいう。
五 重度知的障害者 知的障害者のうち、知的障害の程度が重い者であって厚生労働省令で定めるものをいう。
六 精神障害者 障害者のうち、精神障害がある者であって厚生労働省令で定めるものをいう。
七(略) 

障害者を理由とする差別の解消の推進に関する法律(; 障害者差別解消法)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

障害者雇用の現状厚生労働省より、民間企業や公的機関などにおける「障害者雇用状況」集計結果が毎年公表されています。令和5年の公表では、雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新しています。
民間企業の雇用状況
雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
・雇用障害者数は 64 万 2,178.0 人
・実雇用率 2.33%
・法定雇用率達成企業の割合は 50.1%

また、厚生労働省では、民営事業所における障害者の雇用の実態を把握し、今後の障害者の雇用施策の検討や立案に役立てることを目的に、「障害者雇用実態調査」が5年ごとに実施されています。
令和5年の調査では、前回の調査と比較して障害者雇用は着実に進展していることがわかります。
令和5年 調査結果のポイント
雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
・前回調査(平成30年)と比較し、総計で雇用者数が増加し、全体的に障害者雇用は着実に進展している。
・すべての障害種別で前回調査より平均勤続年数が増加
・従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は 110 万 7,000 人。前回調査に比べて 25 万 6,000 人の増加。
内訳)
・身体障害者が 52 万 6,000 人(同 42 万 3,000 人)
・知的障害者が 27 万 5,000人(同 18 万 9,000 人)
・精神障害者が 21 万 5,000 人(同 20 万人)
・発達障害者が9万 1,000 人(同3万 9,000 人)

法定雇用率障害者雇用促進法では、事業主に対し、常時雇用する労働者の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇うことを義務付けています。(障害者雇用促進法第43条1項)民間企業の法定雇用率は2.5%です。労働者を40人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。法定雇用率は、今後も段階的に引き上げられ、令和8年7月からは2.7%となることが決定しています。
法定雇用率を達成していない場合は、厚生労働大臣が「障害者雇入れ計画」の作成命令(障害者雇用促進法第46条1項)や計画の適正実施の勧告(障害者雇用促進法第46条6項)を行い、勧告に従わない場合は、企業名を公表できることになっています(障害者雇用促進法第47条)。
※障害者雇用における障害者の算定方法が変更となります。
・精神障害者の算定特例の延長(令和5年4月)
・一部の週所定労働時間20時間未満の方の雇用率への算定(令和6年4月)




◆知っておきたいポイント
【特例子会社制度】
事業主が、障害者雇用の促進及び安定を図るため、特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できる制度
【障害者雇用納付金制度】
障害者雇用促進法に基づき、事業主に対して経済的負担の調整を図り、助成、援助を行うことにより、障害者の雇用の促進と職業の安定を図る制度



■事業主に求められる措置


前項で説明をしたように、事業主には、法定雇用率以上の割合で、障害者を雇用する義務があります。法令で求められ、定められていることから、事業場では雇用率の維持や上昇を目指すことが予想されます。
ですが、雇用率が高まる一方で、就職後にうまく適応ができず、「長く働き続けられない」という事例も発生しています。法定雇用率を達成することのみを目的とするのではなく、就労継続への支援も重要な課題となります。
雇用する側は、障害を持つ方一人ひとりの特性や配慮すべき点を把握した上で、やりがいを持って働いてもらえるように対応していく必要があります。障害のある方の特性を強みとして捉え、適切な受入体制を整えて行く必要がどの企業にも求められています。



障害者雇用対策に伴い、事業主に求められる措置は多岐にわたります。

雇用の分野における措置①障害者に対する差別の禁止
事業主は、募集・採用選考において、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません。また、賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について、障害者であることを理由に障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはなりません。(障害者雇用促進法第34~35条)

②障害者に対する合理的配慮
事業主は、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、募集・採用選考に当たり障害者からの申し出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。
また、障害者である労働者と障害者でない労働者との均等待遇の確保や、障害者である労働者の能力発揮の支障となっている事情を改善するため、障害の特性に配慮した、施設整備、援助者の配置などの必要な措置を講じなければなりません。ただし、事業主に対して「過重な負担」を及ぼすこととなる場合は、この限りではありません。(障害者雇用促進法第36条の2~36条の4)

③障害者職業生活相談員の選任
障害者を5人以上雇用する事業場では、「障害者職業生活相談員」を選任し、その者に障害のある従業員の職業生活に関する相談・指導を行わせなければなりません。(障害者雇用促進法79条)
④障害者雇用に関する届出
(1)障害者雇用状況報告
労働者40人以上の事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります(障害者雇用促進法43条第7項)(2)解雇届
障害者を解雇しようとする事業主は、その旨を速やかにハローワークに届け出なければなりません。(障害者雇用促進法81条第1項)

⑤障害者の虐待防止
障害者を雇用する事業主は、障害者虐待を防止するため、労働者に対する研修の実施、障害者や家族からの苦情処理体制の整備などの措置を講ずることが必要です。(障害者虐待防止法第21条)※令和4年障害者雇用促進法の改正等について
事業主の責務に、適当な雇用の場の提供、適正な雇用管理等に加え、職業能力の開発及び向上に関する措置が含まれることが明確化されました。




■合理的配慮の提供義務


合理的配慮とは、「障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者が有する能力の発揮に支障となる事情を改善するための必要な措置」をいいます。ただし、その実施に伴い「過度な負担」が掛かる場合は、この限りではないとされています。
障害者雇用促進法の改正により平成28年4月、雇用分野での合理的配慮の提供は義務となっています。今回、令和3年の障害者差別解消法改正により、雇用分野以外でも、事業者による障害者のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。(令和6年4月1日より施行)
合理的配慮の提供は、「障害があるからこの業務をさせない」というものではなく、「労働者のもつ能力を発揮できるための配慮」を探ることが大切です。
障害の種類や程度は様々であり、事業場の状況も様々です。そのため、合理的配慮の提供は、画一的な対応ではなく、個別の事案に即した柔軟な対応が求められます。

合理的配慮の手続き①障害者からの申し出・事業主による確認
①合理的配慮に関する措置について事業主と障害者との話し合い
※建設的対話を通じて、相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが重要です。申し出に対する対応が難しい場合でも、目的に応じて変わりの手段を見つけていきましょう。
③合理的配慮に関する措置を確定し、その内容・理由を障害者へ説明する

合理的配慮の提供義務が「過度な負担」に当たるかどうかは、次の要素を総合的に勘案しましょう。個別の事案ごとに、具体的場面や状況に応じ、総合的・客観的に判断することが必要です。
(1)事業活動への影響の程度(2)実現困難度(3)費用・負担の程度
(4)企業の規模(5)企業の財務状況(6)公的支援の有無

合理的配慮については、以下の資料に具体的事例が提示されています。


障害者雇用促進法と障害者差別解消法における合理的配慮の違い障害者に対する合理的配慮を求める法律には、「障害者雇用促進法」と「障害者差別解消法」があげられます。障害者差別解消法における合理的配慮は「日常生活や社会生活を送る上での障壁を取り除く措置」を指しています。障害者差別解消法は、障害者基本法第4条の「差別の禁止」を具体化した法律です。障害者雇用促進法においては「雇用における均等な機会の提供と、職場において障害者が能力を発揮するために必要な障害を取り除く措置」を目指しています。

具体的な違いについて、まとめています。
合理的配慮、法令の違い



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■障害者雇用の流れ


障害者雇用に取り組む場合は、次のように段階的に進めることができます。
なお、雇用された障害者は、企業において一労働者であり、労働法規における対象となります。障害者の特性・程度を理解した上で、労働管理を実践する必要があります。
また、障害の確認・把握、健康情報の取り扱いには、個人情報をはじめとする法令等に十分留意しながら適正に取り扱いましょう。

障害の確認・把握の際は、「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン(厚生労働省)」を確し、実施します。

高齢・障害・求職者雇用支援機構(Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons with Disabilities and Job Seekers; JEED)より発行されている「はじめての障害者雇用~事業主のためのQ&A~」を元に、障害者雇用の流れについて例を示します。

障害者雇用の流れ①障害者雇用の理解を深める
・経営者が企業の経営方針として障害者雇用を推進することを社員に示す。受け入れ部署の社員だけではなく、会社全体で取り組むことが重要である
・ 担当者を選任し、チームを決める等、支援体制を整える
・ 社内での障害者雇用に関する理解を深めるため、研修会や社員向けの講話等の企画をする
・ 障害者雇用の情報収集をする(助成金等、厚生労働省、JEED等公的機関より)
・ 適宜ハローワークなどの支援機関へ相談する

②配置部署や従事する職務を選定する
・ 採用計画の作成(採用人数、採用時期等)
・ 配置部署や職務、労働条件について検討する
・ 必要時地域職業センター等による提案・助言を受け、支援機関を活用する
・ 実際には、就労を開始しなければわからないことも多いため、職業実習やトライアル雇用制度、ジョブコーチの利用を検討する
職務の選定に関して、適宜、産業医をはじめとする産業保健スタッフを交えて検討する

障害者トライアル雇用:ハローワーク等の紹介により障害者を試行的・段階的に雇い入れることができる。
ジョブコーチによる支援:ジョブコーチは、障害特性を踏まえた専門的な支援を行い、障害者の職場適応を図る。

③求人し採用する
・ 求人を出し、紹介を受ける(ハローワークの活用)。就労定着を見据えてマッチングを検討する
・ 採用における差別の禁止、採用試験や面接の実施方法について、合理的配慮の提供に留意し実施する
・ 支援機関より、本人の障害の特性や職務能力、必要とされる配慮事項、コミュニケーション時のポイントなどの情報を得る
・ 面接では、スキルや能力、意欲・志望動機等の一般事項に加えて、職務遂行に関連した障害状況、健康管理状況について確認をする
・ 過去の就労歴がある際は、十分な配慮をした上で、退職の理由を確認し、職場環境を整える上で活用する

④受け入れ態勢を整える
・ 配属部署や指示命令系統、指導者を選定する
・ 障害特性を考慮し、施設・設備の整備、緊急時の避難経路や連絡体制の確認、疾病による緊急時の対応や連絡先を把握する
・ 施設・設備のバリアフリー化には、費用が掛かるため、緊急性・必要性・安全性を考慮し、本人とよく話し合いながら改善を進める
・ ジョブコーチを活用する
・ 職務は、これまで得た情報をもとに総合的に判断する
・ 健康診断・ストレスチェックの実施については、障害特性・程度に応じて配慮を検討する
・ 産業保健スタッフは、必要時面談を行い、障害特性やその程度について把握する。必要に応じて主治医や医療機関と連携をとる。適宜、職場巡視を実施し、職場環境を確認し安全を確保する。また、管理監督者、指導者へ医学的な知識を提供する

⑤職場定着
・ 日頃から相談しやすい環境を整える
・ 採用後の就労定着のためには、労働者のみではなく、管理監督者、現場の同僚に過度な負担が掛かっていないか配慮をする
・ 支援機関・家族との連携を維持する
・ 他の労働者と同様に、職務の見直し、キャリアアップやモチベーションの維持のための対応する
・ 合理的配慮の提供には、建設的な対話を通じて誠実に対応する
・ 産業保健スタッフは、障害特性や程度を理解した上で、障害の原因となった疾病の管理や二次障害の予防に努める。障害の進行や悪化は、作業能力だけでなく、日常生活のしづらさに繋がるため、主治医や医療機関、支援機関と連携をしながら対応する

⑥休復職、退職の場合
・ 不必要な退職を防止し、休職と復職が必要な場合は、医療、事業場、支援機関が協力しながら支援をする
・ 退職に至る場合は、退職後の支援を考慮し、主治医、家族、支援機関等のネットワークへ繋げることが望ましい
参考:産業保健マニュアル 改訂8版 P458-460

障害者雇用のための支援機関障害者雇用に取り組む場合は、支援機関との連携がとても重要となります。
障害者を雇用する事業主に対して、相談や支援を行う支援機関は主に以下3つがあります。

ハローワーク
職業紹介、職業指導、各種助成金の案内等
地域障害者職業センター
障害者に対する職業評価や職業準備支援、事業主への障害者雇用に関する専門的支援
障害者就業・生活支援センター
障害者への就業面・生活面の相談支援、事業主への雇用管理面の相談


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■まとめ


障害者雇用は、障害者のみならず、事業場全体に、多様性を活かした働き方を推進するきっかけとなります。そして、障害者雇用対策において、産業保健スタッフは、障害特性を理解し、個人、そして組織をサポートしていく上で重要な役割を担っています。
障害特性は個人によってばらつきがあり、同じ障害を抱えていても画一的な対応が相応しくない場合もあります。労働者本人の障害特性に応じて支援をする必要があり、事業場内の上司、同僚はもちろん、障害者を5人以上雇用する事業所で選任されている障害者職業生活相談員、主治医や地域障害者職業センターなどの支援機関と連携することが有効です。
障害のある労働者が企業の成長・発展にとって、なくてはならない人材として活躍し続けることができる環境づくりを進めることが重要です。

 

STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。

障害者雇用と合理的配慮

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※手順書は簡単なアンケートに入力することでWord形式でダウンロードしてご活用いただけます。

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