【ウェビナーへのご質問に回答】困難事例から学ぶ!合理的配慮と両立支援 の実践的アプローチ

適応障害や発達障害など、精神的な不調を抱える従業員への対応は現場で悩むことも少なくありません。「どこまで配慮すべきか」「支援のゴールはどこか」と迷う方も多いのではないでしょうか。
2025年7月24日のさんぽLABウェビナー「困難事例から学ぶ!合理的配慮と両立支援の実践的アプローチ」では、具体的な事例を交え、対応のポイントを解説。本記事では、ウェビナー内でお答えしきれなかった質問について、講師の江口尚先生にご回答いただいた内容をご紹介します。
目次
1. 就労配慮の判断と対応
2.病気の開示と職場の理解
3.発達障害が疑われる労働者への対応
4. 困難事例への対応
5.現場判断での業務配慮
6.採用後のミスマッチ
1. 就労配慮の判断と対応
ご質問①
難病により常に腰痛がある人がいます。この場合、主治医に自分の仕事内容を伝えてもらい、就業可能か判断いただき、就業不可の場合は別部署へ異動してもらうなど検討する形で進めていけば良いのでしょうか。
ご回答
ご質問ありがとうございます。まずは仕事内容が腰痛を悪化させる可能性について主治医に確認をしたうえで、主治医の意見を参考に、異動の可否を検討すると良いと思います。主治医が不可と判断した場合には、異動をせざるを得ないと思います。
ご質問②
拡張型心筋症の従業員がいます。医師よりは、徐々に就労制限の解除が可能と言われております。ただ、本人が就労制限をずっとかけてほしいと思っており、対応に困っています。どのように進めていくべきかご教授いただけますと幸いです。
ご回答
本人が保守的な場合には、本人の意向を尊重することが最優先だと思います。ただし、他の方と比較して、就業能力が十分で無い場合には、それに応じて処遇を変更することを人事と相談すると思います。
ご質問③
この度は貴重なご講演、ありがとうございました。本人が就業を希望しており、会社側が両立支援のために最大限の配慮をしてもなお就業が困難であると判断された場合、産業保健職として何かできることはありますでしょうか?
ご回答
ご質問ありがとうございます。産業保健職の支援は就業ができることが前提ですので、就業ができないと支援をすることが難しいと思います。ただ、例えば、フルタイムでの就業が難しく、時短勤務であれば就業できる場合には、他社事例などを収集して、短時間雇用などの可能性も検討できると良いかもしれません。また、状況によっては在宅勤務も選択肢になるかと思います。
ご質問④
わかりやすいお話、ありがとうございました。
産業保健師です。配慮が必要な従業員について、配慮をしている従業員の評価をどうしたら良いかと上司に言われることがあります。
病気や障害があってできないことがあり、それを含めて評価すると従業員の評価が下がり、評価に対しての不満が出てメンタル悪化などにつながることもあるかと思うのですが、配慮中の従業員の評価をどうつけてもらうのがよいのでしょうか。
ご回答
厳しいようですが、評価は純粋にアウトプットで評価をすべきだと思います。仕事上必要なやり取りにおいて、本人がメンタルヘルス不調になるとしたら、その方のメンタルヘルスは通常の就業には耐えられないということになると思います。病気や疾患があるからと言って、業務上必要なことを伝えない、対応をしないことは不公平になると人事や上司には伝えています。
ご質問⑤
病気を理由に部署異動させる事は、特に問題ないでしょうか?問題ありでしょうか?
ご回答
まずは、本人の意向の確認でしょうか。また、会社側の納得感も大切かと思います。関係者の理解が得られて、特別扱いと認識をされないような対外的な説明ができるのであれば問題は無いと思います。
ご質問⑥
休職者に会社として可能な復職先を提案し、主治医と相談させるという方針でよろしいでしょうか。どうしても所属Bでないと復職できないとされたら、どうしたらよいでしょうか?
ご回答
この手の判断は、会社として腹をどこまでくくるかだと思います。所属Bへの異動が会社としては認められないということであれば、本人への説明を尽くしたうえで、訴訟も覚悟で判断することになるかと思います。ただ、なかなか難しいとは思います。
2. 病気の開示と職場の理解
ご質問⑦
疾病を抱える従業員の就労についてのご質問です。
就業に制限が必要な慢性疾病をお持ちなのですが、病気の開示については、消極的な従業員の方がいらっしゃいます。
できるだけ意向を尊重したいと考えてはいるのですが、業務配分や残業制限などの点で、他のスタッフからの不満が出ているのが実情です。
先生にお聞きしたいのは、その方に『「時短勤務」や「在宅勤務」などの配慮を認める代わりに、職場スタッフの理解のため病気の事をある程度開示しても良いか?』という要請を、会社として依頼しても良いものなのでしょうか?
(もちろん、開示する範囲や内容については、相談して決めますが)
また、働きかけをする場合に、気をつける事や良い事例などがあれば、ご教示いただければ幸いです。
ご回答
ご質問ありがとうございます。僕もそのようなある種の取引をしたことがあります。ただ、原則論としては、職場スタッフの不満の解消のために病名を伝えることは別々に考える必要があるとは思います。病名を知らないことで生じる不満とは何かを明確にしたうえで、その理由が正当なものであれば、当事者もその理由に納得してくれるはずです。ただ、周囲が持つ不満の原因を病名の周知の有無に求めるときには、本人の勤務態度などに問題があるケースも多いように思います。その辺、当事者、周囲との丁寧なコミュニケーションが求められます。
ご質問⑧
発達障害疑いの人からの希望面談があり、面談を実施しましたが、本人が会社に伝えてほしくないと言った場合対応をどうしていくべきでしょうか。(面談時未受診、普段の仕事ぶりやネットの診断で発達障害かもと出てきて面談を希望)
ご回答
会社としては、正式な診断を受けたうえで、主治医からアドバイスをもらうことが配慮をする大前提だと思います。本人が受診もしたくないし、伝えて欲しくないということであれば、今のところは話を聞いてあげることぐらいしかできないとお伝えするほかないと思います。ただ、職場で困っていることがあれば、いつでも相談に来るように伝えると思います。
ご質問⑨
わがままと必要な配慮の線引について職場、本人それぞれに納得感のある説明方法などアドバイスありますでしょうか。
本人への内省の促し方など教えていただきたいです。
ご回答
まずは、本人が現状をどのように認識しているかを、本人目線で納得するように心がけています。本人なりの合理性を支援者として理解したうえで、上司や人事を交えてどのような配慮ができるのか、相談をすることになると思います。その際に、必要に応じて、ここまでは合理的な配慮になるけれど、これ以上は特別扱いになるので、処遇の変更などが必要ということは説明をするようにしています。
ご質問⑩
大変わかりやすいご講演をありがとうございました。
先生のおっしゃるとおり、誰もが能力を発揮して働ける世の中を望みます。
ただ、まだ社会も企業も、余力や文化上、このような願いには追いついていない印象です。
「配慮が過剰なわがまま」と捉えられて「周囲の不満の蓄積」→「能力のある人の流出」という望まぬ結果をうむリスクもあると思います。
両立支援はどの企業にも必要と考えますが、企業文化のフェーズによって導入が困難と考えられる場合はありますか。
その中でも産業保健スタッフとしてできるスモールステップはどのようなことがあるでしょうか。
ご回答
僕も最大限、その組織が許容できる範囲内で、誰も取り残さないような両立支援を心がけます。まずは、支援者としてどこまで本人に寄り添った支援をするのかを考えたうえで、組織の意向を考慮していくことになるかと思います。僕も似たような事例を経験していて、配慮と特別扱い(わがまま)の違いについて、両立支援や合理的配慮の文脈で、安全衛生委員会で話をしたことがあります。その時の、周囲の反応なども参考になると思います。
3. 発達障害が疑われる労働者への対応
講師:江口 尚 先生(産業医)
鹿児島県出身。2001年産業医科大学卒業後、福岡徳洲会病院で
臨床研修。
臨床研修修了後、一般財団法人京都工場保健会、エクソンモービル
有限会社、京セラ株式会社滋賀蒲生工場で専属産業医として勤務後、2013年から北里大学医学部公衆衛生学勤務後、ソーシャルワーカやがん認定看護師と共に北里大学病院トータルサポートセンター内に
両立支援外来を開設。
2020年から産業医科大学産業生態科学研究所産業精神保健学研究室に勤務。
現在、産業医科大学病院両立支援科兼任。この間、社会医学系専門医・指導医、産業衛生専門医・
指導医、経営学修士(大阪府立大学)、医学博士(信州大学)を取得。ハーバード大学T.H. Chan
公衆衛生大学院武見国際保健プログラム修了。

