産業保健の法律って?まず覚えておきたい3つの法令を分かりやすく解説!
労働災害を予防し、生産性の向上を目指すには、事業場は健康管理において様々な取り組みを行う必要があり、事業所が最低限取り組まなければならない内容について法令によって定められています。
法令は産業保健活動を実施する根拠となるものです。
この記事では、まずは覚えておきたい産業保健に関わる主な法律についてお伝えいたします。
【目次】
1.産業保健における法令遵守
2.産業保健に関わる主な法令
2-1.労働基準法
2-2.労働安全衛生法
2-3.労働契約法
3.個人情報に関わる主な法令
3-1.個人情報保護法
3-2.要配慮個人情報
3-3.従業員の健康情報の取り扱いの原則
3-4.健康情報取扱規程の策定
4.まとめ
1.産業保健における法令遵守
産業保健活動は、従業員の安全と健康の確保だけではなく、リスク回避も担っています。
法令を遵守することは、罰則の適応や、民事・刑事訴訟のリスクを回避することであり、事業所を守ることにつながります。
2.産業保健に関わる主な法令
産業保健活動と関連する主な法令はこのようなものがあります。
• 労働基準法 • 労働安全衛生法 • 労働契約法 • 過労死防止対策推進法 • 労働安全衛生法施行令 • じん肺法 • 作業環境測定法 • 有機溶剤予防規則 • 個人情報保護法 |
このなかで特に重要となってくるものが、労働者の最低基準を定めた「労働基準法」と、産業衛生活動の基軸となる「労働安全衛生法」、安全配慮義務について記載のある「労働契約法」、個人情報を取り扱う「個人情報保護法」です。
2-1.労働基準法
労働基準法(通称労基法)は、すべての労働者を対象に、労働条件の最低基準を定めた法律です。
●労働時間
労働時間、休憩、休日の基準はこのように定められています。
・法定労働時間は、休憩時間をのぞき、1週間40時間以内かつ1日8時間です。
・休憩は6時間以上8時間以内の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。
●労使協定
労使協定とは、事業所と従業員の間で交わされる書面での約束事で、
産業保健スタッフが知っておくべきものとしては、時間外労働についての36協定があります。
2-2.労働安全衛生法
職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促すことを目的とし、総合的、計画的な安全衛生対策を推進することを挙げています。
労働安全衛生法の具体的な内容は、安衛法に基づいて、労働安全衛生法施行令や、労働安全衛生規則、有機溶剤中毒予防規則など、さまざまな政令、省令によって定められています。
●職場における安全衛生体制第3章 第10条~第19条の3
責任の所在を明確にし、事業所ごと、建設現場等の場所ごとの安全衛生管理体制を確立することが義務付けられています。
●労働者の危険又は健康障害を防止するための措置第4章 第20条~第36条
労働災害や健康障害を防止するために、事業者等が講じるべき措置や労働者が守るべき責務について定められています。
●機械等並びに危険物及び有害物に関する規則第5章 第37~第58条
主に製造業むけに、労働災害の直接の原因となる危険な作業が伴う機械等や危険物・有害物について一定の規制を設けています。
●労働者の就業にあたっての措置第6章 第59~第63条
労働災害を防止するために、事業所は従業員を教育しなければならないと規定されています。また、業務の種類に応じて一定の資格がない者の就業の禁止や就業上の配慮についても規定されています。
●作業環境管理第7章 第65条~第71条
労働災害の防止や快適な職場環境の形成のため、事業者は作業環境を管理して労働者の健康保持・増進を行うことと定められています。
●健康管理第7章 第66条~第68条、第69条~第71条
健康診断や、保健指導、ストレスチェック、長時間労働者の面接指導、健康教育など、従業員の健康状態の把握や必要に応じた事後措置などが定められています。
2-3.労働契約法
労働契約法は、雇用主と使用(雇用)者の労働契約について定められ、労働者の保護を図ること労使関係を対等にする法律で、第5条には「安全配慮義務」 が規定されています。
安全配慮義務とは、『労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする』ことを使用者(事業所側)に定めた義務のことです。
この安全配慮義務は、法律を守るだけでは十分といえません。 職場の実情に即した内容で履行されることが求められます。
3.個人情報に関わる主な法令
産業保健の現場では、従業員の健康管理に伴い様々な情報を取り扱います。特に、健康情報は、従業員にとって機微な情報も含まれており、適切な取扱いが必要のため、個人情報に関わる法令や各職種における守秘義務の規定は覚えておくとよいでしょう。
3-1.個人情報保護法
個人情報保護法において、個人情報とは、生存する個人に関する情報で あって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものをいいます。個人情報は基本的に保護され、本人の同意なく、第三者に開示されることがないのが原則です。
3-2.要配慮個人情報
要配慮個人情報とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮を要するものとして定められています。
労働安全衛生法に基づき実施する健康診断の結果や、労働者の健康確保措置のための活動を通じて得られる労働者の心身の状態に関する情報、いわゆる「健康情報」は、基本的には「要配慮個人情報」に該当します。
3-3.従業員の健康情報の取り扱いの原則
産業保健専門職は、従業員のプライバシー保護と、企業としての安全配慮義務や健康管理の両面を、常に考えながら健康情報を取り扱う必要があります。
原則的には、労働者の健康情報を事業者に共有する際は、本人の個別同意を取得することが適切です。しかし、安全配慮義務履行のために情報共有が必要な場合であっても、本人の同意が得られない場合もあります。
個人情報保護法における「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、本人の同意を得ることが難しい場合でも、事業者と連携することが重要です。
3-4.健康情報取扱規程の策定
2019年4月から、働き方改革関連法の施行に伴い労働安全衛生法が改正されました。改正104条「心身の状態に関する情報の取扱い」という規程が新設されたことにより、企業には、従業員の健康を管理するための必要な措置として、「健康情報等の取扱規程」を策定することが義務づけられています。
従業員の健康情報取扱規程には、健康情報の範囲、管理体制、本人同意の取得方法などのルールを決める必要があります。
取扱規程に定めるべき事項は、厚生労働省が2019年3月に公表した「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」に詳しく解説されていますので参考にすると良いでしょう。
4.まとめ
産業保健においての法令は、従業員はもちろん事業所や企業、そして自分自身を守るための盾となります。根拠をもって業務を勧められるよう、今行っている業務がどの法令に基づいて実施しているのか理解しておくと良いでしょう。
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参考文献
岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.
五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.
事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(2019).
労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する
指針.改正(2022).