過重労働対策に必見!関係する法令や面接指導の対象者とは?
過重労働は、心身ともに大きな負担をかけることが知られており、様々な病気の原因と
なります。過重労働を原因とする過労死等の発生件数や、過重労働による労災請求件数、労災認定件数発生推移近年高い状況が続いています。
過重労働対策は、労働者を守ることはもちろん、事業場にとってのリスク管理の観点からも積極的に取り組んでいく必要があるでしょう。
この記事では、過重労働対策の目的や健康被害、産業保健スタッフとしての役割を学ぶことができます。
目次
1.過重労働とは
2.過重労働対策の目的
3.過重労働による健康障害への対策
4.長時間労働者に対する面接指導
5.おわりに
1 過重労働とは
過重労働とは、精神的・身体的な負担が大きい労働のことで、医学的には脳・心臓疾患や、精神疾患との関連が深いことが知られています。この過重労働を原因とした死を過労死、過労自殺といいます。
厚生労働省は、過重労働による健康障害を防ぐために、2006年に『過重労働による健康障害防止のための総合対策について』を発表し、過重労働対策を推進してきました。さらに、社会問題となっている過労死を防止するために、2014には、『過労死等防止対策推進法(いわゆる過労死防止法)』が施行されました。また、これらの法律に基づき、政府は過労死等の防止のための対策に関する大綱を発表しています。
なお、「過労死等」は、過労死等防止対策推進法第2条により、以下のとおり定義づけられています。
• 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
• 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
• 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
「過重労働」と「長時間労働」は、どちらも同じような意味で使われることが多い言葉ですが、厳密には次のように使い分けられることもあります。
■長時間労働
実労働時間が法定労働時間を上回った状態。特に何時間以上、という明確な基準はありません。
■過重労働
厚生労働省では「時間外・休日労働が月100時間」「2〜6ヶ月平均の時間外・休日労働が月80時間」のいずれかを超えた場合に過重労働と定義しています。
2 過重労働対策の目的
長時間労働は、疲労回復に必要な睡眠・休養時間を減少させ、脳・心疾患、精神疾患等の健康障害を引き起こす可能性があります。
1か月間の時間外労働が45時間を超えると徐々に健康障害のリスクは高まります。なかでも、1か月間で100時間以上、または2~6か月間で1か月間の平均が80時間以上の時間外労働がある場合は、脳・心臓疾患、精神疾患に関する労災認定の基準とされており、「過労死ライン」とも呼ばれることがあります。
事業者は大切な労働者の命と健康を守るため、また事業場のリスク管理という観点からも、適切な過重労働対策を実施することが求められています。
3 過重労働による健康障害への対策
過重労働による健康障害を防止するために、事業者は次のような措置を講じなければなりません。
① 時間外労働の削減
② 有休休暇の取得促進
③ 労働時間等の設定
④ 労働者の健康管理に関わる措置
産業看護職は、事業者が適切に過重労働対策がとれるよう支援していくことが求められます。
4 長時間労働者に対する面接指導
ⅰ長時間労働者に対する面接指導とは
長時間労働を予防することが過重労働による健康障害を防止するためには大前提ですが、長時間労働が発生した場合は、労働安全衛生法第66条の8により、その労働者に対して医師による面接指導を実施することが事業者には義務付けられています。
面接指導は、長時間労働による労働者の健康障害の未然防止、早期発見・対応を目的としています。
面接指導は、産業医が選任されている事業場は、産業医が実施するのが一般的です。産業医が選任されていない事業所は、地域産業保健推進センター等を利用して実施するようにしましょう。
ⅱ長時間労働における面接指導の対象者
働き方改革関連法により、平成31年労働安全衛生法が改正され、長時間労働対策が強化されました。
その改正に伴い、医師による面接指導の対象者が拡充されました。
面接指導の対象者は下記の通りです。対象者には管理監督者も含まれることに注意しましょう。
このとき、 労働者本人から面接指導の申し出があった場合は、疲労の蓄積があると認められるものとして取り扱います。
労働者本人からの面接指導を希望するといった申し出がない場合は、面接指導の実施は努力義務となります。
一般的には、労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストを用いて状況を把握し、高得点となった労働者もしくは面談を希望した労働者を対象に、面接指導を行っている事業場が多いようです。
ただし、本人から 面接指導の申し出がない場合も、事業者は、時間外・休日労働が80時間を超えた労働者本人と産業医に対して、長時間労働が発生したことを通知しなければならない ことが、安全衛生規則第52条に定められています。
この基準に該当しない場合でも、疲労の蓄積や健康への不安を労働者が感じている場合は、産業医や産業看護職に相談できる体制を整備しておくことが重要です。
そのためには、相談窓口の設置、長時間労働のリスクの啓発や事業場の取り組みについての周知を日頃から実施しておくことが重要です。
ⅲ面接指導の流れ
労働安全衛生規則には、長時間労働者の面接指導にあたり、
①労働者の勤務状況、②労働者の疲労蓄積の状況、③労働者の心身の状況を確認すると定められています。
面接指導の対象者には、面接指導対象者となった旨を通知し、事前に問診票や疲労蓄積度チェックリストを配布、記入してもらうと面談をスムーズに実施することができます。
面接指導を実施する前には、事業者は、問診票や疲労蓄積度チェックリストの回答と健康診断の結果や過去の労働時間、既往歴や現病歴、業務内容等の労働者本人についての情報を産業医に提供しておく必要があります。
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対象者が多い場合には、産業医面談の実施に先駆けて産業看護職が面談を実施し、面談の結果を産業医に共有した上で産業医が必要と判断したケースにはついては、産業医が面接指導を行うというようなやり方でもよいでしょう。
ⅳ面接指導の事後措置について
事業者は、面接指導の実施後は面接内容を記録し5年間保存しなければなりません。
また、面接指導を実施した医師の意見に基づき必要と認められる場合には、事業者は事後措置を行わなければなりません。
事後措置の具体例としては、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮や深夜業の回数減少などがあります。
また、長時間労働の実態や事後措置の内容については、個人が特定されないよう配慮したうえで衛生委員会への報告し審議することも必要です。
5 おわりに
産業看護職は、事業場や業務の特性を理解している一番身近な専門家といえます。
その特性を活かし、事業場の自主的な基準の設置や、長時間労働による健康障害の防止のための取り組みについて事業者とともに考え、自らも主体的に取り組むことが重要といえます。
過重労働対策は、労働者の命と健康を守るためにも、事業場を守るためにも産業看護職にとって最も重要な業務のひとつです。
法的背景を理解したうえで、関係職種が連携し、事業場のニーズに応じた形で実施できるよう、産業看護職には総合的な対応と調整が求められます。
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執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医
参考文献:
参考:過重労働による健康障害を防ぐために|厚生労働省
参考:医師による長時間労働面接指導実施マニュアル|厚生労働省
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投稿を表示企業内で保健師しています。
残業時間削減には、本人の業務効率化も必要ですが、会社も職場環境調整改善に取り組む必要があるのに、「会社、産業医面談させておけばよい、と思ってる?」と感じてしまっている保健師です。
会社も上司も高残業者本人任せな感じなので、「産業医面談で対応できることは体調面の相談や解決支援であって、職場環境改善は会社と上司も対応が必要です。会社も上司が本人と話し合うことも必要です!」と進言したりしますが、会社も上司も動いてない様子。
「保健師としては会社に進言した。」との記録を残し、「社員の話を聴く。寄り添う。」以外で、他に保健師にできることあるのか、悩みながらが、私の保健師としての対応です。「適切な方法で、事業所が実施できるような支援」は、難しいです。
資料、流れが理解しやすかったです。ありがとうございます!
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