個人情報の取扱いって?産業保健スタッフが健康情報を取り扱うためのポイントについてわかりやすく解説
産業保健の現場では、従業員の健康管理に伴い様々な情報を取り扱います。特に、健康情報は、従業員にとって機微な情報も含まれており、適切な取扱いが必要です。
事業者は、従業員が安心して産業医等による健康相談を受けられるようにするとともに、必要な情報を取得することで、健康確保のために適切な措置を行うことが求められます。
この記事では、産業保健スタッフが覚えておきたい個人情報の取扱いや健康情報取り扱い規定の策定についてお伝えいたします。
目次
1.個人情報と要配慮個人情報
2.職域における守秘義務
3.産業保健における従業員の健康情報の取扱いの原則
4.健康情報取扱規程の策定
5.まとめ
1 個人情報と要配慮個人情報
産業保健業務において労働者の情報を取り扱うときにも、個人情報保護法にそった対応が必要です。個人情報保護法において、個人情報とは、生存する個人に関する情報で あって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものをいいます。個人情報は基本的に保護され、本人の同意なく、第三者に開示されることがないのが原則です。
中でも、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮を要するものとして「要配慮個人情報」が定められています。要配慮個人情報のうち、心身の状態に関するものとしては、身体障害、知的障害、精神障害等の心身の機能の障害、健康診断その他の検査の結果、本人に対して医師等により行われた心身の状態の改善のための指導、診療などがあげられます。
つまり、労働安全衛生法に基づき実施する健康診断の結果や、労働者の健康確保措置のための活動を通じて得られる労働者の心身の状態に関する情報、いわゆる「健康情報」は、基本的には「要配慮個人情報」に該当します。
2 職域における守秘義務
職域において健康管理を行う医師、看護師、保健師、衛生管理者等については、それぞれ以下の法令により守秘義務が定められています。
●医療関係資格に関わる個人の守秘義務
刑法第134条において
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6カ月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。」として、守秘義務を課しています。
●看護師・保健師等の守秘義務
保健師助産師看護師法において
「看護職は業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならないことが述べられており(第42条の2)、これに反した者は、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処される(第44条の3)」と 守秘義務が明確に規定されています。
●労働安全衛生法に基づく健康診断や面接指導に関する業務を行う者の守秘義務
労働安全衛生法第105条(健康診断等に関する秘密の保持)において
「(法令に基づく健康診断や面接指導等の)実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはいけない」として、守秘義務を課しています。
これは、健康診断業務に従事する衛生管理者、産業医、産業看護職などが該当します。
3 産業保健における従業員の健康情報の取扱いの原則
労働者の健康情報は、守秘義務に基づきプライバシーを守って管理することが求められていますが、その一方で、企業が適切に安全配慮義務を果たすために、必要な情報を事業者や職場に確実に伝える必要があります。
また、労働安全衛生法において、企業の健康診断の実施主体は企業であり、健康診断結果についても事業者が保管・管理する必要があります。産業保健専門職は、従業員のプライバシー保護と、企業としての安全配慮義務や健康管理の両面を、常に考えながら健康情報を取り扱う必要があります。
原則的には、労働者の健康情報を事業者に共有する際は、本人の個別同意を取得することが適切です。しかし、安全配慮義務履行のために情報共有が必要な場合であっても、本人の同意が得られない場合もあります。個人情報保護法における「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、本人の同意を得ることが難しい場合でも、事業者と連携することが重要です。
また、「健康診断の受診の有無」などは、従業員の健康情報には該当せず、事業者が本来把握すべき情報として取り扱うことができます。
4 健康情報取扱規程の策定
2019年4月から、働き方改革関連法の施行に伴い労働安全衛生法が改正されました。改正104条「心身の状態に関する情報の取扱い」という規程が新設されたことにより、企業には、従業員の健康を管理するための必要な措置として、「健康情報等の取扱規程」を策定することが義務づけられています。
従業員の健康情報取扱規程には、健康情報の範囲、管理体制、本人同意の取得方法などのルールを決める必要があります。例えば、健康診断の結果データを閲覧できるのは誰か、休業や職場復帰のときに本人が会社に提出した診断書を閲覧できるのは誰か、など、情報の種類ごとに取扱いの範囲を定めていきます。
取扱規程に定めるべき事項は、以下の①~⑨があげられます。厚生労働省が2019年3月に公表した「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」に詳しく解説されています。
① 健康情報等を取り扱う目的及び取扱方法 ② 健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲 ③ 健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得健康情報等を取り扱う者の権限 ④ 健康情報等の適正管理の方法 ⑤ 健康情報等の開示、訂正等の方法 ⑥ 健康情報等の第三者提供の方法 ⑦ 事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項 ⑧ 健康情報等の取扱いに関する苦情処理 ⑨ 取扱規程の労働者への周知の方法 |
5 まとめ
健康情報の取扱いについて、従業員が不安を抱かないよう、安心して自身の健康に関する情報を事業者に提供できる環境を整備することが必要です。産業保健専門職として、健康情報が適切かつ円滑に取り扱われるよう、事業者や人事担当者をはじめとする関係者と連携を取っていくことが重要です。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医
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■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.
五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.
事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(2019).
労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する
指針.改正(2022).
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現在勤務している事業所は衛生管理者が人事も兼務しています。
それはよくある事ですが、その衛生管理者と人事トップによるハラスメント等が原因でメンタル不調を起こしている従業員が複数います。当然、ご本人達はかかる不利益等を心配し、同意が得らるはずもなく、詳細の共有もできていません。しかし、「面談をしている限り情報は共有すべき」「我々は第三者に値しない」と主張され、「そのまま面談カルテを見ることもやぶさかではない」とまで言っています。
私としても放置出来ず、産業医面談を通しての共有や、人事・総務部(該当職場)の職場環境改善活動などを実施してはいますが、社内のキーパーソンとなる彼らとの情報共有のあり方に悩んでいます。
※法律や例外事項等をみてもしっくりこず。
彼らの上司にあたる方にその旨を相談したところ、役職者向けの研修をすぐ計画いただきましたが、限られた人員の中で担当を変えるなどの根本的解決は難しい、との返答でした。
法的根拠や判例など含め、アドバイス頂ければ幸いです。
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