職場でのメタボ予防とは?産業保健師ができる従業員の生活習慣改善
「職場でのメタボのリスクって何がある?」
「従業員の生活習慣改善をどのようにサポートすればいいんだろう…」
従業員の中に生活習慣の改善が必要な人がいて、なかなか成果が得られず指導に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。メタボリックシンドロームの予防や改善には、事業者による職場環境づくりと、産業保健師による専門的支援の両方が重要です。産業保健師は事業者や産業医と協働しながら産業保健活動を推進します。従業員が主体的に行動変容できるよう伴走しましょう。
本記事では職場でのメタボリックシンドローム予防の考え方と、産業保健師が支援できる具体的な方法を解説します。この記事を読めばリスクや予防策が理解でき、継続的なフォローアップができるようになるでしょう。
<目次>
1.メタボリックシンドロームとは
2.メタボリックシンドロームの一般的なリスク因子
3.職場におけるメタボリックシンドロームのリスク因子
4.メタボリックシンドロームの予防と生活習慣改善
5.まとめ:メタボリックシンドロームのリスクや予防策について理解し継続的なフォローアップができるようになろう
1.メタボリックシンドロームとは
メタボリックシンドローム(メタボ)とは、内臓脂肪の蓄積に加えて血圧や血糖、脂質異常のうち2つ以上が基準値を超えた状態です。動脈硬化や心血管疾患など深刻な健康リスクが高まることが明らかになっています。
特定保健指導の対象になる階層化基準とは異なり、診断基準は内臓脂肪の蓄積を必須項目とする点が特徴です。特定保健指導はより包括的に生活習慣病リスクを評価し、指導対象者の分類を行います。メタボリックシンドロームは内臓脂肪型の肥満が引き金となって複数の危険因子が重なった状態といえます。
2.メタボリックシンドロームの一般的なリスク因子
メタボリックシンドロームの一般的なリスク因子は、内臓脂肪の蓄積です。内臓脂肪が増えると、脂肪細胞から炎症性サイトカインが分泌され、インスリンの働きが低下します。結果的に血糖や中性脂肪、血圧が上昇し動脈硬化が進行するのです。さらに、交感神経の緊張やホルモンバランスの乱れにより代謝異常を悪化させる可能性があります。具体的なリスク因子は以下のとおりです。
- 生活習慣
- 運動不足
- 高カロリー食や過度な飲酒
- 喫煙
- 睡眠不足やストレス
- 生理的・加齢的要因
- 遺伝的素因
- 加齢による代謝低下
メタボリックシンドロームの予防には、食事・運動・睡眠など日々の生活習慣を見直すことが最も重要です。
3.職場におけるメタボリックシンドロームのリスク因子
職場での環境や働き方はメタボリックシンドロームの発症リスクに大きく関係します。次に、職場でのリスク因子について具体的に解説します。
■ストレス
職場のストレスはメタボリックシンドロームのリスクを高める要因です。実際に、心理的ストレスは発症リスクを約1.4倍に高めると報告されています。過重労働や人間関係の不調和など心理社会的ストレスが交感神経を活性化するため、食欲増加や脂肪蓄積、血圧上昇を招きます。
産業保健師はストレスが生活習慣に及ぼす影響を踏まえ、事業者や関係部署に改善提案を行います。ストレス要因の把握と軽減策、上司や同僚の支援体制づくりの推進が重要です。心身両面から労働者のメタボリックシンドローム予防を支援しましょう。
■運動不足
勤務による運動不足は職場におけるメタボリックシンドロームの大きなリスク要因です。長時間の座位や筋肉活動の低下は、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性の悪化を招き、高血圧や脂質異常のリスクを高めます。特にデスクワーク中心の働き方では身体活動量が減少し、実際に発症率の上昇が報告されています。
会議の合間にできる簡単なストレッチや立ち作業の導入、休憩時間の軽い運動をすると運動不足の解消に効果的です。産業保健師は働き方に応じた運動習慣を促し、予防につながるよう支援しましょう。
■不規則な食生活
多忙による不規則な食生活はメタボリックシンドローム発症に直結するリスクです。特に、忙しさから朝食や昼食を抜き夜に過食する習慣は典型的な悪循環です。朝食を抜いたり、高脂肪や高糖質の食事を繰り返したりすることで、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性の悪化を招きます。血糖や脂質代謝が乱れ、肥満や高血圧、脂質異常などのリスク因子が増加します。
産業保健師は、従業員へ規則正しい食生活の重要性を啓発し、健康的な食事選択を支援しましょう。食習慣の改善支援こそが、職場での予防の土台です。
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4.メタボリックシンドロームの予防と生活習慣改善
メタボリックシンドロームの予防には、従業員が自ら生活習慣を見直し、健康行動を継続できるような仕組み作りが欠かせません。次に、具体的な支援方法について解説します。
■個別プログラム
従業員の生活状況や希望に応じて、産業保健師が助言や動機づけの支援を行います。産業保健師は、従業員が無理なく取り組めるよう行動目標の設定をサポートすることが重要です。具体的かつ現実的な目標を設定することで、従業員は主体的に生活習慣改善に取り組めます。変化を定着させるためには一度の指導だけでなく、定期的な面談や健康指標の記録確認を通じて、従業員の行動継続を支えましょう。具体的な目標例は以下のとおりです。
- 食事では毎日野菜を一皿増やす
- 運動は週3回
- 1回30分のウォーキングを行う
- 毎晩22時までに就寝する
個別の支援体制を整えることで、生活習慣改善の効果を高めることができます。
■フォローアップ
生活習慣改善プログラムの効果を高めるためには、個人支援と組織全体での評価改善の両面からのフォローアップが重要です。
個人支援の場面では一度の指導で行動変容が定着しにくいため、本人と共有しながら継続的な支援を行います。従業員の体重や血圧、血糖などの健康指標を定期的に確認しましょう。
一方で、衛生委員会への定期報告は個人情報を含まずにプログラム全体の実施状況や効果、課題を共有します。情報共有により労使での合意形成や職場全体の支援体制づくりが促進されます。
個人支援と施策評価を両立させることで、生活習慣改善の定着を図り、健康経営の推進が可能です。継続的な評価と情報共有が成功の鍵となります。
■イベント企画
健康づくりを推進するためには、会社全体で取り組むイベント企画が効果的です。産業保健師は企画内容の助言や従業員への情報提供を行い、健康行動の促進を支援します。会社全体で健康づくりを推進できるよう、イベントの企画を事業者に提案しましょう。イベントの企画例は以下のとおりです。
- 社食や売店で塩分や野菜の量に配慮したメニューを導入する
- 歩数チャレンジやチーム対抗戦の実施
- 社内ウォーキングイベントの開催
イベントを企画することで従業員の運動習慣の定着が期待できます。事業者と産業保健師が協力して、企画内容を評価し改善することが重要です。
以下の記事では、全国の産業保健スタッフから募集した健康施策アイデアをまとめてご紹介しています。運動イベント企画の参考にしてください👇

■健康診断後の事後措置
労働安全衛生法では、健康診断の結果に基づき、従業員の健康保持のために就業上の措置が必要と認められる場合、事業者が主治医や産業医の意見を踏まえて適切な措置を講じることが求められています。就業上の措置としては、労働時間の短縮、業務内容の見直しに加え、必要に応じて部署の変更や配置転換なども検討します。産業保健師は、こうした事後措置が円滑に実施できるよう、産業医・衛生管理者・人事労務担当者・現場の管理監督者など関係者と連携し、情報共有や支援を行う役割を担います。
5.まとめ:メタボリックシンドロームのリスクや予防策について理解し継続的なフォローアップができるようになろう
メタボリックシンドロームは生活習慣や職場環境の影響を強く受ける疾患です。動脈硬化や心疾患の重大な危険因子となります。
職場環境におけるストレスや運動不足、不規則な食生活が発症の大きなリスクです。予防のためには、事業者による組織的取り組みと、産業保健師による専門的支援の両立が欠かせません。具体的な目標設定と継続的なフォローアップを行い行動変容を促しましょう。
また、健康診断結果に基づく受診勧奨や勤務上の配慮などの措置は、事業者が実施します。産業保健師は、産業医の意見を踏まえた助言や従業員へのサポートを行い、適切な対応が取れるよう支援します。職場全体での健康イベントも併せて推進し、効果的な予防をしましょう。
産業保健師は、事業者の健康管理体制を支援しながら、従業員一人ひとりの行動変容を後押しする存在です。職場全体での継続的な健康づくりを通じ、働く人の生活習慣改善と健康経営の推進につなげていきましょう。
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■参考
1)新たな健診・保健指導と生活習慣病対策|厚生労働省
2)メタボリックシンドロームの診断基準|健康日本21アクション支援システム
3)職場のストレスによって労働者のメタボリックシンドロームの発症リスクが高まる|北里大学
4)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023|厚生労働省
5)肥満と肥満症について|日本肥満学会/JASSO
6)肥満・メタボリックシンドローム予防の食事|健康日本21アクション支援システム
7)第4期特定健診・特定保健指導の見直しについて|厚生労働省
8)スマート・ライフ・プロジェクト|健康日本21アクション支援システム
9)労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について|厚生労働省
■執筆/監修
<執筆> 百田れんか (看護師×Webライター)
総合病院7年間勤務後、出産を機に医療Webライターへ転職。
現在は医療や健康をテーマに記事執筆を行い、産業保健や健康経営に関する情報発信にも携わっている。
看護師としての知識を土台に、働く人々の健康を支えるライティングを実践。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
