女性のメンタルヘルス。育児と仕事の両立
2021年の国民生活基礎健康調査の結果によると、18歳未満の子供がいる世帯のうち、母親が働いていると答えた割合は75.9%となり、過去最高となりました。
また2021年の出生動向基本調査では、2015年と比較すると、第1子出産以降の就業継続割合は 57.7%から 69.5%へと上昇しています。
つまり、妊娠・出産後も就労を継続する女性の割合は増えており、女性が働きやすい職場環境づくりを推進する企業が増えています。産業保健においても、育児中の女性労働者への健康支援は重要な課題となっています。
本記事では、育児をしながら働く女性のメンタルヘルスと職場における取り組みについて解説します。
目次
1.育児をしながら働く女性の現状
2.育児をしながら働く女性のメンタルヘルス
3.職場でできる取り組みと支援
4.まとめ
1. 育児をしながら働く女性の現状
■女性の就業率の推移と就業形態
【就業率】
日本の女性の就業率は、「25~29歳」(87.7%)と「45~49歳」(81.9%)を左右のピークとして、「35~39歳」(78.9%)を底とするM字型カーブを描いていますが、M字型の底は、年々上昇傾向にあり、M字型から台形に近づきつつあります。
【就業形態】
日本では、女性のパートタイム労働者の比率が増えています。一般的にパートタイム労働への従事は、家計の補助的な収入を担うためにしていることが多いといわれています。働き方としては、臨時的、一時的な就業に留まるところも多いのが現状です。
■女性の就業率と3世代同居
30歳台、40歳台における女性の就業率は地域差があります。北陸の就業率はいずれの年齢階級においても高く、東北、中国、四国、九州・沖縄といった地域の就業率も全国平均を上回っています。一方、南関東や近畿といった大都市や、北海道の就業率は全国平均を下回っており、3世代世帯の占める割合と一致しています。また、2015年の厚生労働省の調査によると、親世代との同居や近居を理想とする人が過半数となっており、子育て世帯は近居を希望する傾向が強いことがわかっています。
■育児休業の取得と男女差
育児休業の取得状況はこの10年間で2倍以上増加しており、育児休業が定着し、育児をしながら働き続けたい人が増えていることがわかっています。しかし、女性の育児休業取得者は2007年時点で9割近く、その後は8割台で推移している一方、男性の育児休業取得者は増加傾向にあるものの、1割未満にとどまっており、女性の取得に比べ男性の取得は著しく低いのが現状です。
現在は共働き世帯が標準となっていますので、子育ての多くを女性が担っていることがわかります。
2. 育児をしながら働く女性のメンタルヘルス
現代社会において、女性の地位は男性と変わらないほどにまで確立されてきています。しかし「育児」は女性が担っている確率が依然として高いのが現状です。
出産や育児は、女性にとって大きな喜びがあるものですが、様々な変化が余儀なくされ、さらに育児と仕事の両立は心理的にも身体的にも負担がかかります。
日本の現状からも、育児をすることにより、就労を継続することを諦める人や、就労していたとしても継続的な働き方を諦める人が多いことがわかります。
その一方で母親が就労し、妻や母親といった家庭以外の役割を持つことは、自己肯定感を高める機会となり、生活の満足感につながるともいわれています。就労していることそのものが、産後の女性の経済的自立や配偶者以外からのソーシャルサポートを得る機会にもなり得ます。
日本においても、就労していない母親と比べて、就労している母親は産後うつが少なく、特に専門技術職の母親の就労は、メンタルヘルスに良い影響を与えるという研究結果も報告されています。
つまり、育児と仕事の両立は葛藤を抱えやすく、心身ともに負担がかかりやすい事実はあるものの、就労そのものが育児中の女性にとってメンタルヘルスに悪い影響を与えるわけではないといえます。
■育児をしながら働く女性のストレス要因
女性が育児をしながら働き続けるためには、本人の職場環境、配偶者の職場環境、保育園などの支援環境、親類などの育児支援、夫婦の家事・育児の協力関係や子供の健康状態などが大きく影響します。両立に困難を感じている場合や、メンタルヘルス不調となる場合には、これらの要因が複数絡まっていることがほとんどです。
【仕事のストレス要因】
- 雇用の不安定性
- 採用や昇進の側面で子育てを理由とした差別を受けることがある
- 裁量権のなさ
- 柔軟な勤務が取りづらい
- 家庭の都合による休暇が取りづらい
- スケジュールが自分で調整しにくい
- 仕事と家庭の調整に対するコントロール感が低い
- 上司や同僚の支援の少なさ
【仕事以外のストレス】
- 子供の発達への不安や育てにくさ
- 母親という役割そのものに関する負担感やストレス
- 子供の健康状態
- 「いい母親」であることへの期待
- 子供のスケジュールにあわせる必要があり、コントロールが難しい
- 受験や進学などのイベント
3. 職場でできる取り組みと支援
育児休業、介護休業や、子の看護休暇、育児時間など、育児と就労の両立支援のための法令があり、それらを取得することによる不利益な取り扱いも禁止されています。しかし、多くの職場では公正な業務分担や評価が難しいのが現状です。
特に規模が小さい職場は、子供の体調不良による予測不能な欠勤や、育児をしながら働く人に対する業務調整により、管理職が対応に苦慮する場面も多くあります。育児をしながら働く女性だけでなく、その人達を支える管理職や周囲の人のケアも重要といえます。
また、育児をしながら働くためには、今までの仕事のやり方が通用しないことも多いため、本人が、変化に対して柔軟な姿勢や考えを持つことも重要です。
【職場における取り組みの例】
- 休暇制度や柔軟な働き方などについて衛生委員会等を活用し、審議する
- 就業規則の整備
- 育児をしながら働く女性についての理解を管理監督者を中心に啓蒙する
- ソーシャルサポートが不足している育児中の女性に、活用できる行政や民間のサービスなどの情報を提供する
- 育児休業から復職した後、人事や産業保健スタッフと面談する機会をセッティングし、相談窓口として紹介する
4. まとめ
少子高齢化が進む日本において、女性の就労支援が企業には求められています。育児をしながら働く女性は増えている一方で育児や家事の負担は女性にかかりやすく、葛藤を抱えていたり、働き続けられない人が多いのが現状です。
本記事では女性に焦点を当てて解説しましたが、男性のみで育児をしている労働者ももちろん存在しており、課題を抱えているケースもあります。育児をしている労働者のもつ背景は様々であり、「育児や家事は女性が担うものである」という社会通念は、そのような労働者に対しても働きにくさなどの影響を与えている可能性があります。
産業保健スタッフは、育児を抱えながら働く労働者の現状や、そのストレス要因を理解したうえで、労働者や企業、事業場のニーズをくみ取り、個別に応じたケアを実施する必要があります。
育児をしながら働きやすい職場環境を整備するために衛生委員会を活用して助言したり、当事者へのケアはもちろん、周囲で働く管理監督者や労働者に対する支援も求められています。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考資料
1) 佐々木那津.産業精神保健31(1): 21–24, 2023. 産業精神保健学会
2) 千葉大学教育学部. 久保恵子. 保育園児を持つ母親の仕事と子育ての葛藤. 2015
3)内閣府. 令和2年度年次経済財政報告