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女性が活躍できる職場づくり 産業医にできる支援とは?

少子高齢化が進む日本では、女性が働かないと労働力が確保できない時代となっており、国が女性の社会進出を推進しています。
企業にも女性が働きやすい職場環境づくりが求められています。
本記事では、女性の就業についての歴史、社会問題、健康問題などについて産業保健スタッフができることについて説明します。


【目次】
1. 女性労働者の健康課題と男性の家事・育児参加
2. 社会・文化的問題と働く女性の健康リスク
3. ワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み



1.女性労働者の健康課題と男性の家事・育児参加

女性労働者に関連する法規制の歴史

女性労働者に関連する法規制

1985年の男女雇用機会均等法の成立により、あらゆる職種で女性の深夜労働が広がり、職業選択の自由も拡大しました。
さらに2015年には女性活躍推進法という名前の法律まで登場しています。
現代は女性が働かないと労働力が確保できない時代となっており、女性保護として守るよりも、ひとりひとりの個別の事情に合わせた就業配慮が求められる時代になってきています。


リプロダクティブヘルスとは

リプロダクティブヘルス(Reproductive Health and Rights)とは、日本国際保健医療学会の国際保健用語において、『人間の生殖システム及びその機能と活動過程の全ての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあること』を指します。年代ごとにこのリプロダクティブヘルスも変化します。


年代ごとのリプロダクティブ・ヘルスの健康課題と労働

また、男女ともに長期休業の原因疾患としては、メンタル疾患がトップになるのですが、次に多いのは新生物つまり、がんです。


がん患者と就業

定年退職後は男性のほうが格段にがんの罹患者数が増えていきますが、働く世代としては、女性のがんの罹患率が高くなる特徴があり、女性のがん対策は産業保健において重要な課題といえます。


女性の就業継続と男性の家事育児参加の関係

日本や韓国に比べ、欧米諸国は女性の社会進出が進んでいます。そして、そのような国ほど合計特殊出生率が高い傾向にあります。
また、日本の男性は6歳未満の子供をもつ場合の家事育児関連時間は1時間程度であり、国際的にかなり低水準であるといわれています。

夫の家事育児時間が長いほど、第1子出産前後の妻の就業継続割合が高くなり、家事育児時間が長い夫がいる夫婦の第2子の出生の割合が高くなるというデータもあります。

このような背景から、日本では2022年4月に改正された育児介護休業法で、いわゆる産後パパ育休が新設されました。
男性の家事育児参加率と出生率は相関関係にあり、男性に育休制度があるということは日本の少子化問題においてはとても重要です。

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2.社会・文化的問題と働く女性の健康リスク

社会・文化的性差としての課題

日本における課題を下記に4つ挙げました。

  • 雇用形態の違いによる健康格差
  • 家事育児介護時間の違い
  • 人間関係や役割分担における心身の不調への影響
  • ジェンダーギャップの存在

少子高齢化は進行しており、女性には、労働力として社会に貢献することが求められている一方で、妊娠適齢期はキャリア形成期と重なってしまいます。
子供一人あたりの養育費はどんどん高騰しており、必然的に共働き世帯が増加していくことは避けられない風潮であるといえます。また、政府が女性の活躍を推進してくれるのはありがたいと思う反面、そもそも女性自身が出世を望んでいないケースもよく耳にします。

働き方改革は女性にとっていいことだとは思うのですが、働き方改革のなかに家事労働は少しも入っていません。この家事労働をどう考えていくかも課題といえます。


就労期女性の健康リスク

就労期女性の健康リスクの特徴


いずれの健康リスクも、QOLを損なう病態が多くて、アブセンティーズムよりもプレゼンティーズムに影響を与える疾患や症状が多い特徴があります。


女性ホルモンの影響

女性ホルモンは、排卵期、黄体期、卵胞期のサイクルを月1回繰り返しているのですが、
現代女性は昔の女性と比べて女性ホルモンにさらされる機会が増加しており、働くうえで不調を来たしやすい原因となっています。


女性特有の健康課題についての行動を促すための取り組み

経済産業省から、『健康経営における女性の健康の取り組みについて』が発表されており、そこから引用した取り組みを下記にあげます。

  • がん検診受診の促進
  • がん治療のための休暇・休職制度、柔軟な勤務体制の整備
  • 妊婦検診など母性健康管理のためのサポート
  • 不妊治療のための休暇・休職制度
  • 女性特有の健康課題への相談窓口の設置
  • 女性特有の健康課題への社員向けセミナー・啓発など

これらの取り組みはとても重要だと思いますが、女性自身が知識を持ち、自分の人生をライフステージ別に考えていく機会を提供していくことが重要だと感じています。

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3.ワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み

HPVワクチン接種についての世界の取り組み

子宮頸がんは、女性がなるがんのなかで、世界的には2番目に多いがんです。
子宮頸がんの大部分は、HPVウイルスが子宮頸部に感染することが原因とされており、性交渉の経験のある女性のほとんどが感染するといわれている身近なウイルスです。

世界的には、2007年からHPVワクチンの接種が開始され、現在は100か国以上で定期接種ワクチンとなっています。HPVワクチンを積極的に接種している国では、ワクチン接種を受けた世代の女性において子宮頸がんの発生率が90%減少しており、非常に効果があるワクチンといえます。


日本でのHPVワクチンの副反応問題

日本では、2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されましたが、接種部位以外の体の広い範囲で持続する疼痛等が報告され、それについてメディアが積極的に報じたことで、厚生労働省がHPVワクチン接種の積極的な勧奨をやめてしまいました。

名古屋大学の研究により、HPVワクチンと副反応は因果関係なし、という結果が出ていますがこれについてはメディアはほとんど報告しませんでした。
日本では積極的な勧奨を控えて約10年たちましたが、子宮頸がんに年間1万人が罹患して3000人近くが死亡しています。

日本での定期接種の再開において、一番課題となっているのがWHOが提唱しているワクチン接種ストレス関連反応といわれる概念です。


社会・文化的性差としての課題


厚労省による疫学調査や名古屋スタディーの結果からも、HPVワクチンの成分と多様な症状の因果関係は証明されていません。


子宮頸がん排除に向けての世界の動き

2019年に、子宮頸がん排除に向けた世界戦略をWHO事務局が策定するという大きな動きがありました。

子宮頸がんの罹患率は、地域によって罹患率が大きく異なり公衆衛生において脅威とされています。
先進国でも、早くワクチン接種が国費で実施されるようになった国は、10万人あたりの罹患率がかなり少ないことがわかっています。それに比べて日本は、先進国にも関わらず罹患率が高い状況です。

WHOは、2030年の介入目標を立てています。
15歳までの既定のHPVワクチン接種率を90%にするとされていますが、日本は積極的勧奨をやめたあとのワクチン接種率は数%です。90%まであげていくためには、今後の活動が非常に重要となります。


日本における今後のワクチン接種について

日本では、2022年4月に積極的勧奨が再開されています。


積極的接種勧奨の再開

職域においてワクチン接種勧奨のために産業保健スタッフができること

ワクチン接種勧奨のために、専門職としてできることとして、実際に行われた4つの事例をご紹介します。

  • 入社時の健康診断で子宮頸がんワクチンの接種歴を確認し、接種歴のない方に産業保健スタッフが個別に勧奨する
  • ワクチン接種対象者の子供をもつ社員と産業保健スタッフで座談会を開催して、社内イントラでアップして考える機会を提供する
  • 健康保険組合とタイアップして対象年齢の女性従業員を集めた衛生講話を社内で実施し、近隣の接種可能な医療機関を紹介する
  • 労働組合と産業保健部門がタイアップして従業員に対するHPVワクチンの情報提供・接種勧奨を実施する

これらの活動は、誰かがやろうと思わないと動きません。
ご自身の事業所でできることを考えていただき、実施していただけたらと思います。

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情報提供者


大津真弓先生

産業医科大学卒業(2002年)
双子の妊娠・出産を機に独立
北関東で産業保健サービスを展開中
自治医科大学大学院 医学研究科 博士課程修了(2017年)


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