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「妊娠中、産後の女性労働者の健康管理」チェックリスト/解説記事/手順書

働く女性の数は増え続けており、職場における女性の割合も年々上昇しています。出産で退職することによる経済的損失は、約1兆7億円にものぼります。これは、個々の女性の収入が減少するだけではなく、女性が働いていた事業場に対しても大きな労働損失になります。
第1子を出産する前後で働き続ける女性の割合は、5年間で50%台から70%に上昇 しており、2015年から2019年にかけて出産した女性労働者のうち、約69.5%が職場にとどまっています(第16回出生動向基本調査より)。妊娠や出産後も仕事を続けられる環境を整えることは、職場にとっても労働者にとっても大きな利点があり、対策の実施は非常に重要です。

今回は、妊娠中や産後の女性が働き続けるために、事業場に義務付けられている健康管理の対策について説明します。


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化


※チェックリストはExcel形式でダウンロードしてご活用いただけます。



STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック


それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。

■母性健康管理・母性保護について
■事業場における母性健康管理の措置
■母性健康管理の環境整備
■妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益な取扱いの禁止
■紛争の解決
■まとめ


■母性健康管理・母性保護について


母性健康管理・母性保護について母性健康管理・母性保護とは、妊娠中の女性や産後の女性が、安全かつ安心して職場で働けるように、仕事の負担を適切に調整したり、働きやすい環境を整えたりする取り組みです。
法律的には、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律;男女雇用機会均等法に定める「母性健康管理」の取り組みと、労働基準法;労基法における「母性保護」の取り組みの2つがあります。
その他、母子保護法、労働安全衛生法;安衛法、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律;パートタイム労働法、次世代育成支援対策推進法などにも、母性健康管理や母性保護に関連する規定があります。
母子健康管理法令


■事業場における母性健康管理の措置


事業場は、法律に基づき、妊娠や出産の時期に必要な対応を行う義務があります。
ここでは、その時期ごとに必要な対策をみていきましょう。
事業場における母性健康管理の措置
※制度利用における証明書類の注意点
仕事上の配慮や必要な措置を実施するために、女性労働者の同意を得た上で、出産予定日などを証明する書類の提出を求めることができます。
しかし、母子健康手帳そのものを開示させることは、プライバシー保護の観点から好ましくありません。母子健康手帳には、母体や胎児の検査結果などの機微なプライバシー情報が含まれています。表紙のコピーを証明書類とするなど、柔軟な対応が必要です。


▼一緒に見たいコンテンツ▼
健康情報取扱規程

【妊娠がわかったら】

妊娠・出産時に利用できる制度の周知(男女とも)日頃から労働者が利用できる制度等について、社内イントラ等を利用し、周知しておくことが必要です。妊娠が判明したら、早めに申し出をしてもらうよう指導することも必要です。本人や配偶者が妊娠したことを職場で言い出しやすい環境づくりが求められます。

事業者は、労働者が、本人またはその配偶者が妊娠・出産したこと申し出たときは、育児休業等に関する制度の周知と、育児休業の取得の意向の確認を、個別に行わなければなりません。
個別に周知する方法としては、面談、オンライン面談、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかになります。
ただし、FAXや電子メールについては、労働者が希望した場合のみとされています。申し出たことを理由に解雇その他不利益な取り扱いをすることは禁じられています。制度の利用を控えさせるような形での個別周知は認められておらず、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」に該当します。(育児・介護休業法第21条)

妊婦健診(健康診査・保健指導)を受けるための時間確保妊娠中の女性は、妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24週から35週までには2週間に1回、妊娠36週以降は1週間に1回の妊婦健診(健康診査・保健指導)を受けることになっています。
事業者は、女性労働者からの申出があった場合に、勤務時間中に妊婦健診(健康診査・保健指導)を受けられるよう、必要な時間を与える義務があります(男女雇用機会均等法第12条)。健康診査や保健指導を受ける時間、医療機関への往復の移動時間などを考慮した、十分な時間を確保してください。ただし、女性労働者が自ら希望した場合は、就労時間外に妊婦健診を受けても問題ありません。

妊婦健診を受けるために必要な時間の付与方法や付与単位、また、その時間の給与の支払いの有無については、事業者が決定することになりますが、その方法等については衛生委員会等の場を活用し、労使で話し合い、就業規則等に明記することが望まれます

女性労働者が事業者に対して、妊婦健診に必要な時間を申請する際には、「通院の日付」、「時間」、「医療機関等の名称・所在地」、「妊娠週数」などを含む書面で申請することが望まれます。申請様式としては、以下の資料に含まれる「健康診査・保健指導申請書」を参考にするとよいでしょう。

【妊娠中】

医師からの指導事項を守るための措置妊娠中や産後の女性の健康を守るために、健康診査や診察を行った医師が指導を行うことがあります。事業者は、その指導を守ることができるよう、勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置を行うことが義務付けられています。(男女雇用機会均等法第13条)
当該労働者に対する医師等の指導内容を、事業者に明確に伝えるために、「母性健康管理指導事項連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」が使われています。これは、医師が事業者にあてて作成する正式な書類です。

事業者が講じなければならない措置は、下記の通りです。
●休業の措置(自宅療養もしくは入院が必要な場合)
●勤務時間の短縮
●作業の制限(長時間の立ち作業など、身体的負担の大きい作業について)
●妊娠中の通勤緩和
●妊娠中の休憩に関する措置
●妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置

これらの措置を決定した際は、当該女性労働者に対して、決定内容を迅速に、できれば書面で明確に伝えることが必要です。また、措置の内容について検討する際、女性労働者を通じて主治医に意見を確認したり、産業保健スタッフに相談したりするなど、連携することが求められます

労基法における母性保護規定労基法では、妊娠中の女性には、妊娠・出産・授乳などに有害な業務を行わせることは禁止されています。また、妊産婦(ここでは、妊娠中または産後1年を経過しない女性)から請求があった場合、労働時間の制限や、作業負荷の軽い業務への転換義務などが定められています。

<労基法における母性保護規定>
●妊産婦等を妊娠、出産、哺育(授乳)等に有害な業務に就かせることは禁止されています。(労基法第64条の3)
●妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させることが義務付けられています。(労基法65条3項)
●妊産婦が請求した場合には、変形労働時間制がとられる場合にも、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることはできません。(労基法第66条1項)
●妊産婦が請求した場合には、時間外労働、休日労働又は深夜業をさせることはできません。(労基法第66条2、3項)

<妊産婦等の就業制限の業務の範囲> 妊産婦等の就業制限の業務の範囲

<別表1:重量物を取り扱う業務における重量制限>別表1:重量物を取り扱う業務における重量制限
<別表2:有害物を発散する業務について>別表2:有害物を発散する業務について

【産前・産後】

産前・産後の休業について産前には、出産予定日の6週間前から(多胎妊娠の場合は14週間前から)、女性労働者が申し出た場合に限り、就業が禁止されます。

産後は、出産後8週間は女性を職場に復帰させてはいけません。ただし、本人が希望し、医師が問題ないと判断した場合には、6週間を過ぎたら就業可能です。産後休業において、「出産」とは妊娠4ヶ月以上の分娩を意味し、死産や流産の場合も含まれます。なお、出産日は産前休業に含まれます。(労基法第65条1、2項)

解雇制限産前・産後休業の期間及びその後30日間の解雇は禁止されています。(労基法第19条)

【産後の職場復帰について】

育児と仕事の両立育児休業とは、原則こどもが1歳になるまでの期間、取得が認められている休業で、育児・介護休業法に定められています。事業場の就業規則に育児休業に関する規定がなくても、法律により育児休業を取得すること可能です。会社側は育児休業の申し出を拒否することはできません。
育児期間中の休業や、育児と仕事を両立するための法令や制度は多くあります。育児と仕事の両立支援を図ることは、働きやすい環境づくり、安定した雇用等事業場にとっても多くのメリットがあります
なお、育児休業は実子だけでなく、養子縁組をした子供についても取得が可能です。監護期間中の場合や、里親の場合も含まれます。


■母性健康管理の環境整備


母性健康管理については、女性労働者が妊娠してから始めるのではなく、日頃からそれぞれの役割が連携し、環境を整備しておくことが重要です。
母性健康管理の環境整


社内規則・設備などの整備事業場は、母性健康管理に関する法令に則り、実情にあった制度や設備について整備することが必要です。体制整備については、衛生委員会等の労使協定の場を活用したり、産業保健スタッフ、女性労働者の意見も取り入れるとよいでしょう。

(社内規則・設備などの整備の具体例)
●就業規則への措置内容の明記
●相談窓口の整備
●休憩スペースの確保
●産後の授乳・搾乳室の整備
●妊婦用の制服の導入
●業務の点検・妊娠時の取り決め等

制度の周知・啓発制度や設備を整備したら、女性労働者だけでなく、全労働者に対して利用できる制度や設備を周知することにより、母性健康管理の重要性について理解を促すことにつながり、またそれらを利用しやすい雰囲気づくりにつながります。
(周知の例)
●就業規則の配布
●マニュアルの作成、配布
●イントラネットへの掲示

教育研修の実施事業場は、必要に応じ、様々な機会に母性健康管理の必要性や関連制度をはじめとした制度についての理解を深めるための機会を設けることが大切です。管理職は、妊娠の報告や相談を受けることが多いため特に重要です。
制度については人事労務部門、妊娠中の症状や配慮すべき内容等については、健康管理上の視点から産業保健スタッフが研修を担当するのも良いでしょう。


■妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益な取扱いの禁止


女性労働者が妊娠・出産・産前産後休業の取得、母性健康管理措置や母性保護措置を受けたことなどを理由として、事業者は解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。(男女雇用機会均等法第9条)
妊娠中・産後1年以内の解雇は、「妊娠・出産・産前産後休業を取得したこと等による解雇でないこと」を事業主が証明しない限り無効となります。

不利益な取扱いと考えられる例
●解雇すること
●期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
●あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
●退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更を強要すること
●降格させること
●就業環境を害すること
●不利益な自宅待機を命ずること
●減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
●昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
●不利益な配置の変更を行うこと
●派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

事業場は、必要に応じ、様々な機会に母性健康管理の必要性や関連制度をはじめとした制度についての理解を深めるための機会を設けることが大切です。
また、事業者は職場における妊娠・出産等に関するハラスメントを防止する措置を講じなければなりません。詳細は下記をご参照ください。

▼法令チェック-ハラスメント対策▼
ハラスメント対策


■紛争の解決


母性健康管理の措置が講じられず、事業者と労働者との間に紛争が生じた場合、労働局長による援助及び調停による紛争解決援助の申出を行うことができます。
(男女雇用機会均等法第15~第27条)


■まとめ


女性労働者にとって、妊娠・出産は極めて重要なライフイベントであり、心身共に大きな負担がかかります。女性労働者が安心して妊娠・出産できるよう、その状態に応じた業務負荷を調整したり、労働環境、体制を整備したりする等の配慮が必要です。
妊娠・出産による体調の変化は個人差が大きく、また周囲で働く労働者への配慮も必要となり、これらを実現するためには、産業保健スタッフのきめ細やかな対応が必要です。
これらの体制づくりを日頃から実施することで、妊娠・出産しやすい風土や雰囲気づくりを目指しましょう。

 

STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。

妊娠中、産後の女性労働者の健康管理

手順書を無料でダウンロードする

※手順書はWord形式でダウンロードしてご活用いただけます。

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