産業保健活動のための効果的な多職種連携とは?ケース対応のポイント、タイプ別人事担当者へのアプローチ
産業保健の現場において、円滑に業務を進め、個人、組織の課題を解決するためには、多職種連携が不可欠です。就労に伴う課題の解決は、産業医だけでも、産業看護職だけでも、また人事担当者だけでもうまく進めることはできません。
効果的な多職種連携における、ケース対応のポイント、タイプ別人事担当者へのアプローチについて、学びを深めていきましょう。
【目次】
1.ケース対応における工夫~連携のポイント
2.人事担当者のタイプ別アプローチ
1.ケース対応における工夫~連携のポイント
今回は、社内のケース対応を進めていく上で重要な人事担当者との連携についてお話していきます。多職種連携について、具体的な事例をもとにポイントをいくつか説明していきます。
健康管理を適切に行うためには、関係者の協力やコミュニケーションが重要になります。しかし、それと同じくらい大事なのが、対応の計画策定です。最終的な落とし所をどうするか、そこまでの道筋をどのように描くか、関係者の足並みをどう揃えるかが大切です。
①常に複数の展開を想定しておく
常に複数の展開を考えておき、どんなパターンになっても最終的な落とし所に向かっていけるよう計画を立てます。複数のシナリオを用意して対策を考えておくことで、どんな展開になっても、最終的な落とし所に到達できるようにすることが重要です。
②主治医の診断書に対抗できる根拠を持つ
特に復職支援では主治医が復職可、と判断していても産業医が復職不可と判断することがあります。そのような際に、産業医がなぜそう判断したのか判断の根拠を具体的に説明できることが重要です。
③対立が続くときは、まず会社が一歩譲る
次に説明するポイントは、会社と本人の対立が長引いた場合の対処法です。
時に社員の希望と会社の考えが対立することがあります。こんな時には、会社が先に一歩譲り、その後で本人が一歩譲るという順番で対応すると対立を解消しやすくなります。
④社内の関係者の足並みを揃える
足並みを揃えるというのは、関係者が全員で情報を共有して対応方針についても認識を一致させて、それぞれが役割を果たすという意味です。そのためには情報共有が重要です。
相手の質問の背景にあるニーズを探る
単に相手からの質問に答えるだけではなく、その背後にあるニーズや相手の不安を確認することが重要です。産業保健領域は「マルチクライアント」
産業保健領域のケース対応では、クライアントは社員だけではなく、その上司や人事担当者も含まれます。質問の背景のニーズを確認し、答えることが大切です。人事担当者との定期的な打合せ
定期的な打ち合わせを実施し、コミュニケーションを密に取ることで相談しやすい関係を作ることが重要です。
⑤「これは労務の問題です」の伝え方
最後に紹介するのは、産業医に相談したのに、これは健康管理の問題ではない、労務管理の問題ですと言われ、相談に乗ってもらえず困ることがあるケースについてです。
このような状況が続くと、会社と産業医の間に距離が生まれ、連携が難しくなっていく可能性があります。
このような場面では、まず産業医に何を期待しているのか、相手のニーズや課題について最初に確認し、その上で相手が動きやすいように情報提供を行います。
皆さんの現場でケース対応が少し行き詰まりを感じた時には、こうしたヒントが役立つと思います。
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2.人事担当者のタイプ別アプローチ
次に、ケース対応をしていて、「ちょっとやりづらいな」「少し困ったな」と思うような人事担当者についてタイプ別に詳しく解説していきます。
①対応が遅くなかなか動いてくれない
何かの対応をお願いしても、忙しいのか忘れてしまっているのかやる気がないのか、なかなか対応が進みません。
■対応のポイント
対応が遅い人事担当者をサポートするには、どうすればいいでしょうか。
まずは、過去の事例を参考に、次にどうすればいいか具体的なアクションを示すことが重要です。
人事担当者が何に困っているかを確認して積極的にアドバイスを行います。本人が対応できない場合には、上位のマネージャーや経験豊富な他の担当者に相談するように助言をします。また、予め職場との相談を済ませておいたり、打ち合わせの日程を調整しておくなど担当者が動きやすい環境を作ることも効果的です。
②根掘り葉掘り聞いてくる
社員の健康情報は、プライバシーを守って産業保健スタッフだけで管理をすべき情報と、本人の同意を取って会社に開示すべき情報があります。しかし、人事担当者の中には会社として適切な対応を行うためには、なるべく細かい情報を把握する必要があると考えている人もいます。
■対応のポイント
適切な対応としては、まず相手の質問の背景にあるニーズを理解することが必要です。そして、そのニーズや心配事に応じて、適切な形で情報提供を行います。
③フットワークが軽すぎる
産業医と対応方針が揃っているうちは問題ないですが、そんな人は自分のやり方がいいと思い込んでいる人も多いので、対応に苦労します。
■対応のポイント
このタイプの人は基本的には悪い人ではなくて面倒みがいいのが特徴です。ただ場合によっては、勢いが空回りしてしまうこともあります。そんな場面では、対応の方向性や目的を明確にしてより適切なアプローチを提案することが重要です。
④ケースを抱え込む・巻き込まれてしまう
メンタルヘルス不調のケース対応で、特に注意が必要なのは、こちらを巻き込んでくるタイプの社員です。人事担当者や上司あるいは、産業保健スタッフが巻き込まれてしまうと、対応が一気に難しくなります。特に、情報共有をせず、自分だけで進めていきたいと考える担当者がいると、さらに対応が困難になります。
■対応のポイント
こうしたタイプの人事担当者に、正面からその対応は間違っていますよと指摘しても逆効果です。まずは情報共有が何よりも大事です。まず産業医が、話をしっかり聞いて、人事担当者の関心やニーズ行動パターンを把握した上でケースの対応方針を産業医と一緒に考えていくようにします。
ここまで、様々なタイプの人事担当者とそれぞれの対応方法をご紹介してきました。
ケース対応がうまく進まない、人事担当者とうまく連携できないと感じた時には、担当者がなぜそのような行動をするのか、その背景やニーズを理解することが重要です。
人事担当者の動きやそして自分自身の動きを一歩引いた俯瞰的な視線で見つめると解決策が見えてきます。
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情報提供者
難波克行(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』