働き方の多様化が進み、在宅勤務やハイブリッド勤務など、働く環境は大きく変化しています。一方で、ストレスのコントロールが難しくなり、心身の不調やメンタルヘルス不全につながるケースも少なくありません。
こうした背景の中で注目されているのが「メンタルタフネス(mental toughness)」です。
本稿では、産業保健スタッフが現場で活用できるように、メンタルタフネスの定義・要素・類似概念との違い、そして従業員のメンタルタフネスを高める支援の方法を整理します。
<目次>
1.メンタルタフネスの定義と要素
2.ストレス耐性・レジリエンスとの違い
3.従業員のメンタルタフネスを高めるためには
4.まとめ
1.メンタルタフネスの定義と要素
メンタルタフネスとは、困難な状況に直面した時に、感情に振り回されず、冷静に対応して課題解決に向けて行動する力を指します。
生まれつきの性格というよりも、「考え方や行動の習慣」としてトレーニングにより高められる能力です。
たとえば大きなミスをしても落ち込むだけで終わらず「次にどう改善するか」を考えて、実際に行動へ移せる人はメンタルタフネスが高いと言えます。
メンタルタフネスを構成する主な要素は次の3つです。
- 目標への集中力:困難な状況でも目的を見失わず、気を散らす要因から意識を切り離す力
- 回復力(リカバリー):失敗やプレッシャーから素早く立ち直り、再び前向きに行動する力
- 自己信頼感:自分の能力を信じ、不確実な状況でも自信をもって行動する力
これらは、ストレスフルな状況に置かれた際に「感情を整え、適切に行動を選ぶ」力の基盤になります。
2.ストレス耐性・レジリエンスとの違い
「ストレスに強い」という点では、メンタルタフネス、ストレス耐性、レジリエンスという概念は似ていますが、それぞれ次のような特徴があります。
- ストレス耐性: ストレスをどの程度まで我慢できるか、影響を受けにくいかを示す。
- (例) 忙しい状況でも体調を崩しにくくなる
- レジリエンス: 逆境や失敗を経験しても時間をかけて立ち直り、再び前向きに生きる力。
- (例) 病気や挫折を経験しても、支援を受けながら新しい働き方を見つけていく。
- メンタルタフネス: ストレスに直面したとき、その場で感情をコントロールし、パフォーマンスを維持する力。
- (例) プレッシャーの中でも落ち着いて判断・行動できる。
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3.従業員のメンタルタフネスを高めるためには
従業員のメンタルタフネスは、気合いや根性で育つものではありません。ここでは3つの実践的なアプローチを紹介します。
■ストレスチェックの活用
ストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10に基づく制度)は、従業員のストレス状態を把握し、職場環境改善につなげるための仕組みです。
結果を確認するだけで終わらせず、「気づきと学びの場」として活用することがポイントです。
本人へのフィードバック時には、「考え方のクセ(例:『自分はダメだ』と決めつける)」に気づかせ、認知行動療法の視点を取り入れたセルフケア教育を行うと効果的です。
また、呼吸法・漸進的筋弛緩法・マインドフルネスなどの対処スキルを研修や動画で学べるようにすると、感情コントロール力の向上が期待できます。
さらに、集団分析結果は個人を特定できない形で職場のストレス要因を明らかにし、業務量や人間関係、組織風土の改善につなげましょう。
■高ストレス者への面談支援
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員が面接指導を希望した場合には、産業医等による面接指導を実施します。
重要なのは「本人の認知や行動の特徴を一緒に振り返る」ことです。
過去に困難を乗り越えた経験や、自分の強みを言語化することで、自己効力感(“自分にもできる”という感覚)を高められます。
また、症状や状況に応じて医療機関への受診を勧めることも必要です。
一方で、軽度のストレス段階では、呼吸法やリラクゼーション指導など、セルフケアの実践を支援することも効果的です。
■管理職研修と職場風土づくり
管理職は、部下のメンタルタフネス形成に大きな影響を与えます。
研修では、心理的安全性を高めるコミュニケーション(傾聴・承認・感情の受け止め方)を学ぶとともに、困難をチームで共有し解決する文化を育てることが重要です。
上司からの肯定的フィードバックや「成長を見守る姿勢」は、部下の自信と回復力を支える要因になります。
また、産業医や保健師と連携し、職場の具体的な声かけや関わり方を事例として共有することで、管理職が日常業務の中で自然に支援できるようになります。
4.まとめ
メンタルタフネスは、個人の根性や性格ではなく、「困難に直面したときにどう考え、どう行動するか」という習慣として育てていく力です。この力を高めるためには、個人への支援と組織的な仕組みの両面からアプローチすることが重要です。
産業保健スタッフは、ストレスチェックや面談を通じて、従業員の思考や行動のパターンを一緒に振り返り、「自分にもできる」という感覚を取り戻す支援を行います。同時に、管理職教育や職場環境の改善を通じて、心理的に安全な職場風土を育てることが、従業員全体のメンタルタフネスを底上げする基盤となります。
メンタルヘルス対策を「不調への対応」にとどめず、「ストレスに強い職場づくり」へと発展させ、従業員がストレスを成長の機会として活かせるような仕組みを整えることこそが、これからの健康経営に求められる視点です。
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■執筆/監修
<執筆>
久木田 みすづ (精神保健福祉士、社会福祉士、心理カウンセラー)
福祉系大学卒業後、カウンセリングセンターの勤務を経て、心療内科クリニック・精神科病院で精神保健福祉士・カウンセラーとして従事。うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんと家族に対する相談や支援に力を入れる。
現在は、主にメンタルヘルスの記事を執筆するライターとして活動中。
<監修>
難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』