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サービス業スタッフの健康管理とメンタルヘルス対策|産業保健スタッフが押さえておきたい支援のポイント

サービス業とは、小売・飲食・宿泊・介護など、人と直接関わる業務を担う職種を指します。非正規雇用やアルバイトが多く、小規模事業所が多い点も特徴です。そのため、産業医や保健師が配置されていない職場も少なくありません。また、シフト勤務や長時間労働など勤務形態が多様で、健康管理体制を整備しにくいという構造的な課題があります。

本記事では、サービス業スタッフに多い健康課題やメンタルヘルス対策を中心に、産業保健スタッフが押さえておきたい支援のポイントを解説します。


<目次>

1.サービス業スタッフに多い健康課題と対策
2.職場全体で取り組む対策
3.産業保健スタッフが行うべき健康管理のポイント
4.まとめ


1.サービス業スタッフに多い健康課題と対策

サービス業スタッフに特徴的な健康課題を、その対策と合わせて解説します。

■身体的負担(腰痛・肩こりなど)

立ち仕事や力仕事が多い(小売、飲食、宿泊、介護など)場合は腰痛が、座り仕事が長い場合は肩こりや眼精疲労が増える傾向があります。

これらの症状は、プレゼンティーズム(健康問題によって仕事の能率が低下する状態)の大きな要因となるだけでなく、慢性的な痛みや症状は、精神的ストレスや睡眠不足といった“見えにくい健康問題”につながる場合があります。

身体的負担(腰痛・肩こりなど)の対策として、以下のポイントが挙げられます。

まず、腰痛を予防するためには、作業自体の改善が重要です。具体的には、取り扱う重量の軽減に努め、作業姿勢や作業台の高さ・位置を改善し、体への負担が少ない道具を使用することが推奨されます。また、作業環境の整備も大切であり、空調設備の調整や定期的な換気を行うことで、作業の快適性を高め、身体的負担の軽減につながります。

次に、肩こりなどを予防するためには、作業方法の改善が必要です。デスクワークやPC作業を行う際は正しい姿勢を維持し、さらに1時間に一度は立ち上がって体を動かすことが推奨されます。これに加え、セルフケアを促進することも有効です。デスク環境を整備したり、目の疲れを軽減する工夫を取り入れたりするほか、ストレッチやマッサージ、入浴による血行促進を心がけることが大切です。

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■見えにくい健康問題

昭和医科大学の調査では、日本の労働者の約3人に1人(35.6%)が、業務に影響を及ぼす健康問題を抱えていると報告されています。その中には、精神的不調(うつ病・不安症)、片頭痛、月経随伴症状、睡眠障害など、周囲から気づかれにくい症状が多く含まれます。

サービス業では、顧客対応に伴う精神的負荷(感情労働)、人手不足に起因する長時間労働、不規則勤務による生活リズムの乱れなどが重なり、こうした“見えにくい”健康問題が顕在化しやすい傾向があります。また、忙しさや他者への気遣いから体調悪化を言い出しにくいことも、症状を長引かせる要因です。

これらの問題を放置すると、集中力低下や感情コントロールの困難といったプレゼンティーズム(健康問題による生産性低下)につながるほか、欠勤・離職へと進展するリスクもあります。そのため、長時間労働の是正、休憩時間の確保、相談窓口の周知、ストレスチェック結果の職場改善への活用、睡眠やメンタル面に配慮したシフト設計など、職場環境の整備と早期のサポート体制づくりが重要です。


2.職場全体で取り組む対策

サービス業では、労働環境や就業管理の課題が健康リスクに直結します。働きやすい環境づくりを進めることが、従業員の健康維持と離職防止、生産性向上につながります。

■労働時間管理の徹底(長時間労働の是正)

労働時間の適正な管理は、過重労働による心身の健康障害を防ぐうえで欠かせません。しかし、サービス業では繁忙期の業務量増加や、シフト制による管理の複雑さから、実態把握が不十分となりやすいという課題があります。

そのため、次の取り組みが実務上有効です。

  • タイムカードや勤怠システムなどによる客観的記録の徹底
  • 勤務間インターバルの確保(就業から次の始業までの休息時間)
  • 繁忙期や人員不足時の業務量調整、応援体制の整備
  • 長時間労働者への面談やフォローアップの実施

これらを継続的に改善することで、従業員の疲労蓄積の予防や、メンタル不調の早期発見にもつながります。

■職場におけるハラスメント対策の推進

サービス業では顧客対応が中心となるため、叱責やクレーム対応が精神的負担となり、ハラスメントの発生リスクが他業種より高い傾向があります。厚生労働省の調査では、労働者の約5人に1人がパワハラを経験していると報告されており、職場環境や人間関係の悪化、離職の増加を招きます。

事業主には、法律に基づき以下の取り組みが求められます。

  • 相談窓口の設置と周知
  • 再発防止を含む迅速な事実確認・対応
  • 管理職や従業員への教育・啓発
  • カスタマーハラスメントを許容しない方針の明確化

毎年12月は「職場のハラスメント撲滅月間」として厚生労働省に定められています。以下の記事で企業に求められている対応と、産業保健師として果たせる役割について紹介していますので、ぜひご覧ください👇
記事:職場のハラスメント撲滅月間に考える産業保健師ができる実践的アプローチー職場のメンタルヘルスを見直す産業保健師の役割とは


3.産業保健スタッフが行うべき健康管理のポイント

サービス業では、シフト勤務や顧客対応など、特有の働き方・負荷に応じた健康支援が求められます。ここでは、現場で取り組む際のポイントを説明します。

■不規則勤務・シフト制による生活リズムの乱れへの対応

早番・遅番・夜勤、さらに繁忙期の連続勤務などにより、睡眠不足や食生活の乱れ、疲労蓄積が生じやすくなります。これらは生活習慣病の悪化にもつながるため注意が必要です。

産業保健スタッフは、衛生委員会、職場巡視、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック、健康診断結果の確認など、日常的な機会を通じてリスクの把握に努めます。そのうえで、生活リズム改善の助言や、職場側との調整を行い、無理のない働き方につなげることが求められます。

■シフト勤務者への保健指導(睡眠障害・生活習慣病など)

シフト勤務者は、睡眠の昼夜逆転、規則的な食事がとりにくいこと、休日も生活リズムが整いにくいことなど、特有の課題を抱えています。このため、一般的な保健指導をそのまま当てはめるだけでは効果が不十分になる場合があります。

勤務前後の食事・睡眠の工夫、仮眠の活用、夜勤明けの休息、連続勤務に配慮した就業調整など、勤務形態を踏まえた具体的な支援が重要です。また、ストレス対処の助言や職場環境改善への働きかけも行い、継続可能な健康管理につなげます。

■メンタル不調の早期発見・早期対応

サービス業では、顧客対応のストレスや、業務量の波による負担が大きく、メンタル不調が気づかれにくい傾向があります。遅刻の増加、表情・態度の変化、業務ミスの増加など、小さな兆候を早期に捉えることが重要です。

日常の変化に気づきやすいのは上司や同僚であり、産業保健スタッフはそうした気づきが適切に共有されるよう、相談窓口の明確化や面談の導線整備を行います。併せて、ラインケア・セルフケア教育の実施、相談窓口の周知、ストレスチェック結果の職場改善への反映など、メンタルヘルス領域の実務を担います。

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4.まとめ

今回は、産業保健スタッフができる支援内容、サービス業スタッフに多い健康課題、職場改善で取り組むメンタルヘルス対策について解説しました。

本記事で紹介した内容を通して、サービス業の健康管理を担当している産業保健スタッフの業務内容や健康課題への対策について理解を深めることができます。

サービス業スタッフの健康管理体制を見直す際や、産業保健スタッフとして現場支援を行う際の参考にしてみてください。




■執筆/監修


<執筆> 平田 萌々華 (看護師×Webライター)

看護師として消化器内科・外科病棟、外来(消化器内科、循環器内科、糖尿病内科)で勤務後、ホテル業界に転身。現在はライターとして、医療・福祉・不動産・ビジネスなど幅広い分野の執筆を行う。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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