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治療と仕事の両立支援とは?支援の流れと産業看護職の役割を解説

仕事と治療の両立支援
病気や怪我は、誰にでも急に起こり得ることであり、就労世代も例外ではありません。
誰もが生きがいを持って、その能力を最大限に発揮できる社会を実現するため、国はさまざまな施策を展開しています。事業者には、労働者が長く安心して働くことができるよう、治療と仕事の両立支援の体制を整えることが求められています。

この記事では、治療と仕事の両立支援を行うために、職場で整えるべきことや、具体的な流れについて説明いたします。

目次

1.治療と仕事の両立支援とは
2.治療と仕事の両立支援の目的
3.治療と仕事の両立支援を実施するために職場で整えること
4.治療と仕事の両立支援の流れ
5.産業看護職の役割

1 治療と仕事の両立支援とは

治療と仕事の両立支援とは、今まで元気で働いていた人が、急な病気や怪我により今まで通り働けなくなったとき労働者本人の病気への理解と就業を継続する意志の表明を原則として、事業者が働きながらも通院できる仕組みづくりや就業上の措置や配慮を行うことで働き続けることができる環境を整えることをいいます。
労働者と治療

参考:厚生労働省平成25年度国民生活基礎調査

我が国では、労働人口の3人に1人が働きながら通院しているといわれています。
病気や怪我は、誰にでも急に起こり得ることです。特に日本では高齢化が進んでおり、働く人の高齢化も避けることはできません。そのため今後はさらに、治療を必要とする労働者が増えることが予想されます。

2 治療と仕事の両立支援の目的

治療と仕事の両立支援は、労働者にとっては病気や怪我になっても仕事を続けられる、安心して働ける職場環境となるため、労働者のモチベーション向上につながります。また、事業場にとっても継続的な人材確保企業イメージの向上などが期待できます。
反対に両立支援の体制が整っていない場合は、労働者が就業を継続できずに離職が増えることや、無理して働き続けることで十分な治療を受けないことによる病気の悪化や、労働災害を起こすリスクにつながります。

治療と仕事の両立支援の体制を整えることは、労働者にとっても、事業者双方にメリットがあるといえます。

3 両立支援を実施するための環境整備(事前準備)

① 事業者による基本方針やルールの制定

両立支援を事業場として実施する際には、衛生委員会等で審議調査を行ったうえで、事業場としてのとしての基本方針やルールを作成します。さらにそれを全労働者に周知することで、取り組みに対する理解を得ることができ、治療と仕事の両立を実現しやすい職場風土を構築することにつながります。

② 両立支援に関する意識啓発

対象となる労働者のみケアをしても、周囲の理解が得られなかったり、周囲の不満につながったり、ということが起こりえます。そうなると、対象となる労働者だけでなく周囲の労働者にとっても働きにくい環境となることが懸念されます。
誰もがその当事者やその同僚となり得るため、全労働者に向けて、研修の実施や掲示等を通じて意識啓発を行うことが重要です。

③ 相談窓口の設置と明確化

両立支援は基本的に、対象となる労働者からの申出により始まります。そのため、労働者が安心して相談できる体制を整えておくことが大切です。
相談窓口を設置し労働者に周知することと合わせて、関連する情報の取り扱いや、両立支援を実現するための役割分担等を明確にしておくことが重要です。

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④ 体制の構築・整備

ⅰ 勤務制度や休暇制度等働き方について

現在では、短期間の治療が定期的に繰り返されたり、副作用による影響があったり、短時間の治療を毎日実施する等様々な治療法があります。
そのため、治療をしながら働き続けるためには、休暇や勤務時間を柔軟に調整できるようにする必要があります。また、症状や体力の低下等も懸念されるため通勤の配慮等も必要になる場合があります。
両立支援につながる制度としては、時差出勤、時間単位の有休取得、傷病休暇、短時間勤務制度、テレワーク等があります。

ⅱ 経済的問題の不安軽減に対する取り組み

治療が長期にわたると、労働者の経済的負担も大きくなります。傷病手当金や、公的機関などについての情報提供ができると労働者が安心して治療を継続することにつながります。

ⅲ 関係者間の役割の整理

労働者から申出があった場合に円滑な対応ができるよう、労働者本人、人事労務担当者、上司・同僚等、産業医や保健師などの産業保健スタッフ等の関係者の連携体制や役割分担を整理しておく必要があります。
さらに、就業継続の可否についての判断や、就業上の措置や配慮が必要な場合は、治療の状況や本人の体調などについて、主治医に意見を求めることが必要となります。主治医と連携するための書類の様式等を定め、整えておくとよいでしょう。

4 治療と仕事の両立支援の流れ

仕事と治療の両立支援の流れは次のとおりです。
両立支援の流れ
両立支援を必要とする労働者が、主治医に対し自身の仕事に対する情報を提供(①)し、就業継続の可否や、必要な配慮等につちえの主治医の意見(②)を収集し、それを事業場に提出します。(③)
企業・事業者は③を踏まえて産業医に意見聴取し、就業上の措置や配慮内容等を決定します。

事業者は、労働者が治療をしながら就業の継続が可能であると判断し、就業上の措置等を決定した場合、必要に応じて、具体的な措置や配慮内容及びスケジュール等についてまとめた計画を策定することが望まれます。これを両立支援プランといいます。プランの実施中にも、病気の症状や治療の状況や、業務内容等も変化することが考えらえるため、継続的に支援できるよう、確認や見直しを定期的に実施することが必要です。

5 産業看護職の役割

両立支援における主体者は、対象となる労働者と事業者です。産業看護職はあくまでも『支援者』であるということはしっかりと認識しておく必要があります。
労働者と事業者には、雇用契約が結ばれており、就業規則というルールが存在していることが大前提です。
労働者が就労を継続できるよう、可能な措置や配慮を最大限考えることと同様に、周囲の労働者への配慮や環境整備は非常に重要です。
産業保健スタッフは、労働者と事業者が適切にコミュニケーションできるよう、独立した中立的な立場として支援することが重要です。
両立支援における看護職の役割
両立支援においては、事業者と対象となる労働者が同じ方向を向けるように、お互いが納得できるゴールを事前に決めておくことをおすすめします。
ゴールとは、その対象となる労働者がどの程度まで就業できるようにするのか、どの程度のパフォーマンスを目指すのかということです。
産業保健スタッフは、ゴールの設定から、それを実現するために様々な調整をする役割を担います。労働者の健康状態はもちろん、必要な配慮や措置についてわかりやすく説明したり、両者が適切なコミュニケーションがとれるような支援が求められます。
れます。
配慮そのものが目的とならず、事業者、対象となる労働者、また事業場全体が働きやすい環境となることを目指す、ということを念頭において支援することが大切です。


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■監修医師のご紹介

産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問​
アズビル株式会社 統括産業医​

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆​
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信​

代表書籍​
『職場のメンタルヘルス入門』​
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』​
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』​


■参考文献

厚生労働省|事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインナビ
厚生労働省|治療と仕事の両立支援
柴田喜幸| 産業看護職のためのキャリアアップに活かせる30のスキル(産業保健と看護2022年春季増刊号)


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