ストレスチェック制度の正しい理解と活用法とは?産業保健スタッフが押さえるべきポイント
2015年から義務化されたストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調の一次予防(未然防止)を目的に導入されました。しかし現場では「うつの発見が目的」といった誤解や、チェック後の支援体制に課題が残ることも少なくありません。本記事では、制度の正しい理解と実効性を高める運用方法について、産業保健スタッフが知っておくべきポイントを整理します。
1. メンタルヘルス対策におけるストレスチェック制度の位置づけ
厚生労働省が推進する「4つのケア(セルフケア・ラインケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケア)」において、ストレスチェック制度は「一次予防」の強化を目的に導入されました。
これは、メンタルヘルス不調が表面化する前の“ストレス反応”に早期に気づき、従業員と企業が連携して対策を講じることで、不調を未然に防ぐという考え方です。
受検率は高水準を維持しており、8割以上の労働者が受けた事業場は77.5%に上ります(厚労省資料より)。法令順守だけでなく、「働きやすい職場づくり」に向けた意識の高まりが背景にあるといえるでしょう。
2. 誤解されがちなストレスチェックの目的とは?
「ストレスチェック=うつ病の発見」と誤解されがちですが、それは誤りです。
本来の目的は、不調を引き起こす前段階である「ストレス状態」を見える化し、早期に気づきを得ること。そのうえで、事業場としての支援体制や職場環境の改善を進めることにあります。
制度は、個別対応に重きを置く「ハイリスクアプローチ」に加え、集団分析結果をもとに職場全体の環境改善を進める「ポピュレーションアプローチ」も可能にしました。これは、従業員のエンゲージメント向上や企業の生産性向上にもつながる重要な視点です。
3. 健康診断とストレスチェックの違いに注意
健康診断は「身体的な異常の早期発見」が目的ですが、ストレスチェックは「精神的ストレスの自覚を促す」ことが主眼です。
健康診断と同様に、単に実施するだけでは意味がなく、結果に基づいたフォローが不可欠です。
ストレスチェック結果をどう活かすか、どのように従業員に寄り添うか。こうした視点が欠けてしまうと、制度本来の効果を十分に引き出すことができません。
4. 面接指導と事後措置に関する課題と対策
「高ストレス」と判定されても、面接指導を希望する従業員は少数です。その背景には、「申告しても状況は変わらない」「職場に知られるのが怖い」といった不安があります。
また、医師による面接指導が行われても、その後の職場側の対応(事後措置)が不十分であるケースも見られます。
産業保健スタッフとしては、制度の実施だけでなく、以下のような「仕組みづくり」が重要です。
- 面接指導後のフォローアップ体制の構築
- 集団分析結果に基づく環境改善の実行
- 上司への教育(ラインケア)の強化
- 従業員が相談しやすい職場風土の醸成
5. 産業保健スタッフに求められる視点とは
メンタル不調のきっかけは、誰にでも起こりうる日常的な出来事です。だからこそ、従業員の気づきを促し、声を上げやすい環境をつくることが求められます。
産業保健スタッフは、制度の実務だけでなく、「気づきの場の提供者」であることを意識し、従業員一人ひとりに合った支援を組織と連携しながら設計していく必要があります。
6.まとめ
ストレスチェック制度は、形だけの実施では不十分です。目的の正しい理解と実効性ある活用、そしてその後のサポート体制こそが、従業員のメンタルヘルスを守るカギとなります。産業保健スタッフとして、「気づき」「支援」「改善」の視点を持ち、制度を職場づくりの一助として活かしていきましょう。
出典
アドバンテッジJOURNAL
産業保健の専門家があかす「ストレスチェック制度」の実態と課題 職場改善を前進させる3つのポイント
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投稿を表示産業保健師をしている者です。
深澤先生のご解説、ご見解、大変参考になります。
集団分析は事業者には努力義務とされていますが、仰られるとおり、二次予防だけでなく、
受検結果による傾向分析で、より働きやすい職場環境づくりに繋げる一次予防、ポピュレーションアプローチも大切な要素と思います。
※弊社の産業医的には、集団分析も本来は義務、というくらいに大切な要素だと。
【運用の理解について社内展開について】
安全衛生委員会等から運用について社員に周知し、
個々のストレス度の気づき等のためと、
集団分析による働きやすい職場環境づくりに繋げることを社員に理解いただき、
できるだけ多くの社員に受検いただく(率直な回答)、
集団単位で傾向分析ができる受検数を得る、
分析した結果で、会社・職場上長が改善アクションに繋げてくれている
(社員にフィードバック・共有する)、
社員が受検した結果が活かされていることを実感できる、
というサイクルを目指したいと思います。
※所属長からも部全体にアナウンスしていただくことで受検率が上昇しました
(個々の気づきと、働きやすい職場環境づくりに活かすために、ぜひ受検をと”勧奨”)
【集団分析結果の取り組みについて】
部署数が多く、産業医のスケジュールの関係で、全部署の所属長とまではいきませんが、
数値上、ストレス度が高い傾向の部署と、真逆のGood部署の両サイドの所属長と対話、
改善アクションの議論をしてみたところ、
技術職が多い会社ということもあるのか、所属長は、数字について、
ストレスチェック分析要素ごとに要因を考察・分析し、
部内のマネージャークラスと改善アクションについて検討し、部員におろしていく取り組みをしているケースがあります。
次年度のストレスチェック分析結果、またエンゲージメントサーベイとで、
アクション結果のPDCAを回してくれていました。
その部署は、ストレスチェックの受検率、数値が改善傾向にありました。
やはり、会社・所属長が、ストレスチェックの目的、どうポジティブに活かしていくか、
理解をしてくれ、良くしていこうと本気で考え1歩ずつでもアクションする、
そして社員がどう活かされるかが理解できる状態になると、
良い方向に向かうと体感しています。
深澤先生が仰られるとおり、
事業者(所属長)・従業員・産業医(健康管理部門)が同じ方向を向けられるように、
まずは、ストレスチェックとはなんぞや、ということを産業医(健康管理部門)から
事業者(所属長)・従業員に継続して説明、フィードバック等が大切と思います。