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労働災害発生時に衛生管理者がすべき対応とは?

労働災害が発生した際、衛生管理者には迅速で適切な対応が求められます。初動対応の遅れや不備があると、企業の法的責任や社会的信用に大きな影響を与えるだけでなく、再発防止の機会を失う可能性もあります。本記事では、労働災害発生時に衛生管理者が取るべき対応や、労働基準監督署への報告義務、再発防止策の策定方法について詳しく解説します。万が一の事態に備え、適切な対応フローを把握しておきましょう。


<目次>

1.労働災害が発生した際の影響
2.労働災害発生時の初動対応
3.労働災害の報告義務
4.原因調査と再発防止策の策定
5.労働災害発生後のフォローアップ
6.まとめ


1.労働災害が発生した際の影響

労働災害が発生すると、企業は刑事上、民事上、行政上、補償上、社会的な責任を問われることになり、様々な深刻な影響が生じます。

具体的には、労働者が負傷したり病気になることで業務の停止や生産性の低下が起こり、企業の運営に支障をきたします。傷害が重大な場合は治療や復帰に時間がかかることがあり、長期的な欠勤や再雇用の問題が生じます。さらに、労働災害により企業のイメージやブランド価値が損なわれ、顧客や取引先からの信頼が低下することもあります。

法的には、労働基準監督署へ労働災害を報告し再発防止策を講じる義務があるため、対応に時間とコストがかかり、対応に不備があった場合は罰則を受けることもあります。労災保険や補償、賠償責任が発生することもあり、経済的な負担が増します。また従業員のモラルや働く環境にも悪影響を与えることがあります。


2.労働災害発生時の初動対応

労働災害発生時の初動対応は、迅速かつ適切に行うことが非常に重要です。被害の拡大を防ぎ、法的リスクに備え、企業の信頼を守るためにも衛生管理者が中心となって日頃から対応手順の準備や訓練を行うことが必要です。

事前に作成した緊急対応計画やフローチャートなどに沿って行います。ここでは厚生労働省が提示しているフローの例に沿って対応手順を説明していきます。

図:労働災害発生後の対応フロー

「事故が起きてしまったら|厚生労働省」を加工して作成

①現場対応

まず、最初に行うべきは被災者の安全確保と応急処置です。負傷者が出た場合、傷の手当てや救急処置を行い、速やかに救急車を呼びます。その後、現場の安全を確認し、二次災害を防ぐために作業エリアを隔離します。次に、被災者の家族への連絡、事故の報告を上司や関係者に行い、状況に応じて警察署・労働基準監督署に連絡します。

②事故状況の把握と原因調査

①が終わったら、現場の状況や被害の内容を記録し、証拠を確保し、事故原因の調査を開始します。必要に応じて警察署・労働基準監督署の現場検証の立ち合いや事情聴取への対応を行います。

③労働基準監督署への届け出

休業4日以上となる場合、速やかに労働基準監督署への報告が必要です。休業が1~3日の場合は四半期に一度の報告が求められます。詳しくは次章で説明します。

④再発防止策の検討と実施

必要な再発防止策を考え、設備の改善、作業手順書の改訂などを実施します。さらに、他の従業員に対しては安全教育や注意喚起を行い、再発防止に向けた対策を速やかに実行します。


3.労働災害の報告義務

事業者は、労働災害などの発生により従業員が死亡または休業した場合には、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出する必要があります。これは、労働安全衛生規則第97条により義務付けられています。労災保険を使用するかどうかに関わらず、提出しなければなりません。

また、派遣労働者が派遣先で就労中に労働災害により被災し休業した場合は、派遣元及び派遣先双方の事業者に労働者死傷病報告の作成と提出義務が生じるため注意しましょう。

2025年1月1日から、改正労働安全衛生規則等の施行により、労働者死傷病報告については電子申請が義務化されています。2025年1月1日以降は従来の様式を使用しないようアナウンスされており、注意が必要です。

労働災害が発生したにもかかわらず、故意に労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の内容で報告する「労災隠し」も横行しています。労災隠しは労働安全衛生法違反の犯罪です。災害発生から可及的速やかに、正しい内容で提出しましょう。


4.原因調査と再発防止策の策定

不幸にして起こってしまった災害の再発防止のためには「原因の調査」が欠かせません。また、災害発生のメカニズムがわかれば事前に防止対策を立てることも可能です。

地域や災害の種別を問わず世界的に認知されている災害分析手法に、NTSB(米国運輸安全委員会)による4M方式があります。4M方式とは、人的要因(Man)、設備的要因(Machine)、作業環境的要因(media)、管理的要因(Management)の4つの視点から災害要因を抽出し整理する手法です。

Ⅰ.人的要因(Man)

場面行動や考え事、憶測判断などの心理的要因、疲労やアルコール、加齢などの生理的要因、人間関係、チームワーク、コミュニケーションなどの職場的要因

再発防止策の例

  • 労働者の教育・訓練を強化し、安全意識を向上させる
  • 健康管理や過労防止策を強化する

Ⅱ.設備的要因(Machine)

機械設備の設計上の欠陥、標準化不足、点検整備不良など

再発防止策の例

  • 設備や機械の定期的な点検・メンテナンスを徹底し、故障や不具合を早期に発見・修理する

Ⅲ.作業環境的要因(Media)

作業情報不適切、作業空間や環境の不良など

再発防止策の例

  • 作業動線の見直し、照明や換気、温湿度などの環境条件を適切に保つための設備点検、マニュアルや指示書の見直しを行う

Ⅳ.管理的要因(Management)

規定・マニュアル不備、教育訓練不足、適正配置不十分など

再発防止策の例

  • 安全教育や技術訓練の定期的な実施、新入社員やリーダー層へのリスクアセスメントや危険予知訓練(KYT)の実施、仕事内容に応じた適正な人員配置を行う

KYTの具体的な進め方の例はこちら👇
KYT(危険予知訓練)とは


5.労働災害発生後のフォローアップ

労働災害発生後のフォローアップは、再発防止と労働者の健康・安全を確保するために重要です。労働者が受けた障害や健康問題に対して、医療機関と連携し、適切な治療やリハビリが行われるようサポートする必要があります。

労働災害の補償に関する主な制度に労災保険制度があります。労災保険制度とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進などを行う制度です。

労災保険は原則として一人でも労働者を使用する事業は業種規模の如何を問わず、すべてに適用され、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態にも関係なく適用されます。

給付種類は医療機関を受診する場合に無料で治療が受けられる「療養(補償)等給付」、仕事に行けない日に給料の約8割を受給できる「休業(補償)等給付」、障害が残った場合年金か一時金を給付できる「障害(補償)等給付」、介護を受けている場合に費用を受給できる「介護(補償)等給付」、亡くなられた場合に遺族の方が年金か一時金を受給できる「遺族(補償)等給付ならびに葬祭料等給付」、特別支給金があります。

また、被災者の円滑な社会復帰に向けての支援、遺族の支援、災害防止を目的とした社会復帰促進事業を主に政府が実施しており、その中の一つとして労災保険指定医療機関で診察や保健指導、検査などを無料で受診することができる「アフターケア制度」があります。


6.まとめ

労働災害が発生すると、企業は法的、経済的、社会的な責任を負い、業務停止や生産性低下、企業イメージの悪化が生じます。それを防ぐためには初動対応が重要です。適切に負傷者の応急処置や現場の安全確認、関係機関への報告を行い、事故の原因調査や再発防止策を策定する必要があります。

また、労災保険やアフターケア制度などを活用し、被災者の社会復帰支援を行う発生後のフォローアップも重要です。

このような労働災害発生時の対応について十分に備えておくことは、労働者の安全を守るだけでなく企業の信頼を守ることにもつながる衛生管理者の重要な役割です。

労働災害予防について詳しく知りたい方はこちら👇
衛生管理者必見!労働災害予防のために実施すべき基本対策

■参考資料

1)事故が起きてしまったら|厚生労働省
2)労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます(令和7年1月1日施行)|厚生労働省
3)労働基準情報:労災補償|厚生労働省


■執筆/監修


<執筆> 衛生管理者・看護師

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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