衛生管理者必見!労働災害予防のために実施すべき基本対策
労働災害の発生は、企業の生産性や従業員の安全に大きな影響を及ぼします。特に、衛生管理者は職場の安全確保において重要な役割を担っています。しかし、「具体的に何をすればいいのか分からない」「最新の労働災害の傾向を知りたい」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、最新の労働災害発生状況をもとに、労働災害の主な原因と衛生管理者が実施すべき基本対策を分かりやすく解説します。労働災害のリスクを最小限に抑えるための具体的な方法を知り、安全な職場づくりに役立ててください。
<目次>
1.労働災害の現状と課題
2.労働災害の主な原因
3.労働災害予防の基本対策
4.衛生管理者として知っておきたいポイント
5.まとめ
1.労働災害の現状と課題
労働災害とは、業務が原因で労働者が負傷したり病気になったりすることをいいます。近年では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害が、業務上の疾病として注目されています。
令和6年5月27日に公表された最新の労働災害発生状況(※)によると、令和5年1月から12月までの労働災害による死亡者数は755人(前年比19人)と過去最少となりました。一方で休業4日以上の死傷者数は135,731人(前年比3,016人増)と3年連続で増加しています。※新型コロナウイルス感染症への罹患によるものを除く
「第14次労働災害防止計画」では、建設業や製造業などで死亡災害や死傷者数の減少を目指していますが、現状では多くの指標が増加しており、さらなる対策が必要です。労働者の高齢化や外国人労働者の増加も、計画達成のための重要な対策の鍵となるでしょう。
2.労働災害の主な原因
令和5年労働災害の発生状況によると、主な原因は死亡者数については件数の多い順に「墜落・転落」、「交通事故(道路)」、「はさまれ・巻き込まれ」となっており、休業4日以上の死傷者数については、件数の多い順に「転倒」、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」、「墜落・転落」となっています。
3.労働災害予防の基本対策
労働災害を予防するためには、発生要因を踏まえた対策をとることが必要です。
NTSB(米国運輸安全委員会)による4M方式によると、労働災害の発生要因は大きく分けて4つあります。
- 人間的要因(Man):労働者の心理状態、身体状態、行動特性によりおこるもの。
- 設備的要因(Machine):機械整備の不具合や不適切な操作によりおこるもの。
- 作業的要因(Media):作業方法や手順、作業内容により起こるもの。
- 管理的要因(Management):組織や管理体制、運営方法など安全に関する管理が適切に行われずに起こるもの。
これらを踏まえて、以下の8点を基本対策とし計画・実行することが推奨されます。
①安全意識向上のための安全教育を実施
安全教育とは「安全衛生に関する知識や技術を労働者に伝えるための取り組み」です。
動画やイラストなどの視覚資料を活用したり、理解度テストを実施するなど、工夫をして実施しましょう。また、入社時などの一度きりではなく、継続的に実施し従業員の安全意識を常に高く持つことが大切です。
②リスクアセスメントで「現場の危険」を洗い出す
リスクアセスメントとは、現場に存在する危険性や有害性を調査し、低減または除去するための一連の手法のことです。危険源を特定し、評価・分析を行ったら対応優先度を決め、優先度の高いモノから対応を実施しましょう。
③KYT(危険予知訓練)で危険感受性を高める
KYTとは作業自体や職場に潜んでいる労働災害につながる危険性や有害性などの危険要因を発見し、解決する能力を高めるトレーニング手法の一つです。現場で実際に作業をさせたり、作業してみせたりしながら、小集団で話し合い、考え合い、分かり合って、危険のポイントや重点実施項目を指差唱和・指差呼称で確認して、行動する前に解決する訓練を行います。
④5Sで作業環境の整備・危険要因の排除を行う
5Sとは「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「しつけ」の頭文字を取ったものです。5Sを徹底することで、安全で効率的な作業環境を実現し、労働災害を予防できるほか、清潔な職場は心理的なストレス軽減にもつながります。また、従業員の自律性をはぐくむこともできる重要な取り組みです。様々な企業が実践例を紹介しているので参考にすると良いでしょう。
⑤高リスク作業に備える特別教育の実施
特別教育は、特定の危険有害業務に就業する前に必要となる知識を作業者へ周知させるための教育として位置づけられ、労働安全衛生法が実施を義務付けている取り組みです。
例えばアーク溶接機を用いた金属の溶接、溶断や、最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転などが特定の危険有害業務の一例となります。特別教育を受けさせないまま危険有害業務に従事させると、事業者が法的に罰せられるリスクがあるだけでなく、労働者の命に関わる重大な事故が発生する可能性が高まるため注意が必要です。
⑥ヒヤリハットを記録して共有する
ヒヤリハットとは、事故に至らなかったものの危険を感じた出来事のことです。報告をためらうケースも多く見られますが、ヒヤリハットを集めることは事前の対策と危険の認識を深めることにつながり、重大な事故を予防するための重要な安全対策です。積極的な報告、全体への速やかな共有が推奨されます。
⑦機械設備の点検で未然防止型メンテナンス
定期点検計画を作成し、専門的な知識や技術を持った担当者が行う定期点検と、作業前や作業中に目視や簡単な動作確認を行う作業者による日常点検があります。
機器の保全作業は一見、生産性に直接的に影響しないように思われますが、故障やトラブルは生産性の低下にもつながります。機械設備を安定稼働させることで安全と生産性の両方を担保することができます。
⑧フェイルセーフで設計から事故を防ぐ
フェイルセーフとは、何らかの故障が発生してもシステムが正常に機能し続け、安全に停止できるように設計された機能や仕組みのことを指します。⑦と同様に、「設備的要因」を防ぐために重要な仕組みです。
4.衛生管理者として知っておきたいポイント
労働災害予防のために衛生管理者として知っておきたいポイントは以下の7点です。
①労働安全衛生法の理解
法令に基づいて、安全管理や労働者の健康管理を行い、適切な対策を講じることが求められます。
②リスクアセスメントの実施
職場に潜む危険源や健康リスク(化学物質、機械、作業環境など)を特定し、それらが労働者に与える影響を評価することが必要です。リスクの大きさに応じて適切な対策を実施します。これには作業手順の見直しや安全設備の導入なども含まれます。
③作業環境の改善
作業場の温湿度、照明、騒音、粉じんなどの作業環境が労働者の健康に与える影響を評価し、必要に応じて改善策を講じることが求められます。
④作業者の健康管理
労働者の健康状態を定期的に把握し、必要な健康診断を実施します。また、職業病や過労の予防、ストレスチェックなど、労働者のメンタルヘルスの管理も重要です。健康診断とストレスチェックは労働安全衛生法で義務付けられています。
⑤安全教育と訓練
労働者に対して定期的に安全教育を行い、危険作業に従事する際の注意点や緊急時の対応方法などを指導します。安全意識を高めることが事故防止に繋がります。
⑥緊急時の対応準備
万が一、労働災害が発生した場合の緊急対応計画を作成し、定期的に訓練を実施して、事故発生時に迅速かつ適切に対応できるように備えておくことが重要です。マニュアルやフローチャートの作成も有効です。
⑦定期的な点検と改善
安全衛生管理の体制を定期的に点検し、問題点を見つけて改善します。安全対策が適切に機能しているかを常に確認し、必要に応じて改善策を導入することが大切です。
5.まとめ
労働災害とは業務に起因する負傷や疾病で、近年は過労やストレスによる精神障害も注目されています。労働災害発生状況は、死亡者数は減少傾向ですが、休業者数は増加しています。労働災害の予防には、安全教育やリスクアセスメント、作業環境改善、健康管理が重要です。
衛生管理者は、法令理解やリスク評価、緊急対応の準備を行い、定期的な点検と改善を実施することで安全対策を行うことが求められます。
■執筆/監修
<執筆> 衛生管理者・看護師
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』