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特定保健指導~産業保健スタッフとして関わるポイント~

特定保健指導

日本では少子高齢化が急速に進んでおり、企業としても従業員の高齢化が進んでいます。従業員が健康で働き続けるために、生活習慣病対策はより一層重要となっています。
特定健診・特定保健指導の実施主体は保険者(健康保険組合など)ですが、昨今は「コラボヘルス」が勧められたり、健康経営優良法人調査においても実施率が追記されており、企業に対しても保険者との連携をして特定健診・特定保健指導を実施していくことが求められます。

本記事では、特定健診・特定保健指導について学んでいきます。

目次

1.特定健診・特定保健指導とは
2.特定保健指導の流れ
3.アウトカム評価とは~第4期特定保健指導のポイント
4.産業保健の現場と特定保健指導
5.まとめ


1. 特定健診・特定保健指導とは


特定健康診査(特定健診)・特定保健指導は、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいて2008年に導入されました。内臓脂肪型肥満である「メタボリック・シンドローム」に着目した健診及び保健指導のことです。特定健診・特定保健指導は、国民の健康寿命の延長と医療費の適性化を目的としています。

実施主体は保険者(※1)であり、対象者は40歳以上75歳未満の被保険者(※2)・被扶養者です。
2008年の制度導入以降5年毎に見直しがされており、2024年4月には第4期となっています。

※1保険者
保険事業を運営・管理する組織で、保険料を徴収して保険給付を行う。健康保険事業の保険者には、全国健康保険協会と健康保険組合の2種類がある。

※2被保険者
保険料を支払い、保険に加入しており保険給付を受けられる人。加入者ともいう。

1)特定健診

多くの事業場では、労働安全衛生法による一般健康診断(一般健診)と、特定健診を同時に実施しています。
保険者は、事業者が健診を実施する際、事業者に必要な項目の実施を委託することで、特定健診の健診項目を含んだデータを本人の同意なく受領することができます。健診の対象者にとっても一般健診と特定健診をそれぞれ受けることは負担になりますので、同時に実施するためには、保険者と事業者、健診機関の連携が重要です。

特定健診の検査項目は下記です。
特定健診項目参考:第1回 第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会 参考資料1|厚生労働省

2)特定保健指導

■実施者

  • 医師
  • 保健師
  • 管理栄養士
  • 看護師(令和11年度まで実施者となることができる。令和11年度まで看護師が実施者となる場合も、保健指導に関する一定の実務経験が必要)

■対象者と階層化

特定保健指導の対象者は、特定健診の結果と質問票の回答により下記のように階層化されます。

積極的支援対象者:メタボリックシンドローム該当者
動機付け支援対象者:メタボリックシンドローム予備軍
情報提供レベル:メタボリックシンドロームによる生活習慣病リスクの低い方や、すでに服薬治療を実施している人で、特定保健指導の対象外となる

判定基準、階層化の基準値は下記の通りです。

特定保健指導階層化※前期高齢者(65歳以上75歳未満)については、積極的支援対象となった場合でも動機付け支援とする
※服薬中の者は特定保健指導の対象としない
出典:第1回 第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会 参考資料1|厚生労働省




2. 特定保健指導の流れ



特定保健指導の流れ参考:第1回 第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会 参考資料1|厚生労働省

■動機付け支援と積極的支援

動機付け支援

原則1回の支援を実施し、対象者自ら行動計画を立てられるように支援する。3か月経過後に評価を実施します。

積極的支援

動機付け支援の内容に加えて、定期的・継続的な支援により生活習慣の改善のための行動目標を設定し、その実践に取り組めるよう支援します。

■指導方法

特定保健指導の対象者の多くは、会社からの指示でしぶしぶ参加することが多く、自ら望んで受けに来ていることは少なく、動機が乏しいことがほとんどです。
つまり、本人が変わりたいと思うことを手助けしサポートできるような支援をすることが求められます。
特定保健指導は、個別で実施(個別型指導)することが多いと思いますが、集団に対して実施(集団型指導)する方法もあります。

個別型指導

個別型指導は、対象者の状況や理解状況にあわせたアプローチが可能です。ただし、正しい情報提供だけでは、生活習慣の改善につながらないこともあるため、指導者の技術、時には心理学的手法を活用とした技術も必要となります。

集団型指導

集団型指導は、『誰かと一緒に』生活習慣の改善に取り組むことが可能です。参加者同士が励まし合ったり、同じ目標に向かったりと一緒に取り組む仲間ができます。
ただし、集団型指導は技術を持った指導者が必要であり、全ての対象者に合わせた時間と場所を確保することや調整することが必要となります。




3. アウトカム評価とは~第4期特定保健指導のポイント


特定保健指導の目的は、対象者が生活習慣病に移行しないことです。つまり、対象者自身が自分自身の健康に関心をもち、生活習慣を振り返ったり、改善するための行動目標を設定・実践できるようになることが必要です。この行動変容を評価するという考え方から、積極的支援の評価方法として、アウトカム評価が導入されています。この改訂では、保健指導の質の評価についても着目されています。

アウトカム評価のポイント

  • アウトカム評価の評価時期は、初回面接から3か月以上経過後の実績評価時とする
  • 健康診断の結果と比べて腹囲2㎝、体重2kg減を達成した場合には、保健指導の介入量に関わらず、特定保健指導を終了とする
  • 下記の図の通り体重2kg、腹囲2cm減を達成できなかった場合は、対象者の行動変容(アウトカム評価)と、保健指導の介入量(プロセス評価)あわせて180ポイント以上の支援を実施することが、特定保健指導終了の条件とする

    評価体制の見直し
    出典:第4期特定健診・特定保健指導の見直しについて|厚生労働省

  • 行動変容をアウトカム評価として用いる場合は、対象者と必ず共有しなければならない。事前に設定した行動変容の目標以外の行動変容については、ポイントに算定することはできない





4. 産業保健の現場と特定保健指導


特定健診の実施は、事業者ではなく保険者に義務付けられています。多くの産業保健の現場では、保険者と連携した特定健診・特定保健指導が推進されています。
特定保健指導の実施率は保険者の種別により大きなばらつきがあり、単一健保が最も高い状況です。(厚生労働省:2021年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況より)このばらつきには、コラボヘルス等の保険者と事業者の連携の進み具合や保険財政事情等も影響しているといわれています。

事業場の産業保健スタッフが特定保健指導を実施する場合はもちろん、そうでない場合も、事業者が特定保健指導を受けるために勤務時間を配慮したり、保険者からの案内を事業場で周知するなどの連携をすることが必要です。労働安全衛生法の一般健診は特定健診と同等の項目を含んでいるため、健診結果を事業者と保険者でデータ連携をすることも効果的です。

このように、事業者と保険者が連携できるところは色々と考えられます。





5. まとめ


健康経営やウェルビーイングの重要性が注目されているなか、保険者だけでなく事業者においてもコラボヘルスに積極的に取り組み、保険者と共に特定健診や特定保健指導を進めていくことが求められています。
アウトカム評価が導入され、特定保健指導の成果に関する「見える化」が可能となりました。また、保健指導をより効果的に実施することが求められています。

産業保健活動は労働安全衛生法に基づいた安全配慮義務の遂行が主な活動目的ではありますが、従業員の健康増進、健康経営の推進も重要な役割となっています。

従業員の健康増進のために、企業、保険者それぞれの強みを活かし連携することが求められています。



■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考文献
厚生労働省. 特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第 4.1 版)
厚生労働省. 第1回第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会参考資料1
厚生労働省. 特定健診・特定保健指導と事業者の健診・保健指導との関係. 標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会第3回資料
労働者安全衛生機構. 産業保健21-115号
職場の健康がみえる 産業保健の基礎と健康経営 第1版, 岡庭豊, 株式会社メディックメディア, 2019



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