現場で使える!産業保健スタッフも知っておくべき特定保健指導のポイント
【目次】
1.はじめに
2.特定保健指導の基礎知識
3.効果的に特定保健指導を実施する為のポイント
4.職場における保健指導のスキルと戦略
5.おわりに
1. はじめに
「コラボヘルス」が注目されている昨今、健康保険組合のみでなく、企業においても健康保険組合と協力して特定保健指導の実施率を上げることが重要視されています。
2024年健康経営優良法人調査においても、特定健診(特定健康診査)・特定保健指導の実施率が新たに追記となり、今後ますます力を入れて取り組んでいかなければならないことが予想されます。
この記事では、 産業保健スタッフとして知っておきたい特定保健指導の知識やスキル をお伝えいたします。
2. 特定保健指導の基礎知識
① 特定健診(特定健康診査)・特定保健指導とは
特定健診(特定健康診査)とは、生活習慣病(メタボリックシンドローム)の予防のために、対象者(40歳〜74歳)の方に実施する健康診断のことです。
特定保健指導とは、特定健診の結果から、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方を対象とし、専門職(保健師や管理栄養士等)が実施する、生活習慣を見直すサポートを目的とした保健指導のことです。
② 特定保健指導の根拠となる法令
特定健診(特定健康診査)・特定保健指導については、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいて行われており、医療保険者(医療保険を運営する団体。企業では健康保険組合、国民健康保険の場合は市町村や各国保組合など)に実施義務があります(資料123)。事業者(企業など)には、特定保健指導の実施義務はありませんが、医療保険者が円滑に特定保健指導を実施できるよう、一般定期健康診断結果の提供や就業時間中の面接時間の確保など、協力を行うことが求められています(資料45)。
③ 特定保健指導の対象と対象者の選定方法
特定保健指導の対象者は、特定健診(特定健康診査)の結果と質問票の内容により決定し、『階層化』によって支援レベルが振り分けられます。
・特定保健指導の対象
階層化の基準は、腹囲、BMI、血糖、血圧、脂質、喫煙習慣の項目により判断されます。
『積極的支援レベル』メタボリックシンドローム該当者
『動機付け支援レベル』メタボリックシンドローム予備軍
『情報提供レベル』特定保健指導の対象外
メタボリックシンドロームによる生活習慣病リスクの低い人や、すでに服薬治療を実施している人
3. 効果的に特定保健指導を実施する為のポイント
①特定保健指導の今後と産業保健との位置づけ
2023年度の「健康経営優良法人2024認定」より、加点項目として“企業(事業主)単位の特定健診(特定健康診査)・保健指導実施率”が追加されました。
加えて、2024年度には特定健診(特定健康診査)・特定保健指導の実施評価にアウトカム評価が加わることもあり、今までより一層特定保健指導における実施率や実施後の結果が注目されることとなります。
健保組合に任せておけば良い、ではなく、企業としてもより一層、特定保健指導の実施率向上に向けて取り組むことが求められているのです。
②個別・集団での特定保健指導の適切な実施方法
特定保健指導の対象者の多くは、会社からの指示でしぶしぶ参加することが多く、自ら望んで受けに来ていることは少ないでしょう。さらに、特定保健指導の対象者は、動機が乏しいことがほとんどです。
つまり、本人が変わりたいと思うことを手助けしサポートできるような支援をすることが求められます。
特定保健指導は、個別で実施(個別型指導)することが多いと思いますが、集団に対して実施(集団型指導)する方法もあります。
<個別型指導>
個別型指導は、対象者の状況や理解状況にあわせたアプローチが可能です。ただし、正しい情報提供だけでは、生活習慣の改善につながらないこともあるため、指導者の技術、時には心理学的手法を活用とした技術も必要となります。
<集団型指導>
集団型指導は、“誰かと一緒に”生活習慣の改善に取り組むことが可能です。参加者同士が励まし合ったり、同じ目標に向かったりと一緒に取り組む仲間ができます。
ただし、集団型指導は技術を持った指導者が必要であり、全ての対象者に合わせた時間と場所を確保することや調整することが必要となります。
③行動目標の設定で心がけたいコミュニケーション
あくまでも、主体は対象者本人であり、指導者ではありません。
問題点や改善できそうなスイッチを見つけると、つい押したくなってしまうことがあるかと思います。しかし、効果的な指導を行うためには、『ましょう』という言葉を多用しないようぜひ心がけたいものです。
対象者との対話のなかで、対象者が生活習慣の改善のための適切な行動を実施できない理由を解きほぐし、行動を実施した後に得られる『価値』を共有したうえで、短期的、長期的な計画を立て、さらに計画通りにいかない場合はどうするか、対象者が主体的に考えるサポートを丁寧に実施することが重要です。
④ナッジ理論を活用した行動目標の設定
そこで有用なのが、 ナッジ理論 という手法です。
ナッジ理論は、言葉の通り、『人間の行動』に着目した学問です。強制ではなく、『こうあってほしい』『望ましい』方向に人を誘導する仕組みのひとつです。
目標に向かって、自らを律し頑張って進むことも重要ですが、 無意識の作用で望ましい方向に行動をしたくなり、目標に近づくことができる手法がナッジ理論 です。
行動目標を設定する際には、対象者自身が、『これならできそう』と思うこと、さらに『長期的、短期的に評価ができること』が重要なのです。
専門スタッフ(保健師・管理栄養士等)は対象者自身が決めたことをサポートするのが良いでしょう。
4. 職場における保健指導のスキルと戦略
特定保健指導はメタボリックシンドロームに着目し、生活習慣病を予防する事が目的ですが、事業場における事後措置としての保健指導では従業員が健康で安全に就業できるよう、産業保健スタッフが受診勧奨や生活指導を行います。
生活習慣病リスクの高い方や有所見者へ生活習慣の改善を勧めることは、「病気の予防」といった観点で、どちらも対象者の未来のためになります。
ここでは職場での効果的な保健指導についてもポイントをご紹介します。
①コミュニケーションスキルの重要性と効果的なコミュニケーションの方法
保健指導を実施していく上で、対象者が誤った健康情報を鵜呑みにしていたり、間違った健康行動を取っていたりすると、つい正したくなってしまうこともあるかと思います。これを、『間違い指摘反射』もしくは、『正したい反射』といいます。人間には間違ったことを言われると反射的に正したくなる本能があるのです。
保健指導でこれをしてしまうと、対象者は心を開いてくれず、保健指導の効果は出なくなり、保健指導を受けに来てくれなくなる可能性もあります。
そこで、重要なのが『傾聴』です。
対象者が間違っていると思われることを発言しても、すぐには否定せず、まずは受け止め、なぜそう考えるようになったのか、その背景にあるものはないかといったことを、対象者目線で物事を読み解いていくのも効果的です。
対象者自身が自ら変わろうとする力を引き出すことが重要なのです。
保健指導の現場では、限られた時間で『指導』を行わなければなりません。能動的に話を聞き、対象者のなかにある行動変容へのきっかけをみつけて引き出すといった、「アクティブリスニング」も効果的ですので試してみるのも良いでしょう。
②モチベーションの向上と行動変容の促進策
人は、誰かと一緒だと頑張れる、という心理があります。誰かと一緒に生活習慣の改善に取り組む、できれば同じ程度の改善を要する相手だと望ましいでしょう。
たとえば、禁煙については誰かと一緒にチャレンジしたり、サポーターを見つけたりすることも効果的です。
③生活改善を意識した職場環境の整備
事業所全体で生活習慣の改善や健康に取り組むことで、対象者が健康について意識する機会が増え、事業所の一員として取り組みやすくなることが期待できます。
例えば、階段に消費カロリーを記載したものを掲示する、エレベーターを使用せず階段を使用するよう促す、社員食堂で健康を意識したメニューを取り入れる、ウォーキングイベントを開催するといったようなことがあります。
朝礼や昼礼で、ラジオ体操を取り入れるのもおすすめです。
5. おわりに
産業保健の現場は、『働いている人』を対象としています。つまり、これらの人をターゲットとすることで、生活習慣病の改善により将来の健康寿命を延ばすことが期待でき、医療費の適正化につなげることができます。また、一人一人の健康状態を高めることは生産性の向上、事業所の成長につながり、強いては国の発展につながります。
特定保健指導は、4~5年毎に改定されており、2024年度より第4期となります。
第4期では、ただ特定保健指導を実施するだけでなく、生活習慣病にならないことを重点目標としつつ行動変容につなげることが求められます。
特定保健指導をより効果的なものにするためには、その仕組みや目的を正しく理解し、実施者は常に情報収集とスキルアップを図っていくと良いでしょう。
■作成|さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修|難波 克行 先生
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当社の特定保健指導プログラムは、ナッジ理論の一人者である竹林正樹先生の監修のもと開発された実践的なプログラムです。
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