はじめに
本記事は、「職場における熱中症防止のためのガイドライン(厚生労働省)」を基に、産業保健スタッフ・安全衛生担当者が職場の熱中症対策(体制整備、WBGTによるリスク評価、作業環境管理・作業管理・健康管理・教育、異常時対応)を実務で運用できるよう、要点をFAQ形式で整理したものです。
本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と相まって、熱中症リスクに応じて実施することが望ましい具体的方法を一体的に示し、事業者が業種・業態に応じて適切に選択して取り組むことにより、熱中症による労働災害等の防止を図ることを目的としています。対象は、熱中症のおそれのある全ての作業です。
<目次>
1.目的・適用範囲
2.リスク評価:要因特定とWBGTの把握
3.リスクの見積り:着衣補正とWBGT基準値
4.労働衛生管理体制:計画・報告体制・手順
5.作業環境管理:WBGT低減と休憩場所
6.作業管理:休憩・暑熱順化・水分塩分・巡視
7.健康管理:健診・日常管理・当日確認
8.労働衛生教育:対象別の教育内容
9.異常時の措置:発見~救急搬送まで
10.実施時期・関係者の配慮(注文者等)
11.産業保健スタッフ向けまとめ
1.目的・適用範囲
Q1. ガイドラインの目的は何ですか?
A. 職場の熱中症防止のため、労働衛生管理体制の確立、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育等について、熱中症リスクに応じて行うことが望ましい具体的方法を一体的に示し、事業者が業種・業態に応じて適切に選択して取り組むことを促すことで、熱中症による労働災害等の防止を図ることを目的としています。
Q2. 誰が参照すべきですか?
A. 事業者や作業従事者だけでなく、仕事や工事を依頼する注文者、作業場所管理事業者、労働者と異なる場所で就業する個人事業者等も、本ガイドラインを参考に対策を検討・実施することが望ましいとされています。
Q3. 適用される作業は?
A. 熱中症のおそれのある全ての作業が対象です。
2.リスク評価:要因特定とWBGTの把握
Q4. 熱中症リスク評価の最初のステップは?
A. 事業場で暑熱に関する要因があるかを特定します。例として、高温・多湿な作業環境、連続作業、通気性/透湿性の低い衣服・保護具、身体作業負荷の大きい作業が挙げられています。
Q5. WBGTとは何ですか?
A. 暑熱環境による熱ストレス評価を行う暑さ指数で、 ①湿度、 ②日射・輻射など周辺の熱環境、 ③気温の3つをもとに算出されます。 熱中症リスク評価の最も基本となる手法としてWBGT値の把握が示されています。
Q6. WBGTの測定で注意すべき点は?
A.規格に適合したWBGT指数計を準備し点検すること、時刻や場所で気温が変化するため随時把握が基本であることが示されています。また、一般的なWBGT参考値は有効ですが、個々の作業場所や作業ごとの状況を反映しないため、特に直射日光下、炉等の熱源近く、冷房なしで風通しの悪い屋内などは実測が必要とされています。
3.リスクの見積り:着衣補正とWBGT基準値
Q7. WBGT値はそのまま評価してよいですか?
A. 実測WBGT値に対し、ガイドラインに基づく着衣補正を行い、補正後WBGT値を、身体作業強度(代謝率レベル)と暑熱順化の状況に応じたWBGT基準値に照らして見積もることが示されています。
Q8. WBGT基準値を超える(または超えるおそれがある)場合は?
A. 作業場所のWBGT低減(冷房等)、身体作業強度の低い作業への変更、WBGTが低い場所での作業に変更する等の対策を、状況に応じて熱中症リスクの低減のための対応を実施するよう努めることが示されています。
Q9. 高年齢者や基礎疾患のある作業従事者への配慮は?
A. 高年齢作業従事者や、疾病・障がいなど熱中症リスクに影響する可能性がある作業従事者については、作業時間短縮や身体作業強度の低減等を検討するなど、特に留意することが示されています。
4.労働衛生管理体制:計画・報告体制・手順
Q10. 体制づくりで重要な点は?
A. 衛生委員会等を活用し労働者の理解と協力を得つつ労使で話し合い、内容を労働者へ周知することが重要とされ、熱中症対策の効果検証をシーズンが終了後に行い、翌年の対策に活用することが望ましいとされています。
Q11. 熱中症防止の責任体制はどう整えますか?
A. 産業医の意見も参考に、衛生管理者(50人未満は安全衛生推進者/衛生推進者)を中心に対策を検討させ、WBGT基準値の決定、WBGT低減策、暑熱順化状況の確認、作業開始前の体調確認、WBGT把握と評価、巡視による水分・塩分摂取確認、退勤後の体調悪化の注意喚起、教育実施状況確認等の業務を行わせることが示されています。必要に応じ、熱中症予防管理者を選任することも示されています。
Q12. 作業手順・作業計画に入れるべきことは?
A. 夏季の暑熱環境下の作業手順・計画を策定し、暑熱順化プログラム、WBGTに応じた休憩時間確保、WBGT基準値を踏まえた作業中止に関する事項を含める必要があるとされています。
Q13. 報告体制と手順の整備(法令対応)とは?
A. WBGT値28℃以上または気温31℃以上の場所で継続1時間以上または1日4時間超の作業(熱中症を生ずるおそれのある作業)を行わせる場合、熱中症の自覚症状がある場合や疑いを発見した場合に報告させる体制を整備し周知すること、さらに作業離脱・身体冷却・医師の診察等の措置内容と手順・緊急連絡先を作業場ごとに定め周知することが示されています。バディ制やウェアラブルデバイス(精度向上のため他方法と組み合わせが望ましい)等の活用例も挙げられています。
5.作業環境管理:WBGT低減と休憩場所
Q14. WBGT低減の代表的対策は?
A. 例として、遮へい物の設置、屋外の簡易屋根等による直射日光・照り返しの遮断、通風/冷房設備やミストシャワー等の設置と点検(屋内は除湿機能が望ましい)、通風不良箇所の散水は湿度上昇や滑りやすさに注意、といった措置が示されています。
Q15. 休憩場所の整備で押さえる点は?
A. 作業場所近くに冷房を備えた休憩場所や日陰等の涼しい休憩場所を確保し、足を伸ばして横になれる広さ、身体冷却の設備・物品(氷、アイススラリー、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等)、飲料水・スポーツドリンク・経口補水液・塩飴等の備付け(糖分・塩分の含有量が分かるものが望ましい)などに留意することが示されています。また、熱中症のおそれのある者を一人きりにしないことが強調されています。
6.作業管理:休憩・暑熱順化・水分塩分・巡視
Q16. 作業時間と休憩はどう考えますか?
A. 休止・休憩時間を確保し連続作業時間を短縮すること、着衣補正後WBGT値が基準値を大幅に超える場合は原則作業を行わないこと、やむを得ず作業する場合は単独作業を控え休憩を長めにすることが示されています。
Q17. 暑熱順化(熱に慣れる)とは?
A. 暑熱順化の有無は熱中症発症リスクに大きく影響するため、暑さに体が適応できるよう、計画的に期間を設ける必要性が示されています。例として、7日以上かけて少しずつ暑熱環境での身体負荷や作業時間を増やしていく方法が挙げられています。夏季休暇等で中断すると4日後から暑熱順化の喪失が始まり3~4週間後に完全に失われる点に留意し、連休後は必要に応じ暑さに体を慣らす期間の延長・追加の暑熱順化を検討します。スポットワーク等の短期就労者は、原則暑熱順化が出来ていない者として扱うことが望ましいとされています。
Q18. 水分・塩分摂取は何を徹底しますか?
A. 多量発汗を伴う作業場では塩と飲料水の備付けが義務であり、飲料水・スポーツドリンク・経口補水液・塩飴等を備え付ける必要があるとされています。自覚症状がなくても脱水が進行することがあるため、作業前後の摂取と作業中の定期的摂取を指導し、表の作成や巡視で摂取状況を確認し徹底します。スポーツドリンク等の摂取目安や摂り過ぎ注意、尿の回数や色の変化による脱水の可能性の周知、基礎疾患がある場合は主治医・産業医へ相談させることが示されています。
Q19. 巡視で確認すべきことは?
A. 水分・塩分摂取の確認に加え、健康状態(心拍数、体温、尿の回数・色等)を確認し、熱中症の兆候があれば速やかに作業中断等を行う目的で、暑熱環境下での作業中は巡視を頻繁に行い声かけすることが示されています。長時間の単独作業を避け、複数人での作業では互いの健康状態に留意させ、異変時は躊躇なく申し出るよう指導します。単独作業が避けられない場合はウェアラブルデバイス等と組み合わせることも検討するとされています。
7.健康管理:健診・日常管理・当日確認
Q20. 健康診断結果に基づく対応のポイントは?
A. 熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病として、①糖尿病、②高血圧症、③心疾患、④腎不全、⑤精神・神経関係の疾患、 ⑥広範囲の皮膚疾患、⑦感冒等、⑧下痢等が示されています。これらの疾患を踏まえて健診項目(血糖、尿、血圧、既往歴等)を確認し、異常所見がある場合は医師等の意見を聴き必要な就業措置(就業場所変更、作業転換等)を講ずる義務がある点に留意し徹底することが示されています。治療中の作業従事者についても産業医・主治医の意見を勘案し必要な措置を講じます。
Q21. 日常の健康管理で指導すべき点は?
A. 睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食未摂取等が発症に影響し得るため、日常の健康管理を指導し必要に応じ健康相談を行うことが示されています。熱中症の発症リスクがある疾病を治療中の作業従事者には、熱中症予防の必要性を周知し、主治医の指示や自身の判断で予防するための対応が必要と感じた場合は事業者へ申し出るように指導します。
Q22. 作業開始前に確認することは?
A. 当日の朝食未摂取、睡眠不足、前日の多量飲酒、体調不良等の確認を行い、管理者は入職後1週間未満や熱へのばく露から4日以上離れていた作業従事者を把握し、巡視頻度を増やす等、特に健康状態に配慮するとされています。体温計・体重計等の備付けも例示され、作業従事者からの体調に関する情報はプライバシーに配慮して取り扱うことが示されています。
8.労働衛生教育:対象別の教育内容
Q23. 誰に教育を行いますか?
A. 熱中症予防管理者、職長等の管理者、作業従事者に対して教育を行うことが望ましいとされています。雇入れ時教育の機会で行う等、事業場実情を踏まえます。
Q24. 教育内容の例は?
A. 例として、熱中症の症状、予防方法(WBGTの意味、作業環境管理・作業管理・健康管理)、緊急時の救急措置、事例、関係法令等が示され、熱中症予防管理者向け・職長向け・作業従事者向けそれぞれの教育内容や時間配分例が提示されています。
9.異常時の措置:発見~救急搬送まで
Q25. 熱中症が疑われる場合の基本対応は?
A. 症状が現れた場合は必ず作業から離脱させ、涼しい場所で身体を冷やし、水分・塩分摂取等を行わせ、症状に応じ救急隊要請または医師の診察を受けさせることが示されています。本人が『大丈夫』と言っても躊躇せず担当者に連絡し、手順に従って医療機関につなぎます。迷う場合は#7119(救急安心センター事業)等を活用して専門家の指示を仰ぐことが望ましいとされています。
Q26. 具体的な症状の例は?
A.熱中症を疑う症状として、ふらつき、発汗、けいれん、めまい、頭痛等が挙げられ、重症度に応じてI度(めまい・失神、こむら返り、大量発汗等)~II度(頭痛、吐き気、倦怠感、判断力低下等)~III/IV度(意識障害、痙攣、運動障害、高体温等)に分類されています。
10.実施時期・関係者の配慮(注文者等)
Q27. いつまでに準備するのが望ましいですか?
A. 当年の気温上昇や地域差によるものの、おおむね4月中までに、リスク評価・体制確立・作業環境管理・作業管理・健康管理・教育が円滑かつ継続的に実施できるよう準備することが望ましいとされています。
Q28. 注文者・作業場所管理事業者に求められる配慮は?
A. 夏季の屋外作業は熱中症のおそれのある作業となり得るため、注文者は経費や工期・納期に配慮すること、休憩・水分補給の必要性を理解することが重要とされています。作業場所管理事業者は、熱中症発症時に緊急連絡先や医療機関への連絡や、請負業者から休憩場所の要望があれば誠実に協議し対応することが望ましいとされています。
11.産業保健スタッフ向けまとめ
- WBGTを実測し、着衣補正と身体作業強度・暑熱順化を踏まえてリスクを見積もる。
- 対策は『作業環境管理→作業管理→健康管理→教育→異常時対応』を一体で設計し、衛生委員会等で労使合意のうえ周知する。
- 暑熱順化は計画的に(7日以上)。連休等で喪失するため、休暇後は必要に応じ再順化を検討する。
- 水分・塩分は“自覚症状の有無にかかわらず”定期摂取を徹底し、巡視・日々の体調確認等で熱中症を予防する。
- 異常時は『作業離脱→身体冷却→水分塩分の摂取→医療的措置』を躊躇なく実施。迷う場合は#7119等で専門家判断を仰ぐ。
出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(2026年4月30日利用)
※本記事は上記資料を参考に、当社が編集・作成しました。
※本記事の作成にあたり、文章整理にAIを補助的に活用しています。

