少子高齢化を背景に、従業員が介護を理由に辞める「介護離職」は深刻な経営課題です。これは単なる人員減ではなく、企業の競争力を揺るがすことになります。本記事では、企業が取り組むべき法制度への対応から、具体的な支援策、それを機能させる産業保健スタッフの役割までを解説していきます。
<目次>
1.介護離職が企業に与えるインパクト(人材・経済面)
2.介護離職を防ぐための法制度と企業責任
3.社内で導入すべき介護支援制度(勤務配慮・相談窓口・外部資源連携)
4.成功事例に学ぶ企業の取り組み
5.産業保健スタッフが担える役割
6.まとめ
1.介護離職が企業に与えるインパクト(人材・経済面)
■人材面への影響(人材の質と量)
介護離職は、単なる人数の減少ではなく、豊富な知識経験を持ち企業の中核を担う人材を失うことに直結します。顧客関係や業務ノウハウといった、その人ならではの力が、組織から失われるのです。近年は男性介護者の増加により、中核的人材が介護に直面するケースが目立ち、欠員のダメージが大きくなっています。離職に至らない場合でも、夜間対応などの介護負担により、慢性的な疲労が蓄積されます。その結果、集中力の低下や判断ミスの増加といった「仕事の効率低下」につながります。また、ストレスにより体調が悪化し、仕事の質が徐々に低下することもあります。さらに、通院の付き添いや介護対応で介護休暇などを利用する回数が増えることがありますが、このような休暇パターンは介護疲労が進行している可能性があります。こうした兆候を早期把握し、介護離職の防止につなげることが人材損失を最小限に抑える近道です。
図:家族の介護・看護を理由とする離職者数の推移
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出典元:厚生労働省 仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集
■経済面・業務面への影響(コスト、生産性、組織運営)
離職前の段階から仕事の効率低下や欠勤増加が始まり、仕事の遅延、品質低下、機会損失として積み上がります。また、離職に至ると、新しい人の採用費・教育コストなどが発生します。さらに、離職後のバックアップ体制が未整備だと、業務の引き継ぎや再配分、外部委託などに追加コストが発生し、残されたメンバーへの負担や不公平感が生じます。その結果、職場への不信感や不満が生じ、さらなる離職リスクを高めてしまいます。
2.介護離職を防ぐための法制度と企業責任
■主な法定制度
介護離職を防止する基盤となるのが「育児・介護休業法」です。この法律により、労働者には様々な権利が保障されています。
・介護休業制度
対象家族1人につき通算93日まで(3回まで分割取得可能)、主に介護体制を構築するための準備期間として活用
・介護休暇制度
年5日(対象家族が2人以上で10日)を時間単位で取得でき、通院の付き添いや手続きなど日常的なスポットの介護ニーズに対応
働き方への配慮も定められており、連続3年以上の短時間勤務やフレックスタイム、残業の免除、時間外労働の制限(月24時間・年150時間)、深夜業の制限(午後10時~午前5時)などを利用することができます。
介護休業と介護休暇についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください👇

■企業に求められる義務
企業には法定制度の提供に加え、雇用環境整備に努めることが求められています。不利益取扱いの禁止とハラスメント防止措置は必須になります。2025年の法改正により、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認が義務化されました。また、雇用環境整備として、情報提供や相談体制の整備が求められています。さらに、雇用環境の整備として、管理職を含む研修の実施、相談窓口の設置、利用事例の収集・提供、利用促進方針の周知のうち、少なくとも一つ以上を講じる義務があります。
■望ましい取り組み
法定制度を超えた支援として、介護支援プランの策定支援が推奨されています。上司・人事・従業員との面談を通じて、具体的な働き方や制度利用を検討します。介護に直面する前の早期の情報提供も重要です。
柔軟な働き方として、テレワーク(在宅勤務)は法的義務ではありませんが、育児・介護との両立支援策として導入が望ましいとされています。さらに、短時間勤務やフレックスタイムなど多様な選択肢の整備が望まれます。また職場環境の改善として、長時間労働の抑制、業務の棚卸しと効率化、業務の見える化などを整備し、急な休業にも対応できる体制を整えます。
制度整備と職場風土の両輪で、従業員が安心して働き続けられる環境を実現することが、企業の責任となります。
3.社内で導入すべき介護支援制度(勤務配慮・相談窓口・外部資源連携)
■勤務配慮・柔軟な働き方
法定制度(介護休業・介護休暇・勤務調整等)を確実に提供することに加え、従業員の多様なニーズに対応した柔軟な働き方の選択肢を増やすことが介護離職防止につながります。介護を目的としたテレワークの導入は努力義務とされており、サテライトオフィス勤務なども含め、従業員が仕事の時間と場所を調整できる環境を整えます。実際の運用では、申請手続きの簡素化や急な変更にも対応できる柔軟性の確保が必要です。制度があっても使いにくければ意味がありません。現場の実情に合わせた運用設計が鍵となります。
■相談窓口・サポート体制
従業員から申し出があった場合、面談を通じて意向を確認し、当面の働き方や制度利用、業務配慮を含む介護支援プランを作成します。また、具体的な働き方を文書化することで、担当者が変わっても継続的な支援が可能になります。
相談窓口の整備では、窓口担当者が働き方の相談に対応します。介護の専門的な内容は地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談するよう促します。
さらに、ハラスメント防止体制の整備とプライバシー保護も不可欠です。介護は長期化することが多いため、継続的なフォロー面談を実施し、心身の状態や両立状況を見守ることが重要です。
■業務運営の工夫と外部資源連携
円滑な業務遂行のため、業務の見える化や棚卸しなどの効率化を図り、不必要な業務を廃止・縮小します。これにより、急な休業や短時間勤務にも対応できる体制が整い、チーム全体の負担も軽減されます。外部資源との連携では、介護に直面する前の早期の情報提供が重要です。従業員が介護について正しい知識を持つことで、いざという時に適切な判断ができます。また、介護保険制度の流れや訪問介護、訪問看護などのサービスの種類を周知し、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談を促進します。企業の相談窓口は「働き方」、外部専門家は「介護の内容」という役割分担を明確にし、従業員を適切な支援につなげることが介護離職防止の実現につながります。
4.成功事例に学ぶ企業の取り組み
ここで、他の企業が取り組んでいる介護支援の事例を2例紹介します。
■事例1「テレワーク+情報共有」でムダな移動を削減
・背景
拠点が多く通勤・移動負担が大きい。突発の介護対応で予定が崩れやすい。
実施内容:在宅勤務・サテライト勤務を標準化。オンライン会議を原則にし、資料・進捗はクラウドで見える化。管理職研修で評価の偏りを防止。
・効果
中抜け後の復帰がスムーズになり、生産性の落ち込みを抑制。介護離職の防止に直結。
導入ポイント:制度だけでなく「会議・進捗・評価」の運用ルールを1枚で明文化しています。誰でも同じ手順で使えるようにするのが介護離職対策の近道です。
テレワークを介護との両立に活かすためのポイントを知りたい方は以下の記事をご覧ください👇

■事例2 情報企業の社内ケアページで制度利用の迷いをなくす
・背景
制度はあるが、使い方がわからず申請が進まない。
実施内容:介護特設ページに、制度の目的・対象・申請手順・書式・連絡先・外部資源を一体化。動画FAQで「5分でわかる」シリーズを配信。
・効果
介護と仕事の両立 支援制度の申請が増え、申請ミス・やり直しが激減。
導入ポイント:制度を利用したいと思った時に、最初に見るべきスタートガイドを作成しています。事例紹介を載せると利用者の心理的ハードルも下がります。
5.産業保健スタッフが担える役割
介護離職を防ぐために、産業保健スタッフができることは何でしょうか。健康管理の業務は介護離職防止の取り組みと多くの共通点があり、健康管理の立場から貢献できる場面も少なくありません。
■不調の早期発見と早期対応
介護による疲労は、仕事効率低下として表れることが多いため、早期発見が重要です。産業保健スタッフは、面談、健康診断、ストレスチェックなど、さまざまな機会で、従業員の体調の悪化やストレスの兆候を把握することができます。
また、早期発見において、特に注目すべきは休暇取得パターンの変化です。時間単位の休暇取得が増える、突発的な休みが多くなるといった変化に気づいたら、管理職から部下に声をかけ、必要に応じて産業保健スタッフに連絡してもらうなど、ラインケアを充実させていきましょう。
■介護支援制度の窓口につなぐ
制度が整備されていても、実際に利用されなければ効果は発揮されません。そのため、産業保健スタッフは制度と現場をつなぐことが重要です。具体的には、産業保健スタッフが行う面談のなかで、介護の問題や、介護と仕事の両立に関する話題が出た時には、社内の介護制度を簡単に紹介し、介護制度の担当窓口や相談窓口の連絡先を伝えるなど、介護支援制度の積極的な利用を促します。
■外部専門家・外部リソースにつなぐ
介護を無理なく続けるためには、適切な外部資源の利用が欠かせません。介護と仕事の両立に悩む社員との面談の場面では、介護の状況を確認する際に、必ず、社外の資源や介護サービスの利用状況についても確認しましょう。さらに、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談を促し、自分で抱え込みすぎないようにします。
例えば、ショートステイや通所介護の活用により介護者の睡眠時間を確保する方法や、従業員支援プログラムとの連携による心身のケアなど、いろいろなサポートの方法があります。効果的だった支援の事例は社内で共有し、他の従業員や管理職の理解を深めることで、介護支援制度の利用と定着を促します。
6.まとめ
介護離職防止には、法定制度の活用に加え、テレワークなど柔軟な働き方の提供や相談しやすい環境整備が不可欠です。しかし、制度は作るだけでは機能しません。産業保健スタッフが調整役となり、従業員や外部専門家などと連携することで、制度がより効果的に運用されます。企業全体で、従業員が安心して働き続けられる環境作りを目指すことが重要です。
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■参考
1)仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集|厚生労働省
2)仕事と介護 両立のポイントーあなたが介護離職しないためにー|厚生労働省
■執筆/監修
<執筆> あけの55(看護師、保健師)
看護大学卒業後、大学病院循環器内科・心臓血管外科で6年間従事。心不全療養指導士を取得。その後訪問看護ステーションに転職し、現在は看護主任として勤務。急性期から慢性期、在宅医療までの幅広い経験を活かし、Webライターとしても活動中。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

