在宅勤務と介護の両立―職場が整えるべき環境と実践ポイント
家族の介護をしながら働く従業員は年々増加しています。

※「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集(厚生労働省)」を元に作成
親の通院付き添いや自宅での見守りのため、従来の働き方では対応が難しく、やむを得ず離職を選ぶ「介護離職」は深刻な経営課題です。
こうした中、在宅勤務は、柔軟な勤務形態を可能にするため、介護離職を防ぐ有力な解決策です。しかしその一方で、業務時間中の介護対応や、時間管理・情報管理の難しさなど、新たな課題が生まれています。
これらの課題を放置すれば、在宅勤務がかえって従業員のストレスを増やし、職場の士気を低下させる原因にもなりかねません。
そこで本記事では、テレワークによる介護支援のメリット、具体的な課題、そしてその実践的な解決策について解説します。
<目次>
1.在宅勤務(テレワーク)で実現できる介護支援のメリット
2.介護と在宅勤務が抱える現実的な課題
3.両立のために必要な職場環境(制度・ルール)
4.成功事例に学ぶテレワークと介護の両立
5.産業保健スタッフができる支援の具体策
6.まとめ
1.在宅勤務(テレワーク)で実現できる介護支援のメリット
在宅勤務は、従業員の負担を減らしつつ、介護との両立の現実性を高めることができます。実務には就業状況の確認や、業務を一時的に離れる中抜け時間の取り扱いをどうするか、といった実務上の難しさもありますが、制度と運用が噛み合えば、個人・組織の双方にメリットをもたらします。
■離職予防
介護をしながら働く従業員にとって、在宅勤務の選択肢があるだけで、就業継続のハードルが下がり、離職リスクを抑えることができます。通勤負担の解消や介護サービスの利用時間設計の柔軟化により、突発的なケア対応があっても雇用を維持しやすくなります。
■介護者の能力発揮とキャリア継続支援
ケアにかかる時間帯を外した勤務設計で集中時間を確保し、安定したパフォーマンスを保つことができます。経験・専門性を中断させずに積み上げられるため、評価・昇進の機会も途切れにくく、キャリアの持続可能性が高まります。
■ワークライフバランスの向上
在宅勤務は通勤負担を減らすことができ、家事・介護の時間設計がしやすくなります。その結果、介護者本人の満足度や生産性向上が期待できます。働き方の柔軟化は、離職防止に加え、満足度や生産性の向上にもつながる可能性があります。
■医療機関との連携や緊急時の対応の柔軟性
通院付き添い、検査結果の説明、急な入退院対応などに、迅速に対応ができます。在宅からの中抜け・復帰がしやすく、家族の医療ニーズと業務を両立する体制を取りやすいです。企業の介護支援が整っているほど、このメリットは大きくなります。
2.介護と在宅勤務が抱える現実的な課題
在宅勤務と介護を両立する際には、いくつかの現実的な課題が考えられます。
■仕事と介護の同時並行の大変さ
在宅勤務の場では、業務時間帯に介護・ケアが割り込むことが多く発生します。例えば、「食事・服薬介助」「排泄介助」「介護サービス業者との対応」などが挙げられます。結果として、介護と仕事の境界が曖昧になり、どちらも十分に遂行できない「中途半端な状態」に陥るリスクがあります。
■マネジメントの困難性
在宅勤務下では、労働時間の把握・中抜け・応答時間の管理など、従来オフィスで暗黙的に運用されていた前提が通用しにくくなります。在宅勤務に関する上司の理解、知識、経験が不足している職場では、勤怠の線引き、会議設定とケア時間帯の衝突回避、成果の見立て、職務の優先順位付けなど、柔軟性の高い働き方を適切にマネジメントすることが難しく、従業員の孤立や不適切な評価につながる可能性があります。
■不公平感の発生
対面が欠かせない職場と、在宅勤務ができる職場では、一部の従業員(介護者)のみが在宅勤務のような柔軟な働き方をすると、他の従業員との間に不公平感が生じ、周囲から「その人だけが優遇されている」と受け取られやすく、互いに不信感が生じ、職場の士気に影響を与える可能性があります。
■介護者の肉体的・精神的負担の増加
在宅勤務と介護を同時に担うと、睡眠の質の低下・慢性的な疲労・自責感・将来の不安といった様々な負担を抱えやすくなります。介護による昼夜逆転が続くと、体内時計が乱れ、集中力が低下し、判断力や作業効率の低下など、仕事のパフォーマンスにも影響が出ます。
また、心理面では「常にそばにいなければならない」という義務感や「仕事が遅れているかも。」といった焦りなどが重なり、無理を重ねて体調の悪化につながる可能性も考えられます。
3.両立のために必要な職場環境(制度・ルール)
在宅勤務で介護と仕事の両立をするためには、制度の土台と運用ルールを設けることが重要です。具体的なルールを整備することで、在宅勤務が「介護と仕事を両立させる有効な手段」として機能します。ここでは、課題に対応するために整備すべきルールのポイントを解説します。 (在宅勤務の可否や運用は、業務内容や企業の制度により異なります。)
①仕事と介護の境界線について(中抜け・時間管理)
業務時間中の介護対応については、従業員が罪悪感を抱くことなく、かつ業務への影響を最小限にするための明確なルールが必要です。
◆「中抜け」ルールの明確化
介護対応で業務を一時的に離れる「中抜け」の扱いを就業規則や社内ルールで明確に定めます。例えば、「時間単位の年次有給休暇」「介護休暇」を活用する、または、フレックスタイム制のコアタイム外の離席時間とするなど、労働時間の取り扱いをあらかじめ整理しておくことが重要です。
◆連絡・報告ルールの設定
中抜けの開始・終了時に、上司やチームにチャットツール等で連絡する、共有カレンダーに予定を書き込むなど、シンプルで負担の少ない連絡ルールを設けます。
②不公平感とマネジメントの壁について
在宅勤務者と出勤者の間に不公平感が生まれたり、マネジメントが機能不全に陥ったりするのを防ぐためには、ルールや制度が従業員全体から見える仕組みが求められます。
◆成果を基本とした評価制度
働いている姿が見えにくい在宅勤務では、労働時間だけでなく、業務の成果を公正に評価する基準を設けることが、不公平感をなくす上で重要です。
◆業務の可視化と情報共有の徹底
タスク管理ツールなどを活用して、各自の業務進捗をチーム全体で可視化します。また、重要な会議にはオンラインで参加できるよう設定するなど、出社勤務者との情報格差が生まれないよう配慮します。
③介護者の心身の負担軽減について
在宅勤務は、仕事と介護の境界が曖昧になり、孤立感や長時間労働につながるリスクもあります。企業には、従業員の健康を守るための配慮が求められます。
◆労働時間管理
中抜けした分を取り戻すために、早朝や深夜に長時間労働をしていないか、PCログなどで客観的な労働時間を把握し、過重労働を予防します。
◆定期的な面談
孤立感を防ぎ、心身の不調を早期に発見するため、産業保健スタッフが定期的にオンラインで面談する機会を設けます。
4.成功事例に学ぶテレワークと介護の両立
ケース1
| 40代の男性会社員Aさんは、平日フル出社の勤務形態。脳梗塞で麻痺が残った母親の在宅介護のため、週3日のテレワークを申請しました。 出社日には訪問介護を入れ、テレワーク日には自身が対応することで、母親も安心して在宅生活を続けられ、Aさんも離職せずに仕事を両立できました。 Aさんは片道1時間(往復2時間)の通勤時間が削減されたことで、その時間を母親のケアや家事に充てることができるようになり、精神的な負担も大幅に軽減されました。 |
運用のポイントは以下の通りです。
- 制度の活用: 会社が導入していた「フレックスタイム制度」と「テレワーク制度」を組み合わせて適用しました。
- 勤怠管理: 訪問介護や看護師が対応する時間は、本人は業務から離れるため、フレックスタイムの「中抜け(コアタイム以外の離席)」として扱いました。その分の不足時間は、17:30以降に勤務することで調整しています。
- 勤務調整: 中抜けする時間帯を事前に職場で共有し、当日の業務進捗を終業時にチャットで報告することをルール化し、理解を得ました。
ケース2
| 50代の女性会社員Bさんは、同年代の夫と子どもの3人暮らし。夫が化学療法を受けるため、2週間に1度の通院日に、午前中は夫の付き添いを行い、午後からは在宅で仕事ができるよう、テレワーク申請をしました。この柔軟な働き方により、Bさんは夫の治療サポートのために丸一日仕事を休む必要がなくなり、業務を遅延させることなく、収入を維持したまま仕事と介護の両立が可能になりました。 |
運用のポイントは以下の通りです。
- 制度の活用: 「在宅勤務制度」と「時間単位の介護休暇」を組み合わせて適用しました。
- 勤怠管理: 通院日の実働は5時間(13:00~18:00)とし、不足する3時間分を「時間単位の介護休暇」として申請・取得しました。
- 勤務調整: 通院スケジュールが化学療法のクールごとに決まるため、1ヶ月単位で上司に勤務シフトを事前申請し、業務に支障が出ないよう調整しました。
5.産業保健スタッフができる支援の具体策
■介護に関する健康相談への対応
産業保健スタッフが行う健康相談の場面でも、介護に関する相談が寄せられることがあります。そのような場合は、介護の状況だけでなく、本人の健康状態、勤務の状況などもヒアリングした上で、社内の介護制度の担当者や相談窓口に相談をつなぐようにしましょう。本人の健康上の問題について、継続的なサポートが必要な場合には、産業保健スタッフによる定期的な面談を実施することもあります。
■ストレスやメンタル面のフォロー
在宅勤務は、孤独感や焦りを抱えやすい環境です。在宅勤務を行いながら介護を行っている社員がいた場合には、社員の孤立防止や健康面でのケアも重要なポイントです。職場の上司からの声掛けやコミュニケーションの機会を増やしてもらうなど、不調の早期発見やメンタルヘルス不調の予防のための職場環境を整備しましょう。
介護うつの原因や事業所ができる対策について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください👇
■必要に応じた面談・保健指導
健康相談やストレスチェックの結果、不眠や疲労感が強いなど、心身の負担や健康リスクが高いと判断される従業員に対しては、個別の面談(オンラインまたは対面)を設定します。面談では、不規則な勤務による運動不足や食生活の乱れなど、具体的な健康リスクに対して保健指導を行い、セルフケアを支援します。
■人事部門や上司への助言・連携
本人の健康確保のため、勤務時間や業務内容の調整が必要だと考えられる場合には、産業医に報告を行い、産業医の意見も踏まえた上で、人事担当者や上司と連携して必要な対応について検討しましょう。その際には、面談で得た情報の開示にあたっては、必ず本人の同意を得ておく必要があります。最終的な勤務条件の決定や調整は企業が行いますが、産業保健スタッフはその判断材料となる専門的な情報を提供し、調整役として機能します。
6.まとめ
在宅勤務と介護の両立支援は、個々の努力や従業員の頑張りだけに頼るべきではありません。産業保健スタッフを専門的な支援役として人事や上司と連携し、会社全体で相談から制度利用、復帰までをサポートする仕組みを構築することは、企業に求められる重要な役割です。制度と個人に合わせた運用の両立こそが、従業員が安心して長く働ける職場環境をつくります。
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■参考
1)仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集|厚生労働省
2)仕事と介護 両立のポイントーあなたが介護離職しないためにー|厚生労働省
■執筆/監修
<執筆> あけの55(看護師、保健師)
看護大学卒業後、大学病院循環器内科・心臓血管外科で6年間従事。心不全療養指導士を取得。その後訪問看護ステーションに転職し、現在は看護主任として勤務。急性期から慢性期、在宅医療までの幅広い経験を活かし、Webライターとしても活動中。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

