特殊健康診断~実施目的や一般健康診断との違いについて、基礎から詳しく解説
特殊健康診断は、法令で定められた有害な業務に従事する労働者に対して、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断のことです。皆さんの職場では、労働者の業務状況に併せて、様々な健康診断が実施されていると思います。
化学物質の自律的管理が段階的に進められ、有害な業務に従事する労働者に対して、事業者の責任で実施すべき対応が増加していますが、法令遵守をはじめ、健康管理体制の構築はかわらず重要といえます。今回は、特殊健康診断の基本について学んでいきましょう。
目次
1.特殊健康診断~目的、一般健康診断との違い
2.特殊健康診断の種類
3.実施時期、健康診断項目
4.まとめ~産業保健スタッフに求められる役割
1. 特殊健康診断~目的、一般健康診断との違い
特殊健康診断とは、健康に有害な業務に従事する労働者に、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断のことです。事業者には、労働安全衛生法及び関係法令に基づき、一定の有害業務に従事する労働者に対し、特殊健康診断を行うことが義務付けられています。
実施の目的
特殊健康診断は、下記の3つを目的として実施されます。
- 職業性疾患を早期発見して早期治療に結び付けること
- 有害要因へのばく露の程度を評価し、健康障害リスクを低減させるために作業環境や作業方法の改善に活かすこと
- 個別の労働者について、就業場所の変更、作業の転換、労働時間等の短縮を講ずること
一般健康診断との違い
特殊健康診断は、健康に有害な影響のある特定の業務に従事している労働者が対象となります。これに対し、一般健康診断はすべての労働者が実施対象です。また、実施する目的もそれぞれ異なります。
特殊健康診断 | 一般健康診断 | |
---|---|---|
目的 | 業務に起因する健康障害の早期発見 業務上の措置 |
一般的な健康障害の早期発見 就業上の措置 |
対象者 | 有害な影響のある特定の業務に従事している労働者 | すべての労働者 労働安全衛生規則第43~47条で定められた労働者 |
2. 特殊健康診断の種類
① 法令に基づく特殊健康診断
健診名称 | 根拠法令 |
---|---|
じん肺健康診断 | じん肺法第3条、第7~第9条の2 |
高気圧業務健康診断 | 高圧則第38条 |
電離放射線健康診断 | 電離第56条 |
鉛健康診断 | 鉛則第53条 |
四アルキル鉛健康診断 | 四アルキル則第22条 |
有機溶剤等健康診断 | 有機則第29条 |
特定化学物質健康診断 | 特化則第39条、同則別表第3、第4 |
石綿健康診断 | 安衛則第48条 |
歯科医師による健康診断 | 事業者 |
※リスクアセスメント対象物健康診断 | 安衛則第577条の2第3項及び第4項 |
② 行政指導による特殊健康診断(指導勧奨)
情報機器作業健康診断、騒音健康診断、腰痛健康診断、等の行政指導による健康診断について定められています
※リスクアセスメント対象物健康診断
リスクアセスメント対象物健康診断は、2024年4月1日より施行されました。
実施にあたっては、厚生労働省にて策定されている「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」を参考にしましょう。
リスクアセスメント対象物を製造、取り扱う事業場においては、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聞き、必要があると認めた際は、医師または歯科医師が必要と認める項目について、健康診断を行わなければなりません。
従来の特殊健康診断のように、実施頻度や検査項目が法令で定められてはいません。事業者が実施の要否、対象者の選定、検査項目、実施頻度について判断しなければなりません。
3. 実施時期、健康診断項目
■実施時期
特殊健康診断は下記を基本として実施します。
- 雇入れ時または配置換え時
- 業務に従事している間は定期的(通常は6か月ごとに1回)に実施する
※業務によって差あり
なお、雇入れ時または配置換え時の特殊健康診断は、もともと持っていた疾病や体調が業務によって悪化することのないよう、健康管理上の職務適性の判断を行うこと、将来健康障害が発見された際に、業務による影響の有無を見極めるために、作業を開始する前の健康状態を記録することを目的としています。
業務内容によっては、業務を離れた後でも障害が進展したり、新たな健康影響が表れたりすることがあることから、業務を行わなくなった後も長期にわたり健康診断をする必要があります。
有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度は、作業環境管理やばく露暴対策等が適切に実施されている場合には、その実施頻度を1年以内ごとに1回に緩和できます。
■健康診断項目
特殊健康診断の検査項目は、その作業の種類ごとに、健康影響の有無を把握できる診察項目・検査項目などが法令によって定められています。
特殊健康診断の実施にあたっては、医学的な診察や検査を行うだけでなく、労働者ごとのばく露情報を把握することが重要です。業務歴の調査、作業条件・作業状況の調査、生物学的モニタリングや個人ばく露測定、作業環境測定の結果などを把握しておきましょう。通常は、1次健診を実施した上で、その結果に基づきより詳細な2次健診(追加検査)を実施する流れとなります。
■健康診断実施の流れ、事後措置
特殊健康診断も、一般健康診断と同じく、①対象者・対象業務の選定、②健康診断の実施、③健康診断結果の労働者への通知、④結果の判定と事後措置、⑤労働基準監督署への実施報告、⑥検査結果の保管の手順で実施します。
【実施のポイント】
対象者、対象業務の選定
特殊健康診断の対象者・対象業務はそれぞれの法令に記載があります。
それぞれの職場の作業状況を調査した上で、特殊健康診断の対象とするかどうかを事業場で判断する必要があります。作業の状況については、安全管理者、衛生管理者、化学物質管理者、現場の管理監督者、作業主任者などと連携して調査を行い、結果に基づいて健康診断の対象者を選定します。
判断に迷うときには、取り扱う物質、取扱方法、作業の頻度、作業環境、労働者のばく露の程度などの情報をもとに、労働基準監督署に問い合わせて相談をするとよいでしょう。結果の判定と事後措置
特殊健康診断の医師による判定も、一般健康診断と同じく、「就労可」「就業制限が必要」「要休業」の3種類に分かれます。また、さらに細かく下記のような区分を用いることもあります。
判定 | 内容 | 対応 |
---|---|---|
管理A | 第1次健康診断のすべての検査項目に異常が認められない者 | 措置を要しない |
管理B | 第1次健康診断のある検査項目に異常を認めるが、医師が第2次健康診断を必要としないと判断した者 第2次健康診断の結果管理Cに該当しない者 |
医師が必要と認める検診、検査を行い、必要に応じて就業制限 |
管理C | 第2次健康診断の結果治療を要すると認められる者 | 該当業務への就業禁止、該当疾病に対する療養 |
管理R | 健康診断の結果、該当因子による疾病または異常を認めないが、該当業務に就業することにより増悪するおそれのある疾病に罹っている場合、または異常を認める場合 | 該当業務への就業制限、該当疾病に対する療養、その他の措置 |
管理T | 健康診断の結果、該当因子以外の原因による疾病にかかっている場合、または異常が認められる場合(管理Rに属する者を除く) | 該当疾病に対する療養、その他の措置 |
- 記録と保管
健康診断結果の記録については、安衛法第66条第3項にて、事業場に義務付けられています。特殊健康診断結果の記録の保管については、健康診断の種類ごとに5~40年保存する義務があります。
4. まとめ~産業保健スタッフに求められる役割
特殊健康診断の実施にあたって、産業保健スタッフは、労働者が、どのような有害作業に従事しているか、十分に把握しておくことが重要です。これらの情報は、特殊健康診断の項目の検討や対象者の選定などに不可欠な情報となります。
健康に有害な業務に従事させる際には、事業者は、労働者が職場の状況を正しく認識し、決められた作業手順を守り、適切に保護具を着用するなど、取り扱う物質の危険性や有害性を理解した上で主体的な取り組みができるよう、体制づくりや働きかけをする必要があります。
労働者の身近にいる産業保健スタッフが、有害業務に関する労働者の理解度やそれらに伴う負担感がどの程度かをアセスメントし、その上で情報を吸い上げ、適切な対応に繋げていくことが必要です。現場のキーパーソンとなる衛生管理者や管理監督者と連携を取り、働きやすい職場環境を整えていきましょう。
■執筆 さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考文献
森晃 爾(2010)看護職のための産業保健入門. 株式会保健文化社
森晃 爾(2021)産業保健マニュアル 8版1刷. 株式会社南山堂
森晃 爾(2024)産業保健ハンドブック改定22版. 労働調査会
厚生労働省|職場のあんぜんサイト_特殊健康診断
厚生労働省|化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました
厚生労働省|リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン