はじめに
本記事は、厚生労働省『小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)』を基に、労働者数50人未満の事業場(小規模事業場)でストレスチェック制度を円滑に運用するためのポイントを産業保健スタッフ向けにFAQ形式で整理しています。
令和7年の法改正により、これまで努力義務だった小規模事業場でのストレスチェック実施が義務化されることとなりました(施行日は公布後3年以内に政令で定める日)。制度の目的は精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止となります。また、チェック実施時はプライバシーが保護される環境づくりが重要とされています。
<目次>
1.制度の目的・全体像
2.実施義務・対象者・報告
3.準備:方針の表明・意見聴取・社内ルール
4.実施体制:小規模事業場では外部委託が原則推奨
5.委託先選定・契約(サービス内容事前説明書で確認)
6.面接指導:地産保の無料活用と、情報提供のポイント
7.集団分析・職場環境改善(小規模での個人特定リスクに注意)
8.プライバシー保護・不利益取扱の禁止(現場で押さえる要点)
9.産業保健スタッフ向けまとめ
1.制度の目的・全体像
Q1. ストレスチェック制度の主な目的は何ですか?
A. 労働者のメンタルヘルス不調の未然防止です。労働者のストレスへの気づきを促しセルフケアを進め、加えて高ストレス者への医師による面接指導、医師の意見を踏まえた就業上の措置、集団分析による職場環境改善までを含む一連の取り組みです。
Q2. 小規模事業場向けマニュアルの位置づけは?
A. 50人未満の事業場でストレスチェックが円滑に実施されるように、労働者自身のプライバシーが保護され、現実的で実効性のある実施体制・方法を示すことを目的として作成されました。小規模事業場にてストレスチェックを実施する際は、当該マニュアルを参照することが推奨されています。
Q3. 小規模事業場の類型と活用時の考え方は?
A. 企業規模自体が50人未満の『単独型』が主な対象ですが、商工会・協同組合等に所属する『業界団体所属型』、工業団地・商店街・卸団地等の『地域集積型』、大企業の営業所・工場・チェーン店等として50人未満の『単独企業分散型』においても参照することが望ましいとされています。
『業界団体所属型・地域集積型』はストレスチェック実施や集団分析等を所属組織で共同実施することにより、契約事務の集約化や集団分析のための集団形成などのスケールメリットがあります。
2.実施義務・対象者・報告
Q4. 50人未満でもストレスチェックは義務ですか?
A. はい。令和7年の法改正で、50人未満の事業場でもストレスチェック実施が義務化されました(施行期日は公布後3年以内に政令で定める日)。
Q5. ストレスチェックの『対象者(常時使用する労働者)』はどのように考えますか?
A. 一般定期健康診断の対象者と同様で、①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む)で、②週の労働時間が当該事業場における同種業務の通常労働者の4分の3以上、を満たす者です。
週の労働時間が4分の3未満でも、①の条件を満たし、労働時間数が通常の労働者のおおむね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望ましいです。
Q6. 派遣労働者の実施義務はどこにありますか?
A. 派遣労働者のストレスチェックは派遣元に実施義務があります。
Q7. 労働者に受検義務はありますか?
A. 労働者に受検義務はありませんが、制度を効果的にするため対象者全員の受検が望ましいとされています。
Q8. 労働基準監督署への報告は必要ですか?
A. 労働者数50人以上の事業場は報告義務がありますが、現行制度上、50人未満の事業場には報告義務はありません。ただし『常時使用している労働者』の数は、ストレスチェックの対象者の定義と異なり、短時間労働者や派遣先の派遣労働者でも常態として使用していればカウントに含むため、注意が必要です。
3.準備:方針の表明・意見聴取・社内ルール
Q9. 事業者による『方針の表明』はなぜ重要ですか?
A. 労働者が安心して、ストレスチェック制度を積極的に活用できるよう、制度の導入方針を表明することが重要とされています。
Q10. 関係労働者の意見はどのように聴取しますか?
A. ストレスチェック制度の導入に当たり、50人未満の事業場では安衛則23条の2に基づき、意見聴取の機会を活用することが考えられます。その際、会議体に限らず朝礼・定例ミーティング等、多様な現場・立場の労働者から意見を聴くことが重要です。ストレスチェック実施後も、実施状況を踏まえて改善のために意見聴取を行うことが望まれます。
Q11. 社内ルールで定めるべき事項は?
A. 実施体制、実施方法、記録の保存、情報の管理、情報の開示・訂正等および苦情処理、不利益取扱いの防止が例示されており、また、個人情報の取扱いについては明確にしておくことが重要です。社内ルールを規程として作成する場合は、当該マニュアル巻末の『ストレスチェック制度実施規程(モデル例)』を参考に、事業場の実情に応じて調整しましょう。
4.実施体制:小規模事業場では外部委託が原則推奨
Q12. 小規模事業場では外部委託が推奨されるのはなぜですか?
A. プライバシー保護の観点から、50人未満の事業場ではストレスチェックの実施を外部機関に委託することが原則として推奨されています。個人結果等の健康情報の取扱いを外部で完結させる運用とし、事業場内では取り扱わない運用が基本とされています。
Q13. 事業場内で必要な担当者は?
A. 事業場内には外部機関との連絡調整や実施管理を担う『実務担当者』を配置します(個人結果等の健康情報は取り扱わない立場)。労働者数10人以上50人未満の事業場は、衛生推進者/安全衛生推進者も業種によっては選任義務があり、実務担当者にこれらを選任することが望ましいとされています。労働者数10人未満の事業場は、衛生推進者または安全衛生推進者がいませんので、事業者自らが事業場内の実務を担うことが考えられます。
Q14. 外部機関側の『実施者』『実施事務従事者』とは?
A. 外部機関の実施者とは、ストレスチェックの専門的判断を担う責任者のことを指し、主な役割として調査票の選定や高ストレス判定の方法の決定、面接指導の要否判断が挙げられます。実施者は、医師、保健師、一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師の中から選任する必要があります。一方で、外部機関の実施事務従事者とは、実施者の指示のもとで事務を担う担当者です。主な役割として調査票の配布・回収やデータ入力、結果の記録・保存、面接指導の申出勧奨などが挙げられます。
5.委託先選定・契約(サービス内容事前説明書で確認)
Q15. 委託先選定で事前に確認すべきことは?
A. 外部機関に『サービス内容事前説明書』(当該マニュアル巻末にモデル例あり)を作成・提出してもらい、実施体制、実施方法(調査票の項目・調査形態(紙/WEB)・高ストレス者選定・面接指導対象者への通知方法・未受検者への受検勧奨等)、料金体系(標準サービス/オプションの区別・金額等)、面接指導(依頼先・担当医師・面接指導以外の相談対応等)、情報管理(結果通知の流れ・結果の保存方法・セキュリティ)などを確認することが重要とされています。
Q16. 調査票(項目)は何が推奨されますか?
A. 当該マニュアル巻末資料の『職業性ストレス簡易調査票(57項目)』の利用が推奨されます。簡略版(23項目)も示されていますが、集団分析が詳細にできない点に留意が必要です。
Q17. 実施形態(紙/WEB)はどう決めますか?
A. 調査票の用紙を配布し記入してもらう方法とWEB上で回答を入力してもらう方法があり、事業場の状況に適した方法を選びます。1人1台PCがない、個人の社用メールアドレスがない、個人スマホの業務利用を許可していない等の事業場では、紙での実施が適している場合があるとされています。
6.面接指導:地産保の無料活用と、情報提供のポイント
Q18. 50人未満でも面接指導は必須ですか?
A. 面接指導対象者から申出があった場合、事業者は遅滞なく面接指導を実施する義務があります。
Q19. 面接指導はどこに依頼できますか?
A. 委託先外部機関のオプションサービスとして依頼する方法のほか、最寄りの『地域産業保健センター(地産保)』に依頼して、無料で受けることができます。地産保は全国に設置され(概ね労基署単位)、登録産業医が配置されています。
なお、地産保では、ストレスチェック自体は実施せず、地産保の登録産業医をストレスチェック実施者として依頼することもできません。
Q20. 面接指導医に提供する情報は?
A. 例として、氏名・性別・年齢・所属、個人のストレスチェック結果(ストレスプロフィール等)、チェック実施直前1か月間の労働時間(時間外・休日労働を含む)、労働日数、深夜業の回数・時間数、業務内容、健診結果、繁忙期情報などを整理したうえで、担当医師へ事前に情報提供することが望まれます。個人のストレスチェック結果は密封された封筒で取り寄せて送付する、本人が持参する等、プライバシーの確保が必要です。
Q21. 面接指導結果で会社が受け取ってよい情報の範囲は?
A. 医師は就業上の措置を実施するため必要最小限の情報に限定して事業者に提供する必要があり、診断名・検査値・具体的な愁訴の内容等の生データや詳細な医学情報は、原則として事業者に提供してはいけないとされています。事業者も、このような情報の提供を求めてはいけません。
7.集団分析・職場環境改善(小規模での個人特定リスクに注意)
Q22. 集団分析は義務ですか?
A. 集団分析・職場環境改善は事業場規模にかかわらず努力義務とされています。
Q23. 集団分析の単位は何人以上が原則ですか?
A. 受検者数(有効データ数)が10人を下回る場合は個人特定のおそれがあるため、原則として集団分析結果の提供を受けてはいけません(在籍人数ではなく受検者数でカウント)。
Q24. 集団分析の方法は?
A. 57項目または23項目の職業性ストレス簡易調査票を用いる場合、『仕事のストレス判定図』(厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル 改訂 令和3年2月」を参照)によることが適当です。
Q25. 職場環境改善はどう進めますか?
A. 集団分析結果に加え、外部機関の参考データ・助言、管理監督者による日々の職場管理で得られた情報、労働者の意見聴取等も勘案し、勤務形態や職場組織の見直し等、さまざまな観点でストレス要因軽減に取り組むことが望ましいとされています。
8.プライバシー保護・不利益取扱の禁止(現場で押さえる要点)
Q26. 個人結果は『要配慮個人情報』ですか?
A. 個人のストレスチェック結果は健康情報であり、個人情報保護法の『要配慮個人情報』として、極めて慎重な取扱いが求められるとされています。
Q27. 事業者が労働者の同意なしで取得できる情報・できない情報は?
A. 個人のストレスチェック結果は、事業者が提供を受けるには労働者の事前同意が必要です。一方、面接指導の申出の有無、面接指導結果、面接医師から聴取した意見は、法令に基づく範囲で、事前同意なく取得可能です(取得範囲は必要最小限に限られます)。(平成30年9月7日公示第1号、改正令和4年3月31日公示第2号 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」より)
Q28. 不利益取扱で禁止されるものは?
A. 法律により、労働者が面接指導の申し出をしたことを理由とした不利益な取扱いは禁止されています。さらに、ストレスチェック結果のみを理由とした不利益な取扱いも行ってはなりません。
指針上、受検しないことなどを理由とした不利益な取扱い、チェック結果の事業者への提供に同意しないことを理由とした不利益な取扱い、面接申出をしないことを理由とした不利益な取扱い、面接結果を理由とする解雇・雇止め・退職勧奨・不当な配置転換等も禁止とされています。
9.産業保健スタッフ向けまとめ
- 小規模事業場でもストレスチェックは義務化。目的はメンタル不調の未然防止であり、プライバシー保護が制度の土台。
- 労働者数50人未満の事業場は原則『外部委託』が推奨。事業場内は実務担当者が連絡調整・運用管理に徹し、個人結果は取り扱わない。
- 面接指導は申出があれば必ず実施。地産保の活用が選択肢(ただしストレスチェック実施自体は地産保で不可)。
- ストレスチェックの個人結果は要配慮個人情報。取得は原則同意が必要。面接指導関連で取得する情報も必要最小限に限定。
- 集団分析は努力義務。受検者10人未満の集団は個人特定リスクが高く、原則として分析結果の提供を受けない。
- 不利益な取扱い禁止を明確に周知し、チェック受検・面接申出が『強制』にならない運用にする。
出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)より作成。(2026年4月30日利用)
※本記事は上記資料を参考に、当社が編集・作成しました。
※本記事の作成にあたり、文章整理にAIを補助的に活用しています。